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第31話 王都へ



 三年生になって少し経った頃、ツヴァンが仕出かしたもう一つのうっかりが原因となってステラは王都へと向かう事になった。


 ステラは交換学生というものに推薦されたのだ。


 準騎士の証明と同じくで、ツヴァンが勝手にやっていたらしい。

 まったくあの先生は何をやっているのか。

 他にも色々ステラが知らない間にやってそうで少し怖い。


 ともかくその交換学生というものは、自校の学生を他の学校へ学びに行かせるのと引き換えに、他校の優れた成績の学生を特別に招待するというものだ。


 色々難しい理由やら何やらがあったが、ステラは覚えるられる気がしなかったので説明された翌日には、すっかり忘れてしまった。


 今は、それより他に気にするべき事がある。

 推薦されたのは二人だ。

 そう、二人。


 ステラと、他のもう一人は忘れてしまった幼なじみであるツェルトなのだ。

 気まずい。


 だが、王都には前々から行く予定があったという事もあり、個人的にものすごく断りたくとも断るわけにもいかなくなった。

 学校の学生として行くのであれば個人で行くよりも、はるかに融通が効くからだ。

 もし個人で行く場合は、宿取りや旅の付き添いなど色々決めなければならないし、手間もかかる。

 それならいっそ、学校の制度に乗っかっていった方が話が早いという事だ、悲しい事だが。


 王都の学校なのでもちろん行先は、必然的にヒロインのいる対魔騎士学校になる。だから行きたくない……なんて事情は、人には説明できないし。


 そんなわけで悪役とヒロインとの出会いが果たされようとしているだが、実はその彼女……アリアとは幼い頃に出会っているのだ。


 近くの村で行われた祭りにて(ゲームでは攻略対象と呼ばれる存在でもある)彼女の幼なじみのクレウスと共に、ばったり出くわした思い出だ。

 まさかあんなに早く出会うとは思っていなかったので、あの時は本当にびっくりしたものだ。


 ステラとしては彼女の事を考えたとしても思い起こされる感情は負の感情ではなく、好意的なものだ。イジメてしまうような憎さもないし、嫉妬の感情も持ち合わせていない。

 だがやはり不安はあった。自分はあのステラとは違う、そう思っても割り切れない思いもあるのだ。






 王都 退魔騎士学校


 そんな色々な思いを抱えたまま、ステラはその日を向かえることになる。

 学校の校舎内。

 一つの教室にて、ステラはその人物と再会した。

 落ち着いて臨もう、そう思って彼女たちの前に立つのだが、


「ステラ様、久しぶりです!」

「ひ、久しぶりねアリア」


 初っ端から突進するような勢いでヒロインに来られて面食らった。


 桃色の髪に赤い瞳、優しげな面立ちの少女。

 前世でやった乙女ゲーム『勇者に恋する乙女』。その正真正銘の主人公、アリア・クーエルエルンだ。

 ステラ達は彼女と同じクラスになったのだ。

 嬉しさ半分、不安半分、何とも言えない心境である。


「ツェルトさんも、お久しぶりです!」

「お、おう、そうだな」


 ツェルトにも挨拶する彼女を見てステラは思う。


「……そう。あのお祭りの場には、貴方もいたのね」

「……ああ、まあな」


 その事実から、ステラはあの場に彼もいたのだと推測する。

 今のステラではその場で彼が何を言い、どんな事をしたのか思い返すこともできないし、懐かしさを感じる事も出来ない。


「アリアには後で話すわ。……ツェルト、良いわよね」

「ああ、別に良いよ。クレウスには俺から話しとく」

「そう、ありがとう」


 そして、アリアと同じように二人の関係に疑問に思うであろうもう一人への説明をお願いする。

 ステラは視線を戻す。

 不思議そうな表情をするアリアにどう説明すべきか。


 言わない方がいいかもと思いはしたたが、何と言ってもヒロインだ。

 人徳のある彼女に異変が起きれば、周囲への影響力は半端がない。後々、真実がばれて面倒な事態になると困るので、昼休みにでも時間を作って打ち明ける事にした。






 王都 退魔騎士学校 女子寮

 その日の夜、アリアに誘われて、ステラは部屋へお邪魔した。

 今日はじっくり互いの話をするために彼女の部屋に泊まることになったのだ。

 ステラも寮住まいになったのだが、まだ使える状態でないのも理由にある。


 内装は彼女らしい可愛さにあふれたものだった。

 桃色の小物が多くて、ひらひらふわふわしたものがたくさんある。


 さすが主人公、とそんな風に妙な感心をしながら色々とこれまでにあった事を話すと、予想通りアリアが悲しそうな顔になった。


「酷すぎです。あんまりです」

「アリア、まだ言ってるの?」


 お昼にもステラの事情はざっと話したのだが、彼女は今もステラの身に起こった事を気にかけてくれているらしかった。


「だって、あまりにもひどいじゃありませんか」

「怒ってくれるのは嬉しいけど、あんまり腹を立てちゃダメよ。仕方のない事なんだから」


 思い出話をしていても、何か別の事を話していても、気が付けばアリアはそればかり考えているようだ。

 他人の事でそこまで怒る事ができるなんて、彼女は本当に優しい人間だ。


「ステラ様、仕方なくなんかないです。私そういうの好きじゃないです」


 と、思った矢先の一言がこれだ。彼女がこうやってはっきりと他人に嫌悪感を示すのは珍しいことだった。ゲームの中でもあまり見られない。


「人の心を弄ぶような事は、絶対に許されない事ですよ」


 基本誰にでも優しく、困っている人を見たら手を差し伸べずにはいられない少女なのだが、彼女がこうまで怒る原因は彼女の生い立ちにもあるのかもしれない。


「私の家族もそんな人達ばかりでした……」


 彼女は魔物によって故郷を滅ぼされているのだが、その時に争いあう人々の醜い姿を見ているのだ。

 それに加えて、領民を虐げたり己の保身の為に平気で身内を切り捨てるといった残酷な事をする、呪われた家系の人間の一人でもあるのだ。(ステラ自身はそんな風にまったく思ってないのだが)


 いくらアリアでも、そういう話に腹を立てないほうがおかしいのかもしれない。


 アリアは、誰よりも人の負の心に敏感で、負に支配された人間を毛嫌いしている。

 そんな設定を元にゲームでは、(かなり奇跡的な選択肢を積み重ねなければならないのだが)レイダスルートの中でバッドエンドが作られており、ヒロインが闇落ちするというシナリオが存在しているのだが。


 ……大丈夫よね?

 

 見ている内にだんだんと不安になってきたステラは、アリアへとフォローの言葉をかける。

 ステラが悪役にならなくても、アリアが闇に染まってしまったら今までの積み重ねの意味がなくなる。


 何より知人として、彼女にそんな風にはなってほしくないのもあった。

 たまに文通するくらいの交流はあるし、相手は自分のことを良く思ってくれているみたいだ。自分も彼女の事が嫌いではないわけだし。


「あまり私の事は気にしないで、心配させてると悪い事してるような気分になってくるもの」

「あ、ごめんなさい。そうですよね」


 もう考えるなと言っておくのだが。


「ステラ様に心配されないように、ステラ様の力にならなきゃ」


 なんか変な方向に拗れてるようでものすごく心配になった。



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