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第13話 高台の家



 路地に向かったきり一向にユリシア達は戻ってこない。

 十分ほど経過しても、人影らしきものも何も見えなかった。


 何かあったのかしら。


 不安になったステラ達がそちらへ向かっていくと。


 ユリシアの持ち物が一つその場に落ちていた。

 これはあれだ。イベントだ。

 これ以上なくらいイベントフラグだ。


「大変です、皆さん。事件の匂いがします」

「これは事件だね」

「いえ、まだ事件とは決まったわけではないかと……」

「じけんなの? ママ」


 アリアが顔を青くし、ニオが頷く、カルネは状況に懐疑的な様子でそもそもシーラは分かっていないようだ。


 でも事件事件って言わないでほしい。

 ちょっと泣きたくなるから。

 オフの日でも、難事に巻き込まれることが決定してしまうではないか。


「これって、けっこう重大事だよね。認めたくないけど、あの子が本当に婚約者であることに変わりはないし」


 ニオがユリシアの持ち物である紙袋を拾う。

 中身は立ち寄った店で買った飾りの置き物だろう。

 袋の中を開けて見てみるが、梱包材の綿と包まれていた飾りの小物があるだけで、手掛かりになりそうなものはなかった。


「もう、エル様の婚約者って自覚が足りないんじゃないの。持ってほしいわけじゃないけど」


 憤りつつもニオは心配しているようだった。


 見た感じはそうでもないがユリシアはこの国の王の婚約者だ。

 そんな人物がいなくなってしまったとなると、重大な事件になってしまうだろう。

 早く行方を突き止めなければならない。


 とりあえず、自分達で近くを探してみる事にする、

 可能性は低そうだが、ちょっとその場を離れただけ、という線もなくはないし。


 しかし、


「見つからないね。もうユリシアってば、手間がかかるんだから」


 強がりつつも段々と心配な気持ちが表に出つつあるニオ。その呟きを聞きつつ、ステラは王都の町を歩いて探す。


 二人が向かって言った方向へと進んで行くと、見晴らしのいい高台にたどり着いた。

 途中で入り組んだ道やら、途中で建造がとん挫した建物の横やら、いわくつきそうな古びた幽霊屋敷の前を通ったので、いろんな意味で戻れるかどうか不安だ。


「王都にこんな所があったなんて……」

「ニオも知らなかったよ」


 アリアとニオが驚き目の前の光景に目を見張る。

 王都に比較的詳しい彼女達でも知らない場所のようだ。


 高台は緑の草が生い茂る草原になっていて、一軒の家を除いて周囲に建物はない。

 遮蔽物がないからか、町中にいるよりもずっと風を感じるし、空も近くに見える。


 そよぐ風に合わせて、さらさら揺れる草を踏みしめながら歩いて行く。

 そこに建っている家の前に探していた人間の姿はあった。


「ユリシア、こんな所で何をしているの?」

「あら、先に戻ってはいなかったのですの?」

「自分の立場考えてよね、婚約者放っておいて戻れるわけないでしょー。そんな事したらニオがエル様に怒られちゃうんだよ!?」


 近づいて尋ねるとユリシアは驚いたように言葉を返すが、ステラとしてはニオに同意見だ。

 肩を怒らせながらユリシアに近づいて、日ごろのストレス分もまとめてぶつけるニオ。


 それと同時に、


「ユリシアお姉ちゃん、ママたち心配してたよ」

「そうです、荷物が落ちていたので、私達は何かあったのではないかと」

「私も心配で……。もちろん一番心配してたのはニオさんですけど」


 子供であるシーラに告げられ、カルネから落とした紙袋を渡され、アリアがちょっとした真実を伝えるとさすがにユリシアも表情を改めて頭を下げた。

 

「少しばかり、冒険しすぎたようですわね。心配をかけたようで、申し訳ありませんわ」


 でも、とユリシアは高台にぽつりと建つ家を示す。


「あの方と個人的な話をしている最中に周囲の景色がシーラちゃんの言っていた景色とそっくりだったのに気が付いて、こんなところまで来てしまったというわけですわ……、ですけど、相談くらいするべきでしたわね」

「シーラの家を探してくれていたの?」

「もともと今日はそのような予定もありましたでしょう」


 ちょと驚いた。

 それでこんな離れた所まで足を運んでしまうとは、途中で迷子になるかもしれないとか思わなかったのだろうか。


 そう言えばライドの姿が見当たらないが。


「少し目を離した隙に、どこかへ行方をくらませてしまいましたわ。わたくしとしたことが「あそこに何か飛んでる」なんて見え見えの罠にひっかかるなんて」


 同じような事を言う人間がステラが通っていた学校にもいたが、確かにそんな言葉にひっかっかったら相当悔しいだろう。ちなみにその人物はステラの担任で先生だ。なおかつそれが卒業試験の時、負けそうになった時の苦し紛れの言葉だった。


 まあ、ライドや学生時代の教師の事はこの際置いておこう。

 問題はシーラの方だ。


「あの家がシーラの家かもしれないのよね。シーラどう? 見覚えとかありそう?」


 ステラ達は、シーラの反応を見る。


 自分達がいくら聞いても容量を得ない情報しか聞き出せなかったのに、そんな断片的なものだけで結果はどうあれ、一軒の家をつきとめるなんて。

 パズルとかが得意な人ってそういう事も得意なんだろうか。


「んー。シーラの家とちょっと違う。でもすごく良く似てる」


 シーラは夢中になって、家へと走りよっていく。

 一人で行かせて何かあっては困るので、ステラ達も急いで後に続いた。


 扉に鍵が駆けられていない。人の気配はなく、誰かが住んでいる様にも見えなかった。

 家の中は埃っぽくて、使われなくなってからはもう何年も経っているような有様だ。


 家の中を見ていくと、一つの部屋の前でシーラが声を上げた。


「ここ、シーラの部屋だった。おっきなベッドと机が入ってた」


 だが、壊れて外れかかった扉の向こう、部屋の中は埃が積もっているだけで何もなかった。


「どういう事かしら……」


 冷静に考えれば、この場所はシーラの言えとよく似ているという事なのだろう。

 だが、王都にはシーラの記憶をたどれる場所があった。


 そう考えると一つの可能性が浮かんでくるのだが……。

 シーラとはぐれた後、何らかの理由があって両親達が家を手放さなければならなくなった……にしては時間の経過がおかしいし。


「ここで考えていても仕方がありません。後でこの家の住人いついて調査した方がよいでしょう。帰りには通り道に住む住人から聞き込みをするのもいいかもしれませんね」


 混乱するステラ達の様子を見て、カルネができる事をまとめる。  

 確かに、今できるのはそれくらいしかなさそうだ。


「シーラ、他に思い出せそうなことはない?」

「えっとね。この部屋でよくママに勇者の本読んでもらったよ、後は一緒にパパに精霊のお話してもらった」

「そう、楽しかったのね」


 まったく関係のない事だったが、楽しそうにしているシーラにそれを指摘するのは野暮だろう。


 そうやって思い出話しをしていると、天井から何か音がする。

 重い物が移動していくような音だ。


 規則的に響く。これは足音だ。


 誰かが屋根の上にいる?


 ステラ達はいったん家の外に出て、ステラとニオだけ屋根に上ってみた。

 そこには何故か、姿を消したはずのライドが寝転がっているではないか。


 ライドは、上がって来た二人に気づいて顔を向ける。


「ライド君? 人が下で真面目な話をしてたのに、何してたの?」

「ああ、活発ちゃん。どうだったんだ。成果は。これ、なんか少女ちゃんの家かもなんだろ」

「駄目だったよ。そんなの見ればわかるでしょ」

「だろうな」


 とんとんと、屋根を拳で叩いて、家の事を示す。

 話すライドはまるでステラ達のしている事が最初から空振りに終わる事を見越していたかのようだった。

 視線をそらした彼は空を見つける。


「いくら探したって無駄無駄。活発ちゃん達はあの少女ちゃんの家捜してるんだろ? そんなの見つかるわけ絶対ないの。これ本当の事だから。徒労ごくろうさん」

「何でそんなひどい事言うの! もうほんとに久しぶりに再会したのに、全然変わってない。この前と一緒で、むしろダメダメになっちゃってるじゃん!」


 ニオはずかずかという表現がふさわしいような足取りでライドに近づいていく。

 アンヌと一緒にいたときもこんな感じになったのかしら、二人って。

 そして


「ぐふ、活発ちゃん? あのー俺、おも……」

「女の子に対して重いとか言わない! 話をしている時はちゃんと人の目を見る!」


 ニオは、寝転がているライドの上にまたがって顔を両手で挟み込んだ。

 そういう事にうといステラでも、それはさすがにまずいんじゃないかと思った。


「久々に会った同級生の活発ちゃんがこんなに熱烈なアピールしてくるなんて、ちょっと驚いてるわ俺」

「茶化さない。心配してたんだよ。アンヌさんに持たせた手紙にあんな事書くなんて、しかも表じゃなくて裏に! 気づくの遅れちゃったじゃん!」

「俺としちゃ、気づかれないで捨てられた方が良かったわけなの。でも、そこんとこしっかり気づいちゃうのね」

「お仕置きっ!」

「ちょ、ま」


 何だろう。

 痴話げんか? ……ではないか、弟を叱る鬼の様に厳しいお姉さんって感じがするわね。


 ステラは何故か二人のやりとりを見てそう思ってしまった。

 ニオはエルランドの事が好きなはずなんだろうけど。

 こんな事してていいのだろうか。


 そう言えばステラも手の甲に口づけされたけど、あれはツェルト的にはどうなのかしら。アウトなのか、セーフなのか。


 やがて気が済んだのか、体を離したニオ。しかし、大きな紅葉模様を顔につけたライドをにらみつけているのは、ずっと変わらないまま。

 彼女に向けて尋ねる。


「ニオ、手紙の裏に何が書いてあったの?」

「犯罪者になって悪い事してますーって冗談」


 それは怒るわね。

 ステラがニオの立場でも同じ事思っただろう。


 手を上げるかは別として。


「もう、放っておこ。おーい皆ー。帰るよー」


 拗ねたような表情でニオは屋根から飛び降りて皆に話しかけている。

 ステラはなおも屋根に寝そべったままのライドに尋ねた。


「貴方って何がしたいの?」

「友達を冗談でからかったり、好きな女の子にアプローチしたりする面白い事をな」


 返って来たのはそんな学生時代にも聞いたようなふざけた答えだけだった。



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