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第38話 そうするだけの理由は……



 再び歩き出す二人だったが、どこからか音が聞こえてきた。

 何かが爆発するような音。

 ステラとアリアは顔を見合わせて急いだ。

 近づくにつれて人の声も聞こえてくる。ツェルトとクレウスの声だ。


 耳を澄ます必要がない距離まで近づくと、ステラは物陰に身を寄せて様子を窺う。フェイスと鉢合わせして戦ってでもいるのかと思ったが、違うようだった。二人の声からは実技訓練の時以上の緊張感を感じない。


「いてて……半端ねぇな。今日もか、手も足も出なかったな」

「大精霊様相手によく健闘した方だと思うが。仮に倒せても本当に倒す気はなかったろう」

「ま、実力を計るのが目的だったし」


 ツェルトは地面に膝をついた姿勢で、体中土まみれになっている。隣に立つクレウスは彼ほどではないがそれでも疲労してはいる様で息が荒い。

 彼らの前には小さな祠があって、そこへ向けて二人は話しかけているようだ。


「……やっぱ無理なのか? ……だよなぁ。大精霊なら。ステラの記憶を治せるんじゃないかってアテにしてきたんだけど。……そっか、無理か」


 クレウスに立たせてもらいながら、ツェルトが残念そうな口ぶりで言葉を話している。

 戦闘音はとっくにしなくなっている。先程まで何かをしていたようだが今はもう終わっているみたいだ。


「……」


 記憶を治す、といった。

 誰の、なんて決まっている、彼はステラの為にこんな事をしているのだ。


 全然知らなかった。

 関係ない事をしているとばかり思ってたし、知ろうとも思わなかったからだ。


 なんだか他人事のように考えてた自分が申し訳なくなる。

 ステラは何か言葉をかけたかったが、こちらに黙ってやっている事なので、言いたい事があっても言うわけにはいかない。

 第一、どんな言葉をかければいいのか……。


「あーあ、まだまだ強くなんないと駄目だな俺」

「焦りは禁物だ、一段飛ばしに進もうとすると足元をすくわれることになる」

「分かってるよ」


 彼はどうしてそこまでできるのだろう。

 友達を心配するのは当然だし、力になりたいと思うのも自然な事だと思う。

 けど……。

 私達はただの友達なの?

 

 ステラは疑問がつきない。

 知りたかった。彼の口から直接、本心の言葉を。


「クレウスは私を仲間外れにしたんでしょうか……」


 そんな事を考えてると隣から落ち込んだ声が聞こえてくる。

 そういえば彼女の事情でここに来たのだった。


 まったく、何を言ってるのか。


「クレウスはそういう意味でやってるんじゃないと思うわよ」


 まあ、それ以上は私の口からは言えないので本人に聞いた方がいい。

 と、ステラはそんな風にアリアにフォローを入れた。


 何だか、私の知ってる彼女より、怒りっぽかったり、猪突猛進だったり、闇落ちしそうだったり違ってて、不思議に思えてきた。これも私が違う行動をとった影響なのだろうか。


 理由としては、例えば……本来の悪役ステラと関わる機会が減って、彼女が成長する機会が少なくなったからとかかしら……?


「ふーん、今は勇者と契約してんのか。……え、ここって俺達の地元の森と繋がってんのか。ひょっとしてあの森がやばいのって、そういう事かぁ」


 そんな事を物陰で二人で話したりしているしている間にも、会話は進んで行く。

 ステラ達やクレウスには見えないが、ツェルトにはこの場にいる(らしい)大精霊の姿が見えて声も聞こえるらしかった。

 さっきの爆発音もその精霊の仕業らしい。

 大精霊に勝利して、その力を行使するために契約を結ぶ……そのための戦いだったのだろうが、ツェルトは戦う前から実力が分かっていたらしく、本気で倒すつもりではなかったようだ。


「負けてばっかだな、俺達」

「二人がかりでもこうまで手が出ないとは、最初は思いもしなかったよ」


 そんな風に要所要所で反省したり落ち込んだりして、雑談した後、二人は祠に軽く手を振ってその場を去っていく。


 しかし、その帰り際。ツェルトとステラn目が合ってしまった。

 気づかれてしまったらしい。

 でも、彼は何も言わずにその場を去っていく。

 アリアの事ととかも含めて後で説明しておかねばならない。

 まあ、さすがにクレウスに構ってもらえなくて拗ねてた、みたいな直接的な事は言わないけど。


 後は自分たちも帰るだけ、と思ったのだが、


「どうしてかしら? 私にも、大精霊の声が聞こえてきたわ」


 精霊使いでもない自分に、大精霊の声が聞こえてきたのには驚いた。

 やはり大がつく精霊となると他の精霊とは色々違うのか。ツェルトも、契約精霊の姿は見えないのに、第精霊の姿は何故か見えていたようだし。どんな姿だったのか音で機会があったら聞いてみよう。


 祠の前へ移動し、ステラは目には見えないが声だけは聞こえる大精霊とやらから話を聞いていた。


 話の前半部分は、もうこの森にフェイスはいないという事で、気にする事はないみたいな内容を済まなさそうな様子で言われた。一応さっきの戦いで勘違いさせた事事を悪いと思ってたようだった。


 そして後半部分はステラがなぜこの世界に転生したかについてだった。


 その理由は短くまとめればこうだ。

 前世にステラが生きていた世界に、不思議な力を使える人がいたらしく、その人が死にそうになっていたステラをどうにか助けようとしてくれて力を使ったらしい。その結果、異世界へ転生したのだという。


 ステラとしては前世と今世の自分は別だと思っているし、だからどうだということはない。その話を聞いても特に変わることはなかった。

 だが、前世のステラは誰からも助けられることなく死んでいったものとばかり思っていただので、その事実を知れた事は少し嬉しかった。



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