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第10話 それぞれが、歩いていく。 



 入って来た情報をまとめようと思う。


 大罪人フェイスの情報が入ってからの日数をステラは数えていた。


 期間はおよそ一週間。

 それだけの時間が経ってしまったが、準備は整った。


 フェイスの居場所はウティレシア領の近くアクリの町だった。

 彼はそこに確実にいる。


 そういえば、学生の時にツェルトと偽恋人になってデートみたいな事をした時、彼の姿を見かけたのだが、それがずっとひっかっかていたのだ。

 出現場所が学校でも身を潜められそうな森の中でもないのに、あんな人の多い所になぜいたのだろうか、と。ひょっとしたらアクリの町にはフェイスが生活の拠点としている場所でもあるのかもしれない、なんてことを当時は思ったりもしたのだ。


 そしてその他に得たもの。

 フェイスの目的関連で新たに判明した事は、アクリの町で建造中止になったある施設が彼のこれからの行動に関係しているという事だ。


 世界の剥離を起こすために有利だという場所が、あのアクリの町の湖らへんだという事で、フェイスはムーンラクト領の領主グレイアンを支持する勢力を動かして、呪術の研究として利用するだけではなく、裏から手をまわして湖の上に施設を作ろうとしていたらしい。

 その計画自体はすでに頓挫してしまっているのだが、警戒するに越した事はないだろうし、気に留めておく必要があるだろう。


 作戦の方は、結果から言えば、カルネの主張した通りだった。

 居場所が分かったのならこちらから先手を取る、と言う方針でまとまったのだが、メンバー選びが少し苦戦した。

 前の様に王宮を開けて何かが起きないとも限らないので、戦力を出し過ぎるわけにはいかなかったのだ。


 それでも決めなければならない事には変わりないので、大勢で集まって、数時間かけて話し合いをして何とか決定にこぎつけた。

 ……そのメンバーは。





 ウッドトラック村 元騎士宿舎付近


 陽気な午後の昼下がり。

 王宮からアクリの町へ遺物を使って直接移動……したわけではないので、ステラ達はまだ目的地にはついていない。

 いるのは、その進路上の途中の村。

 ウッドトラック村の使われなくなった元騎士宿舎だ。


 腕の良い武器の整備士がいるとかで、フェイスと戦う前に、連戦続きだった武器を数日かけて整えるか交換という事になったのだ。

 人が無事なら後は良い……という考えで行動していたわけではないが、武器も共に戦場を歩いた相棒でもある。労わってやらなければならない事をすっかり忘れていた。


 それで、ウッドトラックにある元騎士舎は、簡単に言ってしまえば名残の建物であった。


 任務の為に遠くへ向かう大抵の騎士達だが、馬車に乗りっぱなしではいざという時仕事にならないし、大きな町などで発生した事件を解決するには活動が長期に渡る事もある。

 なので、そんな事態を見越して備え、王宮に離れた各場所に騎士宿舎が立てられているのだ。


「けど……」


 ステラはそこまで考えて、元騎士舎に来る前に見た景色を思い浮かべた。

 人も建物も少なかったのだ。

 元は大きな町があったというその場所は、数年前に魔物の大規模な襲撃を受けて壊滅に等しい状態になってしまったらしい。


 それで現状は、生き残った人々で土地を離れない選択をした人達が、比較的無事だった丈夫な騎士舎の周囲に新しく村を作って(と言うよりは町から規模を縮小して)生活しているらしいのだが……。


「で、まあ。そんなだから、生活の面では不便するし、必要なもんは自分らで調達するか運んでくるかしなけりゃならんかったわけだ」

「そうなんですか、詳しいですね。……ですけど、あの……」


 ステラは己の近くに立ち、村の解説役をこなしたその人物へと視線を向けながら訪ねる。


「今さらですけど、何で先生がいるんですか」


 作戦の話が浮かんでから、王宮でたまにレイダスに追いかけられているのは見た事があるし、ステラの友人達と何かについて話していたのを見た事はあるのだが、それでもこんなところにいる理由が全く思いつかないし、想像できなかった。

 

 なぜ、ツヴァンが今回の任務のメンバーに入っているのだろう。


「いちゃ悪ぃかよ」


 そんな事はない、戦力的にはものすごく助かるはずだ。

 ただ、分からないだけだ。ここにいる理由が。

 

「レイダスだっているのに、それに決闘とか良いんですか」


 他のメンバーは、細かく考えれば部下達もいるが主力の名前を挙げる、その内訳はヨシュアや、ニオ、そして監視なしのあのレイダスなのだ。

 なせ彼にストーカ―されているツヴァンが、それも決闘から逃げ続けていたツヴァンがここに。

 そうステラが疑問に思うのは当然の事だろう。


「んなもん知らねぇよ、けどな……」


 不意に距離を詰めて来たツヴァンが油断をついて、ステラの頭を上からわし掴んだ。

 それは最近レイダスにもされた行動だ。


「この町にも、お前の周囲にも説教したい人間が多すぎんだよ」


 心底面倒そうな顔をして言うその表情は窺えない。

 頭を押さえつけられているので、顔が見られないからだ。


 ひょっとして、レイダスも自分の顔色を読まれたくなかったから手で押さえつけていたのだろうか。

 血が繋がってないはずなのに、この二人行動がそっくりだ。

 やはり追いかけたり、追い回される関係だから、観察したりしている内に癖とかが移ってしまうのだろうか。


「……後は、あれだ。墓参りだ。用があんなら村の外れにいる。呼ぶんじゃねぇよ」


 微妙に相反する事を言いながら、ステラの頭を解放してツヴァンはどこかへと歩き去っていく。


 墓。と言った。

 ツヴァンの知り合いがあるいは身近な家族が、この村に眠っているのだろうか。


 遠ざかっていく背中を見つめて、仕方なしに追及を諦める。

 聞きたい事も碌に聞けないままだが、墓参りではステラの方が引くしかない。


 見送っていると背後から、人の気配がした。


「姉様、ここにいたんですね」

「ヨシュア」


 自分とよく似た特徴を持つ弟……ヨシュアの声が騎士舎の建物の方からやってくるところだった。

 その付近からは、少しだけ何かがいる気配がする。


 それらは目に見えざる不思議な生命体の気配だ。

 兆候は前々からあったのだが、最近は特に精霊の気配を身近に感じられるようになっていた。


 大精霊に方法聞いて、精霊と契約し精霊使いになったヨシュアは、騎士ではないが二つの主な理由で今回のメンバーに推薦されていた。


 一つは、フェイスが精霊を使って悪事をなそうとしている事から、専門家を付けるという意味。

 もう一つは、ステラの状態、カルネから説明されたフェイスからの悪影響を精霊使いの力で取り除く事だ。

 だが、二つ目に関しては、ステラは首を縦に触れないでいる。


「姉様、調子はどうですか。何か異変があったらすぐに言って下さいね」

「ありがとう、私は大丈夫よ。特に変わった事なんて起きてないもの」

「なら、いいんですけど」


 心配げな表情をする弟だが、こちらは笑って答えるしかない。


 ヨシュアと精神を繋げればステラは悪影響を防げるらしいが、ステラはツェルトとの絆を失くしたくなかったのだ。

 たとえそれが自分の我がままであろう自覚していても。

 おそらく今も頑張っているだろうツェルトの一番近くに痛いと言う思いは消したりはできなかった。


「ニオさんが何かやってるみたいなので、姉様を呼びに来たんですけど……」

「ニオが? どうかしたの?」

「えっと、何か……大会、のようなものを息抜きに開催するとかで……騎士舎の中で騒いでますけど、良いのかな、と」

「ニオ、何やってるのよ」


 困惑するようなヨシュアの表情を見れば、もうすでに彼女が色々とやらかしてしまっている光景が目に浮かんできた。


 エルランドの護衛であるにもかかわらず、今回の任務のメンバーに選ばれた事を本人がどう思っているのか分からないが、こうやってたまにテンションを上げ過ぎて妙な事をやらかすから困っているのだ。

 様子を見に行った方が良いだろう。


「ごめんなさいヨシュア、案内してくれる?」

「はい」







 騎士舎内 訓練室


『よくお聞きなさい、ニオ。エルランド様の事を誤解してはいけませんわよ。思う所があって貴方を任務へ推薦したのですから。勝負の事ならご心配なく、貴方が帰ってくるまで抜け駆けをするような事は致しませんので安心してくださって結構ですわ』


「ああっ、もう。ユリシアのくせに何でそんなに物分かりが良い事言うかな。おかげでニオ、落ち込めないじゃん」


 元騎士舎の建物の中。

 少し前の過去の出来事を一瞬だけ回想していたニオは、目の前で力試ししている騎士達の光景を見て、やけくそ気味に声を張り上げる。


「第一回とーぎ大会の準決勝の勝者はー、グリンダ選手だー。やったねー、おめでとさん!」


 応じる様に主変に集まった騎士達の歓声が上がる。

 その後は、今まで通りに、中央で木剣を手に競い合っていた両者は一礼、次の組の二人がやって来て準備運動を始めていく。


 ここで現在行っているのは、息抜きと称してニオが企画した催し物、闘技大会だった。


 内容は単なる力比べで、純粋に強さを測る場なのだが、予想意外に参加者が増えてしまってちょっとした騒ぎになってしまっていた。


「うーん、こんなに人気があるなら、今度王宮の催し物に推薦してみようかな。皆、力試しの場は欲しそうだし」


 企画者として、流れに逆らうことなく司会の役目を務める事になったニオだが、その自分の目からしても騎士達はそういう場を設けて欲しがっている様にも見える。


「王宮の騎士って言えば立派でお堅いってイメージあるもんね。こういうのも加えた方が皆の息抜きにもなるし、ニオも楽しめるかも」


 職務にふさわしい態度でいなければならないと言うのは結構疲れるものだ。

 ニオも王の護衛としてふさわしい礼儀や立ち振る舞いをこなさなければならないので、いつも窮屈な思いをしている。


 ハメを外さない程度に盛り上がるのであれば、新しい事は積極的に取り入れるべきだろう。特に最近は大変な事が続いていて、皆の意識が暗くなりがちなのだから。


「ハメを外さない……は、ちょっと今回は失敗してるっぽいけど。うーん、次はステラちゃんが前に言ってた婚活みたいなのやってみようかな」

「ニオ、何やってるの。すごい人が集まってるみたいだけど」


 新しい企画についてつらつらと考え事をしていると、そこにヨシュアが呼んできただろう人物……ステラが声をかけてくる。


「あ、ステラちゃん見てよ、これびっくりだよね」

「ニオが何かやってるって聞いてきたんだけど、違うの?」


 集まった騎士達を示して言葉を返せば、ステラはそれを取り違える。

 普通だったらこんな騒ぎが起きて中心にニオの姿が合ったら、疑う所なのに。

 ちゃんと見て聞いてから判断する所がステラらしい。


「ううん、ニオがやっちゃった。予想意外に人が集まっちゃってちょっとびっくりしちゃったよ」

「やっちゃった、じゃないわよもう。そんな事勝手に企画されたら驚くじゃない。別に私の許可が必要とかそんな事を言うつもないけど、前もって相談してくれないと」

「うーん、確かにそうだよね。ごめんねステラちゃん」


 良い友人を持ったなと思いながら謝れば、ステラは許してくれる。

 あっさり許しすぎで、少し心配に思う所でもあるのだが、そこが彼女の良い所だ。


 集まった皆が迷惑そうだったらまた違った展開になっていたかもしれないが、良い気分転換になったという事実はステラも分かったのだろう。


「今度は婚活やってみようかなって思ってるんだけど、どうかな」

「ニオ、説得力って言葉知ってる? 反省の言葉が台無しよ」

「えへへ、ごめんね。でもヨシュア君の事見てたら、やりたくなっちゃって。あ、別に気があるとかそういうのじゃないよ、ニオにはもう相手がいるし」

「そこは疑ってないわよ、いつも話してくれているでしょう?」


 ステラは裏にとれるセリフの事を分かってないような顔で、首を傾げながらそう言ってくる。

 友人が色恋に鈍いらしいのはいつも通りのようだった。


「精霊と契約する時に、ヨシュア君が十匹くらいの精霊に囲まれて、「なかよくする」とか「にんげんしりたい」とか、「いっしょにがんばる」とか言われてたの思い出しちゃって。面白かったなって、だからこれ! ほら、息抜き大事だから!」

「確かにそうだけど……」


 若干腑に落ちないような様子のステラを置いて、司会待ちをしていた闘技大会を進行させる。


 準決勝が終わった次は決勝だ。

 ここまで勝ち進むだけあって、目の前に並び立つ騎士達は文句なしの強者二人だった。


 合図の声を放てば冗談みたいな速さで、木刀のやり取りが交わされる。

 見てて圧巻だ。


「……そーいえばさっき、ツヴァン先生がね、ニオ達とかクラスメイト達が戦ってる時、怖ーい顔して説教してきたよ。持ち方が甘いとか、重心がおかしいとか、立ち回りが下手だとか。後おまけで色々」


 決闘を吹っかけたとか何とかでツヴァンに逃げられたり、文句言ったりしているらしい友人に思い出した事を伝えれば、ステラは不思議そうな顔をして首を傾げる。


「先生、解説の前はそんな事してたの? 本当に何があったのかしら」

「解説? でもどんな心境の変化なんだろうね。まだ何か悩んでるっぽい気がするけど、違う事も考えてるみたいだし、王宮を離れる前にもカルネちゃんとかアリアちゃんとか、クレウス君辺りに色々聞いて回ってたみたいだし」

「そうなの……。それは変よね。でもここで見てたのよね、なら最後まで見て行けばいいのに。決闘よりもそっちの方が大事じゃない」


 ぷりぷり怒っている感じのステラの様子をそっと見る。お人よしもここまで来ると、重症だと思った。


 任務にあたって、ステラの隊に、アリアやクレウス達の隊から数名借りて混成にしたのだが、その中には同じ学校で学んだ生徒達が結構いるのだ。

 教師失格を考えているツヴァンに決闘で、自分達の成長を思い知らせると息巻いているらしいステラは、見ればどれくらい成長したのか分かるのにと考えているのだろう。

 それぞれの生徒達が歩んでいた軌跡を見せれば、その後押しになるはずだと。


 けれど、ステラが考えるようには上手く行かないだろう。

 話を聞くに、何となくステラがどんな思いで元教師であったツヴァンに決闘を吹っかけたのかは、うすうす分かっているのだが、相手は自分達よりもはるかに長生きしている人間。大人だ。


 長い年月を経た果てに結論の出された考えは、そう簡単には変えられないだろうし、何よりツヴァン曰く「ヒヨッ子」である自分達がお節介を焼いても素直に受け取らないはずなのだ。上手くいってもそう素直には認めやしないだろう。


「そこら辺がステラちゃんは平等だから気が付けないんだよね……」

「ニオ?」

「ううん、何でもない」


 悪い事は悪いと正す。

 間違っている事は間違っていると言う。

 そういう性格は悪くはないのだが、それでは簡単に解決しない物事というものもあるのだ。


 例えば、ニオがステラ達にあまり手助け出来ないのを、ステラ自身に「そんな事ない」と言われてもあまり意味がない様に……。


 ……せめてステラちゃんがもうちょっと自分に我がままになってくれれば、ニオも楽なんだけどな。


「おーっと、もうちょっとで勝敗が決まりそうだぞー。贔屓はできないけど、両者がんばれー」


 決着がつきそうな予感のする目の前の光景をみながら、ニオは声を張り上げた。


 

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