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第32話 隠された王宮の秘密



 王宮


 帰りも「じゅじゅつ」を使って……というわけにはいかず、馬車で通った時と同じだけの日数をかけて、王宮に戻ってきた。


 その道中、星降りの丘の近くを通ってくる時に、空から星の様な光(という見た目の剥離した世界の欠片。大精霊から聞いた)が降って来るのが見えたり、シーラがそれに見とれてはしゃぎ馬車の窓から落ちそうになったり、ツェルトが時々なぜか神妙な顔になったり、隊員達の夢見が悪くなったりと色々あったが、一応ステラ達は無事に帰還した。


 王宮へ戻りまず連れて来た領主を引き渡す。そして騎士団で引き受けた任務をツェルト達が報告して色々と片付けた後に、ステラ達の方は各自の用事を片付けた者から順に集まった。


 王宮の中。話し合うために開けられた一室では、ステラを含め他三名の人間がいる。

 エルランドと、彼について言い合いをするニオとユリシアだ。

 ユリシアは今回の話し合いには参加しないらしいが、空き時間にニオとエルランドの仲を邪魔したかったのかつい先ほど部屋へとやって来ていた。


「エル様はこれから大事な話があるんだから、ユリシアはどっか行っててよ」

「ええ、ちゃんと行きますわよ。その話とやらが始まる頃合いには」

「今も邪魔なの!」


 揃う度にそんなやり取りをする二人を眺めながら、仲間たちが集まってくるまでの時間をつぶす。馬車の中でツェルト達に話して聞かせた事を、思い出したりしながら。


 それはムーンラクト領へ行く前の出来事。

 幻惑の森で大精霊から聞いた話の事だ。


 そこで聞かされたのは、世界を構成する欠片がどんどん剥離していっているという事実だった。

 今の所はまだ大丈夫だが、それが進んでいってしまうと、ステラが前世に住んでいた世界の情報や、こちらの世界の情報が、互いの世界の人達の元へと渡ってしまうらしい。


 それだけ聞いたならば、別に困る事などないだろうと思うが、大精霊が言うにはそれは世界が削れている状況らしく、目に見える影響としては分かりづらいが、このまま進行すれば大変な事になるのだと言う。


 はっきり言えばステラにはまったく事の深刻さが理解できなかったが、何やら世界は本当に危ないらしかった。

 早急になんとかしろと、大精霊から何度も言われた。

 契約してからはそんな風に時々声が聞こえたりして、ちょっとうるさくて困るのだが、そんな事言ってる場合でもないだろう。


 それで、なぜそんな事が起きたかというと、原因はフェイスにあるという。


 主にステラ達が学生だった期間の事だが、たびたび幻惑の森に足を運んでいたらしいフェイスは、自分の手足となる人間を集めたり、精霊を捕えたりしていたらしい。その様子を見ていた大精霊は彼が何をしようとしているのか気が付いたと言うのだ。


 フェイスは、操った人間に協力させ、精霊を使い、大昔に死んだ伝説の存在(魔物でありながら勇者を助けたという)黒き聖獣を復活させようとしているらしい。


 どういう力なのかステラにはさっぱりなのだが、その聖獣には世界を揺らす効果のある技、咆哮が使えるという。その咆哮の力とやらで、世界の剥離が進んでいっているかもしれないらしい。

 フェイスが結果的に何を復活させたのか、それが成功したのかも失敗したのかも直接見た者はいない。


 だが、世界の状況を見た大精霊は、聖獣の力によって世界に何か大変な事が起こっているに違いないと言う。


 大が付くくらい偉い精霊なら、そこら辺をもっと詳しく知っていて欲しいし、事情を分かりやすく説明してくれてもいいのではないかと思うのだが、それはとりあえずおいといて。

  

 ともかくフェイスが何か大変な事をしようとしているらしい、という事は分かった。

 幻惑の森でそのような情報を掴んだステラは、学校で余計な事に巻き込まれた後に王宮に戻り、エルランドに話を通して、ツェルトを助けに行くまでは対策を考えていた所だったのだ。


 あのフェイスが、どういった理由でそんな事をしているのかは分からない。

 世界の破滅を望んでいる様にしか見えないが、そうしたら自分の身も危険だという事は分からないはずはないだろう。


 だがあれこれ考えても仕方がない。

 フェイスの一部しか知らないステラでは、そもそも推測するための情報がない。なので分かるはずがないのだ。


 そんな事を頭の中で思い返している内に、いつの間にかレイダスやリートが来ていた様だ。

 そして……。


「はぁ、報告って毎回面倒だよなぁ」

「そうですか? 私は帰ってきたと思えて少し安心しますけど。そういえば報告書、怒られてましたね」

「報告書の書き方の基礎からまず勉強しなおした方が良いんじゃないか? いつも副隊長の彼女に任せきりだろう」


 部屋にツェルト、アリア、クレウスがやってきた。

 これで全員集合だ。

 入れ替わりにシーラの面倒見を頼まれたユリシアが、部屋から出ていく。


 エルランドは居並んだ面々を見まわして口を開いた。


「まずは、忙しい中集まってくださりありがとうございます。ツェルトさん達やステラさんはお疲れさまでした」


 丁寧な口調で感謝の言葉をかけられて、まずは労われわる。


「ここに集まってもらった目的は、すでに分かっている事だと思いますが、フェイスの行動への対策を練る事です。とある筋から現在フェイスは星降りの丘の遺跡にいるという情報を掴んだので、これを機に再度遺跡へ貴方達を派遣したいと思っています。けれど……」


 エルランドは言葉を一度区切ってから、続きを口にした。

 強い光を宿す瞳と別に、表情はどことなく悲しげに見えた。


「先にこれから僕達が知っているフェイスの情報についてお話します。ここでするよりもっとふさわしい場所があるので、そこに移動しながらになりますが……」





 王宮 地下


 エルランドやニオの表情が普段よりも固い。

 王宮の中の普段はまったく使わない通路を移動していきながらも、二人の顔を見つめたステラはそんな感想を抱く。


 まるで何かこれから良くない話でもするかのようだ。


 ステラ達が向かっていく先……目的地は王宮の建物の真下だった。 


 一階よりも下へと続く階段を降りる。

 灯りとなる光源がない地下空間を、ランタンを持った兵士が新たに前後について、揺れる炎が周囲を照らしだした。


 見る限りその場所は、何となく王都にある遺跡や星降りの丘にある遺跡と印象が似ているように思えた。作った時期が一緒なのかもしれない。なんとなく漂ってくる空気、満ちている雰囲気の種類も同じような気がする。


 そうして歩いて行きたどり着いたのは、驚く事に見覚えのある場所だった。

 牢屋だ。囚人が入れられるような牢屋が並んでいた。


「埃臭ぇし、カビ臭ぇな。こんな辛気臭ぇ場所に何の用があんだよ」

「レイダス、それくらい我慢しろ。用があるから来たのだ」


 レイダスが鼻を鳴らし、リートが注意を飛ばす。


 埃が積もっているし汚れがついているのだが、ステラにはそこがどこなのかすぐに分かった。

 忘れられるわけがない。

 あんな事があった場所を……。


「ここ……」


 現実で見たものではなく、夢の中で見た光景。

 普通の夢ではなくフェイスによって魅せられた夢の中の……。


「ステラちゃん知ってるの?」

「知ってると言っていいのかしら……、この景色……夢で見せられた場所なのよ」


 疑問に首を傾げる者達へと、ステラは夢の話をかいつまんでざっと説明してやる。

 学生時代に起こったあの出来事で、つい最近にもツェルトに話してみせた事だ。

 いきなりこんな光景を見せられていたら、うまく説明できていた自信はなかったが、数日前にツェルトに聞かせたおかげか、割とスムーズに内容を伝える事が出来た。


「フェイスって、ステラちゃんにそんな事してたの!? あのストーカー、信じらんない!」

「学生の時にも聞きましたけれど、まさかそんな事まであったなんて」

「信じられないな。ツェルトは……、ああ、様子を見るに事前に聞いていたようだな」

「まあ、な。つい最近だけど」


 皆口々に色々心配してくれる、嬉しいとは思うのが、心配をかけてしまったという罪悪感の方が大きい。

 そういう反応が返ってくるだろうからあまり言いたくなかったのよね。

 レイダスあたりが話に参加してこないのが、少し救いだけど。


 こういう時は、その性格がありがたくなる。


「私は大丈夫よ。もう数年も前の事なんだから。それより話を続けましょう」

「でもぉ……」

「ニオの気持ちだけで、十分嬉しいし救われてるわよ」


 フェイスの事を一番甘く見ていたニオは、強く思う所があるのかもしれない。が、ステラは別に気にしてないし、話を進めなければいけないのは事実だ。

 礼を言って安心させるように笑いかけると、渋々と言ったように引き下がる。表情は変わらないままだが。


 そんなこちらの意を汲んでくれたように、ツェルトが声をあげた。


「じゃあそれだと、ステラが見た夢の場所はただの作られた幻なんかじゃなくて、存在していた場所を参考にしていたって事になるんだよな」

「そうね……、今思えばただの犯罪者が考えるにしては設定が細かかった気もするのよ……現実味があったと言えばいいのかしら……」


 貴族の見世物に研究。

 フェイスは犯罪者なので、牢屋に入った事があってもおかしくはない。だが、それにしては奇妙に感じられる点がいくつかあったのだ。


 目の前にある景色とフェイスとの関係に悩むステラ達に対して、答えを述べるのはニオとエルランドだ。


「こんな所に連れて来ちゃってごめんね、ステラちゃん。実はここね、昔罪を犯した人を収容していた場所だったんだよ」

「現在と違って、かつては……王宮は罪を犯した人間をここに収容して、様々な非道な行いをしていたのです。今からお話しする事は、王宮の汚点……先代の王達が世界から苦労して消し去った、裏の歴史となります……」





 ソル・ミレ二ムアの王宮には、その昔秘密があった。

 罪を犯した罪人を、貴族たちの見世物として魔物と殺し合わせ、賭けの遊戯の様なものをやったり、薬の開発や病の究明の為、人体実験を行っていた。


 賭けで得たお金は、王家のお金となり市民が豊かに暮らしていくための礎とされた。

 そして、実験で作られた薬や解明された病気の仕組みは、人々の健やかなる成長と健康へと役立てられた。


 けれど、その二つの行為には隠れた第三の目的があったという。

 貴族しか使えない魔法を平民でも使えるようにできないか、という目的。


 実験で被験者を弄び、魔物との実戦で効果を測る。

 そんな非道な行いが百年以上も続けられた。


 いずれそれらの試みは何代目かの王によって止められることになり、場所も閉鎖される事になったのだが、結果は単に失敗では終わらず、予想しえないものを生み出していた。


 それが呪術だった。

 代償こそ必要であるものの、強力な力をもたらすそれは貴族でなくとも使える力だった。


 しかし結局は力の研究は被験者の逃亡でとん挫してしまい、そこから先へと進まなくなってしまう。

 朝の勇者や夜の魔女が生きていた時代に、王宮の試みによって生み出されたたった一人の、魔法以外の力……呪術の行使者。


 その者の名前はフェイス・アローラ。


 人を操り、犠牲の山を築きながらも、今に至るまで行方をくらませ続ける大罪人の名だった。





 そこまで話を聞き終えたステラ達の間に沈黙が満ちる。

 最初に言葉を発したのはアリアだった。


 心優しい彼女にとっては、上の立場に立つ人間が非道な行いに加担していた事が許しがたかったのだろう。その苦しんだ人間が、犯罪者であったとしても、


「王宮が、そんな事をしていたなんて……、それじゃあ」


 隣に寄り添うクレウスの腕に捕まる彼女を見れば、つい数日前に領主に向かって剣を振り上げていた人物とは思えない。


 言葉の後をひきとるのはリートと、レイダスだ。


「つまりフェイスは、我々王宮が仕出かした悪魔の所業の産物……身から出た錆という事になるのだな」

「はっ、傑作じゃねーか。テメェの首をテメェで締めてんだからよ」

「うるさい、レイダス、不敬だぞ」

「テメェだって言ってんじゃねぇかよ」


 その言葉を受けて、一同へ謝罪を述べるのはエルランド。


「申し訳ありません、王家の者として、先祖の咎とはいえこのような非道な行いに手を染めた事を謝罪します」

「え、あ……そんな。私は、エルランド様は悪くないと思います。頭を上げてください」


 自らが発した言葉に、一国の国王が頭を下げたのを見てアリアは見ていて可哀想なくらい慌て始めた。


 ステラには完全に分からない事だが、エルランドは国の王としてずっとこんな事実を抱えて誰かに謝る機会を待っていたのではないかと思う。


 やり直せない出来事を目の当たりにしたときに、後悔するのは皆同じだ。それがどうやっても取り戻す事が出来ないものだとしたら、できるのは謝って気持ちの整理をつけ、前に進んで行くことぐらいなのだから。


 優しい王様はせめてそれだけはしたいと思ったのだろう。

 ステラも、ツェルトを怖いと気持ちを抱くようになった過去は消せなくても、謝って先へと進んで行こうと思ったのだから。


 アリアは、数秒考えてから目の前にいるエルランドへ口を開く。


「……こんな事言っても良いのか分かりませんけど、悪いのは、それを始めた昔の人たちであってエルランド様ではないと思いますし」


 聞き様によっては王族への誹謗中傷にとられかねない言葉だが、アリアはそう述べてエルランドの頭を上げさせる。


「私は、さっきの話を聞いて悲しかったですけど。この国を良くして下さったエルランド様には感謝してます。だから頭を上げてください」

「ありがとうございます。アリアさん」


 しかしおかしな感じだ。

 魔法の代用にと考えられたものが、多くの者を苦しめてきた呪術だというのだから。


 その研究がちゃんとしていれば、呪術は呪術ではなく正しく魔法の代用になっていたのだろうか?

 例えばシーラが使う「呪術」のように代償なしで行えるような……。


「しかしこうしていると不思議な心地になってくるな」


 考え事をしている途中で、クレウスが感慨深げに声を漏らすのを聞いた。

 彼はなにやら納得しかねるとでも言いたい様な、そんな難しげな表情をしている。


「大昔の人間が生きていて、なおかつその人間が一応とはいえ生きているなど……普通なら信じられないと思うのだが、君達は飲み込みが早すぎやしないか?」


 彼としてはまだそこから考えなければいけない話のようだった。

 言われてみればまずそこに驚くのが普通なのよね。


 だがステラとしてはそんな事今更だ。


 リートも同じだろうが、魂の転生のあれこれについて知ってしまっているのだから、そんな事もあるのだろうと思えるし。


 アリアは、主人公だしどことなく話を真に受けやす素直な性格をしているから、違和感など感じていないのかもしれない。

 ニオやエルランドはそもそも国の人間で直接当人を目にしたこともあれば情報も知っていたのだから当然だろうし。


 ツェルトは……。

 視線を送る。


「いや、なんかステラと一緒にいればそんな事もたまにあるのかなと思ってなあ」


 そんな感じらしかった。

 クレウスはそんなこちらのやり取りを見た後、自分の彼女へと視線を注いで頷いた。


「なるほど、確かにアリアを見れば納得できるな」

「もうっ、クレウスひどいです!」


 納得してくれたようで何よりだ。

 こういう時トラブル体質の数少ない利点があるのよね。


 ともあれ、新しい情報が一つ入り、謎が一つ解けただけで、まだ話し合いたい事は一つも終わっていない。


 これからステラ達は今得た事を元に、対抗策やら何やらを考えなけばならないのだ。


「小難しい話なんぞ、付き合ってられっか、腹ぁ減った」

「レイダス、お前は空気を読め」

「テメェ本意で動くテメェが言える事じゃねぇだろーが」


 ……だというのに、いつも通りのその二人が少し羨ましくなった。


 話し合いは当然すぐには終わらず、それから数時間に及ぶことになった。




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