少しだけ変化した関係 (4)
「何歌おう?」
「私も、今それを迷っているの」
ご飯を食べた後は、二人でカラオケに行く。いざ来てみると、お互いに何を歌おうか迷っていた。
私はアイスティーを口に含みながら、予約を入れる為の端末とにらめっこしている。飲み物は代金に含まれていて、何回でも自由に御代わりができた。私の方は冷えた紅茶を注いで、柚希は甘いジュースをグラスに注いでいた。
こういうのは、交互に曲を入れていくのだろうか。
「柚希、最初に入れて良いよ」
「お姉ちゃん、先で良いよ」
ディスプレイがあって、二人で見やすいように並んで座っている。肩が触れ合うほど近くに柚希がいるけど、空調が効いているので暑くはない。
「じゃあ、私から」
仕方が無いので、私は学校で歌ったことのある曲をリクエストする。
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――。
教育現場で歌われる曲は、自由や優しさをテーマにしたモノが多い。歌いながら、私はとても後悔していた。
歌詞に含まれる想いが、痛いほどに理解できてしまう。一度の死を経験した私には、些細な表現も重く感じられてしまう。
書いた人たちは、実際にテーマに沿った経験をしたとは限らない。それでも教科書に載るような歌は、多くの人が共感できるようなメッセージ性が強い。
私は涙腺が緩んできて、泣きながら歌うことになってしまった。音程だけは、外さずに歌えていたと思う。
「良かったよ。とても」
柚希は目を閉じて、私の歌に聞き入っていた。歌い終わると拍手をしてくれて、とても喜んでくれたけど、私の表情を見て驚いていた。
「どうしたの? 悲しい事でもあった?」
「違うの……。歌詞が重くて、優しさが心に痛いの」
柚希の肩を借りて、少しだけ泣いてしまった。これではどちらが姉か分からない。
「辛いなら帰る? ごめんね、私の気遣いが足りなくて」
「いいえ、大丈夫よ。もうちょっと、軽めの曲を歌うから。それに、柚希と一緒だから平気よ」
こちらが気を遣わせてしまったが、私には気にせず歌うことを勧める。
柚希はポップな印象の、明るい曲を選んでいた。知らない曲だったけど、それでも聞いていて気分が軽くなった。
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明るめの曲を中心に選曲して、柚希の歌っている姿を楽しんだり、一緒に歌ったりもした。途中で採点機能を試した柚希は、その点数に一喜一憂していた。
私は音程だけは外さずに歌えていたので、高得点を出し続けていたけど、満点は取れなかった。
数時間もすると、部屋に備え付けられた受話器が鳴った。終了まで残り十分を切ったので、もうすぐ部屋を出てくださいという通知だった。
「あと十分で終わりだって」
「最後、この曲を一緒に歌わない?」
柚希が最後に、卒業式でよく歌われる曲を選択してきた。私の時も、どこかのクラスが卒業生を送る歌として合唱していたと思う。
「いいよ」
――。
お互いにマイクを持って歌い始める。柚希と目を合わせながら、私は微かに唇の端を上げる。
「お姉ちゃん、笑ったね」
柚希が満面の笑みを浮かべながら、間奏の途中で声を掛けてきた。今、私は笑えたのだろうか。
――。
間奏が終わるとそのまま二番に入り、問い返せないまま歌が継続される。最初みたいに、泣くことはなかった。
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声のハモリが心地よく、カラオケというのも悪くなかった。最後まで歌いきると、もう時間なのかと寂しく思う。
それでも、楽しい時間がずっと続いても、いつかは飽きてつまらなくなる。適度に余韻を残す程度が、何をするにも丁度良い。
「今日は楽しかったね」
「私も楽しかった」
帰り道、空が少しだけ暗く感じられた。しかし、まだ夜というには早すぎる時間。
「また来ようね!」
「ええ」
柚希が楽しめたなら、今日はそれだけで来たかいがあった。思わず柚希の頭を撫でると、不思議そうにこちらを向いた。
少し困ったような表情の柚希は、それでも嫌がってはいなかった。
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