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第36話 闇落ちはしないでね?



 飼育小屋の中にいるステラを見た二人は口を開けて何とも間抜けな顔をしている。


「ステラが飼育されてる!?」


 ちょっと貴方、何か変な想像してないでしょうね。


「ええと、これは」


 ステラは、動揺しながらも事の成り行きについて二人に話した。

 その中でただ一点、ここに鍵があると分かった事だけは上手く説明できなかったので、勘だとしか答えようがなかったが。

 

「貴方達こそ、こんなところで何やってたの?」


 逆にこちらからも気になった事を尋ね返すのだが、ステラと同じように二人にも事情を言えない理由があるらしく、何かの為に(男の秘密とか言ってはぐらかされてしまった)二人は学校の裏手をうろついていたらしい。

 

「彼女は、あるかどうかかも分からないものを探すために飼育小屋に入ってくのか……?」

「ああ、まあ、うん。ステラは友達大事、だしな」


 クレウスは呆れ、ツェルトは微妙な表情をしている。

 変人扱いされているようで、なんだか面白くない。

 そういうのにふさわしい人間はもっと別の所にいると思うのよね。


「仕方なかったのよ……、くしゅん!」


 不満げな様子が伝わったのか、ステラの腕の中にいたウサギが膝の上で飛び跳ねた後、土ぼこりをたてて逃げていった。





 と、いうことで無事に鍵が見つかったので、さっさとやるべき事をやってしまわなければならない。

 コモン・イーストにこれ以上馬鹿なマネをさせないように。

 翌日。ステラはさっそく犯人を呼び出すことにしたのだが、完全に相手が悪いとはいえ、人目のあるところで糾弾してわざわざ悪役フラグ自ら立てに行くのは遠慮したい。なので、場所は学校の屋上を選んだ。


 クレウスとアリアにツェルトも並んで、屋上で立つ。

 ステラも含めると四対一の構図になるが、話の流れ次第ではなんだか弱いものイジメしてる現場みたいになりそうで、ちょっと心配だった。


 遅ればせながらやってきた男子生徒……コモンは、ステラ達の目の前で冷や汗をかきながら視線をせわしなく移動させている。まずい事になったという風ではあるが、それは反省しているからという風ではなく、面倒だという様子に近い。


 こういう輩に弱気で接すると話が進まないので、ステラはできるだけ偉そうに話す事にする。


「観念しなさい。コモン・イースト。いい加減アリアへの嫌がらせ、止めてもらうわよ」


 出だしが肝心だと、目の前に立つコモン・イーストに対してびしっと言ってやった。


「なんというか、板についているな彼女」

「ステラ様、恰好良いです!」


 腰に手を当てて仁王立ちするステラの背後で、クレウスとアリアがそんな事を言っている。

 どうやら意図した通りに見えてるらしい。望んだ形ではあるがなかなか複雑だ。


 やりたくなかったのだが。

 やらないわけにはいかない。

 そういう振る舞いは一応知識にあるし、知ってるからには打てる手として最善を尽くすのが、友達の為なのだから。


 ステラは切り替えて、目の前の男へ意識を向ける。


「お、俺を誰だと思ってるんだ。イースト領の次期領主だぞ!」

「だから? それがなんなの」


 コモンの金きり声にステラは動じることなく淡々と応じる。


「へ、平民ごときが貴族に逆らおうなんて、身の程知らずにも程があるだろう」

「公の場合ならともかく、普段人とつきあう上で身分なんて関係ないと思うけど」


 そういえば私、魔法が使えないわけだし、傍から見たら平民と思われるのも不思議ではないわよね。


「身分が関係ないだと……っ! そういう考えを持つ輩がいるから、平民が増長するんだ」


 コモンはステラの言葉には聞く耳持たずといったようだ。

 説得できるとは思ってなかったが、この様子では会話にならないかもしれない。

 この先に言うべき言葉について考えるより、いっそ実力行使に出ようかと考えてると、横にいたアリアが声を上げた。


「どうしてそんな風に人を二つに分けたがるんですか。みんな同じ人間じゃないですか」


 それに対して、コモンは馬鹿にするような笑いを上げる。


「ははっ、同じだと。同じなもんか! 貴族はこの世界を救った尊い血筋を受け継ぐ選ばれし人間だ。何の取り柄も持たぬ平民と同じであるわけがない!」


 そしてそんな風に持論をまくしたてた。


 今の時代はそうでもないが……、

 この世界にはもともと貴族至上主義が広まっていて、平民を道具のように差別する時代があった。

 魔法が使える事がその主義に拍車をかけているのは誰もが知るところである。

 それは最近は徐々に改められてきているが、まだまだ彼の様にそういった考えをもつものは少なくないのだ。

 ステラには理解しがたいことだが。


「貴族こそが、尊い存在なのだ。敬い人間は尊重するのが道理であろう」


 アリアを庇うように彼女の横につくクレウスは眉をひそめ、非常に何かを言いたそうにしている。


 コモンはそんな目の前の二人の様子など目もくれず、髪を振り乱しながら絶叫した。


「アリア・クーエルエルン! どんな仕掛けか知らんが平民が魔法など使えるわけがない。貴様の卑怯な手によって俺の評価が不当に貶められたあの日から、どうやって貴様の化けの皮を剥がしてやろうか考えなかった夜はない! 今ここで、罰を受けるがいい!!」


 そして言い終るや否や、アリアの腕にはまってるものを見て、魔法を発動させた。


「アリア!」


 とっさにクレウスが手を引いて、彼女を自分の背後へと避難させる。

 先ほどまで彼女の腕があった場所に炎が出現していた。


 良い機会だ。

 魔法を使う相手とは一度戦ってみたかったのだ。


「私が相手をするわ」


 ステラは星雫ほししずくの剣を出現させた。

 これは人を傷つけられる剣ではないが、だからこそこういう時には役に立ってくれる。


「止めないのか?」

「あれは、止めなくても大丈夫だろ」


 背後でクレウスとツェルトがそんなやり取りをしている。

 相手に同情する余地なし、とステラの実力を信用しての言葉だろう。


「貴様、同じ生徒を切るつもりか!?」


 あなたがそれを言うの?

 人の事言えないでしょう?


「そっくりそのままお返しするわ」


 ステラの前方に空間が揺らぐのを感じた。熱が高まっていく。


 コモンの視線から逃れるようにステラは移動する。

 一拍遅れて自分のいた場所が炎に覆われた。


 魔法は、自分が見ているところしか魔法は使えない。

 なら、相手の視線が追いつかないように移動すればいい。

 ステラは繰り出される魔法をことごとく回避していく。


「いい加減にしなさい!」


 そして、威圧を使い相手を黙らせる。


「ぐぐ……、この……」


 しかし、相手はそれでも往生際悪く動こうとしている。

 この技を使われた人間は大抵が硬直してしまうのに、彼には効き目が弱いようだった。

 個人差みたいなものがあるのかもしれない。新しい発見だ。今度に活かそう。 


 それはともかく、いくら動けると言ってもステラのスピードを上回るほどではない。

 ステラは難なくコモンをとりおさえる事ができた。


「引っかかって隙を見せてくれたお礼に教えるけど、もう腕輪は取れてるわよ。あれは張りぼてだから」


 往生際が悪いのか、身動きできなくしてもなおも暴れようとするコモン。

 彼に、アリアの腕輪のことを伝えるのだが聞いてはいないようだった。


「これ、もうちょっと痛めつけてもいいんじゃね? 何か仕返ししてきそうだし。俺、こいつの親父の分の恨み晴らしたいから、ちょっといたずらとかしてもいいよな」

「ツェルトさん。他の人の恨みまでやるのはちょっと、私は大丈夫ですから」


 呟かれた言葉に反応するのはアリアだ。

 ステラとしてはそれくらいやってもいいと思うのだが。

 アリアは少し優しすぎると思う。


 というよりツェルトはラシャガルと面識があったのか。

 まさか子供の頃の、ステラが罵詈雑言を受けていたあの場所にいたのだろうか。


 そんな事を考えるステラにすまなさそうなクレウスの声。


「ステラ、すまないな。僕たちの問題だったのに手伝わせてしまって」

「困った時はお互いさまでしょ? 良いわよ、これくらい。いつもより全然楽だったわ」

「アリアも大概巻き込まれる人間だが、君がどんな日常を送っているのか、考えるのが少し恐ろしいよ」


 正直で率直な言葉を聞かせると、クレウスはツェルトの方を気にして苦笑を返してくる。

 そんな空気をコモンの金切り声が切り裂く。


「ステラ!? まさかあの脳無しのステラ・ウティレシアか、貴様。貴族に生まれた癖に魔法が使えないというあのっ!? ははっ、そこの卑怯な平民とお似合いだな! 偽物どうし仲良く凶暴して俺をはめたん……」


 得心がいったようにステラの顔をみつめて喚き続けるコモンだが、その言葉は最後まで言いきる事がなかった。

 なぜなら、アリアが彼の頬を引っ叩いたからだ。

 かなりいい音がした。


「私の事はどう言ってもらっても構いません! けれど私の大切な人を侮辱するのはやめて下さい!!」


 彼女ははっきりと怒りの表情を浮かべて、コモンを睨みつけていた。


 その場にいた誰もが……叩かれた当人でさえも、その光景に言葉をなくしている。

 人に手を上げた事なんてなさそうな優しい少女……普段の彼女を知っている者からすればそれは衝撃的な出来事だった。





 教師に事情を説明して、コモンを引き渡した後、ステラ達はもちろんいつも通り勉強を受けた。


 放課中、ステラはアリアがまさかの闇落ちルートに移行しないためにもフォローの言葉をかかさない。


「あんな奴の為に怒るなんて、時間の無駄よ」

「そうかもしれませんけど、我慢できません。ステラ様にあんなひどい事を言うなんて……」


 あの時ほどではないけれど、精一杯怒った表情をして気持ちを顕わにする彼女。

 これは、怒りが覚めるのはもう少し時間がかかりそうだ。


「だいたい大切な人だなんて大げさよ、私貴方に何かしたかしら」

「ステラ様は覚えてらっしゃいますか? お祭りの日に私はステラ様に勇気の出し方についてお聞きしましたよね」

「え、ええ。そんな事話したわね、確か」


 細部はうろ覚えだが、だいたいの話は覚えている。


「あの時ステラ様が行ってくださった言葉があるから私は今、ここにいられるんです。ステラ様にとっては大した事ではないのかもしれませんけれど、私にとっては本当にとてもとても大切な事だったんです」

「……」


 自分の想像をはるかに超えて、アリアにとっての重要な思い出にされていることにステラは言葉に詰まった。

 皆、色々言ってくれるけど、自分にそんな風に言われるような価値があるとは、本人である私が思えないのに……。


「だからステラ様の為なら、何度だって怒ちゃいますよ!」


 ステラの手を握って真剣な表情でそんな宣言をするアリア。


「う、嬉しいけどできれば控えめにしてね。色々大変な事になりそうだから」


 口を閉じてる場合じゃなかったと、ステラは懸命にフォローを再開した。


 本当に控えめにお願いするわ。

 主に闇に落ちたりしない為に。



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