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第44話 騎士としての勝利



 答えを得た瞬間、ステラは胸の内から何か温かな力がこみあげてくるのを感じた。 


「これは、……でも、嘘……」


 光が体を包み込んでいく。

 アリアの回復魔法ではない、もっと他の別の力の光だ。


「ま……ほう……?」


 いったい誰が、ステラに?

 回避の合間に周囲を見回してみるが、魔法を使っているような人間は他には見えない。


 離れたところに、何故かライドとカルネの父親がいるようだが、驚いている様子からして違うようだし。


 ツェルトを見ると、彼の体も同じように光に包まれている。


「ステラの魔法だよ、これ」

「そんな、はず。ないわ。だって私……」


 魔法だったらこんな風ではなく、ちゃんと意識して使えるはずだし、ツェルトにも魔法をかけている実感はないのに。


「どうして……?」


 ずっと、本物の貴族ではないかもって思っていた。不安に思ってた。

 それとも違うの? 私はお父様とお母様の娘なの? そういう事なの? 安心してもいいの?


「俺には分かる、詳しくは言えないけど。これはステラの魔法だ。ちゃんとな」

「……」


 ステラはただ困惑するしかない。

 けど、ツェルトは何かしらの確信を得て言っているようだった。


 体の調子を確かめる。

 軽い、まるで羽でも生えたかのように体が軽くなっている。それに動きも少しだけ早くなっている気がするし、剣を振る力も強くなった気がする。

 種類は、身体強化の魔法だろうか。 


「まあ、いいけどな今は。騎士なんだろ、だったら何があってもしゃんとしてなきゃ駄目だよな。後ろには皆がいるんだからさ」

「……そうね、何であろうと私のやるべき事は変わらない。私は騎士、民を守る剣なんだから」


 今は細かい事を考えるのはよそう。

 目の前の影を見つめる。

 気のせいではない、その動きは明らかに先程よりも遅くなってきている。


「私達が早く動けるようになったから……だけじゃないわよね」

「力……もしかして、影響してるのか?」


 ツェルトが言葉を漏らしながら考えていく。

 何か心当たりがあるようだ。


「ああやって暴れてるけど、まだ俺との契約は切れてない。だからステラの魔法が俺に流れ込んできて、その影響で……えーと、何かすごい事になった」


 ツェルトは色々早口で言ってるから聞き取れない。

 それに、何だかこんがらがっているみたいで、最後は思考を放棄したようだ。


「とにかく一個試してみる。ひょっとしたら効くかもしんね。なあステラ、俺達の目的は勝つ事じゃないよな」

「? ええ、そうね」

「でも、勝てるなら勝ちたいよな」

「もちろんよ!」


 だってあれだけの事をしてくれて、これだけ皆を怖がらせてくれたのだから、一人の騎士としてしっかり落とし前をつけさせたいと思うのは普通じゃない。


「よし、じゃあ勝つぞ、まだ勝てるかどうか微妙だけど、勝つ!」

「もう、適当なんだから」


 ツェルトは背後に向かって呼びかける。


「おーい。ライド、いるんだろ、俺今から集中するし、ステラ一人じゃアレだから念の為に何かやってくんね?」

「おいおいツェルト、俺は荒事は専門外なの。そんなにできないの知ってるよな」

「じゃあやってくれ」

「言葉がおかしい! さっきの言葉聞いてないの!?」

「よろしく頼むぜ」

「だーかーらー、何さらっとそんな大変な事押し付けてくれちゃってんの!?」

「そうか、ありがとな!」

「もしもし? …………マジかよ、おいおい」


 ツェルとは、もう決めたとばかりに距離を開けて後方へと下がっていく。


「ステラ、頑張れ」


 そんな風に一言だけ声を掛けて。

 相手の攻撃がステラ一人に降り注ぐ、定期的にアリアの魔法がかかると言ってもちょっときつい。


 しかし、すぐにライドの声がかかった。


「しゃーねぇな。じゃあ、いくぜ。俺のとっておきだ」


 言葉とともに、小さな者が影の周囲に落ちてくる。

 ステラの背後から投げたのだろう。

 それは小さな球体だった。

 

 物体には紐がついてて、先端には火がついている。

 ようするにアレだ。爆弾だった。


 ステラは慌ててその場から下がった。

 一瞬後爆発する。


 音は盛大になったが、威力はそれほどでもない様だった。


 というか、これって爆竹みたいなものかしら……。


「これ、剣技も魔法も大して才能のない俺の長所の一つなのよ、どうだ?」


 背後から自慢の声が聞こえてくるが、ツェルトが集中してなかったら、色々文句が飛んでいた事だろう。


 だが、そんなこけおどしみたいな攻撃でも相手の気は引けたみたいだった。

 ステラはその隙をついて、攻撃を加えていく。


「やああーっ!」

「俺の話、聞いてくれない!?」


 そうこうしているうちにツェルトの策が、発動した。


「ステラ、敵の近くに!」

「分かったわ!」


 指示を受けて、ステラは影へと突進する。

 そして……、


「うおぉぉぉっ!」


 上空からの気配。

 彼の精霊使いとしての力、瞬間移動だ。


 振り下ろした剣がわずかに影を切り裂く。


 ツェルトはその反動を利用してその場から離れ。地面へ着地。


「力は使えたけど……、どうだ……? よし」


 隣に並ぶツェルトの手には精霊の剣が出現していた。

 目の前の影は、苦しみのたうち回るように狂った動きをしはじめる。

 近くの建物の壁を手当たり次第に破壊していった。


 もう結構な時間が経つから、建物内などに人がいる可能性は少ないだろうが、それでもステラ達は前に出て相手の注意を引き続ける。


「効いてるみたいだけど、何をやったの?」

「いや、俺も良く説明できないんだわ。何か固くなって錆びついたドアを動かす感じで、力使ったりしたら上手くいくかなと」


 そんな適当な。


「私の方は……剣は出ないわ。不安定みたいね」


 魔獣に効力のある剣。それが二つあればよかったのだが、しょうがない。

 無いものねだりをするよりも現実的な方法を考える事に労力を割くべきだろう。


 そんな時、ずっと腕を振るうだけだった影の行動が変化した。

 そこらの周辺に放置された屋台を壊して、その破片をこちらに投げつけてきたのだ。


「まずいわ」


 ステラ達は避けられるが、背後にいるアリアやライドがそれらの攻撃に対応できるだろうか。

 そう思って、彼女らに声を掛けようとした瞬間だった。


「きゃっ」


 アリアの悲鳴。

 思わずステラは、影から視線をそらして振り返った。


 そこにはアリアを背後にかばうクレウスの姿。

 戻ってきたようだ。


「大丈夫か、アリア」

「あ、ありがとうございますクレウス」


 クレウスはアリアの手を引いて、その場を下がらせながらステラ達に報告する。


「こちらの避難は完了した、気にせず存分に剣を振るうといい」

「ありがとう、助かったわ」

「そっか、良かったな」


 ということは、きっとあの兄弟の母親も安全な所避難したのだろう。その事にステラはほっと胸をなでおろす。


「とりあえず支援ははいいから、貴方達はこの場から離れてなさい」

「ステラ様! でも……」


 言いよどむ、アリア。

 気持ちはわかるけど、と説得の言葉を続けようとした時。

 注意が散漫になったステラを、へし折れた屋台の廃材が襲った。


「つぁっ!」

「ステラ!」

「へ、いきよ……」


 いつか集中が切れると思ったが、それが今とは。

 もっと早くか、遅くにしてほしい。あんな風に狂暴化したときでなくてもいいのに。


 痛みをこらえて立ち上がる、そこへ影が追撃してこようとするが……。


「ちょっと道具切らしてるから失敬、とりゃっ」

「あっ」


 ライドのそんな声とアリアの焦った声。

 何が、と思うと、背後から何か小さなものが影に投げつけられた。

 またあの爆竹モドキだろうか、と思ったが違った。


 アリアのペンダントだった。


 ちょっと、それあの子の形見よ。何投げてるのよ。


 いきなりの非常識な行動に、文句を飛ばそうと口を開くのだが、そのペンダントが光を放った。

 そして光にた照らされた影が苦しみだす。


「何……一体何が起こってるの?」

「何か、小さくなってってるな」


 ペンダントの持ち主であるアリアも形見を粗雑に扱われたことも忘れ呆然と呟いている。


「わ、私のペンダントが、一体どうして……」

「どうしてかは分からないけど、これは好機ね」


 ステラは、小さくなりながら後ずさる影を追い詰めるように進み、落ちているペンダントを拾い上げた。


「アリア、ごめんなさい。使わせてもらうわね」


 そして、それを剣を持つ手に括りつける。


「これが怖いの? なら、もっと恐怖を感じさせてあげるわ」


 ステラは、それを見せつけるように剣を構えて影へと迫る。

 まるで悪役のようなセリフだ。


 だが、気にしない。

 やっと見つけた反撃の可能性だ。

 他に有効な手が見つからない今、持ち主には悪いが利用させてもらう他はない。


「行くわよ!」


 ステラは、これまでの分を返すように嬉々として剣を振るった。

 あれほど苦労していたのが嘘のように攻撃が通っていく。


 影はすぐに切り裂かれてボロボロになった。 

 これなら、いける。


「ステラがめっちゃステラしてるな、俺ですらちょっと怖いぜ」


 ツェルトがそんな風に呟くのが聞こえてきた。

 色々訂正したいことも言いたい事もあるが、今は誉め言葉として受け取っておこう。


 満身創痍といった様子の敵にステラは真っ向から対峙する。


「ツェルト」

「おう」


 彼にはその一言だけで伝わったようだ。

 ステラは光を放つぺンダントが巻き付けられた腕で剣を、ツェルトは自身の契約精霊から力を借りている精霊の剣を、二人は同時に振るった。


「やあぁぁぁっ――――!」

「らあぁぁぁっ――――!」


 二人の攻撃を受けた影は、さんざん暴れまわっていたのが嘘のようにあっけなく霧散していった。



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