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第37話 再びの遺跡



 星降りの丘


 色々と王宮で話し合った数日後、ステラ達は再び星降りの丘へとやって来ていた。

 今度は以前の様なメンバーではなく、戦闘を見据えて集めた者達で、数も以前よりかなり多い。


 ステラ、ツェルトは当然として、アリアやクレウス、それぞれの隊の隊員達と、そしてリートやレイダスなどがいる。後はゲストでユリシアだ。


 仕方のないこととはいえ、見ての通り主戦力のほぼ全員が王宮を開ける事になる。

 自分達がいない間の王宮の留守が心配になるのだが、そこは一応保険を用意してきた。

 元勇者の仲間であったレットに、そのレットの弟子のヨシュア、他にもこれまで知り合った腕利きの知り合いに声をかけたり、おまけに王都の学校の怠け者教師も呼びつけたりしたので、何かあっても彼らなら何とかしてくれるだろう。


 と、そんな事を考えつつも、けれどやはりできるだけ早く帰れるようにしようと思い、ステラは遺跡の入り口の方を向く。

 そこにはつい先日逃げた時に塞いだ穴があったのだが、侵入の為に今は再び開けられている。

 懸念していた魔物の姿は一匹もない。

 つい先程は、塞ぐために使った岩屋ら土砂やらをどける時に、身構えていたのだが気配一つすらない光景に拍子抜けしたのをよく覚えている。

 いないことに越した事はないが、先が楽だと後が辛くなりそうで少し怖かった。


 今は余分な土砂を避けて、その空き時間でそれぞれ騎士達が装備を点検したり準備している最中なのだが、ステラは他の者達より手早く済ませてしまったので、時間が空いてしまっていた。


 する事がないので、仲間たちへ声でもかけようかと思ったのが、何となくぼうっとしているうちに今みたいな考え事をしていたらしい。


 改めて周囲を見回す。

 昔、星が降ってきたと言われている場所を。 


 当然ステラが見る限り、周囲に空から落ちて来た星なども、そのような形跡もまるでない。

 少し前、王宮へ帰る際に光が落ちてくる景色を見はしたが、それは星などではなく世界の欠片という物体なき存在だったし。


 だが、と思う。この間の様な事が昔もあって、この場所は星降りの丘と名付けられたのかもしれない。

 ステラが見たのは昼間の事だったが、空から無数のきらめきが降り注ぐあの光景は、確かに星が降ると形容してもいいような景色だった。

 昔の人たちの感性が今の自分達と同じだと確かめる術はないが、想像できる分なら同じ景色を見た遥か古の先祖達が、きっと空の下でそう思っただろうという事は予測できた。


「本物の星だったら、願いをかければ一つくらい叶いそうだったけれど」


 降り注ぐ星の様な光の雨を見て、それらをもったいないと思ったのはステラだけだったろうか。

 あの光が星だったのなら、これ以上ないくらい願掛けには最適だったのだが。 


「なんだよステラ? 叶えたい願いでもあるのか? 俺はちゃんと傍にいるぜ、今もこれからもずっと」


 空を見上げるこちらに気づいてか、ツェルトが話しかけてきた。


「そうね。だけどお互い任務とか色々あるでしょう? だからツェルトとなるべく多くの時間を一緒にいられたらいいなって……」

「否定されるかと思ったのに、一緒だった! 不意打ちで嬉しい事言ってくれるなよ、ステラ! 俺も同じ気持ちだぜ」


 テンションが上がったらしいツェルトはこちらの頭を撫でたり抱き着いたり、いつものようにべたべたしてくる。

 他の人の目がある時は自重してと何度も言ってるのだが、彼はずっとこうなのだ。

 今日くらいは良いかなと思うので今は何も言いはしないが。


「好きよ、ツェルト」

「お? おおぉ? 本当にどうしたんだステラ。何かすげぇ嬉しいけど、いつもはそういう事言わないよな」

「いつも言ってないからよ」


 大抵の場合は気持ちを伝えてくるのはツェルトからだ。

 ステラは彼に聞かれたり、促されたりした後で言うのが普段のパターン。だから、たまには自分から言いたいと、そう思ったのだ。


 彼が喜ぶ事をしてあげたい。

 もっと喜んでもらいたい。

 それが剣に生きて進んで来た今までのステラではなく、新たな道を少しずつ歩いてきたこれからのステラの、原動力となるのだから。

 

「ねぇ、ツェルト。帰ったら、私にあなたの事占わせてくれる?

「ん? ああ、いいぜ。ユリシアに習ってたんだろ? むしろ何で今まで言ってくれなかったんだって思ってたくらいだ」

「ごめんなさい、でも……厄災の運命を背負っている私が誰かを占ったりなんかして良いのかと思って……」

「占ったくらいで人に運命が移るとか、ステラは心配性だな」


 しょうがないじゃない。私の運命が筋金入りだって事は、私自身が一番よく知ってるんだもの。


 だから、今までユリシア以外に占いを試した事がなかったのよね。

 新しい趣味を持ってそれをやってみたい気はあったが、怖かったのだ。


 運命が邪魔をしているとはいえ、まともに自分の事も占えない人間が他人を占っても良いのかと。


「ステラって昔からそうだったよな。変な所で他人に遠慮してるとことか」

「そうかしら?」

「そうそう。学生時代に忙しかったってのもあるし、大変な時に傍にいてやれなかった事もあるけど、悩みとか俺に話してくれなかっただろ?」


 確かにそうだ。

 フェイスのストーカーの事とか、一言もツェルトに話していない。

 忙しそうだったからと遠慮していたけど、もしツェルトに話していたら違っていたかもしれないのに。


「そんななのに、全然関係ない他人の面倒見てたりな、心配だったんだぜ」

「私、そんなに良い人間でもお人よしでもないわよ」


 あくまで自分で出来る範囲で出来る事をやってるにすぎないのだし。


「いや、ステラは凄いと思う。優しいと思う。ふつう人間ってそんな風に他の人間までちょくちょく気を回していられないもんだと思うんだよな。ましてや自分が大変な時ならなおさら。ステラにはもうちょっと自分を大事にしてほしいと思ったくらいだ」


 けれどステラが思った以上に彼には、心配をかけてしまっていたようだ。


「ご、ごめんなさい」

「あー、俺が言いたかったのはステラをへこませる様な事じゃなくて、ステラ超凄いって事だよ。俺はそんなステラを好きだけど、一人の人間として恰好いいやつだって思ってるんだぜ。立派だって。ずーっと昔からそう思ってた」

「そう、だったの……?」

「ああ、本気」


 普段ふざけているのに、たまに真面目になると怖いくらい真っすぐに意思を伝えてくるから、ちょっとどうしていいか分からないのよね。

 こういう所は、あの精霊の力を使っている時のツェルトとよく似ている。

 いや、多分これが彼の素なのだろう。


「だから、きっとここまでこれたんだ。これからは巻き込むとか、うつるとか……これは何か違うか? とにかく変な遠慮なんかするなよ。俺もあの頃みたいに、ステラには秘密なるべく作らないようにするし話すからさ」

「うん……」


 ツェルトに頷いた後。そういえばと、ステラは王宮にいるだろう友人の言雄を思い浮かべた。


「これが終わったら色々話さなきゃな、また。俺達だけじゃなくて、他の人達とかもさ」

「そうよね」


 カルネはまだ抱えている問題を解決できてないみたいだし、ニオも何かを悩んでいるようだった。

 王宮に帰ったら、皆とちゃんと話す時間を作るべきだろう。






 星降りの丘 遺跡前


 それから十数分後、もろもろの準備が整ったのでステラ達は遺跡の前に集まっていた。 


 その中の桃色の髪の少女へと話しかける。


「ねぇアリア、貴方形見は持ってる?」

「え、はい。持ってますけど。それがどうかしたんですか?」

「なんでもないの、それならいいのよ」


 もうあの知識の世話になるような事などないと思っていたのに、まさかの再来だった。

 思い出したのはついさっき。

 ステラが前世にやっていたゲーム『勇者に恋する乙女』のトュルーエンドに関わる知識だった。


 役に立つ場合は一部を除いて大抵不吉なことだったり、危険な状況だったりするので、ステラとしては早々忘れたかったのだが、そう言うわけにもいかないので、ヒロインであるアリアに確認したというわけだ。


 不思議がる彼女には悪いが、こればかりは実際に困った事になるまでは容易には説明できない。


 そんなやり取りをした後、ステラは入り口に集まった者達へと改めて声をかける。


「準備はできたわね。これから遺跡の中へと入るわ」


 意識を切り替える。何度もやった事だ、

 勇者として、隊長として堂々とした態度で行うそれはもう慣れたものだった。


「さあ皆、行くわよ。フェイスを見つけて捕まえて王宮に帰る、私達がやる事は難しい事じゃないわ。それだけを考えましょう」


 そうして話を締めくくった後は、二度目となる遺跡の中へと、再び足を踏み入れる。 


 もちろんステラが彼らの先頭となって、だ。


 隊列を組んで遺跡の内部を進んで行く。

 しばらくは何事もなかった。

 途中で魔物が出現して不意に襲われるなどという事もなく平和的な道のりであった。


 だがそんな平和が長続きしないであろうことはもうこれまでの経験則で十分分かっている。

 警戒を緩めるような事はしなかった。


 この先には何かある。間違いない。

 数々の災難に巻き込まれ続けて来た、ステラの直観が告げていた。

 この遺跡の空気を感じで、何かが起こると。


 空気を読まないレイダス辺りが不満を言って、リートに窘めれたりしながらも、やがてその場所へとたどり着く。


 一度目に立ち往生した場所だ。

 

 目の前には入りくんだ通路が縦横無尽に張り巡らされている。

 右に左に、上に下にと。

 そこにあるのは空中迷路だった。


「ユリシア、お願いね」

「分かりましたわ」


 普通に挑めばまず間違いなく迷えるだろうその場所で、ゲストとして就いて来たユリシアの力を借りる。

 そう言えばここらへんでシーラと出会ったのだが、結局どうしてこんな場所にいたのか分からないままだ。


 彼女に魔法を使ってもらい、正解を探してもらう事数十秒。

 ほどなくしてユリシアが声を上げた。


「見つけましたわ」

「ありがとう、じゃあ案内をお願いね」

「ええ、任せてくださいな」


 自信満々に胸を張って歩き出すユリシア、その指示に従ってステラ達は歩いていく。

 ……のだが、困った事に彼女がたまにドジっ子属性を発揮して、道を間違えたりもした。


 大抵は数分で正解への道へ戻る事が出来るのだが、ユリシアは何度も間違えを積み重ねていく現実に次第に涙目になってへこんでしまった。


「も、申し訳ありませんわ。(わたくし)としたことが……」

「はっ、余分に歩かせんじゃねーよ」

「申し訳ありません……、それで、あの……この道も」


 謝りつつもユリシアが、今歩いている道ではなく一本下にある道を指し示す。

 ここも間違いだったらしい。

 正解は、ざっと三メートルほどの距離にあった。


 正解の道が分かるだけでも助かっているし、ステラとしては少しぐらい困っても別にかまわない。 だが、レイダスはそうは思わないようで先程からチクチク言葉に苛立ちを混ぜてぶつけていた。


「うぅ、これではエルランド様に胸を張って引き受けた意味がありませんわ」

「ユリシア、大丈夫よ。貴方がいなかったら挑むどころじゃなかったんだし、これでも十分助かってるのよ」

「ですけど……」


 涙目の彼女を宥めながら、元来た道を戻ろうとするステラ達だが、それに反対するのはレイダスだ。


「んな、ちんたらしてられっか」

「文句言わないで、私達が奥へ進めるのはユリシアのおかげなのよ」

「だから道草食うのも我慢しろってか、はっ、カメじゃあるまいし」


 そう言うレイダスは、ひょちっと身を躍らせて、下にある通路へ飛び降りる。

 どうなってるか分からない、何があるか分からない遺跡で、だ。


 彼が数秒後何事もなく、本来進むはずだった道に着地するのを見てステラは驚きを通り越して呆れたくなった。


 よくそんな行動にとれるものだ。

 警戒心よりも気の短さが勝るとは。

 

「ふむ、何もなかったようだな。そういえば前に似たような事があったな。あいつが短時間で学校まで助太刀しに行ったことがあっただろう。あの時はこんな具合にショートカットしていったんだ。サルみたいにひょいひょい行くもんだから、お前たちに見せてやりたかったんだが」


 眼下にいる黒紫の猛獣の安否を確認したリートは、一つ頷くと。ちょっと前にステラが不思議に思った事について種明かししてくれた。それは王都の騎士学校で事件が起きた時の事だ。つまりレイダスはあんな風に、王都の町に並ぶ建物の、屋根やら塀やらを通って学校まで来たのだろう。


「む、大丈夫そうだな。行くか」


 眼下にいる彼に何ともないのを見たリートは、まったくためらう素振りを見せずに、さっさと彼と同じように下まで飛び降りて行ってしまう。


「どうした、早く来ないのか?」


 不思議そうな顔で着地点から見上げ、こちらに追従してくるよう催促するリート。

 あらためてレイダスの監視役としてこれ以上ない逸材だと思った瞬間だ。


「迷路でそういうショートカットをすると、ちょっとズルしてる気になっちゃうのよね」

「あー、俺も何かそんな気するなあ。アレだよな、壁壊して突き進むみたいな感じだ」


 そういうショートカットもやってるのがリートやレイダスだったら、絵的にはまったく違和感はないが、たまにその場所に当然の様な顔で自分達を誘わないでと言いたくなる。


 とにかく何の問題もないと分かったのなら、余計な時間と体力をわざわざ律儀に使う事もない。合理的で安全あるのは実証済みなのだ。仕方なしステラ達もレイダス流ショートカット術を駆使しながら、後へと続いていく事になった。



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