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第45話 いつか気づく答え



 後の事は色々大変だった。予想通り、到着した騎士達に事情を説明したり、王宮でさらに詳しく聞かれたりと、だ。

 しかし事態は、予想よりも悪い方に転ばなかった。

 準騎士というステータスは、一定の信頼をもたらすものらしい。ステラの証言には信憑性があると判断されたのだ。後はカルネの父親の尽力もそこに付加される。発言力と信頼のある十士の一人が現場にいてくれたおかげで、余計な疑いがかけられなかったのが大きい。


王都で起こった災害……遺跡の崩壊や暴れまわる影の破壊行動については全てフェイスのせいで、丸く収まっていた。


 しかし……、

 何度も行われた事情聴取で疲労が重なってしまったため、ステラは倒れてしまった。


 まったく、トラブルももう少し空気を読んでくれればいいのに。

 ここのところ、色々なことに巻き込まれ通しだった影響もあるのだろう。


 そんなステラは現在、学校に送り届けられる事なく、王宮内にいた。





 王宮 来賓用客室


 疲れた体が欲するままに睡眠をとり続ける。


 泥のようにただひたすら回復に努める眠りは、時間が経つにつれてやがて変化していく。

 やがてその質が変化し、夢を見るようになった。


 楽しげな光景が目の前に浮かんでくる。

 ツェルトがいて、ヨシュアやお父様とお母様、レットやアンヌもいて、皆もいて、幸せそうに笑っている。そんな優しい夢だ。


 それらは温かみを胸に残したまま、次の場面へと切り替わっていく。


 その後見えたのはステラが七歳だった頃の景色だ。カルル村で男に凶器を突きつけられ、人質にされてしまった時のもの。でもそれは本当はヨシュアがそうなるはずだった。一番年下であるヨシュアを狙っていて、ステラが気づかなければ刃物を突き付けられてたのはまぎれもなく弟の方だっただろう。けれど、そうはならなかった。

 弟を人質にしようなんて、許せないと思った。だからとっさに弟を突き飛ばしたのだ。

 ステラはお姉さんなのだから、弟を守るのは当然の事。

 

 その後犯人の男性は色々喋って、父と母の事を悪く言った。だからステラは怒ったのだ。大好きな人を悪く言わないでほしかった。その人達は自分にとって大切な家族なのだから。


 けれど、ステラは魔法が使えない。貴族じゃないかもしれないから、お父様とお母様の娘じゃないかもしれないから。家族でないかもしれない、なんてその時ふいに思ったりもしていて……。


 だから人質にされた時はすごく不安だった。本当の娘ではない自分を、お父様は、お母様は、ヨシュアは助けてくれようとするだろうか。


 景色が切り替わる。


 それからしばらくたった頃、人質になった時に助けてくれた「……」と友達になって毎日すごしていた。けど、ある日「……」が元気をなくしていて困っているようだった。問い詰めたら、村で疫病がはやっているという話だ。私は「……」に、元気になってほしかった。

 「……」は大切な友達だ。困っているというのなら、何とかしてあげたい。

 だから、ステラは無謀にも危険な森に向かって、命を危険にさらしてしまう。

 結局私は問題解決に大した力になれなくて、「……」の力になれない自分の無力さにがっかりした。

 

 それからだ。

 この世界で一番強いと言われる勇者を目指すため、ステラが努力を始めたのは。

 一番に強くなれば、きっとなんだってできる。自分の命を守れるし、自分の価値を証明できる。お父様やお母様、ヨシュアや「……」が困っても簡単に解決してあげられる。

 そうしたらきっと皆、ステラのことをすごいと誉めてくれて、必要だと言ってくれるだろう。

 たとえ本当の貴族の娘でなくても。


 無価値なままではいけない。弱いままでは。いつか自分は一人ぼっちになってしまう。

 そんな恐怖に突き動かされて、ステラは一番の強さを目指した。 

 

 ある日、剣の師匠であるレットから剣をもらった。

 この世界は優しくないからといって、身を守る為の物として。

 ステラはより一層強くなるために努力した。才能があったのか、努力すれば努力するほど力が身についた。

 そこに願いをかなえるための希望があったから、飛びつかないわけにはいかなかったのだ。


 好きで剣を振っていたわけじゃないけれど、だからといって嫌いにはならなかった。剣の腕が上がれば嬉しいし、余計な事を考えずに無心で振るっているのは心地よかったから。


 次に切り変わった景色はあまりなじみのない場所だ。


 時間が飛んで、学校に通うようになったステラは大きな町に出かけた。

「……」と楽しい思い出をたくさん作って、羽を伸ばした。とても有意義な一日だった。息抜きに時間を使った事はあんまりなくて、たまにはこんな日を送るのもいいかもしれないとそう思ったのだった。


 けれどそんな時でもトラブルは発生するらしく、私は困っていた女の人に協力する事になった。だから町を探し回って、迷子の女の子を見つけて助けてあげた。お礼を言ってくれて感謝してくれたけど、私は力があるのだから助けるのは当然だと思った。


 自分の為だけに使っている力でそう言う風に言われるのは後ろめたかった。

 それと同時に、誰かを守れると知った時に私は安心してもいた。

 私はここにいてもいい、こうして誰かに必要とされるくらいの力を身に着けたのだと。


 ステラはまた違う景色の夢を見続けていく。


 自分の失敗や、成功。

 強くなっていくのに必死な一人の少女の軌跡を。





 王宮 廊下 『+++』

 同時刻、王宮の廊下を歩く一人の少年の影があった。ライドだ。

 用意された部屋で眠っているはずの人間がふらふらと王宮を出歩いているというのに、見張りも他の人間も、誰も声をかけようとしない。


「はぁ、なんだかんだいって結局は解決しちまうんだよな、あいつらやっぱ面白ぇよ」


 そんな風に呟く彼に声を掛けるのはリートだ。


「おい、そこの仮面をつけてそうなライダーとかいう名前のやつ、止まれ」

「ライドだよ! 何その変な間違い」

「質問がある。答えろ」

「分かった、アンタ自分が言いたい事しか言わないクチだな!」


 そして聞きたい事しか聞かないクチでもある、とライドは頭の中だけで思った。


「なぜ、アルネ・コルレイトを遺跡まで連れてきた」


 アルネ、というのはカルネの父親の名前だ。

 ライドを呼び止めたリートはその父親の名前を出して、目の前にたつ人物の様子を注意深く観察している。

 

「なぜってそんなの決まってるじゃないの。友人のために、一肌脱いだんだよ。ほら、アイツが惚れてる剣士ちゃんが頑張ってる姿見せれば、何か話まとまりそうじゃん。ぶっちゃけ今回の件って、あの親父さんが鍵だっただろ?」

「お前は、アルネに遺跡に行くと面白いものが見れると言ったそうだな。そして、まるで遺跡が崩れるのが分かっているようなタイミングで現れた。良すぎるぞ、タイミングが。まるでそうなると分かっていたかのようだったな」


 眉間に皺をよせているリートに、ライドは最初と変わらない態度で応じる。


「偶然だって、俺はただ友達の力になりたかっただけだって」

「貴様の言葉は嘘くさい」

「あらら」

「コモンが今回の件に気づいたのも情報提供者がいたと聞いている」

「へぇ」


 話の流れが思わしくない方に流れても、ライドはむしろそれを楽しんでいるかのような素振りで、リートの次の言葉を待った。


「妙な点が多すぎるそもそも、なぜここにいる。どうやって今回の件を嗅ぎつけた」

「それは……」

「……」

「ひ・み・つ……。って、うぉっ……危ね!」


 振り回された鞘付きの剣を、間一髪身をかがめて避けたライドはさすがに態度を崩して頬を引きつらせた。

 また殴られてはたまらないと思ったライドは距離をとるが、諦めたのはリートの方だった。


「もういい、問答をするだけ時間の無駄だ。貴様の事、調べさせてもらうからな」

「へいへい、どうも。頑張ってね」


 去っていくライドの背中を、リートはいつまでも見つめ続けていた。





 リートやライドがやり取りをしていた王宮の廊下からわずかに一区画ほど離れた場所、来賓用の部屋ではステラが目を覚ましていた。


 先程まで見ていた夢の残滓を拾い上げは、ステラは言葉をこぼす。

 隣に並ぶベッドでは、アリアが腰かけてうとうとしているようだった。


「私って、全然強くなってないわね……」


 いくら騒動の解決に尽力したと言っても、学生の身である彼女らに一人一部屋与えるほどの待遇はあまりすぎなのだろう。

 ステラとしては、別に成果を誇りたいわけでもないし、王宮の中で逆に一人にされたら落ち着かなくなりそうなので、別に不満などはない。


「……あ、目を覚ましたんですね。ステラ様」


 寝ぼけまなこで、半分夢の中という様子のアリアが声をかけてくる。

 その様子だとステラの言葉などまともに聞こえてなかっただろう。 


 窓の外を見る、まだ夜だ。

 

「アリア、貴方ちゃんと眠った?」

「大丈夫です、さっきまでは眠ってましたから。でもあんな事があって緊張してたせいなのか、こんな時間に目が覚めてしまって」

「そう」


 とりあえずステラは彼女に言っておかなければならない。


 遺跡で、ステラが孤立していた(と思い込んでいた)時の事だ。


「あの時はありがとう、アリア。貴方の言葉、嬉しかったわ。あと、すごく格好良かった」

「えへへ、とっても嬉しいです。ステラ様にそんな風に言ってもらえるなんて」


 はにかみながら笑う少女はすごく嬉しそうだった。

 さすがは、ヒロイン。

 その姿には、同性であるステラも思わず可愛さのあまり抱きしめたくなる魅力があった。


「ちょっと貴方って、そそっかしいところとか抜けてるところがあるから、心配に思ってたけど、きっと立派な騎士になれるわ。さすがアリア・クーエルエルンだわ」

「そんな。言葉は嬉しかったですけど……、ステラ様にそう言ってもらうほど私は凄くないですよ。あれは実は私じゃなくてステラ様なんです」


 嬉しそうな様子を一転させ、体面に座っているアリアは慌てて手を動かしてステラの言葉を否定する。


「言ってる意味が分からないけど」


 あの時あの場にいたのはどこからどう見てもアリアその人であって、ステラなどではなかったのは本人である自分がよく知っている事実だが。

 と、そう疑問に思いながら問いかければ、アリアがどこか誇らしそうな顔をして答える。


「だから、ステラ様が格好いいといってくれたあの私は、ステラ様を演じていた私だったんです」

「わ、私?」


 何言ってるのよ、アリア。

 私はあんなに立派じゃないわよ。


「ステラ様だったらああいう風に言うだろうなって思ったら、自然とあんな風にできたんですよ…」


 買い被りすぎよ。というか貴方、事あるごとによく私を持ち上げるけど、私はそんなふうに言われるような人間じゃないわ。


「そんなのおかしいわ。あれはアリアの言葉よ。だって見たでしょう? あの遺跡で、ちょっと皆に厳しく言われたぐらいで、泣きそうになって、怯えながらびくびく震えてる私を」

「はい、確かに見ました。でも、それでもステラ様は十分強いと思いますよ」

「そんな、私は……」


 強いと言ってくれているのなら、感謝の一言でも告げて話を終わりにすればいいのに、どうして私はむきになって自分が弱いことを証明しようとしているのだろう。いつもだったらそんな風にしないのに。

 やはり夢の影響だろうか。


「でも、あくまでもステラ様はご自分のことを弱いと思われているのなら、それでもいいと思います」


 アリアはこちらへ距離を詰めてきて、ステラが寝ていたベッドに腰かける。


「いいじゃないですか、弱いままでも。ステラ様は大切な人を守る時には強くなれるんですから。私、見てましたよ。カルネさんの事守ろうとしてたのを」


 あれは、だってそうするしかなかったし。

 彼女だって、危険な目にあっている友達を見殺しにするなんて絶対できないだろう。


「ステラ様。私の勇気の出し方は『大切な人を守るために』が答えなんです。そして私の考える強さは『大切な人を、大切な人の生きる世界を守れる強さ』です。ですから私の基準になっちゃいますけど、ステラ様が大切な人を守る時にだけ強くなれるのなら、それで十分だって思うんです。だって、それ以外の時に強くても意味ないじゃないですか」

「それは……」


 確かにそうだが。

 私は別に力を誇示して偉ぶりたいわけでも、誰かを蹴落としたいわけでもないのだから。

 勇者になったとしても、王宮のごたごたや権力者の争いに巻き込まれるなんて御免だし、悪党になって自分より弱いものを虐げたいとも思わない。 


 そんなステラの様子を見てアリアは、何か思いついたようでこちらに質問をしてくる。


「ステラ様は勇者様になって何がしたいんですか?」

「え? ……それは」

「じゃあ、ステラ様がもし騎士になったら何がしたいですか」

「えっと、皆を守るわね。今日みたいな事が起きないように、起きたとしても守れるように」


 アリアはその答えを聞いて笑った。


「私、何かおかしい事言ったかしら」

「ステラ様は勇者様を目指してますけど、勇者様になりたがってるわけじゃないんですね」

「それはそうよ」


 あくまでも目指している目標であって、私は勇者様ぐらいの強さだけ手に入れられればそれでいいんだから。


「少し、もどかしいですけど、それはステラ様は自分で気づかなきゃいけない事だと思います。自分が本当に戦えている理由を、そして周囲の人達の想いを。それが気づければ、ステラ様は前に進めますし、今悩んでいる事に答えを得る事ができると思います。大丈夫です、ステラ様なら必ず答えにたどり着けますから。ステラ様が凄いって言ってくれた私が、アリア・クーエルエルンが保証します」

「……ありがとう」


 自信満々に言う彼女にはもうその未来が見えているようだった。


 彼女はステラの問題を解決できる言葉を持っているようだ。

 聞きたかった、でもそれは彼女が言うように、自分で気づかなければならないのだろう。


 それは彼女の厳しさであり、同時に信頼と優しさでもあるのだから。



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