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イフ ただ一言を聞くために 02



 いてもたってもいられなかった。

 言い訳の様な用事をでっち上げ、ツェルトはその発見場所……アクリに駆けつけた。


 見張りを巻いた後、精霊使いの力を試してみる。

 ずっと発動しなかったそれが、発動して、景色が切り替わった時は本当に驚いた。


 やってきたのは、エルランドに組する反抗勢力が拠点としている建物。

 ツェルトには見覚えがあった。


 資金を出してくれた貴族が、湖の上に観光名所を作るとかなんとか言っていたが、リートが説得してこの隠れ場所を作らせたのだったか。


 そこでツェルトは、数年ぶりに幼なじみとの再会を果たした。


 金色の髪に橙の瞳。

 いつかアクリの町で一緒に回った時の様なワンピースを着た女性が、まるで本物のステラの様な表情をしてこちらの方を向いた。


「ツェルト……!」

「ステラ、本当にステラなのか……?」


 こちらの胸に飛び込んでくる女性を抱きとめる。本物だった。

 正真正銘、ツェルトが想っていたあの彼女だ。


 ツェルトは、まだ信じられない心地だった。


 今までは敵同士だったというのに。

 何度か顔を合わせて、剣を合わせた事だってある。

 手が届きそうな距離で、絶対に届かない場所に彼女はいた。


 それなのに、手を伸ばせばちゃんと触れられる所に、今ステラはいるのだ。

 

「ツェルト、大きくなったのね。何かしっかりしてるように見えるわ。ちょっと、頼もしくなったかも……」


 こちらを見上げてくるステラを、ツェルトは堪え切れずに抱きしめた。

 その感覚は間違えようのない現実で、これ以上ないくらいに本物の彼女がここにいる事を伝えてくれた。


 ツェルトは腕の中の彼女におそるおそる声をかける。


「ステラ。ああ、本当にステラなんだよな。偽物でも幻でもないんだよな」

「ツェルトこそ、本当にツェルトなの? 幻とかじゃないわよね。だってちょっと変わってるわ」

「そりゃ、成長したからだよ。ステラだって色々育っただろ?」

「そうよね……」

「そこは、胸を隠したりして普通は顔を赤らめる所だと思ったんだけどな」

「っ、どこ見てるのよ!」


 こうして昔と同じように会話できるのがとてつもなく幸せな事だった。

 昔に戻っただけ、それだけの事だというのに。

 それだけの事が今までは果てしなくて遠かった。


「どこって、ステラの全部だ!」

「あ、こら抱き着かないでってば」

「あー、ステラだ。ステラだなあ」

「きゃ、離れてってばもう……くすぐったいじゃない」


 そんな二人のやりとりを、この部屋にいる他の人間……比較的近くにいたらしいニオが見ている事に気が付いた。

 ステラ以外にまるで目を向けていなかったので今まで気が付かなかった。

 彼女は嬉しそうに、けれど呆れた様にも言う。


「ツェルト君もステラちゃんも忘れてないかなあ。ニオここにいるんだけどなー。二人の世界に入っちゃったよ」


 そんな事を呟いたが、改めて存在を気にする事でもないし、ツェルトもステラもまったく気にしなかった。






 昨夜アクリの町で、ステラは屋敷で起こった事……フェイスに攫われた時から今までの記憶を失って倒れていた所を、ニオ達によって保護されたらしい。


 簡単に体調を調べれば、目立った怪我や不調はなく、見る限りでは健康そのものらしいのだが……。


「とにかく、すぐにカルネとリート先輩に連絡してエルランド達の息がかかってる病院に……」


 ステラがフェイスの駒として動いていたのは事実だ、どんな呪術の後遺症があるか分からなかった。

 だからツェルトは、こんな時の為に用意していたあれこれの準備について考えるのだが、


「待って、ツェルト。駄目なの。時間が無いの」


 ステラがその言葉を止めた。

 既視感を抱いた。

 ステラは前にも同じ事を言っていた。


 ツェルトはそのわけを尋ねた。


「駄目って、何でだ」

「ツェルト、お願い私を殺して」


 しかしステラは、そんな恐ろしい事を言ってくるまま。変わらない。

 彼女は何かに怯えているようで、震える体を止めようとする様に自分の肩を抱いている。


「何言ってるんだよ、そんな事できるわけないだろ」

「分からないけど、時間が無いの。早く私を殺してくれないと、私……、自分で何をするか不安でたまらないのよ」

「そんな、殺すなんて……」

「お願い、ツェルト」


 ツェルトが何かを言っても、ステラは同じ事の繰り返しばかりで、話は平行線だった。

 互いが互いに譲らない状況。

 それは、見かねた様子のニオが助け舟を出すまで続いた。


「ツェルト君、ステラちゃん連れてちょっと外に出てきなよ。そのままじゃいつまでも言い合いが終わらないよ」

「いや、けど……」


 言葉に詰まる。

 病み上がりとも言えなくもないステラを連れだして、町を出歩いていても良いのだろうかとツェルトは思うのだが。


「息が詰まったまま話をしてても、良い事にはならないよ。それだったら気分転換してた方が絶対良いはず。ステラちゃん、目が覚めてからずっと不安そうだったもん。楽しい事してないんじゃ悪い事しか考えられないのは普通だと思うな」


 確かにその通りだった。

 そういう繊細な心の機微は、ツェルトでは分からなかった事だろう。


「お前って、ほんと時々無茶苦茶役に立つ事言ってくれるよな」

「えへへ。そーでしょー」

「言っとくけど、八割くらい誉めてないぞ」






 ニオとの微妙にずれたやり取りをした後、ツェルト達は簡単な変装をして、町へと繰り出した。

 一応これでも互いに有名人だ。

 王都から離れていると言っても、用心はするに越した事はない。


 だが、こうしてステラと共にのんびりと歩くなんて一体いつ以来だろうか。


「ステラ、落ち着いたか?」

「ご、ごめんなさい。もう大丈夫だから」

「体の調子とかどうだ? どっか痛かったり怪我してたりなんてしないよな。服着てるから分かんないし、自己申告を信用するしかないもんな。あ、ちょっとスカートまくって確かめるとか」

「や、やめてってば。こんな年になってそんな事されたら恥ずかしいでしょう?」

「だよな!」

「もう、私は怒ってるのに」


 数年前までは当たり前だったやりとり。

 その何でもない会話が楽しくて仕方がない。

 それからも、色々と町の中をぶらついて、様々な場所に足を向けた。


 それで途中では、道行く人々の中から現れた、なつかしい少女に声をかけられた。

 この町の住人であり、危ない所を二人で助けた事のある少女。

 ツェルトはあれから何度か会ったが、ステラはまだ二度目だろう。


「あ、騎士のお兄ちゃんだ。お姉ちゃんもいる!」

「えっと、この子は……」

「お姉ちゃんあの時の騎士様でしょ! あの時は助けてくれてありがとう。お花迷惑じゃなかったかなあ……」


 フェイスの事が関わるのであまり言いたくなかったのだが、事情を知らない無邪気な少女の口を塞ぐのに躊躇している内に、話が進んでしまう。


 ステラは探り出した記憶の中からその存在に思い至った様だ。


「思い出したわ、あの時の子ね。お花ありがとう。とても嬉しかったわ。お母さんとは仲良くしているかしら」

「うん、お父さんとも仲良しだよ」

「そう、あんまり心配かけちゃ駄目よ」


 目線を合わせるようにしゃがみこんで会話をするステラからは、特に取り乱したりするような様子はない。

 そういえば、フェイスの駒として動いている時もあまり子供に害を成している所は見た事がなかったなと思い出す。


「大丈夫だよ、困った事があったらお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいな騎士様が助けてくれるもん」

「ええ、誰か困っている人がいたらきっと必ず助けてくれるわよ。でも騎士様は他の用事で忙しい事もあるかもしれないから、なるべく迷惑はかけちゃだめよ、分かった?」

「あ、そっかー。えへへ。なるべく気を付けるね」

「そうしなさい。お父さんとお母さんと仲良くね」


 懸念したような事になる事もなく、ステラは少女との会話を終えた。

 楽しそうにしている少女に手を振るステラは、一見すれば長い間フェイスの元にいたとは思えないだろう。

 けれど、ツェルトには分かる。


 町を歩いている時ステラが時々不安そうに、辛そうに瞳を伏せているのを。


「ツェルト、最後にあの場所によっていても良いかしら」

「あの場所?」

「アクリの町の観光名所よ」

「ああ、湖か」


 もちろんツェルトも行こうと思っていた場所だ。

 あそこは色々特別な場所だった。

 何せ、好きな少女に二度も告白した所なのだし。


 ステラと共に歩いて、その場所へとたどり着く。


 湖に訪れる頃には日が暮れそうになっていた。

 空には、もういくつかの星が瞬生き始めている。


 さすがというか、やはりステラはステラだった。

 ただ町を歩いているだけなのに、二、三個の災難に次々と巻き込まれていくのは相変わらずだった。


 ステラの近くにいる時は日常だったが、こうして離れて見た時間を挟んで改めて考えてみると、やはりステラの体質はおかしいと思った。

 これで唯一の例外を除いて、負け知らずで犠牲を最小限に抑えていたのがちょっと信じられない。


「何でそんななんだろうな」

「何か言った?」

「いーや、なんでも」


 腹の中が真っ黒な連中は私腹をこやして安穏と生きていると言うのに、何故ステラみたいな人間がこんななのだろうか。


 ステラは目の前にある湖を眺めながら、話しかけてくる。


「綺麗、夕焼けに染まる湖がこんなに綺麗なんて思わなかったわ。夜になってもきっと素敵なんでしょうね」

「そうだな。きっと綺麗だと思うぜ。でもって隣にはステラがいる。最高の景色にもなるはずだ、うん。納得の説得力」

「私は真面目に話してるんだけど」


 じとっとした視線を向けられるのも、凄く久しぶりだ。


「俺だって真面目だぜ。真面目に素直な気持ちを伝えてるつもりだ」

「……」


 そう言うと、ステラは夕焼けの光に負けないくらい顔を真っ赤にして視線を背けた。

 ああ、これ見た事あるな……と思ったら。告白した時のステラの顔だった。


 あの時もこんなだった。

 まるで反応が変わってない。当然なのだろうけど。

 そんな当然は嫌だった。


 フェイスに長い時間を奪われなければ、きっと成長したステラがいたはずなのに。


「ね、ねぇツェルト。今でも私の事……その、好きでいてくれているの?」

「ああ、好きだよ。そんなの当たり前だろ」

「そ、そう……」


 ステラは己の息を詰めた後、ぎこちない動作で自分の胸の位置に手を当てる。

 まるで心臓の音を聞きながら、自分の心と話をしているようだ。


 そして彼女はこちらを見つめて、ツェルトが長い間待ち望んでいた返事の、その一言を伝える。


「私……は、好きじゃないわ」

「嘘だな」

「嘘じゃないわよ。好きなんかじゃ、ないの……」


 彼女が嘘をついている事は一瞬で分かった。

 誰かが真剣な気持ちを伝えた時に、彼女はそんな風に視線を背けたまま答えを返したりはしないからだ。

 そんな風に、答えを述べた後に俯いたりもしない。


「ツェルト、私を殺して。お願い、私これ以上誰かを傷つけたくないの」

「ステラ、まさか記憶が……」


 覚えているのではないかと思って肝を冷やしたのだが、彼女は首を振って否定する。


「思い出せないわ。けれどでも、きっと私は大勢の人を傷つけている。だってフェイスの……あの人の傍にいたのよ。ツェルト、貴方は騎士なんでしょう? だったら私が今まで何をしてきたか分かってるでしょう?」

「それは……」

「やっぱり、……そうなのね」


 否定できないツェルトの様子を見て、ステラは納得してしまう。

 頭が良いとか悪いとかそう言う問題じゃなく、フェイスの隣にいるとはそういう事なのだ。ステラはもう自分がこれまでにした事を、理解してしまっているようだった。


「覚えてないって言ったけど、私……最後にフェイスに言われた事だけは覚えているのよ。夜になったら今の奇跡みたいな状況は元に戻ってしまう事。私が私でいられるのはたった一日、一日だけなのよ。それを過ぎたら私は、もう元の私ではきっといられないわ」


 だから、とステラはこちらに縋り付く。


「私を、殺して。貴方の手で。分かって、お願い」

「できるわけないだろ、そんな事」


 最愛の人を殺す?

 ツェルトに出来るわけない。

 そんな事をするぐらいなら自分が死んだ方がまだマシだった。


「ステラ、大丈夫だ」


 涙を浮かべるステラを抱きしめて、ツェルトはできるだけ安心させるように力強い口調で言葉を続けた。


「俺が何とかする。俺がステラがステラでいられる方法を探すし、ステラが嫌な事しなくてすむように頑張る。フェイスの野郎の所になんてもちろん行かせないし、いつでもずっと傍にいる」

「ツェルト……」

「俺さ、あれから色々頑張ったんだぜ。大変な事もあったし大変な状況にもなっちゃってるけど、騎士になってから色んな人が助けてくれたからさ」


 子供をあやすように背中をなでてやると、ステラが顔を上げてこちらを見る。


「だからステラも頑張ってくれよ。逃げるなんて許さないからな。俺はもうステラを侮らないし、弱い姿を押し付けたりしない。手はちゃんと引っ張ってやるから一緒に頑張ってまた強くなろうぜ。約束じゃんか」

「……」


 弱く儚げな光をたたえていたステラの瞳が見開かれ、そこに昔の様な力強くまっすぐな輝きが徐々に戻って来る。


「信じられないわ」

「何が?」

「貴方すごく格好よくなってる」

「そうか? そうだったら凄い嬉しいな」

「……惚れ直しちゃったかも」

「はは、やっぱまだ俺の事好きでいてくれたんだな」


 図らずも告白の返事のような一言を言ってしまった事に気が付いて、ステラが真っ赤になり慌て始める。

 けれど、こちらに抱きしめられた姿勢からは動こうとはしない。

 きっとそれが答えだ。


 最愛の人のぬくもりを感じながらツェルトはこれからの事を考えた。


 やはりまずはカルネに会わせなければならないだろう。

 病院でもいいが、呪術の事が関わるとなると、やはり一刻も早く専門家である彼女に見せて意見を聞きたい所である。

 その後は、エルランドと合流して……ああ、同時にグレイアン打倒の話も考えなければならなかったか。

 やる事は盛りだくさんだ。


 だが、ツェルトは知らなかった、フェイスが……


「……ね」


 もしも(イフ)の世界で、ステラのトラウマをえぐるような一手を打つ、性格の悪い人間だという事を。


 腕の中でステラが小さく呟く。


「死ね、ツェルト・ライダー」

「……っ」


 突如近くからわき起こった殺気に距離をとる。


 何が起こったのかと目の前の人物に視線を戻せば、いつのまに取ったのかツェルトから奪った剣がその手に握られていた。


 と、同時に剣戟が放たれる。


「ステラ……っ!」


 まるで別人。

 先程までの様子がどこにもなくなり代わりにそこにあったのは、フェイスの傍にいるステラだった。


「なんでだ……、まだ時間に余裕はあったはずじゃっ」

「馬鹿正直に、正確な時間を教えるとでも思ったの?」

「騙したのかよ」


 フェイスはこちらの油断を突くために、わざと待ちがった情報をステラに与えていたのだ。

 ステラはこちらに冷ややかな視線を向けながら、冷たい言葉を発していく。


「動揺しないで、よくある事でしょう」

「俺が怒ってるのは俺が騙された事じゃなくて、ステラの心を弄んだ事にだ」

「私は、別に何とも思ってないわ」

「お前じゃない」


 ツェルトは警戒しながらも周囲の様子を確かめる。

 日暮れ時だからか、幸いにも人はいないようだった。


 そんな様子を見て、ステラは淡々と言葉をかけてきた。


「優しいのね。巻き込まないように考えているの? 甘いわ」

「残念だけど、違うな。戦いの邪魔になる様なもんがないか確認してただけだ」

「意外と冷酷なのね」

「良く言われてるし、慣れてる」


 ともあれ、あらかじめ定められていた刻限はどうやっても変えられない。

 ここにいるツェルト一人で、状況を何とかするしかないだろう。


「武器なしで、隊員の援護なしでか。ちょっときついかもな」


 見た目はツェルトの好きな可愛い女性の姿なのだが、こう見えてステラは猛獣レイダスより強い。

 フェイスの近くで容赦なく剣を振りすぎたせいだ。

 油断しているとやられるのは目に見えていた。


 ちなみにレイダスの「次」の位置に入るのはツェルトだ。

 まあ、王都周辺で限定しての純粋な実力のみで図った順位になるが。


「よそ見していると痛い目みるわよ」

「――っ!」


 全く躊躇のない攻撃がきた。

 そこに、先ほどまでいたステラの面影はどこにもない。


 繰り出される剣を回避し、受け流し、時に反撃しながら町の中へ。

 人気を避けるようにして、移動していく。


 相手の視界から完全に外れないように、かといって油断して近づきすぎないように。

 適度な距離を維持しながら。

 

「いい加減に彼の邪魔をするのは止めなさい」

「嫌だ。止めてほしかったらステラがこっちに来てくれよ」

「お断りよ」

「だろうなあ」


 軽口を叩き合っているが、見るほど余裕があるわけではない。


「ねぇ、何がそこまで貴方をそうさせるの」


 ふと、攻撃が途切れた瞬間にステラは疑問を口にした。


「どうして貴方はそんな顔で毎回私の前に立ちふさがるのよ」


 やはり良い様にされてもステラはステラなのだ。変な所で真面目で真っすぐのまま。

 フェイスが人形の様にしなかったのか、それとも人形などにできないくらいにステラの自我が強かったからなのか……。


 ともあれ、そんな風になっても律義さを覗かせる女性へとツェルトは言葉を返した。


 それは、グレイアンに押し付けられるようにして行った、先代勇者の遺品回収任務の時にも思った事だ。


「俺は、俺の好きな人といられる未来を諦めるつもりはない。だからだよ」

「……」


 ステラはそれを聞いて何をどう思っただろうか。

 彼女は一瞬だけ目を伏せた後、剣を一層強く握りなおした。


「私には関係のない事ね」

「そっか」


 その返答に一抹の寂しさを感じるが、そんな反応が返ってくる事は想定内だった。


「だって貴方は、今日を以って私に殺されるのだから……」


 そうしてステラは、こちらへと「再会」ではなく「離別」を告げるために駆けてくるのだが……、


「はっ、来てやったぜ未来の英雄様よぉ。約束どうり活きの良い獲物を用意しやがらなかったら、問答無用で血祭りにしてやっからな」


 その間にレイダスが割り込んで、剣を交える。

 ステラは割り込んできた存在に、不快そうに眉をひそめた。


「っ、どこから」


 彼女が言葉を発せば、新たな声が二つその場に響く。


「ちょっとした裏技! 間に合ってよかったー。さっすがエル、こうなる事が分かってたんだね、すごいぞー」

「わ、ニオ。駄目ですよそんな大声で名前を呼ぶなんて」


 次いで背後からする声はニオとエルランドのものだ。


「ぜりゃあっ」


 そして最後に、ステラの背後をとって回り込むように攻撃を放ったのはツヴァン。


「ったく、卒業したんなら勝手に生きろよな、俺までひっぱてくんじゃねーよ」

「とか言いつつ、今の一撃何だか前よりすごくなってる気がしたんだけど、ひょっとして先生ってツンデレ?」

「あ? 何だよウレム。そのやけにムカつく響きのする言葉は」


 ともかく、予定外の状況になったし、予定が早くなってしまったが役者はそろった。


「卑怯だとか言うなよ、ステラは強いんだから。でも、見てくれ。お前の為に皆集まってくれたんだ。ここにいないカルネやリート先輩だって出来る事をしてくれてる」

「……」

「ステラ流に言うと何か悪い出来事が起こるのを、フラグ回収って言うんだっけな。一個そんなフラグを回収したくらいで、そう簡単に悲劇になんてさせやしないぜ? 駄目だって思っても、死ぬほど辛いって思っても。皆生きてるんだ、明日も明後日も明々後日も、足掻いて、もがいて、必死でな。だから」


 ツェルトは、死にそうな目に遭いながらも手に入れたその特別な剣をを呼び出して構える。


「そこで待っててくれ、ステラ。これから全部取り戻して、一緒に未来に連れてってやるから」


 ツェルトが剣を向けると同時に再び時が動き出す。

 それぞれが集まって、戦いが続けられるのだ。


 これが終わったら。

 その後は打倒グレイアンに、国の立て直しに、後はフェイスの捕縛にとやる事は沢山だろう。

 きっとステラの力が必要になる。


 でもまずは、もう一度ちゃんと告白しよう。


 そしてあの時聞けなかった返事の一言を今度こそちゃんと聞く為に。

 ステラの口から好きというその、どこにでもあるようなありふれた告白の返事、……ただ一言を聞くために。



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