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山吹紅葉は生徒会長! ―前世は中世に生きた魔女―  作者: 冷水
第一章:生徒会長。二学期~
20/23

常勝無敗の生徒会長


 連勝記録が続くと、人はその状況を熱狂的に見つめ始める。

「また生徒会長が勝ったな」

「相手になる奴なんて、もう居ないんじゃないのか」

 最近になって、特に激しく挑まれ続けている。もう不満ではなく、その記録を止めるのが目的になっている者もいる。

 目立ちたいという理由で、毎年のように全国大会へ行く部活から、代表者が決闘を挑んでくる例もある。

 中には『同好会』という枠で、正式な部活動として認可してもらいたい集団から、代表者がイベントの申請をしてきていた。驚いたのは、校則に明記されていない事例のはずが、教師からの『特例』として認められているところだ。五名の教師による署名があれば、申請の理由としては十分とされる校則を利用したものである。

 そうは言っても、生徒会長は挑まれれば断ることはできない。


「お次は誰かしら」

 周囲が水浸しとなり、ここは既に私が戦うためのお膳立てが出来ている。過去の試合時間を見ても、二戦目からの短期決戦率は高くなっている。水溜りが映すのは鏡像であり、私にとっては有利に働く。

 体育館を掃除する者は大変だけど、そこは私の関与すべきところではない。吹っかけてきた方が掃除する決まりである。というより、その決まりを知っていたから、あえて面倒になるように仕向けてもいた。


 人間というのは不思議なもので、勝ちすぎても反発する生き物だ。無敗を許すほど、人類というのは性格が良くない。何か裏があるのではと疑い、時に自分達が勝てる土俵に作り変えたりもする。平気で汚い真似をする者も一定数いる。

 自分達が努力を(おこた)っているという考えを放棄し、他者の足を引っ張って、己の価値を相対的に上げることだけに邁進(まいしん)する。私怨を交えて言うならば、宗教戦争や魔女狩りも本質は変わらない。


「俺の番だな」

 次の相手は、野球部の主将だった。勉強面での成績は悪くはないが、得意な分野は体育会系に(かたよ)っている。


----

 初手、今までの試合を見ているからなのか、迂闊に私へ近づいてくる訳ではない。そして、大きな杖を持って私に対峙(たいじ)する。

「水よ、蒸発しろ!」

 私の戦い方は、初手で氷の鏡を出すことと、場合によっては地面に広がった水溜りを使っている。隠しているわけではないし、一学期に魔法の授業で使っていた道具は『鏡』であるという情報も、出回っていると考えられる。


 周囲から水溜りが消えて、蒸発による気化熱で体育館の温度が下がる。密閉した室内で、肌寒さすら感じられるほど冷え込んだ。

 私にとって相手が使った魔法を打ち消すのは簡単だった。私の鏡は魔力を映し出し、構造の難しさに応じて魔法や魔術を解析して打ち消す役割を持つ。自立した魔術思考回路を組んでいて、それは情報工学でいう人工知能のようなものであり、必要な演算の量だけ時間が掛かる。その為、難解な魔術に対する即応性は低いが、魔法であれば一瞬で打ち消せるだけの性能を持つ。

 それでも、今はあえて打ち消さずにいるのは、周囲に見せ付けるためである。私の本質的な部分を暴かれないように、苦手なものを悟られないようにする意味がある。それは今後、致命的な隙となる。

 魔術師にとっては必要な能力である、はずである。少なくとも私が生きた時代ではそうだった。


 相手は格闘で決めるつもりなのか、拳を(にぎ)りながら向かってくる。

 私はこの状態でも使える魔術はあるが、相手もそれは理解しているだろう。遠藤さんの時に見せているのだから、知らないと考えるのは甘いと思う。

 それを承知で向かってくるのなら、何か勝算があるのか。それとも校則違反となり使えないと踏んでいるのか。その推測は間違っていない。

 それに、大規模な魔術を使おうとすれば、鏡が必要になるのは変わらない。


「当たらない」

 身を引いて、ぎりぎりの間合いで避ける。相手の動きには規則性があって、何かしらの体術を(おさ)めているのだろう。腕を突き出してくる際に、反対の腕を引いて体の軸を意識している。威力が乗ってそうに見える。


 当たれば骨が折れる気がするものの、審判が止めることはない。これくらいなら、問題ないという判断なのか。

 左手の杖を拳の延長に使い、右手はそのまま正拳突きで対応してくる。

 私は体を鍛えておらず、格闘技の選手のように頑丈な筋肉と骨格は持っていない。漫画のように鳩尾(みぞおち)へ一撃でも入れば、気絶する前に命の危険すらある。あれは鍛えている者同士による(たわむ)れだから許されるのだ。


 追撃してくる歩法も確かなもので、流れるように距離を詰めてくる。踏み込む足に力を入れているので、次に来るのは蹴り技かもしれないと身構える。

 寸止(すんど)めしてくれれば負けを認めてもいいが、直感が当ててくると警告してくる。目を合わせると、冗談にならない鋭さで(にら)みつけてくる。

 前世では(たしな)み程度に、今のフェンシングに近い剣術を習っていた。間合いを取って避けるのも、その経験を無理やり当てはめているだけの、即席な体術にも程がある。長期戦になれば、鍛えていない分だけ私が不利になるのは確実だった。


 この相手は野球部じゃなくて、柔道か空手部の間違いじゃないかと疑いたくなる。それでも、避け続けていることには変わりない。殺人を意識した剣術と、スポーツに存在を落とした武道の間には、少しだけ害意に差があるのは仕方ない。もっとえぐい技を想定していたが、ぎりぎり死なない程度の攻撃に収まっている。それが避けやすさに繋がっている。

「くそ、何で当たらないんだよ」

 呼吸を整えるために、相手が停止して距離を取る。だが、それは間違いだと断言していい。ファンタジーにおける魔法使いを相手にする定石は、間違っていない。魔法を無効化できる装備や手段を(こう)じて、体術や剣術で圧倒すれば事足りる。


「割れ降る鏡、氷の(やいば)氷刃(ひょうじん)――」

 これまで何度も決闘で使った魔術、手を叩くと同時に、氷の破片が周囲に散らばる。

 相手は警戒するように、杖を構えて魔法を使おうと身構えた。氷の破片を消そうとしているのだと思うが、均衡している状況で後手にまわって良い事がある訳がない。

「甘い」

 馬鹿正直に、魔法にのみ頼った戦いをするとでも思ったのか。さっきまであんなに動けていたのを見たのに、考えが甘すぎる。砂糖菓子くらい甘ったるい。


 魔法を使う時、この人は動きを止める癖がある。わざわざ杖を前に構えて、ゲームのように気取った魔法の使い方をする。今から使いますよと言わんばかりに、魔力を杖に集中させている。

 これなら以前に戦った遠藤さんの方が、魔法の行使を隠している分だけ強かった。初見でなければ、もう少し面白い試合になったと思う。


 今度は私の方から距離を詰め、そして相手の杖に触れる。驚いた表情で見つめて来るので、とても気分が良かった。

「な、なにを?」

 使おうとしている魔法に干渉する。魔法においては補助道具の占める役割が大きいので、途中でその行使を止めるのは難しい。

 起す現象の部分を上書きし、何も起らないように改悪する。現象を打ち消すのに必要な魔力を、延々(えんえん)と術者から供給されるように設定し、ループによって魔力が切れて自壊するまで続ける。

 魔法使いを倒すのに、私が最近になって編み出した秘術である。自分でもえげつないと自称するくらい、致命的な欠陥を突いている。


「ぁ……」

 その瞬間、相手は立ちくらみのようによろめく。自分の足で立っていることが出来なくなったのだ。その腕を掴み、打ち所が悪くならないように体を支えて座らせる。大怪我をさせても対応に困ってしまう。

「審判の先生? この場合はどうしましょう」

「……ああ、しばし待て」

 座り込んだ生徒に駆け寄って、呼びかけて意識の確認を行う。特に問題がないようなので、私の勝利が宣言された。

「勝者は、生徒会長の山吹紅葉――」

 会場となった体育館は、拍手と声援に包まれる。応援してくれる者が三割、私の戦い方を分析している者が大半で、残りは興味本位と娯楽で来ているだけだと思う。


 あのまま意識を失うくらい、急激に魔力を吸い取っても良かったけど、それでは不信感を残す。この現代において、失神(しっしん)はそこそこ重大な症状として(とら)えられてしまうので、場合によっては病院に行って診察を受ける必要がある。


----

 気になったのは、最近になって過激な攻撃をしてくる者が多いこと。学校内でも、私の陰口を言っている者が少しいた。

 簡単に顔だけ記憶していたら、そもそも口にしているのは同じ人ばかりで、似通(にかよ)った雰囲気の女子生徒が行き先を予想して待ち構えている。


 女子のいじめは原因が分かりにくい。目立ちすぎたのか、もしくは誰か大物の人物が手を引いているのか。攻撃的な意図を感じつつも、私生活に影響が無いので放置している。

 手を出すわけでもなく、ぎりぎり聞こえるように言ってくるうちは、実害も無ければ無視していれば気にならない。そもそも、生徒会室に引っ込んでしまえば、そんな事を気にする必要もない。

 私が行く場所なんて限られていて、図書館や食堂、生徒会室と体育館くらいしかない。生徒会メンバーで邪険(じゃけん)にしてくる人物はいないし、生徒会の仕事も副会長や書記、会計が取り仕切っているので被害が出るはずもない。


 それとなく三崎さんや最上さんに、何か変わったことが無いかと尋ねても、特に変化は無いと返ってくる。思い過ごしであればいいけど、私だけを対象に、攻撃的な意図が隠れている気がしなくもない。

 もしそうなら、いずれ何かアクションを起すだろうと、楽観的に考える。今はそれで十分だった。


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