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山吹紅葉は生徒会長! ―前世は中世に生きた魔女―  作者: 冷水
第一章:生徒会長。二学期~
12/23

家族への手紙


 会って話すには遠すぎる。

 メールをするには、近すぎる。

 いつも白紙を眺めては、何も浮かばずに諦める。


 一枚の和紙が目の前にある。

 白く何も書かれていない。

 水性のペンを左手に持って、便箋用の絵画を書いていく。


 雪の結晶、あるいは幾何学模様。

 前世の私を示す紋章を、便箋となる紙に書き連ねていく。

 色は邪魔にならない程度に、薄い青でしたためる。


 拝啓――





---

 私は陳腐にならないよう考えても、どうしても言葉が浮かばなかった。

 挨拶の言葉、表情や仕草、私が非行に走った理由を家族にどう説明するのか。

 強い自我が、今の紅葉(じぶん)を否定してしまう。ならばいっそ、手紙で伝えようと思った。


 想いを込めて一筆を記す。この時代に手紙なんて、今の私は書いたことが無い。

 それでも前世の記憶を元に、最大限の敬意を払って、家族や親しい者に送るための手紙を仕上げる。


 挨拶の言葉から続いたのは、なんと詰まらない本文だった。


--

 ――私の秘密をお話します。

 ――信じて頂けないかもしれませんが、今年三月を境に、前世を生きた記憶が戻りました。


 ――非業の死を遂げた私は、生まれ変わっても、そのトラウマから誰かを信じられませんでした。

 ――突然の事で、家族のみんなにはご迷惑をおかけしました。ごめんなさい。

 ――みんなと過ごした記憶はあります。

 ――それでも、まだ自分でもどう折り合いをつけていいのか、戸惑っています。


 ――私には、家族の情を受ける資格は無いと思います。

 ――みんなからの優しさと気遣いが、どうしても眩しく感じてしまいます。

 ――自分勝手に、一方的な拒絶を突きつけて、本当にごめんなさい。


 ――もし許されるのなら、このまま学校に通わせてください。

 ――今は無理でも、いずれ学費は自分で稼げるように努力します。

 ――その為に、アルバイトをする事の許可をください。


 出来た本文は、私の思いしか書かれていない、一方的な心情の吐露(とろ)だった。

 説明足らずで、肝心な部分をそのまま書いているだけ。

 家族のことを考えるなら、もっと相手を気遣ってもいいのに。その一文が、どうしても書けなかった。


 ――今まで育ててくれて、ありがとう。


 手が震えてしまう。

 どう思われても良いと考えていたはずなのに、この手紙を出すのが怖かった。

 私は自分が思っているよりも、紅葉としての自覚が強いことに驚いていた。


 封筒を用意して、切手を貼る。手紙を中に入れて、封をする。

 そしてポストに投函した。


 手紙は二通。両親へ宛てたものと、妹に宛てたもの。

 これ以上、上手く説明することなんて出来なかった。


 ――山吹 紅葉


----


 柚希へ

 ――今まで私を(した)ってくれて、ありがとう。

 ――もう貴女が思う優しい姉ではないけど、ずっと大切な妹だと思っていました。

 ――あの日、悪夢を見ていた私は、そばに貴女がいて安心しました。

 ――人の温かさが救いだと感じたのは、あの時が初めてでした。


 ――強く生きてください。


 ――山吹 紅葉




----

 手渡すことなく郵便を選んだのは、私の臆病な心だった。

 封筒も私の手作りで、白い厚紙に魔方陣を描いてから、昔にあった撥水(はっすい)の魔術を施してある。

 さすがに封蝋(ふうろう)は手に入らないので、近くで購入したシールを使って封をしてある。


 デザインにばかり手が込んで、本当はもっと内容を気遣うべきだと分かっている。それでも、私にできる精一杯は、自分で貰っても恥ずかしくない手紙を送ることだけ。


 信じてもらえなくてもいい。

 身勝手なけじめのつけ方だけど、今までの私はもういないと、それだけは伝えようと思ったから。

 私の姿を通して、過去の紅葉を期待されるのが、苦しくてしょうがなかった。死んでしまった人格を、そうと知らないまま過ごされるのが、絶叫するほどの痛みを感じさせた。


 自分が殺されるよりも、怖いこと。

 知らない誰かが、親しい人の姿をしていること。

 その恐怖は、私が転生を経験したから、分かることなのかな。


---


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