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第38話 伝説との戦い



 遺跡内


 奇妙な事にステラ達は、魔物と一切遭遇する事はなく奥まで辿り着けてしまった。


 警戒に警戒を重ねて、これだけの戦力を用意していたというのに。

 一体これはどういうことなのか。


 だが、その答えはこれ以上ないくらい分かりやすい形で遺跡の奥に用意されていた。


 部屋に入るなりその存在が視界に飛び込んできた。


 狼に似た体形をした、黒い毛並みの巨大な魔物。

 体長十メートルはもあろうかというそんな存在が、部屋の奥台座の前に立つ人物……フェイス・アローラの隣にいた。


 そこにいるだけで、こちらを威圧してくるよう存在感を放つそれは、


「黒き聖獣……」


 驚く事におとぎ話の経本などでよく見る、伝説上の生き物だった。


 おそらく、途中の道で前回見た魔物の群れがなかったのは、この強大な魔物がいたからだろう。

 

 フェイスは精霊を集めているとエルランドから聞いた。

 識別のルーペを探していたという原作の知識もある。

 王都で戦ったのは、精霊に憑いた魔物だった。

 それらを考えれば、答えが一つ浮かんでくる。


「まさか精霊を使って蘇らせたというの?」

「ああ、そうだ。やはりお前が来たか、ステラ・ウティレシア」


 視線が合う。

 学生の頃よりも成長したフェイスと。


 だが、あの頃のプライドが高そうな態度とは違い、感情が抜け落ちたかのような様子だ。

 おそらくこちらの方が素なのだろう。


「本当に好き勝手してくれたわね、貴方。私のプライバシーを侵害したり、夢の中でツェルトに成り代わったり、悪趣味にもほどがあるわ」

「ふん」


 言いたい文句なら山ほどある。

 どうやったか知らないが、ツェルトとステラしか知らない思い出を勝手に覗いて利用した事とか、そう簡単に消えそうにないトラウマを植え付けてくれた事とか。

 けれど今は任務中だ。


 ステラは深呼吸をして、雑念を頭から追い払う。

 騎士としてやるべき事をこなさなければならない。


「この人が、ステラ様にひどい事をした……許せません」

「アリア、だが君には……」

「大丈夫です、クレウス。私はもう間違えたりしません」


 闇落ちの懸念があったアリアだが、会話を聞く限りは大丈夫そうだった。

 領主の件を乗り越えたのだから、当然と言えば当然だろう。


 フェイスの隣に控えている黒い魔物を見る。

 今の所は大人しく彼の傍にいるだけだが、一度こちらに牙を向けばどうなるか分からない。

 苦戦は必須。遥かな古代に生きていた伝説の存在となど、戦った事はないのだから。


「貴方の目的は一体何? こんな事をして最終的に何がしたいと言うの?」

「答える筋合いなどない」

「自分をひどい目に合わせた王宮へ復讐したいと言うのなら。、こんな事をしたところで……」

「復讐だと? まさか」


 推測を口にするステラに対して、聞く耳を持たずにいたフェイスが呆れたような口調で割り込んだ。


「そんなちっぽけな事の為に俺が動くわけないだろう。俺がしたいのは支配、俺の俺だけによる実験場の完成だ」

「……ああ、そういう事」


 つまり、自分の良い様にできるような世界にしたいという事らしかった。

 世界を壊すと脅して、人々を実験材料として使う、そんな世界にしたいと言ったのだ。

 当然好きにさせるわけにはいかない。


 ステラは一歩前に出て、剣を突きつける。


「そう、なら仕方ないわ。元から貴方の敵だったけれど、私達はこれからも貴方の敵よ」

「ふん、まるで返答次第では敵ではなかったかのような口ぶりだな」

「そうよ、貴方が復讐の為に行動しているのだったら、少しだけ考えていたもの。だって、もともと悪かったのは王宮の方なのでしょう?」

「……」


 ステラは警戒を解く事はしないままで、首を傾げた。


 何故か。

 周囲の空気がおかしなことになったような気がしたのだ。


「ステラ、それマジで言ってるのか? さすがの俺も耳を疑ったというか、何と言うか」

「はっ、そこまでいくと気楽どころの頭じゃねぇな」


 レイダスはともかく、真っ先にツェルトに言われるとは。

 そんなにもおかしな事をステラは言っただろうか。


「別に許したわけじゃないわよ。そうするのが騎士としての正しい行いでしょう?」


 許せないと思う。フェイスがステラにしたことは、許す事の出来るものではない。

 たぶん一生恨み続ける事になるのだろう。


 けれど、それとこれとは別なのだ。

 ステラは騎士。

 騎士としてこの場に立つなら、騎士として行動するのが当然の事ではないか。


 虐げられたものや、弱い物に手を差し伸べなくては騎士ではない。


「そう思えるのがステラ、お前のもっとも輝かしい美点の内の一つだな。ツェルトが惚れるわけだ。レイダス見習え」

「あぁ? できるわけねぇだろうが」

「ステラさん。いいえ、ステラ様、格好いいです……」

「ああ、同意だな」


 仲間達がなにやら騒がしくなったが、特別な事を言ったわけでもないステラには今一つピンとこない。アリアなんかは昔の呼び方が交ざってしまっているが、ステラ自身には本当に変な事を言ったつもりはないのだ。 


 そんな風に背後での彼らの言い合いを聞いていると、目の前にいるフェイスからひび割れたような声が聞こえて来た。


「……く、くくく……。ここまでコケにされたのは初めてだ。そうか、俺が付けた傷はその程度だったという事か……ならば、どうやっても消えない傷をお前たちに刻みつけてやるまでだ! やれ! 黒き聖獣よ、あいつらをその腕で、その咢で痛めつけろ!!」


 どうやら自分たちのやり取りが、彼に行動に移させるきっかけとなってしまったようだ。


 とにかく、そうなったからには戦いに集中しなければならない。

 ステラ達は剣を手にして、戦場へ変わった遺跡内部を駆け回る。


 ステラ達と伝説の存在……黒き聖獣との戦いの幕が上がった瞬間だった。






 目の前の黒き聖獣……魔物が巨大な咢を開ける。


『――――ォォォォォォ――――』


 途端遺跡を揺るがすような咆哮が上がり、脳を揺さぶるような大音量が耳を刺激した。

 こうなると相手も動かない代わりに、ステラ達も耳を庇わなければいけなくなるので身動きができなくなるから困る。


 背後の部屋の外では、耐性のない非戦闘員のユリシアが目を回している。

 戦いが始まる前にそこから前に出てこないように言ってはいたが、音の攻撃では関係なくなってしまうのだろう。

 申し訳なく思いつつもフォローはできないので、自分で何とかしてもらうように祈る事しかできない。


 あまりにも大音量の刺激に脳が揺さぶられるような感覚がしてそれに耐えるのだが、その内にステラ達は幻覚に悩まされる事になる。


 遺跡内に、天井からすり抜けて落下してくる、光のきらめき。

 それらがステラ達に降り注いでくるのだ。


 世界のかけらだ。

 その光に触れて見えるのは、この世界にはない……ありえない景色。

 コンクリート製の構想ビルが立ち並ぶあの世界の景色だ


「――っ、こんな事で私を惑わせると思わないで――」


 ステラは威圧を放って幻覚を振り切る。

 同時に頭を押さえていた仲間たちも苦痛や幻覚から解放される。


 どういう仕組みかは知らないが、仲間達に向けて鼓舞するつもりでやると症状が緩和するのだ。


 後で詳しくどういう風だったのか聞いてみた所、背筋がぞくっとなって、病みつきになりそうな感覚が幻覚を追い払ったとか言う内容を聞く事になるのだが、変な道に目覚めない事を祈るのみだ。仲間に対してするのは自重しようと後々思う事になるのだが、この時は知らない事だった。


「っ、さすがに手強いわね」

 

 時間が立つにつれて戦いは厳しくなる。

 手傷を負っていないものなどほとんどいなくなっていくし、戦闘不能になってしまっているものも何人も続出している。


 アリアの隊の者達が後方で手当てを施す事になるのだが、復帰できるものはごくわずかだ。


 身の丈十メートル以上もある黒い獣が相手なのだ。体の大きさはそのまま攻撃の重さにつながる。

 一撃一撃が命取りになりかねない威力を秘めているので、回避に専念して動くのだが、集中力を切らした者から順番にやられていってしまう。


 こういう大事な時に戦うのは格上とばかりだ。少しは楽させてくれてもいいじゃないか、そう思ったところで運命が聞き届けてくれるんて事はないのだが。愚痴をいいたくなる。


 フェイス自信に戦闘力が無いので、相手は一体なのがまだ救いだ。肝心の当人は奥で高みの見物に洒落こんでいて、見つめる度になり振り替わらず突っ込んでいきたくなる。


「レイダス! もう少し我々と協調しろ」

「誰がテメェ等みたいな鈍くさい連中と肩並べんだ」

「く、まったくあいつは……」


 唯一獣じみた身体能力で、一番実力が高いだろうレイダスが良い働きをしてくれるのだが、本人に協調性という物がまるでないのが難点だった。好き勝手に動き回るから援護もできないし、息も合わせられない。


「うるせぇ、そんなに合わせたきゃ、テメェ等が合わせろ」

「あの猛獣め……」


 リートが言葉を尽くすものもまるで彼は聞く耳をもたない。

 こんな感じなので敵に隙を見つける事ができても、有効的な攻撃が放てないでいるのだ。

 要するにわたり合えていても、そこから一歩先へと状況を動かす決め手にかけるのが現状なのだ。

 レイダスを連れて来たのは失敗だっただろうか。


「ふん、まるで粗末な茶番だな」


 物見の見物客と化しているフェイスからそんな言葉がもれる。

 ステラ自身痛いほど通関しているが、生憎と口に出して同意する気はない。


 そうこうしている内に状況が変化した。

 不意に、あり得ない場所から殺気を感じたのだ。


「……っ!」


 ステラは、これから起こそうとした行動をキャンセルして、とっさに避ける。

 攻撃は背後からだった。

 その主は……、


「……ツェルト?」


 鳶色の髪の彼だった。

 彼は自分の行動に気が付いて、顔色を変える。

 

「違う! 俺は……!」

「ステラ、後ろだ」


 クレウスの声にハッとする。

 そうだ数秒前にステラは魔物へと飛びかかろうとしていたところで、そうすると立ち位置は魔物の近くという事になる。そのままぼうっとしていたら危険なのは誰だって分かるだろう。


 事実、まさに背後から魔物が飛びかかって来るところだった。


 回避行動をとろうとするが、それをすると今度はツェルトが危ない。彼がこちらに切りかかってこようといているからだ。ステラが避けてしまえば、魔物と相対するのは彼だ。


「――っ!」


 とっさに判断を下す。避けるのではなく前に出て、ツェルトの剣を真正面から受ける事にした。

 一撃、振るわれようとした剣を己の剣で払い、相手の体を抱きしめるようにして前へと飛んだ。

 瞬間、背後から獣の歯が噛み合わされる音がして肝が冷える。


 そこからは他の隊員が魔物の気を引いて戦ってくれているようだ。追撃されるような事はなかった。


 だがそれで、危機が去ったと思うには早い。


「……ステラっ、俺から離れろ」


 床に転がった状態でツェルトを下にしながらも、ステラは剣を振りかぶろうとするツェルトの腕を抑えこむ。


 振るわれようとする腕が、ステラを切ろうとする意志と切るまいとする意志でせめぎ合っているかのように小刻みに震えていた。

 

「く……ぅ……。くそ、何で」

「ツェルト、どうして。一体何が」


 この期に及んでツェルトがステラを実は嫌っていた云々などとは考えない。

 ツェルトがこちらの事を大事に思っているのは十分に分かっている。

 だから別の理由があるはずなのだ。


 腕を抑え込みながらも、ヒントが欲しくて周囲に目を向ける。だがそこにあった光景は、最悪に近い光景だった、何人かがツェルトと同じ状況になっていて、仲間へと牙を向いていたのだ。


「あぁ? んだテメェ」

「く、体が……」


 獣の相手をしていたはずのレイダスは、襲いかかって来るクレウスと切り結んでいる最中だった。

 みな自分の意思とは関係なく体が動いているようだ。


 誰も彼もが混乱していて、事態の取集に手が付けれられない。

 その中で魔物が暴れまわるものだから、被害は広がる一方だ。


 一体、なぜこんな事が起こるのか。


 そんな状況の中、奥で負傷者の手当てを手伝っていたはずのユリシアの声が聞こえてきた。


「どこかでそれと知らず魔法陣を触ったはずですわ。フェイスに操られているんですのよ!」


 そうか、そうだった。むしろその可能性しか考えられないではないか。

 フェイスの十八番ではないか。


 それをこんな状況でユリシアに指摘されるとは思わなかったが、ありがたく忠告を耳に入れておく。

 だが、もしそうだと仮定すると厄介だ。


 ここにはニオがいないのだ。だから呪術に対抗する手段がない。


 彼女は今、万が一の方一つの可能性を考えて王宮にいるからだ。

 今回ここまで来たステラ達の行動は、フェイスの目的が復讐だと仮定してのものだったから、仕方がないと言えば仕方がないのだが、その一手がないのはかなり痛い事だ。


 だがたとえニオがいたとしても、どこにあった魔法陣の影響なのか分からなければ意味がない。

 見た所、部屋の中にそれらしい物はないので、罠にかかったというのならこの遺跡にくる以前の話となってしまう。

 それでは、ニオの手すら借りられない。


 現在ステラ達が打てる手と言えば……。


「ステラ、俺を気絶させてくれ」


 それくらいしかない。

 下から呻く様に発せられるツェルトの声に迷う。

 そうするしかない。けれど、それでいいのだろうか。


 結局はそうするしかなかったし、そうするべきだったと断言できるのだが、その時ステラは一瞬だけ迷ってしまった。


 ふと抵抗の無くなったツェルトの腕に、反射的に己の手を放してしまう。

 その隙をついて、剣を話した彼の手がこちらの喉元に伸びて来た。


「ぁ……く……、ツェル……」

「くそ、ステラっ! やめろ、このっ。動けよっ!!」


 首が締まる。

 痛い。

 苦しい。

 首にかかる一つの腕が二つとなり、両手で握りつぶさんばかりの握力で締め付けられる。


 ツェルトの手を引きはがそうとするものの、力は向こうの方が上だ。

 ステラの指は喉に食い込む指をひっかくのみで、容易にははがせない。


「……っ、ぅ……」


 呼吸がままならない。

 酸素が入ってこなくなって、意識が途切れそうになる。

 このままでは、まずい。

 けれど、ステラの腕はツェルトの手を引きはがすどころか、力を失ってしまう。


「ステラっ、ステラっ!! しっかりしてくれっ!! くそっ……っ」


 ツェルトの声が遠くなっていく。

 意識が飲み込まれそうになる。


 わたし……死ぬの?

 他の誰でもないツェルトに、殺されて……?


「くそっ、こんなのあんまりだろ……俺は、あんな風には……」


 もうほとんど声どころか、音すら聞こえなくなっていて……。

 意識が消える寸前だった。


「くそがっ、世話ぁ焼かすんじゃねぇ!」

「……っ! ……げほっ、げほっ」


 しかしその前に、楽になる。

 解放された喉に、空気が送り込まれてきて、乾いた喉に違和感を感じてせき込んだ。


「はぁ……はぁ……、レイ……ダス……?」


 ステラを助けたのはレイダスだった。

 彼は、操られた人間を気絶させて回っている。

 殺す事なく、だ。


「レイダス、偉いですわ! さすがですわ!」

「うるせぇ赤髪、すっこんでろ」


 ユリシアとレイダスが何やら少しだけ打ち解けている様なやり取りをしていて気になったが、それどころではない。


 レイダスが動いている間、ステラは獣の注意を引きつけに走った。


 減ってしまった仲間の分、苦戦したがそれほど時間がかからない内に、操られていた全員を無力化したレイダスが戻って来た。


「俺の獲物だ」


 ちょっとは歩み寄ってくれる気配をみせてくれたかと思いきや、このセリフだ。

 やはりステラの知るレイダスだった。

 けれどどんな時でも早々変わらないそんな態度に、今は少し安心もする。


「私の相手よ」

「下がれっつってんのが分かんねぇのか、この女」

「だから私はステラだって言ってるでしょう」


 口ケンカをしながらも二人同時に、相手へと走り出す。


「ちっ」


 舌打ちが聞こえてきたが、彼はそれ以上こちらに何かを言う事はなかった。

 剣を振りながら思う。やはり二人いるという事は大きい。

 

 この利点を生かさない事には、相手に勝てないだろう。


「レイダス、協力しなくていいわ。私を利用しなさい!」

「あ?」


 ステラは、獣の注意を引き継餌る様に前に出て剣を一閃する。

 あえて、常に獣の視界を陣取って、相手の意識をこちらから離さない。


「けっ、勝手にやってろ」


 ステラが勝手にやってる事。そういう事なら、レイダスは協力してくれるようだった。

 協力、というよりは譲歩したに近いかも知れないが。


 それからは、ひたすらステラが相手を挑発したり、視界内で気を削いだりと忙しかった。

 だが、その分レイダスの攻撃は通りやすくなり、戦い自体はやりやすくなったはずだった。


 伝説の存在となれば体力が普通の魔物よりもおかしいのか、中々倒れてくれない。

だが、それでも小一時間も攻防を繰り返していけば、次第に弱点なども見つける事ができて、最終的には相手に勝つ事ができたのだった。

 

「さあ、次は貴方の番よ」


 やっとのことで倒した獣を前にして、ステラはもうひと踏ん張りとフェイスに改めて向き直る。


 だが感じるのは違和感だ。

 彼はずっと何をするまでもなく、立って戦闘を眺めていただけだった。

 その様子に、レイダスが顔をしかめる。


「野郎、とんずらしやがったな」

「えっ」


 ステラが、その意味を尋ねようとすると。レイダスが無造作にステラの手から剣をもぎ取って、フェイスに向かって投げた。


「ちょっと」


 抗議の声を上げたかったが、言葉は発せられなかった。

 なぜなら、剣がフェイスに刺さる事はなく、通り抜けたからだ。


「どういう事……」


 近づいていくと、地面に魔法陣が彫られている事が分かった。

 呪術だ。

 要するに、ステラ達は幻を見ていたのだ。

 やられた。

 

 再度突入した遺跡内での戦いでは、ステラ達は完全に裏をかかれてしまった。


 奥の台座には、動物の牙が紐でくくられた首飾りが置いてあった。


 似たようなものを見た事がある。

 あれは王都の遺跡での事だ。

 あの時は、月のペンダントがあって、それを切れば魔物の出現が止まったのだったか。


 なら、これは?


 瞬間、遺跡が振動し始めた。

 これも似たようなものを感じた事がある。

 やっぱり王都での遺跡での事だ。

 崩落する時のそれと全く同じ様子なのだ。


 ステラは急いで、その台座に置かれていた物を剣で真っ二つにした。

 だが、遺跡の振動は止まらない。


「ああもう、どうしてこんなところまでそっくりなのよ」


 嘆きつつもステラは負傷者の手当てをしていた仲間に声をかける。


「アリア、貴方ペンダントを持っていたわよね。それ持ってこっちに来てくれる?」

「え、はい。良いですけど……」


 遺跡の様子に隊員たちをまとめようとしていたアリアを呼びつけて、ステラは脳裏に浮かんだ手順を彼女に伝えてそれを行わせた。


 台座に、形見であるペンダントを置いてアリアが昔この国で使われていた言語を言葉にする。

 すると、今までの事が嘘だったかのように遺跡の揺れが収まっていった。


「これは、一体……。どうしてステラさんはこんな事を知っていたんですか」

「後で説明するわ。それより、とりあえず遺跡から出ないと」


 疑いの様子はなく、ただ不思議そうにするアリアの様子に感謝しつつもステラはこれからの事を考えていた。


 フェイスの姿がここにないと言うのなら、どこに行ったのか。

 胸騒ぎがした。

 まさか、という思いがあった。


 そんな予感を証明するかのように、その場に新たな人物が現れる。


「ママ!」


 シーラと、そして付き添いについてきたのだろう弟のヨシュアだ。


 腰辺りに飛びついてくるシーラの頭をなでながら、ステラは弟へと尋ねる。

 保険であるはずの一人がここに来る、その理由は一つしかない。

 何かあったのだ、向こうで。


「姉様、フェイス・アローラが王宮に侵入してきたんです」



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