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第8話 最初の腕試し



 退魔騎士学校 運動場


 入学してからの一番最初の授業の時間がやってきた。


 ステラは運動場に立っている。

 周囲には他の新入生達。

 目の前には数人の教師達。


 現在は、退魔騎士学校の最初の授業真っ最中だった。





 登校して始業の時間になった後、新入生の生徒達はまず教室で互いの自己紹介をした。


 目立つのは生徒達の身分の差。

 大体がお金を貯めて学校に入った平民で、こんな所まで来て学びに来るステラのような変りものの貴族はやはり少数に分類されるようだった。


 特徴的な点は他にも。

 剣を握る学校という事あって、男女比の内訳は、やはり男性が多く女性は少ない。割合で言えば八対二ぐらいだろうか。


 互いの紹介が終わった後は、大まかな規則などを教師から教えられ、他の教室の生徒ともども運動所に連れ出された。


 なんでも、自分の実力をなるべく客観的に把握する為とかで、最初の授業は合同で行うという話だ。


 学年のまとめ役であるらしい他の教室の担任教師が前に出て、新入生達へ話をする。


 その内容は騎士としての心構えの話だ。


 たとえ学生の身であろうとも常に騎士であることを忘れてはならない。

 騎士とは常に弱き民を助け、魔物という害悪を切り裂く剣でなければならない。

 剣を持つならば私欲の為に振るうことはあってはいけない。

 刃の輝きを曇らせぬために、己に恥じぬこれからの三年の期間を過ごし、常に己の技量に磨きをかけ、精進しなければならない。


 聞いた内容はだいたいこんな感じだ。


 その後は、入れ替わりにステラの教室の担任が前に立ち、面倒くさそうでやる気なさそうな様子で話を付け足した。


「あー、とりあえ面倒でも聞いとけ」


 ステラの担任は……ツヴァンは、元王宮の騎士だったという男だ。

 体格は大きく立派で、見ただけでもよく鍛えられている事が分かった。

 無精ひげが生えていて、目つきが悪い。そのため、見ようによっては盗賊の類に見えなくもない。

 昨日乱入してきた先輩と並べれば、良いコンビに見えそうだ。


「お前らに先に言っとくけどな。持ってれば便利な経歴とか、身分証替わりに取るとかいってアホやるんじゃねぇぞ。別にてめぇらの動機を丸ごと否定するわけじゃねぇけどな。たとえ目指す道が違えども、同じ道を歩くからには、偽物でも一応でもしっかり騎士の皮被っとけよ。いいな」


 中身は偽物でもどうでも、外見は取り繕え、という話だ。


 明らかに先の話の雰囲気とは相反する内容。

 彼は、前後の空気とかを読んで自分を変えるようなタイプの人間ではないらしい。

 他の教師を見る限りは一定の信頼を得ている人物らしい。彼の言動に対する反対の意思は感じられなかった。


 ツヴァンは、これで終わりだ、と話を締めくくる。


 それらの話があった後、授業は始まった。


 ステラ達は学校から用意された剣をそれぞれ持って運動場に散らばる。


「とにかく俺の主義は実戦あるのみだ。ビシバシいくから覚悟しとけよ。泣き言は部屋か俺がいないところでやってくれ、めんど……じゃなくて他の人間の迷惑だからな」


 そして待機する生徒たちにツヴァンが、非常に面倒くさそうに話をしていく。

 途中で何やら失言しそうになった様だが、こらえる程度の良識はあるらしかった。


 ステラとしてはビシバシやてくれるのは非常に大歓迎だ。ただ身に纏う粗野な雰囲気から、どうしてこんな人が教師やってるのだろうと不思議にはなるが。


「ってーわけで、まずはお前らの実力が知りたい。敵を用意するから適当に戦かってみせろ」


 ツヴァンが言った後、目の前の地面が隆起して、土でできた二頭身の人形がいくつも出来上がる。


 ステラはそれらに切りかかりながら、考える。


 土を操作する魔法が使えるらしい。という事はこの人も貴族なのだろう。


 この世界。貴族は魔法が使えるのだ。

 その仕組みは……、(専門家でないステラには詳しく説明することができないし、そもそも理解すらちゃんとできているかどうか怪しいので詳しい事は言えないのだが)貴族は遥か昔にこの世界を救った勇者の末裔であるため、その事実が何かしらの影響を及ぼしているとの事だ。


 確かな証拠はないが大昔に存在した勇者が魔法を使えたという記録が残っているので、その関係だろう。


 話はそれるが。

 魔法が使えるという事実は、金品では測れない貴重な価値を示している。


 当然だろう。魔法が使えるなら、医療の技術を持たずして怪我を治し、道具を用意せずとも炎や水を出現させる事ができるのだから。


 ゆえに貴族の血脈は徹底的に管理され、薄まる事を良しとされていない。

 結果、必然的に平民は魔法を使えないということになるので、魔法を使える事は=貴族だという証明となる。


 ……のだが、


 ステラは魔法が使えなかった。


 幼い頃からずっと、魔法が使える様子のないステラは、一部の者達からは父と母と血のつながった子供ではないのではないか、などと噂をされていたりする。

 だからこういう戦闘になっても頼れるのは己の剣の腕だけなのだ。


「うりゃっ。よし、順調順調っ」


 聞きなれた声が聞こえて来て、意識を引き戻す。

 視線を向ければツェルトが剣を振るって、襲いかかってくる土人形をリズムよく処理して行く所だった。


「こんなの、剣一本で十分だな。わざわざ、他の力に頼る必要もないし」


 ツェルトはまだまだ余裕そうだ。


 そうだ。貴族ではないが平民でも魔法とは少々異なるが、異能の力を行使できる者はいるのだ。

 身近な所にいる者で言えば、それはツェルトだ。


 精霊使いである彼には、使える場面が限られるといえども、離れた場所に瞬間的に転移するという凄い力がある。


「あんまり気を抜いていると、足元すくわれても知らないわよ」

「大丈夫大丈夫、すくわれそうになったら逆に足でひっかけるから」


 近くで戦うツェルトに注意するステラだが、彼は自分に寄って来た土人形を足で引っかけている。

 真面目にやって。


「う、ステラに怒られそうな気配。怒られたら、今日勉強で分からない事があった時困るしな。真面目にやるか」


 真面目になってくれるのは良い事なのだが、分からない事が出てくるの前提らしい。

 ステラは放課後の予定に、ツェルトの面倒と意識の隅にメモしておいた。


 土人形を生み出した本人であるツヴァンは、離れた所であくびを噛み殺しながら立っている。

 面倒くさそうに観察しながらも時折言葉をかけるのは忘れないらしく、生徒たちの行動を促している。


「ほら、時間がもったいないだろ。さっさと倒せ」


 急かすように声をかけられたものの、生徒達は敵を見つめるのみで棒立ちになったままだ。


「あー、今年もこりゃ外れか……」


 早くも失望し始める担任教師。

 彼が口を開こうとするまえに、ステラは剣を構えながら他の生徒達へ向けて口を開く。


「やああっ! こんなものなんでもないわ、血に飢えた猛獣や明日のお金に困っているような盗賊じゃない、余裕で何とかなるわよ」


 そう言いながら右へ左へ動いて、一秒もかからず土人形二体を真っ二つにしていく。

 今まで一体どんな相手と戦ってきたのかと、ちょっと生徒達が引いていたがステラには分からない事だった。


「ほぉ、中々いい筋だ」


 ツヴァンが賞賛の声を上げると、それを聞いた他の生徒達が負けじと武器を手に戦い始めた。

 己の武器を頼りにして動き回るものや、安全距離を確保しながら火や水を操って攻撃を加える者、戦い方は様々だ。


「やればできんじゃねーか」


 ツヴァンが満足そうに呟く。

 そして教師はそのまま、現場を離れて遠くで生徒達を見守る態勢になった。



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