孤高の魔女は、転生する
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気付いたら五百年後の世界に居た。これだけ聞けば、どんな時間遡行だよと思うだろう。
それでも、現実はもう少しだけ残酷だ。
カレンダーを見れば、2017年3月の表記があって、私はこの春から高校生になる。
――今は昔。ほんの五世紀も前に遡る。私は魔女狩りにより、業火に身を焼かれる痛みを経験した。
ねっとり纏わりつく炎は、焼けるはずのない皮膚を時間とともに乾燥させていき、苦しみにのたうち回りながら、血を吐くことが生易しく感じられるほどの痛みに犯される。
輪廻転生。
私の前世は確かに、今は滅亡した国に伝わる『魔術』の使い手だった。
――そして現代。
科学と魔法が混在する世界で、私の生きる時代では排斥に向かった魔法や魔術が、科学と同列に語られている時代。こんな世界になるなんて、あの頃は誰も考えなかっただろう。
元々が、個人の資質に由来していた魔術を、大衆向けにアレンジしたのが魔法である。
その魔法が発展したのは、黒船が来航した幕末期の日本で、魔女狩りから逃れるために宣教師へ紛れた魔法使い数名が、日本へ上陸したのを起源に語られる。
そんな日本という国で、何の因果か中世の魔女である私が転生した。
思い出したのは、今から数週間前のこと。
高校進学と同時に、魔法という科目が追加され、世間一般の護身術に近い技術が教えられる。
精神に由来した『魔力』というリソースを使い、超常の現象を引き起こす法則。物理現象とは対極にあり、文字通り『魔の法則』を学ぶ授業が魔法である。
その授業に必要な補助道具。杖や水晶玉といった、魔法を行使するために補助となる道具を買いに行った時のこと。
唐突に、私は思い出してしまった。前世を。
「鏡……?」
欧州では廃れてしまったものの、童話のモチーフにもなった鏡を使う魔法。未来予知や呪いが得意で、忌み嫌われた技術ゆえに、根絶の間際まで追い詰められた魔法である。
その難易度と凶悪さから、魔術とも区別されている。
「あぁ……あああ……」
鏡の世界に映る自分と目が合った。
魔法の補助道具というのは、特殊な力を秘めている。それぞれに相性があって、個人の資質を引き出してくれる道具を選ぶことで、人間は簡単に魔法を使えるようになった。
――そして、鏡によって、引き出された何かを見てしまった。
「嫌ぁ。いやああああああああ」
そして私は、その場に倒れた。
痛み、苦しみ、辱められた記憶。貴族の令嬢だった私が、滅ぼされた国の斜陽と共に、魔女狩りと裁判によって殺された。
その時に盗まれた魔術書だけが、その国の存在を示す唯一の痕跡だった。歴史に葬られた国の、哀れな末路である。
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目が覚めると、気分が最悪だった。
両親の顔が、醜く見えた。姉妹の顔が、他人に見えた。
ああ。私はこの記憶を思い出した時、既に死んでしまったのだと思う。
昨日まで感じていた親愛の情も、友人との思い出も、将来に対する不安さえも。綺麗さっぱり消えていた。精神が耐えられず、人格が崩壊して、前世の『私』が顔を出した。
「困ったな……」
神なんていない。いたとして、あんな非道が許されるのなら、そんな傍観主義な存在はいない方が良い。
それでも、この『私』は生きなければならない。今生の忘れ形見であるこの体を、殺すのは忍びない。
かといって、頑張って生きるのも馬鹿らしい。
「うん?」
ふと、記憶を探るなかで、気になる内容を見つけた。
古代の魔女は、記憶力が良い。膨大な知識や理論、精密な図形を覚えることが必要で、自然と身につく能力だった。
ただし、種を明かせばなんてことはない。思考プロセスを工夫するだけで、人間の記憶力は異常なくらい向上する。それを知っているだけ。
「生徒会長?」
私が通うことになる学校のパンフレット。そこには、面白いことが書かれていた。
生徒会長は、授業免除が受けられる。奨学金として、学内で使える金券ポイントが受け取れる。他にも、いくつか特権が許されていた。
特に魅力的なのは、学校が経営するショッピングモールが隣りにあって、そこで使えるポイントの六万円相当を毎月支給されるという項目。もちろん返済は不要である。
「何これ? 最高じゃない」
学期ごとに、全学年で同時に受ける期末テストの14科目と、全学年参加の『魔法実技大会』の成績により、学年問わず生徒会長になるチャンスがある。
その職務は『生徒の見本になること』と『学内法規の実力行使』と書かれていた。
単純に見れば、抑止力として存在する役目に見えるが、結果を出せば特権階級になれますよと。欧米の貴族制度にも読み取れた。
極端な成果主義であり、平均や無個性を重んじる日本の教育方針とは、まさに正反対とまで言えた。趣味が良いのか、悪いのか。判断に迷う部分である。
それでも、個人的には好ましくあった。
「一学期のテストか……」
まだ入学していないし、最初の機会はまだ何ヶ月も先である。
それでも、私は早い段階でその役職に付きたいと思ってしまった。
生徒の人数に対して、頂点という響きが甘美に見えた。
見る限りでは競争率も激しそうで、これからの学生生活が楽しそうに見えた瞬間だった。
「魔法か」
私が生きていた時代に比べて、ずいぶんと簡易的になっていた。
威力や効果は小さくなったが、難易度が下がり無駄がなくなっていて、扱いやすくなっていた。
正規化の果てに、誰もが使いやすく、個人の才能に依存しないよう体系化された魔法。
もちろん、魔法ではなく魔術を使うことも認められていて、基本的には上位互換の技術なので、魔術師は簡単に魔法を使えたりする。
日本人の九割は、魔法を使えるようになっていた。
根本的に科学と魔法は相性が悪く、融合させた技術こそ少ないものの、上手く住み分けができていた。
一例を挙げれば、自然科学である医学や工学の分野と、治療や身体を強化する魔法を組み合わせることで、傷や病気の治りを早めたりできる。
完全な無からの生成は出来ないが、火や氷を生み出す魔法があったり、岩を衝撃なしに砕く魔法があって、使用者の体力に左右されるから多用はされないが、機材の入らない場所での作業には必要とされた。
「良い世の中に、なったのかな?」
おおむね、日本という国は平和で住みやすかった。
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