私が勇者になるまで
まず何から話したらよいか。順を追って話すなら、生まれからであろうか。
いや、まずはこの世界について。私から見たこの世界がどうであったかというのを話しておくべきだ。
私が生まれたのは王国のそれも大国の貴族の家であった。我が国は暖かい気候に恵まれ豊かであった。
大陸では我が国を脅かす国家は存在しなかった。唯一の脅威といえば魔物、それを統べる魔王と呼ばれる存在であった。
そもそも我が国の成り立ちからして魔王、魔物から人々を守る前線のようなものだったので、山を挟んですぐ隣が魔物の領域であった。
しかしそれが故我が国は、他国から支援され、勇気ある人は集まり、栄えていたといえる。
国は砦で固められ国から北へ出れば魔物が多かったが、領内は平和であった。
さて、そんな国のそれも貴族の家に生まれた私であるから、何不自由なく育った。
貴族の心得を学び、剣を学び、魔法を学んだ。家を継ぎ領地を治めるのは長男の仕事であり、私は次男であったので、何か得意なことを見つけ人の役に立ちなさいと教わり育った。
幸い成績は優秀で中でも魔法は自分で言うのもなんだが飛びぬけていた。基礎理論を学んだ時点である程度魔法の仕組みを、理解し応用し魔法という力をつかんでいた。
となれば私は魔法を究めるか極めるか、いずれにせよ魔法で人の役に立とうと考えていた。
学び舎を出てからはひたすら魔法を研究し続け、発見があれば世に知らせ自分で試した。
人に試すわけにもいかないので場合によっては魔物を狩りに出ることもあった。そのため剣の腕も必要で訓練をし知らせ試しを繰り返していくうちに学者として、戦士としてある程度名が知られていた。
発見した魔法も既存の魔法の応用から新しい理論など様々なものであった。そんな中私はある魔法の理論を思いついた。
体を魔力で操作する。言ってしまえばそれだけなのだが、人体ではありえない力、速度そして肉体を使わないという点で、魔法を使えるものの白兵戦での活躍を見込めるものであったが、その性質上他者にかけることで操り人形のようにしてしまえるというものであった。
これを世に知らしめてしまえば。いくら平和な王国であれ悪人がいないわけではない。
危険な魔法は今までも発表してきたが、これは人を操れるのである。私はこの魔法で起こる影響の規模を測りかね、発表しないこととした。
しかし自分に使うだけであれば間違いなく有用であったので、しばらくはこれをものにするのに日々を費やしていた。使っているうちに体を魔力で動かすのにも慣れ肉体的負担のない動作の限界も見つけた。
魔法で動かすだけでは体がなまってしまうので剣術の訓練をしていた時にこれを補助としよりよく使う方法も身についた。
このころになると、魔法で立てていた功績に剣で立てた功績も重なり国で一番の戦士ということになっていたようだ。王に謁見する機会を得た私は、誉れを喜び人の役に立っていたという充足感を得ていた。
しかし、これが私の悲劇というべきか。喜劇というべきか。いっそ運命と呼ぶべきであろうか。
何と呼ぶにせよこれが私の運命の分かれ目であった。