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第16話 徘徊するクッキーさん



 退魔騎士学校 校舎内


 ということでステラとツェルトは夜を待ち、学校に忍び込むことにした。

 ……のだが。


「やだー、さっきお化け見ちゃったこわーい」「大丈夫、俺の傍にいれば安心だよ」「次はあっち行こうよ、ねえ」「ちゃんと聞いてるって」


 抜き足、差し足、忍び足……なんてことをする必要がないくらいに、校内のあちこちで生徒がウロウロしていた。


「何かいるわね」

「ああ、めっちゃいるよな」

「どういう事かしら」

「どういう事なんだろうな」


 校内のそこかしこで見かける学校の生徒達。皆、楽しげな様子で校内を歩き回り、肝試しをしたりして盛り上がっている。

 夜間訓練があるとも聞いていないしどういう事だろう、と首をかしげていると担任教師ツヴァンが通りかかった。


「どういう事って、そういう事なんだろ。ようするに息抜きだ息抜き。勉強ばっかで授業中に突然ブチキレて暴れられても対処に困るだろ。適当にガス抜きさせてんだよ」


 話によると、教師一同公認の息抜きイベントらしい。

 まあ、教師や見張りの目を気にしなくて済むのは助かるが。


「お前らはイチャつきにきたんじゃないのか」

「イチャつきにって……私に彼氏なんていません」


 その言葉を聞いた担任教師は、哀れな人間を見るような視線をステラの隣へと送った。


「お前も大変だな」

「そこも良い所……っ」


 ツェルトは何故か、涙をこらえるような表情で拳を握りしめている。


「まあ何にせよ、適当に切り上げてちゃんと寝ろよ」


 欠伸をかみ殺す教師に見送られ、ステラ達は捜索へと戻る。

 他の生徒達にステラ達に言ったようなことを説明して、校内を巡回しているらしい。

 離れた所にいる二人組らしい男女に話しかけている。

 日ごろ怠けた態度をとってはいるものの、彼は意外にも面倒見のいい教師だ。


 とりあえず夜の校舎を歩いていく。

 といってもところどころ人が歩いているせいで、心霊的な雰囲気はまるで感じられないが。

 良い事ではあるがこうも騒がしいと、肝心のターゲットの行動が読めなくなりそうだ。


「これじゃあクッキーさんは見つけられないかもしれないわね」


 人目を忍んで夜中にこそこそしているのなら、もしかしたら今日は来ないかもしれない。

 それでもせっかく来たのだからと、一応校舎を見回りしていく。

 その時間の中、ツェルトがこちらに尋ねてくる。


「ステラは何でその……クッキー、さん? に会いたいんだ?」


 クッキーさんの正体が知りたいから、素直に言えばそうだが……、それを言うとなぜ知りたいのかという話になりそうなので、もう一つの理由の方を述べる。


「クッキーさんの焼くクッキーはとっても美味しいらしいの。その体からはすごく美味しそうな匂いがしてその匂いを嗅ぐだけでも天国へ行けるらしいわ」

「クッキーは俺も好きだけどな。それ本当か? 夜の学校を徘徊する等身大クッキーの作ったクッキーなんて、俺だったら怪しすぎて食えないんだけどな」


 ツェルトのくせにまともな反論をしてきた。

 おかしなツェルトだが、今日のツェルトは普通だ。


「ツェルトも時々食べるでしょ? アンヌのクッキーってすごく美味しいわよね。そんなクッキーよりも美味しいかもしれないクッキーがあるなら、食べてみたいと思うのが当然よ」

「そうかなぁ」


 そうなのだ。そういう事にする。

 クッキーも気になるから、嘘じゃない。


 それからは、どうしてアンヌのクッキーはあんなにも美味しくなるのか、などという話をしながら各教室を確かめ、カップルのラブラブタイムを意図せず妨害してしまったり、誰もいなくて落胆したりしながら調べていった。


 そうして二人で校舎を歩いていると、端の方まで移動してきたらしい。

 人の気配がだんだんとなくなってきた。


「なあ、ステラ。何か足音が聞こえないか?」

「足音? そんなもの遠くからたくさん聞こえるけど」

「いや、他の生徒達の足音じゃなくってな。こう、すぐ背後にぴたりと寄り添うように何か聞こえないかって」

「……な、何言ってるのよツェルト。後ろに誰かいるわけないじゃない」


 突然何を言い出すのやらと思うが、ステラは背後が気になった。

 まさか、まさかだ。


 幽霊……なんてことはないわよね。


「ひょっとしてお化けだったりしてな」

「そ、そんなわけないじゃない。驚かそうって言ってもそうはいかないわよ」


 ツェルトが怖がらせようと嘘を言ってるに違いない。

 そう思いステラは努めて背後を気にしないように、先を進んでいくのだが……。


 ひたひたひた……。


 どうしようっ! 後ろからすごく足音が聞こえる!!


「ねぇ、お願いがあるんだけどツェルト。私の後ろ見てくれない?」

「ん、良いけどどうしたんだ」

「何でもないのよ。本当に何でも。……でもね、人ってどうしても気になることとかあるじゃない。きっとそういうアレよ。お化けを気にしてるわけじゃないけど、背後の空間が気になるというか」

「俺が言い出した事だけど、何かステラがめっちゃ気にしてる。まあ、それくらいいくらでも見るし、いいけどな」


 ツェルトはそしてステラの背後に視線をやって奇妙な顔をする。

 何か声を上げようとして、その顔のまま停止。


「えっ、ねぇ、ツェルト。何その反応。何かいるの? 教えてよ。ちょっとそういう反応一番困るのよ、ねえって……」


 背後に人の気配。

 直後、耳元に風を感じた。


「ふぅー……」

「っ、きゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――っ!」


 ステラはその場から飛びのいてツェルトの背後へと瞬間移動した。


「ツェルトぉ……」


 彼の服を握りしめて、背中に顔を押し付ける。

 もう現実、見たくない。確かめたくない。


「めちゃくちゃ震えが背中越しに伝わってくる! 俺としては抱き着いてくるぐらいしてほしかったけど。まあ、すっごい久々にレアステラ発見。でもほら、大丈夫だから。幽霊なんていないから」

「ほ、ほんと……?」

「本当本当、超いないから」

「嘘、ツェルトはそう言って私を騙そうとしてるんでしょ。自分がそういう体質だからって、私になすりつけようとしてない?」

「違うから。ってか、そういう体質ってどういうやつ!? その話どこから出てきたんだよ。混乱し過ぎだって。そこにいるのは幽霊なんかじゃなくてちゃんと人間だぜ?」


 ツェルトが背後に移動しているステラへと首を回そうとして、視線が届かないことにため息をついた。


「それ、ほんと?」

「本当本当」

「ほんとのほんと?」

「本当の本当の本当だって」

「嘘、ツェルトはそう言って……」

「ステラ、話がなんか同じとこ回ってる!」


 まあ、ずっとこうしていてもしょうがないだろう。

 ステラは背中に押し当てていた顔を離す。

 そして、顔を横にずらして、自分が元いた場所を確認。


「えーと、なんかごめんね。すごく驚かせちゃったみたいで」


 そこにいたのはニオだった。

 今夜は、家に帰らないのでニオの部屋に泊まっていくことにしたのだが、まさかついてきたのだろうか。


「忘れ物取りにきただけなんだけど、ステラちゃん見かけたからつい……、そんなになるなんて思ってなかったんだ」

「そうだったの……」


 彼女は明日提出の宿題の範囲が記された教科書を忘れたので取りに来ただけだと言う。

 ニオはツェルトの方を見て、意味深な笑いをこぼしてその場を去っていく。


「夜の逢瀬もほどほどにね、まだ学生なんだからステラちゃんに手を出しちゃダメだから。あ、ちゅーまでならいいよー」

「ちょっと、ニオ!!」

 

 ステラの抗議の声に取り合わず、ニオは笑い声をこぼしながら遠ざかっていく。


「もう……」


 自分とツェルトはそんな関係ではないというのに、彼女はどうしてもステラとツェルトを恋人同士にしたいらしく、たまにこうやって話題をつついてくるのだ。

 ツェルトとは別にそんなものなどではない。単に同じ目的を持つ仲間であり、よく遊ぶ友達であり、昔からの付き合いのある幼なじみなのに。


 だから。断じて、ニオが思うような仲などではないのだ。

 ない、のだが。

 未だ服を握っているツェルトの背中をステラは見つめる。

 出会ったころに比べてずいぶん頼もしくなった背中が目の前にあった。


 ツェルトと恋人……。

 どんなものだろう。

 何か変わるのだろうか。

 ステラは想像を巡らせてみる。


 恋人って一緒にいたり、出かけたりするのよね。そして手をつないだり、キス……したりとか。

 そして仲が深まると結婚したり、子供ができたりするのだ。

 子供。……子供? 誰と誰の?

 私とツェルトが?


「ニオの事は置いといてとりあえず先へ進みましょう、ツェルト……?」


 脳裏に浮かんだ可能性を切り捨てて、ステラは先へ進もうとするが。


 そういえば、さっきからツェルトの反応がないなと思い、彼の様子を窺う。

 ついでに服を握りっぱなしだった手もそっと離す。


 彼は何やら真面目な様子で何事かを考えている。


「ステラとキス……」

「……っっ!」


 ちょっと、何考えてるのよ!

 馬鹿っ! というか何想像してるの、今すぐ消して、その想像っ!


 なんて考えたら自分もその行為を想像してしまい、諸刃の剣となった。


「――――っ!!」


 顔が熱くなる。

 慌てて体を百八十度回転させた。

 今の自分の顔は人には見せられない。


 そんなのない。そんな事になるはずない。

 だって彼は友達で仲間で、幼なじみだし。

 恋人だなんて……。

 

 そんな事を考えている中、ツェルトがこちらに近づいて腕をとった。


「ツェルト?」


 そしてそのまま教室の一室へとステラを連れ込んだ。


 まさか。そのまさかなのか。

 そんなの駄目。色々と駄目よ。

 何が駄目かって。

 ……。

 何が駄目なんだろう。

 駄目な事なんてあっただろうか。

 別に困ることなどなくもないのでは……、いやでもそれはちょっとさすがになんていうかあのえっと……。 

「ステラッ」

「ひゃぁ……っ!」


 どんな敵でも冷静さを失うことがなかったステラの頭の中はパニック状態だった。

 

「ちょっと頼むから静かにしててくれ」

「な、な……」


 気づかないうちに何か色々言葉がもれでていたらしい。

 ツェルトがこちらに身を寄せてくる。


 まともにツェルトの顔が見られない。

 なななななな何……っ。


「ツェル……んむっ」


 彼の名前を呼ぼうとしたら、口を手で封じられて酸素が供給されなくなる。


「足音がなんか軽いな、肝試しってわけじゃなさそうだけど。うわ、本当にクッキーの姿だ」


 ツェルトが何事か言ってるが、ステラの脳裏には言葉として届いてこなくて……。

 突発的な行動に対処法が見つからない思考は堂々巡りを加速させていく。


「何か準備室の方に入ってったみたいだけど、……ってステラ?」


 何かの行方を見届けたツェルトがステラの様子に気づく頃には、考えすぎて目を回すようになっていた。





「大丈夫か、ステラ」

「平気よ、問題なんてまったくないわ、ええこれっぽっちも」

「本当かなぁ」


 ちょっとニオのドッキリにびっくりしすぎただけ。そういうことにする。そういうことにした。

 行動不能状態から復活したステラはツェルトにそう説明して、クッキーさんの向かった先、その姿の消えた一階の準備室の中を調べていた。


 気にしないったら気にしない。

 先ほどのあれはクッキーさん捜索イベントの何気ない日常の一コマなのだ。そうなのだ。


 平静を装いながら部屋を見ていくステラはその中で怪しいものに気づく。

 並んでいる棚の一部だ。

 近づいて観察してみると、床に動かしたような跡がある。


「これって……」

「隠し通路だよな、たぶん」


 顔を見合わせて、ステラは慌ててそらす。

 二人がかりでそれを動かすと、地下へと続く通路が出てきた。

 鼻孔をくすぐる甘い匂いが鼻をつく。


「間違いない、クッキーさんはこの先にいるわ」

「まあ、そりゃあ、ここしか行くとこないしな」

「そうと分かったらさっそく行くわよ!」

「ちょ、ステラもう少し警戒……、早いって」


 足早に階段を降りるステラ。


 階段を下りた先には、扉があった。

 間髪入れず扉を開ける。


「お邪魔するわ」

「ステラ、お願いだからもっと警戒してくれよ……。勉強の詰め込み過ぎがストレスになったかな……。あれだよな、何か良くないのがストレスっていうんだよな」


 違うわよ。ニオとかまぎらわしい貴方のせいよ。


 地下に広がるだいたい教室一個分の広さの空間に目を通すと、その中央の調理台に見慣れた顔があった。

 その人物は驚いた顔でこちらを見つめる。


「貴方達、どうしてここに……」


 クッキーさんがいるはずのその場所には、カルネが立っていた。





 近々増やす授業項目の為、学校は業者に頼んで地下を改造し、調理室を作ってもらっていたようだ。

 そこでカルネは、それらの作業を生徒の目線からアドバイスしていたらしい。

 彼女の助力もあり最近ようやく工事が終わった家庭科室だが、実際使ってみなければ分からない事もある。ということで彼女が夜な夜な、こうして調理台に立つ事になったというわけだ。


 とりあえず疑問を一個ずつ潰していこう。


「いろいろ言いたいことはあるんだけど、秘密基地みたいになってるのはどうして?」

「あ、何か格好良かったよな。棚動かす仕掛けとかカルネが考えたのか?」


 問えば、カルネは普通に教えてくれる。


「それは、他に増設する場所がなかったためです、隠していたのは興味本位の生徒に荒らされたくなかったので」


 なら、他の事も。


「じゃあ、夜に出入りしていたのは?」

「というかなんでクッキーの仮装なんかしてたんだ?」

「昼間だと人に見られるかもしれないいと思いまして、落ち着かなかったのです。今日は夜でも人がいて悩みましたが」


 というわけだったらしい。

 なるほど。


「あれ、俺の質問答えられてなくね?」

「それで貴方はクッキーを作ってたのね?」


 おおよその疑問は解けたので、ステラは納得する。


「ええ、はい。その……、好きなので」


 しかし返されたカルネのその言葉には少し驚く、もっとそのチョイスが調理器具を良く確かめられるとかいう理由があるのかと思ったが。

 そもそも彼女の口からはっきり自分の好みを聞く事などなかったはずだ。


 どうにも彼女は、ステラの屋敷に遊びに来るようになった影響で、アンヌが焼くクッキーを気に入ってしまったらしい。

 それで、自分でも作れないかと色々試すようになったというわけだ。


「疲れた脳に甘い物を与える事の何と至福なことか……、これも私の知らなかった新たな世界なのですね」


 話すカルネは幸せそうだ。

 アンヌのクッキーとの出会いはそれだけ彼女にとって衝撃的だったらしい。





 ということで、ちょうど時期を窺うかのように焼き上がったカルネ手製のクッキーをいただくことになった。紅茶と一緒に出されたそれは、とても美味しそうな匂いを漂わせている。


 やはりカルネはクッキーさんで、彼女は本来なら王都でイベントを起こすはずの人物だったのだ。

 それがステラが関わったせいで、こんな辺境の学校に来ることに。

 彼女は調べ物をするために学校に来たと言っていたが、本来だったら一体どんな理由で王都の学校に粥事になったのだろうか。疑問だ。


「一年前は大変でしたね」


 紅茶片手にクッキーをつまみながら語るのは昔の話だ。


「あの時はまさか貴方がこの学校に来るとは考えていませんでしたが、いつ決められたのですが」

「あれからすぐ後よ、ツェルトに話したらすごい勢いでもっと早く教えてくれって言われたけど、決意したのはその時だったし、しょうがなかったのよ」


 こうして話してみると、もしあの時私が剣を握らないでくれっていうツェルトの言葉を受け入れていたら、ここに来るような事にはなっていなかったんじゃないだろうかと思う(可能性は限りなく低いが)。

 その場合、迷いの森の事はどうなっただろう。案外ステラ達がいなくとも何とかなったかもしれないが、そうじゃなかったらと考えると恐ろしい。


「そういえばカルネにはまだ伝えてなかったわね、精霊の剣の名前。星雫ほししずくって名前にしたの」

「綺麗な名前ですね、凛と煌めき輝いている貴方にはふさわしい名前です」

「そう? そんなに深く考えて付けたわけじゃないけど」


 魔物にとどめをさしたあの時、剣から発せられた光を見て星のきらめきを連想してつけたものだし。


「識別のルーペの方はどうなってるの?」

「修理中です、まあ完全に壊れなかっただけでも幸いでしょう」


 ツェルトが投げて壊した遺物は現在王宮で修理中だ。

 修理修繕を得意とする腕の良い考古学者にまかせているらしい。


 そんな風に他愛ない話をしながら食べるクッキーはあっという間になくなってしまう。

 つい食べてしまったが、ここのところ夜に甘いものを食べ過ぎてるかもしれない。

 運動した方がいいかしら……って、毎日してるわよね。


 山と積まれたクッキーの皿が空になったのを見て、ステラ達は後片付けに入ろうとする。


 そう言えばツェルトが会話に入ってこなかったが、何をやってるのか。

 部屋の中で視線を巡らせると、ツェルトは調理台で第二のクッキーを焼き上げているところだった。


 本当に貴方は何をやっているの?


「ん、いやクッキー焼ければステラの俺に対する好感度が上がるかなって。でも難しいなこれ、アンヌとかよく作れるな」


 焼き上がったクッキーを一つまんで、彼は顔をしかめる。あまり出来は良くないらしい。


「勝手に使っちゃ駄目じゃない」

「許可は求めたぜ、何か話してて上の空だったけど」

「ツェルト……相手が聞いてなきゃ意味ないのよ、許可って」


 まったく、本当に目を離すとおかしな事ばかりしてるんだから。


 その後は、三人で手早く道具類を片付けて地下調理室を後にした。

 仕掛け棚を戻してカルネはこちらへ念を押すように言葉をかける。


「ステラ・ウティレシア。くれぐれも時期が来るまではこの事は内密にお願いします」

「ええ、わかってるわ」

「助かります」


 尋ねられなかったツェルトが不服そうな顔で口を開く。


「俺は? 俺、喋っちゃうかも知らないぜ」

「貴方は彼女に軽蔑されるような事を進んでしたりはしないでしょう」

「良い事言われてる気がするけど、何かしっくりこない! それならステラにも言わないよな」


 そんなやり取りの後に、とりあえず良い機会だからステラからも言っておくことがある。


「カルネ、友達だって思ってくれるなら、せめてフルネームじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」

「フルネーム。ああ、「ステラ・ウティレシア」の事ですか。私なりの、最も呼びやすい呼び方ですが、失礼でしたか」

「別に距離を置いているわけじゃないのね」

「ええ、癖のようなものなので」


 てっきり彼女の他人行儀がなせる技だと思っていたようだが、どうやら違っていたらしい話してみなければ分からないことはあるものだ。

 それはツェルトも同じだろう。どんなに近くにいても、人間のその内心までは完全に見通すことができない。






 すっかり人気がなくなった学校を出て、ステラとツェルトは互いの友達の部屋に、カルネは自室へと別れる瞬間になって、ステラは一番の謎がまだ解かれていないことに気が付いた。


「ところで、どうしてクッキーの仮装なんてしていたの?」


 彼女の事だ、どんなおかしな事でも何か理由があるに違いない。

 そう思ってステラは答えを期待したのだが。


「それは……」

「それは……?」

「それは正体を隠すためといいいますか……、一応学校の顔みたいな立場ですので夜の学校をそのまま歩くのには抵抗が」


 あるにはあったが真面目すぎるがゆえ、一周回っておかしくなっていた。


「カルネ、残念だけどものすごく目立って貼り紙にされてたわよ」

「えっ」



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