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山吹紅葉は生徒会長! ―前世は中世に生きた魔女―  作者: 冷水
第一章:生徒会長。二学期~
13/23

生徒会長は風邪を引く


 いつもより三十分ほど遅く目が覚める。

 体がだるくて、頭が痛くて、布団から起き上がるのが辛かった。気が緩んだのか、昨日は手紙を書いた後に、少しだけ肩の荷が下りたような気がしたから。

 本当に私は、自分勝手だと思う。あんな内容の手紙を受け取れば、相手は頭がおかしくなったか、精神が病んだことを疑うだろう。

 十七時より後にポストへ入れたから、届くのも明日になってしまう。


 やはり風邪薬を買いに行くべきかと、身の回りを確認しながら考える。

 飲み水は部屋に常備してあるけど、薬は買い置きが無い。あっても空腹で飲むのは良くないので、食べられるものを買いに行く必要はある。


 ああ、きつい。そう思っていたら、眠気が頭を支配してきた。



---

 部屋をノックする音で目が覚める。

 横目で時計を確認すると、外は明るくて午後の一時を示していた。

「お姉ちゃん……? 今日は居るよね? 勝手に入るよ?」

 念のため、もう一度だけノックの音が聞こえてきて、妹の柚希が部屋に入ってきた。止めようにも、声を上げるだけの元気が無くて、入室を許してしまう。


 柚希は静かに扉を閉めて、私の元に寄ってきた。

 よりにもよって、こんなタイミングで来るとは。体のだるさから、熱もありそうだった。


「勝手に入ってごめんね。起きてたんだね」

「なに……?」

 小声で届くかも分からないくらい、か細くなってしまった。それを見て、何かを察して駆け寄ってきた。

「どうしたの? 風邪……かな。熱もあるみたい」

「大丈夫だから……」

 顔を背けて、(ひたい)に当てられた手を振り払う。

「どうしよう。風邪薬があったと思うから、でも、何か食べるもの……病院行った方がいいのかな」

 慌てた様子で、柚希は扉の方へ向かおうとした。

 それでも、そんな様子で行かれては困る。他の家族に、何かがあったと気付かれてしまう。こんな時だからこそ、見つかるのは嫌だった。


「待って!」

 力を振り絞って、なんとか柚希の腕を掴む。少しだけ勢いが余って、引く力が強すぎたのか、私の布団へ柚希が倒れこんできた。

「ぐう……」

 押しつぶされるように、私の胸に柚希の体重がのし掛かる。苦しく息を吐き出して、何とか引きとめることには成功した。

「ちょっと、待って……。家族には知られたく、ないから」

「ごめん。落ち着くね」

 意外に素直に従ってくれて、私も気持ちに余裕が出来た。


 今日は父が仕事に出ていて、家には母がいるらしい。

 一番上の姉は、そもそも遠方の大学に(かよ)っているので、長期休みか気分が乗ったときしか実家には帰ってこない。


「何か出来ることがあれば、するよ?」

 妹の柚希は買い物に出かけようとして、私の靴があるのに気付いたらしい。それを見て、私の部屋までやって来たと話す。

 買い物はいいのか? と聞くと、急ぎではないので問題ないという。

「じゃあ、少し頼まれてくれるかしら」

 財布からお金を出して、それを柚希に渡す。私は動けそうになかったので、柚希の好意に甘えることにした。

 今日は自分でも不思議なくらい、素直に頼むことが出来た。

「風邪薬と、何か食べられそうな物。それと飲み物をお願い」

 三千円を渡して、柚希に買い物をお願いする。今日を安静にしていれば、明日には良くなると思う。

「分かった。行ってくるね」

「よろしくね」



----

 気付かない間に、また眠っていた。

 目を開けると、妹が私の顔を覗き込んでいた。

「目が覚めた?」

 (ひたい)に冷たさを感じて、冷却シートが張られていた。とても心地よくて、気分が(やわ)らいだ。

 この方法が効果的なのかは知らないけど、少なくとも嫌な気分ではなかった。

「ありがとう」

 眠ったからか、少しだけ楽になったので体を起す。柚希がゼリーを買ってきてくれたので、私はそれを細々と食べる。

「水飲む?」

 風邪を移すといけないので、もう大丈夫だと言っても、柚希は譲らず部屋にいつづけた。

 時間が経って、少し(ぬる)くなったスポーツドリンクを飲むと、とても美味しく感じられた。

 汗に濡れた下着と寝巻きを着替えるついでに、濡れたタオルを持ってきて、体を(ぬぐ)うのを手伝ってくれた。


 その優しさに、涙が出そうになったけど、心に痛みを感じて現実に引き戻される。

 手紙を出したけど、柚希にだけは、言葉に出して伝えようと思った。


「ねえ、柚希。聞いて欲しいことがあるの」

「なに?」

 手紙に書いた内容を、もう少しだけ丁寧に伝える。

 覚悟が決まったからなのか、すらすらと言葉が出てきた。

 前世の記憶が戻る以前の私が、柚希のことを大切に思っていたという部分も、少しだけ関係があるのかもしれない。親よりも気心の知れた間柄だったから、私は素直に全てを話した。


 私が話している間は、柚希は静かに聴いてくれた。


----

「お姉ちゃんは、私のことを覚えてるよね?」

「ええ」

 複雑な顔をして、信じられないというよりは、どのように考えていいのか戸惑っているようだった。

「あのね、私にとっては、それでもお姉ちゃんはお姉ちゃんだと思う。そうやって悩むのだって、私の事を想ってくれるからだよね」

 今度は私が、どういう顔をすれば良いのか分からなかった。

「私にとって、お姉ちゃんは憧れだから。頭が良くて、私の知らないことを何でも知っていて、心が優しい紅葉お姉ちゃん。ほら、今と何も変わってない」


 ふわりと、柚希の両腕に包まれる。抜け出そうと思えば、今の状態でも(ほど)けそうなくらい、やさしい抱擁(ほうよう)だった。

「私のことは嫌い?」

「……いいえ」

 その一言で、私の心は限界だった。紅葉の記憶が、妹のことを愛おしく感じさせる。

 さ迷った両手を、柚希の背中に回して抱きしめる。


 私が私である理由なんて、簡単なことだった。

 ただそう()りたいと、願うだけで良かったのだ。




----

 思い返すと恥ずかしくなった。

 少しだけ、柚希の愛情が重く感じた。


「昨日、手紙を出してくれたんだよね? 楽しみに待ってるから」

「うん……」

 安心するとまた眠くなってきた。

 今まで感じていた痛みが、少しだけ軽くなった気がした。

「ありがとうね」



----


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