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第50話 皆の力で得た結果



 退魔騎士学校 運動場

 晴天の下、からっと晴れた気持ちの良い空気の中。

 多くの生徒達が入り乱れて戦っている。


 その日、学校の運動場は戦場になった。

 数十人の生徒達が動き回り、各々が魔法を打ち込み、剣を振るう戦場に。


「うおりゃああああっ!」

「くーらいやがれぇぇぇぇ!」


 行われているのは卒業試験だ。

 本日は、これまでの力が試される最後の試験の日だった。

 

 二つのクラスが集まって、合同で授業が行われる。

 試験内容の確認がされ、注意事項などの細かいルール説明の確認をした後。

 二つのクラスに分かれた生徒達は、ここまで培ってきた力を全力でぶつけ合い始めた。

 生徒達が持つ武器は真剣、いつものように練習用の木刀ではない。

 へたに怪我を負えば致命傷になるだろうが、それで怯むような生徒達ではなかった。


 だが参戦禁止を言い渡されたステラとツェルトは、その様を遠くから眺めるしかない。


「わははははっ、くらえっ。魔法も剣もからっきしだけど、これだけは優秀だった俺の投石技術を!」

「うぉぉぉっ、彼女探しで全校生徒の全ての女子に声かけて集めた、俺の情報収集力をなめるなよ! そいつは虫が嫌いだぁ! そーれ、投げろぉ!」

「やっぱり彼女欲しい! 彼女がいる奴は全員敵だー。男には容赦するなー、くらえっ、砂かけ攻撃ぃ!」


 一部私怨が交じってる気がするが、ステラのクラスも相手のクラスも皆よく頑張っている。

 その中でも特に頑張っているのはニオだ。


「そーれ、いっけー、どんどんまだまだ押せるよーっ」


 クラスの中心として、皆をよくまとめているし、すばしっこさを生かして敵勢力に突っ込み、うまくかく乱している。


「ちょいちょい、活発ちゃん。あんまり前に出過ぎると俺が困るの。もう少し大人しくできない?」

「ぶーぶー、頼んでないし、ニオは困らないもん。ライド君は勝手に困ってなよ」

「あーあー、嫌われたもんだな俺も」


 そして役割的に前に出がちなニオをフォローするのはライドだ。

 二人は口を開けば喧嘩しているようだが、試験では良いコンビを発揮しているようだ。


 そんな試験の様子は、ステラ達のクラスがぐいぐい相手勢力を押していく形になっている。

 そのままいけばこちらの勝ちだが、やはり事はそううまく運ばない様だった。


「奴らは強敵だが、私達と同じく個としての戦力は低い、一人ずつ分断して撃破しろ!」


 こちらの弱みに気が付いてからは、相手の勢いが盛り返してきて逆に押され始めるようになってきたのだ。

 その言葉の通り、集団戦闘に長けているステラ達のクラスだが、個としての力は平均程度だ。

 そんな中でも一番に集中砲火されるのはニオだ。


「ニオ人気者過ぎるよっ。ちょっと、ライド君ちゃんとニオの事守ってよ」

「都合良いのな。まあここで拗ねて見せるほど、俺は子供じゃないさ」

「格好つけちゃって」

「清々しいほど態度変えないのな、そこは感謝するとこでしょうに」


 しかし、魔法の集中砲火は自分で避け、他の人間達からはライドが爆竹を使って脅しながら払いのけていっている。


 一年生の時は肝心な時で危機感が今一つ湧かないニオだったが、二年経って成長した彼女は状況の悪さに気が付いたようだ。


「ニオ達、誘い込まれてる!?」

「みたいだな。どうするよ、活発ちゃん」

「なら、誘い返す!」

「了解」


 度重なる乱戦と魔法の行使によってデコボコになった足場の悪い場所。おびき出されたニオ達は周囲を相手勢力の生徒達にぐるりと囲まれる。


「わ、絵にかいたような構図」

「危険って標識立てた方がいいんじゃないの? これ」


 二人は自然背中合わせになって、警戒しながら立つ。

 囲む人の中から一歩前に出たのは一人の貴族の女生徒だった。

 たまにだが、クラス合同の授業があるとニオに突っかかっているのを見た事がある。

 ちなみに、何故貴族だと分かったかというと。


「おーほっほっほ、敵ながら見事なり。ニオ・ウレム、貴方の命運はここまでですわ」

「へー、そうなんだー。それは困ったなーあ」


 そんな口調だったからだ。


「ちょっ、何ですのその棒読み口調は、まさかまだ罠でも張っているんじゃ」

「わー、大変だーばれちゃったー」

「ま、まさか本当に」


 ニオの大根演技(そもそもちゃんと装う気がない)に動揺し始める敵の女生徒。どうやら人の言葉を真に受けてしまうタイプらしい。

 周囲の人間たちに何か言われているようだが、完全に疑いを払拭できていない様子だ。


「とにかく、何があろうとやってしまえばいいんですわ。おいきなさいお前達!」

「は、お嬢っ」「お嬢の為に」「お嬢ーっ」


 そう言いながら、女生徒の取り巻きらしい三人の男子生徒が、ニオたちへと襲い掛かってこようとするが……。


「うーん。ライド君、前々から思ってたけど、あれってうちのクラスの三馬鹿達によく似てるよね」

「だな。意外と気が合いそうだ」

「だからきっと成り代わってても気づかないよね」

「実際そうみたいだしな」


 余裕の態度で交わされるそんな言葉に、女生徒は耳を疑った。


「ま、まさかっ」

「誘われたふりして誘ってやった作戦成功! やったねニオ偉い!」


 ニオが声を挙げると同時、変装していた三人が装いを改める。


「だから俺達は学校中の女子を調べつくしたと言ったはずだぜ!」

「本物の子分共は仲良くおねんねだ!」

「野郎ならともかく女子だ、紳士的に手にかけてやれー! 行くぞ!」

「い、いやーっ。女子に飢えたケダモノが血走った眼をしてこちらを追いかけてきますわーっ」


 うるさく言いあいながら遠のいていく四人を見送った後、ニオは額の汗をぬぐって息をついた。

 余裕の態度は装いだけで、内心は不安だったようだ。


「ふう、緊張感を持って備えたは良いけど不発に終わったらどうしようかと思ったよ」

「ま、結果が良かったら大体良いんじゃないの? 少しくらい休んでも罰は当たらないでしょ」

「そうだね。まだまだ油断は禁物、もうひと頑張りいこー」

「前半と後半の言葉がつながってないのな。それともそのそうだねは、アレなの? いつも通り信用できないね、みたいなやつなの?」 


 そんな感じで多少危ない場面はあったものの、窮地を出したニオ達によって、最終的にはステラ達のクラスが勝利する事になった。


歓声が上がる中、ニオがクラスメイトたちにもみくちゃにされている。


「やったー、やれたよ。ニオ凄い。エル―、強くなったよー」


 ニオは大切にしているらしいお守りの石を取り出して、満面の笑みで頬ずりしている。

 よほど嬉しかったのだろう。


 試験の結果はもちろん合格だ。

 相手のクラスも、それなりの接戦に持ち込んだことが評価されて幸いにも合格とされている。


「ニオ、凄かったわ。皆もおめでとう」


 ただやはり勝負事は勝利で終わるのが一番嬉しいだろう。

 悔しんで嘆く相手クラスとは違って、ステラ達のクラスを満たすのはひたすら喜びの声だ。


「これもステラちゃんやツェルト君と同じ教室になった恩恵だね!」

「そうかしら」

「困った時とか、何だかんだ言ってても助けてくれてたからだよ」


 確かに、何かアドバイスを頼まれればしたし、訓練に付き合ってと言われたら自分の予定が被らない程度には付き合った。

 けど、それはあくまでも必要最低限の助力だけだ。

 合格をもぎ取ったのはやはり皆の力だろう。


 しばらくステラは喜びに沸くクラスメイトを眺めていた。

 その喧騒は、叶わなかったが自分もあの中に交ざりたかったと思える程だった。




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