第37話 もう一つの未来
王都 退魔騎士学校 女子寮
大変な事はまとめてやってくる。
交換学生の期間が残り二日になった時のことだった。
私にはやらなければならないことがあった。
このところよく思い出すゲームの記憶。
そこに見過ごせないものを見つけてしまったからだ。
王都の町の下には古代の遺跡がある。
それは古の時代、最初の勇者が誕生した時代に作られたもの。
その遺跡は今まで何の反応も見せず、静かにそこに在るだけの建物だったのだが、何の理由があったのか分からないが、よりによってこの交換学生の期間に起動してしまうのだ。
それだけならまだしも、それにより遺跡の中に封印されていた遥か古代の魔物が目を覚ましてしまい、町の人々を襲ってしまうのだ。
真っ先に被害を受けるのがあの病院だ。
脳裏には、記憶の中ゲームの中の物語で傷ついた人々の姿が蘇る。
その中にはつい先日知り合った子供の姿もあった。
無事でいられる確率はおそらく低い。
気づいてしまったからには見過ごすわけにはいかない。
ステラは何とかできないかと頭を悩ませることになった。
本来のゲーム内での歴史なら、アリア達が偶然その場に居合わせて、駆けつけた騎士達と協力して撃退するのだが……。
違う道筋を辿っているこの世界ではどうなるか分からないし、元の道筋をなぞるだけでは人々を完全には守れないかもしれない。
早急になにかしらの手を打たなければ。
あくまでゲームの知識を信用するうえで行動する事になるのだが、それは今更だろう。ステラはゲームの知識に関係するものをこれまでに何度も目にしてきたのだから、今回の事はきっと外れる事は無いと思っている。
騎士としてやるべき事は民を守ること。
目的は違えどもステラは騎士の道を歩くものだ、その剣は人々の為にも振るわれるべきだろう。
近いうちにその遺跡を調べに行く必要があった。
何だか最近、トラブルに自分から積極的に飛び込むことが増えたような気がして微妙な心地になってきてはいるが。
それはともかく最初の話に戻るが、かっやい事は重なってやってくるのだ。
「大変です、ステラ様。クレウスが私に隠し事をしてました!」
こんな具合にね。
最近アリアから恋愛相談を受けた。
彼女はどうやら幼なじみであるクレウスのことが気になっているようで、順調にカップル成立までの初々しい期間を(傍から見れば)楽しんでいるようだった。
「ひどいんですよ、聞いても何も答えてくれなくて『後で話す』って言うばかりで」
「貴方ってそんなに怒るような性格だったかしら……。記憶と違うような……おかしいわね」
控えめなように見えて実は猪突猛進型である彼女は、自分が目撃したクレウスの怪しい行動を確かめたくなって、いてもたってもいられなくなった末、ステラに相談しにきたらしい。
普通に困っているんだったら、迷わず手を貸すんだけどね。
どう考えてもオチが読めてるというか、結末が読めてる親友未満恋人以上の恋愛相談っていうのはね。
「クレウスってばもう……」
アリアが言うにはなんでも、ツェルトと共だって内緒で校舎裏にある幻惑の森へと入っているようなのだ。
そういえば学校の裏手を真っすぐ進むと森があるとか聞いた事がある。
腕輪の件の時でも、どこかに行って何かをやっていると思ったのだが、まだ続けていたのか。
アリアはようするに、拗ねているのだ。何で自分もさそってくれないのかと。
放っておいたら一人で突撃して行くのは分かりきっている。
うっかりな彼女を鬱蒼とした森の中に今の状態で突撃させるわけにもいかず、ステラは付き合うしかなかった。
幻惑の森
幻惑の森と呼ばれているその場所へ一歩踏み入れると、殺気が蔓延しているのがわかった。
隣でアリアが身をすくませる。
「ねぇ、アリア。少し聞きたいのだけど、ここって立ち入り禁止とかそういう類いの場所だったりする?」
「あっ、そうでした!」
そういう事はもっと早く言ってほしい。
というより学校の裏になぜ、こんな危ない所があるのだろう。
いや、それを言うならなぜ学校をそんな森の近くに建てたのか。
学校の歴史よりも遥かに森の歴史の方が長いだろうし。
「えっと、どうしてかと聞かれても……。噂の類ならいくつか聞いてます。森にいる化け物を鎮めるためだとか、その昔住みついていた魔女の呪い解くためだとか…」
ようするに具体的なことは何も分からないのか。
いや、だが待つべきだ。
どんな荒唐無稽な話でも、聞き流して痛い目にあったのを忘れてはならない。
情報収集は大事だ。
「こんなのつまらないですよね」
「一応聞くわ。他にはどんな事があるの?」
ステラは警戒しながらもアリアの話に耳を傾ける。
そんな事をしばらく話しながら、ステラ達は敵意の発生元であった魔物達を退治しながら進んだ。
不思議な事だが、迷いの森も幻惑の森も魔物が外に出ようとしないのだ。
魔物の巣とやらも大抵は森の中に作られるらしい。
一般的には、魔物は鬱蒼とした場所を好むと言われているがどうしてかは分からないらしい。
「あの、ステラ様」
「何?」
どうでもいいかもしれないけど、どうしてこの子はステラのことを様付けしているのだろうか。
平民は貴族より下、みたいな考えを持っているわけでもないだろうし。
「どうして私達、同じ所をぐるぐるまわってるんでしょうか。この木、さっきも見ましたよね」
ステラは空を仰いだ。
正確には、空は見えなくて、木の先端が視界に入るのみだったが。
どうして気づかなかったのだろう。
「忘れてたわ」
うかつ過ぎだ。
これではアリアの事を言えない。
ステラとアリアは、迷いの森でなったのと同じように迷子になっていたのだった。
歩き回るのを止めていったん立ち止まる。
「あの時はどうして、迷わなくなったのかしら」
確か何かきっかけがあったはずなのだが、思い出せない。
確か、手の平が。
「暖かかったわ。……そして少しだけ私は安心していた」
常識的に考えればあり得ないことだ。
あんな危険だらけの森の中で、ステラが一人歩いていて安心できる要素なんてどこにもなかったはずだ。
なのに、なぜだろう。
そう思い、ステラは身近にある手を取る。
「ふぇ、あ……あのステラ様?」
急な事に驚くアリアの声も意識になく、ステラは考え込み続けた。
「あの時も私はこんな風に……」
「ステラ様?」
「あ、ごめんなさい」
声をかけられて気がつき手を離す。
もう少し、記憶を探りたかったがそうもしていらないだろう。
今は他に気にすべき事があるのだから。
「ここって……」
しばらく歩くと、森の奥には大きくて立派な木が立っていた。
その木は他の木と区別して特長的であり、緑ではなく黒い葉を身につけている。
「なんだか、夜の魔女のおとぎ話に出てくる木みたいです」
「夜の魔女? って勇者に……朝の騎士にやられたあの魔女の事?」
「はい、一般には広がってない話なんですけど、私の家にはその本があって」
「どんな話なの?」
夜の魔女には不思議な力があって、魔女には一人の家族……妹がいた。魔女はその子を守るために力を振るい続けるのだが、大きすぎる力を恐れた人々によって追われてしまう。離れていても妹の事を大事に思う魔女。しかし、世界が原因不明の魔物の発生によって悩まされている事から、魔女は人々の不安をどうにかしたいと思った。それで、人々の不安の心を失くすため魔女は、魔物を率いる魔女……つまり原因になる事に決めたのだ。
「ずいぶん詳しいのね」
ステラの知る魔女の情報など、悪い存在で、世界を滅ぼそうとしているぐらいしかないというのに。
「はい、私もその事を知った時には驚きました。でも、誰に聞いても、そんな本が出回ってる話は聞かなくて、他にも「聖なる大樹の伝説」とか「双子の守り手」とかのお話があるんですけど、たぶん誰かが自分で創作した話だと思います」
「そう、だとしたらその人は優しい人なのね」
誰もが嫌う魔女のする行動理由を考えるなんて。
普通常識でそういうものなのだと言われたら、そうだと思うのが大半の人の心理なのに。
「はい、きっと私もそうだと思います」
「アリアは本が好きなの?」
「はい、学術書とかは苦手ですけど、物語は大好きですよ」
「そう」
「今は、昔話に興味があって、色々な時のお話を調べてるんです」
「それなら、いくつか聞いた事があるものがあるから、知らないものがあったら後で教えてあげるわ」
「本当ですか!」
そんな風にしていると話は脱線して情報収集というよりは、気が付くと本に関する知識披露になってしまっていた。
その話の最中、何かに誘われるかのように視線が動いた。ステラは目の前にそびえる大樹の黒色の木の葉が風もないのに、揺らぐのを見た。
何か別のものがステラの中へと流れ込んでくる感覚がする。
なんだろうこれは。私の知らないものだ。
こんな記憶は前世の私の知識でもない。
私の名前はステラ。ウティレシア。貴族の娘に生まれてきたけど、魔法が使えない役立たずだ。
お父様もお母様も私とはあまり話しをしてくれない、弟は小さいから遊んでくれるけど、でも大きくなって魔法が使えるようになったら私を避けるだろう。貴族でない偽物の私にそれは当然の事かもしれないけど悲しかった。
でもそんな私は一人ぼっちじゃない。
幼馴染の男の子がいるから。
名前はツェルト。
私はツェルトと毎日のように遊んだ。
以前カルル村にいたとき、人質になってた私を助けてくれたから、とても勇気のある男の子だ。彼がいるから私は一人ぼっちではない。
ラシャガルという男がやってきて、私はお母様やお父様の本当の娘ではない、だから魔法が使えないのだと、そんなひどい事を沢山言われた事もあったけど、ツェルトが励ましてくれたから何とか立ち直れた。
けれど、ある日そんな彼の様子がおかしくなってしまった。
ちょど彼の村で疫病が流行りはじめた時期だった。
何があったのだろう?
彼は見間違えるように変わってしまった。
いたずら好きで、うるさくて、でも優しいところのある彼はどこにもいなくなってしまっていた。
よく分からない魔法の研究にのめり込むようになって、だけど私は一人になるのが嫌で彼の傍に居続けた。
それから何年も月日が流れた。
周りの人間は私の事をよく馬鹿にしてくる。
貴族のくせに魔法が使えない。威張る事しか能がないって。
悔しくて仕方がない。私だって好きでこんな風になったわけじゃないのに。
でも、そんな私にも優しくしてくれる人がいた。
アリア・クーエルエルン。
気まぐれで庶民に話しかけただけなのに、妙になつかれてしまってそれ以来よく行動を共にするようになったのだ。
そんなある日の事、珍しくツェルトが私に話しかけてくれた。
困っているようで、私に力を貸してほしいみたいだった。
どうせ、自分に友達なんていない。大切なのはツェルトだけだ。
私は彼の為なら何でもやろうと思った。
通っている学校の裏手にある幻惑の森。そこに彼が必要だという女性をおびき寄せてきたり、識別のルーペを回収してきたり、色々と手伝わされた。
だけどタイミングが悪いのかことごとく私のやる事を邪魔してくる人間がいた。
アリア・クーエルエルン。
初めの内は眼中に無かった。ただ勘が良いだけで、偶然だと思っていた。だがそれが二回、三回と重なるごとに段々と彼女の存在が疎ましくなってきた。
彼女も私と彼との仲を引き裂こうとするのか。
彼女は私とは正反対だ。平民なのになぜか魔法が使えるし、いつも周囲には人で囲まれていた、彼女の周りはいつもキラキラしていて、その眩しさが憎らしくなってくる。
ツェルトに頼まれたことをこなさなければいけないのに、気が付けば彼女の邪魔をしようとしている自分がいる。
自分でやってて虚しいと思う行為だが、自分を止められなかった。
そんなとき同じ学校に通う弟に自分の行いがばれた。
憎んで嫌いになってくれればまだよかったのに、ヨシュアは私の事を憐れんで同情しているようだった。
やめてよ。
そんなのいらない。
そんな無駄な事をするぐらいなら、どうしてもっと前に気づいて助けてくれなかったの。
今更遅いのに。
心の中でなじりつつも、本当は自分だって分かっていた、避けてたのは自分だ。
それにあの頃自分より幼かった彼にできる事なんてなかっただろうし。
どうしようもない事だったのだ。ステラがこうなったのは。
失敗続きの私にツェルトは愛想をつかしたようだった。
彼に剣で処分されそうになる。痛かった。
泣きながら彼から逃げた。
これで私は本当に一人になってしまった。
私の元に誰かが来る。あいつらだ。散々邪魔してきた腹いせをするつもりだろう。
仕方がない。
仕方がなかったのだ。私にはツェルトしかいなかった。彼を失ったら私は、もうどうしていいか分からなかったのだから。
でも本当は分かってる。彼はツェルトではないのだと。
私が傍にいる彼はとうの昔に別の人間だったのだ。
フェイス・アローラ。
そいつが本当のツェルトをどうにかして、体を乗っ取っているのだ。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
私はやってきた彼女達とその仲間を見る。ツェルトほど大切なものでははないけれど、もうとっくに切り捨ててしまったものだけれど、彼女達に対してできる事をしようと思った。最後に悲しまずに済むように、悪役を演じて見せるのだ。
それがステラ・ウティレシアの最後の意地と貴族としての気高さと、ひょっとしたらなれたかもしれない友達への……、思いやりだった。
「……っ」
「ステラ様! 大丈夫ですか!」
痛みと錯覚しそうなほど強い悲しみが胸を貫き、その痛みで私は目を覚ました。
そうやらしばらくの間、倒れていたらしい。
「大丈夫よ、私はどれくらいここで?」
「多分五分くらいです」
「そう」
体が重い。そしてだるかった。
今の記憶は一体なんなのだろうか、私はこんな記憶知らない。
ゲームの情報でもないし、自分で体験した事柄でもない、まったく異なる記憶だった。
一体これは何なのか。
分からない。分からない事だらけだ。
頭を抱える思いで周囲を見つめる。
森の奥だ。
そうだ、ここにたどり着いて、ステラは気を失ってしまったのだ。
頭を抱えていると、アリアのスカートのポケット辺りの場所が光る。
彼女は驚いた顔でそれを取り出し手のひらへ乗せた。確か月のペンダントといったか。
彼女の両親の形見だと、ゲームで見たことがある。
「それは……」
「あ、これは私の形見なんです。いつも着けてはいないんですけど、ポケットに忍ばせていたんですよ。それが突然、こんな風に光り出して……」
そんな風に会話をしていると奥にある大樹から声が聞こえてきた。
いつからいたのか、そこには髪の長い女の人が立っていた。
普通の人間とは思えない、綺麗な人だった。
長い黒い髪に、白く透き通るような肌。
身長は高く、手足はすらりと伸びてほっそりとしている。
「すごく綺麗な人です……」
アリア、見とれてないで警戒してね?
「貴方は?」
ステラが尋ねると、女の人は答える。
「彷徨える魂よ。私は遥か昔の時代に樹女神と呼ばれた聖樹の名残です」
聖樹ってあれよね。さっきアリアが言ってた古の時代の物語、創作だろうって話の……。
「では樹女神様と及びすればいいんですね!」
アリア、そんな風になじまないで。もっと緊張感を持って。
でも、ヒロインが警戒してないってことは悪い存在ではないのかもしれない。
ぼんやりしてるように見えるけど、彼女は悪い人間……(目の前のそれは人ではないが)を見分ける目は確かなようだし(それでも人の好さのせいで罠にはまる事は絶えないけれど)。
「ここで出会ったのも何かの縁でしょう。彷徨える魂よ。私は先程貴方へ、この世界に本来起こり得るはずだった未来のかけらを見せました」
本来起こり得る……? でも、私の知ってるゲームのものと違ったわよ。
いやそもそもステラがいるこの世界は一体何なのか。
ゲームに似た世界だと思っているが、まさか本当にゲームの中に入ってしまったわけではあるまいし。
そんなステラの疑問に答えるように、女の人は言葉を続ける。
「世界は一つではなく、無数に広がっています。ごく稀にですが、世界を構成するかけらが剥離し、別の世界へとたどり着くことがあります。別の世界に住む者はそのかけらを覗いて、この世界へと渡ってくることもあれば、空想の産物と決めて自分達の日常にそれぞれの方法で利用することもあります」
ステラには難しいことはよく分からないが、前世ステラが過ごしていた世界で誰かがこの世界の情報を手に入れたという事になるのだろうか。
「あ、分かります。私もたまに魔法のない不思議な世界の夢を見るんですよ。それを絵本のお話に使って描いたり、物語にしたりしてるんです。そういう事ですよね!」
なるほど、さすがアリア。
剣に成長をつぎ込んで脳筋になりつつあるステラよりも飲み込みが良い。
つまりこういう事だろう、この世界の(おそらくアリア中心の)かけらを覗いた誰がが、ステラの前世の世界で乙女ゲームのシナリオに使えると思って、活用したのだろう。
当事者ではない第三者の視点から見た物語だから、ステラの上っ面の行動だけを読み取れば悪役にしか見えなかったというわけだ。
……なんか、元の流れのステラが可愛そうになってきたわね。
「何となく話は分かったけど、そんな事を教えるために私達にちょっかいかけたの?」
「ステラ様、さすがに樹女神様に失礼だと思います……」
伝説の存在だろうが古の存在だろうが、この目で見て尊敬すると決めた人間にしか頭を下げない……、とまではいかないけれど、ステラがそんな態度なのは、どうにもすごい存在だという認識にピンとこないのが理由だ。
古から生きている聖樹ならどうしてこんな鬱蒼とした森にいるのかと思うし。
偽物、とかじゃないわよね?
だが樹女神はその質問には答えず、別の事を述べた。
「最近この森に心邪なものが足を踏み入れています。その者は企みを抱き、禁忌の魔法を発動させようと生贄を用意していました」
「えっ、まさか」
彼女からの言葉にピンとくる人物など一人しかいない。
ゲームの中の知識と最近身の回りで起きたことを考えれば彼しかいないだろう。
「フェイスが?」
「えっ、ステラ様を酷いめに合わせたあの人がここにいるんですか。こらしめなきゃ」
アリアが何かおかしい事を言っているようだが今は聞かなかった事にする。
だがフェイスはリートに捕縛されて牢屋に入れられているはずではないのか。
いや、だが奴は人の精神を乗っ取るろうとしている存在だ。そういう可能性もなくはないだろう。そうだとしたら非常にまずいことになってはいるが。
「どうか彼の野望を止めてください。別の世界の貴方の為にも」
「そう、確かに私の為でもあるわね」
聞く所によると彼女に害があるわけでもないし、特に重大な迷惑を受けているよう様子でもなさそうだ。
純粋に親切心で教えてくれたのだろう。
器が大きいといえばいいのか、それともこれが遥かな年月を生きる年上の貫禄というものだろうか。
「情報ありがとう、恩にきるわ。返せるかどうかは分からないけど」
ステラは感謝の言葉を告げて、その場を後にした。
その背中にステラ達に聞かせているのかどうか分からない言葉が聞こえてくる。
「夜の魔女……いいえ、星の魔女スピカ。貴方と同じように悲劇に苦しむ人間がどうか一人でも減りますように」
すごい存在とか、畏怖すべき対象とか、色々と昔の人たちは言われてるけど、彼らだって人間なのよね。
勇者も普通の人も、それぞれが大切なものを背負って、大切な誰かとの日常の中で生きているのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。
ステラはそう思いながら、その場所を後にした。