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いにしえを生きた者

ツヴァンとユースの会話で語られる設定話的な、ほぼ世界の歴史的な話です。

主人公出来てきません。




 周囲の木々の緑が闇の色にとけていく。

 世界の色が暗闇に包まれて、輪郭がぼやけて判別できなくなるこの光景が俺はあまり好きではなかった。 


 野宿の用意を済ませた後、離れた所にいたユースの所に向かった。

 日はもう落ちかけていて、周囲は暗くなっていたがユースの剣の腕は知っている。

 仮に盗賊やら野生の獣やらに襲われたとしても、心配はいらなかった。


「おい。おいってば、ユース!」

「何だい?」

「話があるって言うからから時間作ってやったのに、茶ぁ出すばっかりじゃねか。レットのじーさんみたいに耄碌したか?」

「物事には順序というものがあるんだよ。お子様な君には分からないだろうけどね」

「ああ? 俺はお子様じゃねぇ! もう十五過ぎてる、故郷ではとっくに成人の儀も済ませてる」


 色々あって故郷から離れた俺は、適当にふらふらと各地をさ迷った後、今会話している相手に拾われて今は共に旅をしていた。

 十五の年齢はとっくに大人の仲間として数えられても良いはずなのだが、ユース達の年齢が年上の影響か、普段から子供扱いされて仕方がなかった


 ユースは適当な木を切って即席の椅子にした後、隣に同じような物を作ってそこに座る様に言ってくる。


「呼吸するみたいに無茶な事すんなよ」

「君だってすぐにそれくらいできるようになるさ」

「テメェは俺に何求めてやがんだ」

「さてね」


 言い合いしても埒があきそうにない。

 そう思って俺は仕方なくユースの横に、腰を落ち着けた。


「今日は君の過去の事を聞きたくてね、この間興味深い事を話してたから知りたくなったんだよ」

「……面白い所なんて何もねぇよ。笑い転げて腹ぁ痛くなるような話が欲しいんなら、他ぁ当たれ」

「そんなの聞いてみなくちゃ分かんないじゃないか。ほら、話してごらんよ。それとも袋叩きにされたうえ木に吊るされて夜を明かした後で話すのがお好みだって言うなら、そうするけど」

「無理矢理にでも聞き出す気満々じゃねぇか、悪魔かよ」


 笑い声を噛みしめるユースが何を面白がってるのか理解できないが、言葉通りにされてはかなわないので、仕方なく話を始める事にした。


「ったく、この悪党め……」






 俺のいた故郷は、小さな町だった。

 小一時間もあれば町を大体巡る事ができるような、大して広くもない町だ。


 町には、腕の良い鍛冶職人や道具職人が多く住んでいた。

 彼等には、不思議な異能者の血が混ざっている者が多くいた為か、特別な力を持つ品を作る事ができたのだ。


 だからそこは、小さい町ながらにも生活に困らない程度には潤っていて、長い間その特色で生き残ってきた(そして歴史もそれなりにあるので、町には伝統やらしきたりやら決まり事もたくさんあった)。


 俺は、そんな町で生まれ育った人間だ。


 今では違うが当時の俺は、義に厚く、正しい行いをする善人として町の中ではそれなりに有名だった。

 顔を知らない者はいないし、名前を知らない者もいない。

 いつも多くの人間が周囲にいて、様々な者達に話しかけられるような……そんな人間だった。


 だが俺が十歳になった時、しきたりで成人の儀式を行おうとした時に、事件が起こった。


 殺戮の嵐を振りまきながら町にやってきた災害のような化け物。いつも潤う町の発展を邪魔してくるその化物を、討伐できなかった。


 俺は町から追放された。

 引き換えに助けたのは、その時に町を襲って来た化け物。名前はアイン。

 たくさんの穢れを背負った小さな少女だった。


 アインは見た目はおかしいが、中身はただの小さな少女で、望んで化け物になったわけではないようだった。






 それから俺は悪逆非道の徒として各地で追われる事になった。

 アインと共に、人から逃げ回る日々が何日も続いた。


 そんな生活の最中ずっと、俺はアインの穢れを引き受ける事になり、約一年の逃亡を経て俺自身の体はすっかり化け物のようになり果ててしまった。


 破壊衝動が絶えず心の中で蠢き、理性を侵食していって、俺は程なくして人間の用意した罠にかかってしまう。

 俺はアインの代わりに、以前から町々や村々を壊しまわっていた化け物だという事にされ、長い間一つのところに閉じ込められていた。


 数えるのも嫌なくらい長い年月を一人で過ごした。

 正確には覚えていないが生贄を求めて、離れていた所からおびき出した人間を殺した事もあった。


 自分が何者であるかも、忘れるほど長くの時間を俺は化け物として過ごす事になった。


 けれど、ある日俺の前に、人間の姿のアインがやってきて、その穢れを払ってくれた。

 誰も身代わりにならなくても良い方法で払った穢れは、化け物を作ることなくどこかへと消えていく。


 そうして俺は、再び人間へと戻った。

 見た目からしてだいたい十三歳くらいの体に成長していたが、俺が一人で過ごした時間はそれよりももっと長かっただろう。


 だが、永遠の牢獄から解放された俺は、新しい名前を名乗った。

 前の名前は捨て、俺はアインの次の化け物としてツヴァイと名乗った。

 そして己の性には、罪と犠牲を背負うという意味でブラッドカルマの名をつけたのだった。





 それからはアインと二人で各地を転々とする日々を送った。

 故郷の地は何かあったのかとっくの昔に無くなっていて、帰りたいと思える場所などなかったからだ。


 そんな生活の中で、アインは不思議な話を俺にしてよこした。

 それはアインが、遠い空の果てから、長い旅の末にこの世界へたどり着いたという話だ。


 カティサという親「明りを生みだすもの」によって、アイン「始まりを告げるもの」がやって来たのは、この世界が暗闇に包まれていたからしい。それでアインの使命はこの世界に、灯りを届けにきた事。


 その時の俺は、その話の意味がよく分からなくて聞き流していたが、ほどなくしてアインが何を話していたのか判明する事になった。


 数日経った頃、各地で謎の星降り現象が相次いだ。

 空から星が落ちてくるという珍しい現象で、同じような事が様々な場所で一斉に起こっていた。

 とても珍しい事だったから、人々は騒ぎ立てて原因をあれこれ話していて、よく耳に入ってきたのだ。


 だが、アインが言うにはそれは自然現象ではないというらしい。

 シエラという「明脈を喰らうもの」によって、この世界が蝕まれようとしているとの事だ。


 話を聞いた俺とアインは、苦労して探し出してそのシエラへと立ち向かったが、敵わなかった。


 俺達が生きていた世界レムは滅んで沈み、その代わりに夢の世界レムリアが入れ替わった。


 そして、その戦いで俺達人間は全員レムの世界に落ちていってしまった。






 レムリアの世界が現実の世界になって、何百年か経った頃。

 遠い空の果てから辿り着いたカティサの力によって、俺はレムの世界からレムリアの世界へと引き上げられた。

 俺は十四になっていた。

 レムリアにはレムの世界の複製人間が多く存在し、生活していた。


 だが、未だレムの世界に残り続けるアインを引き戻す為、俺は世界を入れ替える方法を探し出して旅を始めるのだが、その旅の中でリーゼロッタという、アインの複製体に出会った。


 だがそうと知らずにリーゼロッタと旅をしていた俺は、アインを取り戻そうとすればリーゼロッタが消えてしまう事に気が付いて、最終的には目的を断念する事になった。


 だが、結局リーゼロッタは偶然起きた事件に巻き込まれ、他人をかばったせいで生死の境をさまよう事になり、命を落としてしまった。


 その後俺は、シエラの生まれ変わりであるフェイト・アウロラシェード・ストレイドに出会った。


 フェイトは王族になって国を作り上げ、自分の意のままに動かせる力を多く備えていた。

 俺一人ではとても太刀打ちできなかった。


 俺は追い詰められて、カティサの力によってできた空間のねじれに飛び込んで窮地を脱した。






 それからしばらくの時間が経った。

 レムリアの世界では、今までいなかった魔物が跋扈していて、勇者なる存在が表れた。

 俺は勇者と手を組んで、王族の中に紛れ込んでいた(フェイト)フェイス・アローラを討ち果たした。


 だが、フェイスはフェイトの転生体であったが、記憶をなくしていた為、監視を付けて幽閉するだけで、命を奪う事まではしなかった。

 相手にとっては身に覚えのな濡れ衣を着せられた形だったからだ。


 だがほどなくして牢獄に入れられたフェイスは、王族たちの呪術の実験や賭けの道具にされて、性根がねじ曲がっていった。


 そんな事も知らずに王宮で過ごしていた俺は、リーゼロッタの魂を消滅させずにレムの世界から引き上げられたアインと再会した。


 フェイスに狙われるアインを守りながら、俺は何度もそいつとやりあうのだが決着はつかず。


 気が付いたら何年も経っていて、今代勇者のユースに拾われていたというわけだった。






 過去を話し終えた俺は、息を吐きながら傍にいる男へぞんざいな口調で話かけた。


「で? ちったぁ楽しめたかよ」

「……、……」


 答えがないので訝しく思いそちらに視線を向ければ、あろうことかユースは寝息を立てていた。


「こっの野郎がぁ!」

「おっと、失礼」

「何がおっと失礼だ、真面目な話を振ってきたくせに寝てんじゃねぇよ!」


 剣で突き刺してやろうかと思ってやったが、軽々交わされてしまって無性に、そして余計に腹が立った。

 なおも本気の剣技を見舞ってみるものの、すべて避けられてしまう。


「ぜぇ、はぁ……」

「でも良かった」


 肩で息をして、ぶつけようのない苛だしを抑えようとすれば、手のひらを警戒に打ったユースが楽しげに一言。

 

「あぁ? 何がだよ」

「これで私は面倒くさい後継者探しをしなくて済む」

「はぁぁっ!?」


 ぶつけられた意表を突く一言は、本気の様だった。

 俺の攻撃を止める為の嘘ではない。


 即席イスから立ち上がったユースは仲間と話を付けに行く為には、その場からさっさと去って行ってしまう。

 俺はその背中を慌てて追いかけた。


「君が次の勇者だ。むしろ勇者は君に押し付ける事にした。あー良かった良かった、王宮でせっつかれるのも面倒だったんだよ。アンヌも占いでそうかもって言ってたし、これで解決だ」

「な……っ、か、勝手に話を進めんじゃねぇよ、おいってば!」


 聞く耳持たずといったのはまさにこの事。


「この極悪ユース、悪党勇者、見た目詐欺、雰囲気詐称、待ちやがれっ!」


 ユースは一人明るそうにしながら薄暗い森の中を歩いて、夜の暗闇の中を進んでいった。



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