第12話 女子会
その日は久しぶりに任務がない日だった。
仕事の存在自体はあるのだが、勇者であるステラの手を借りねばならないという予定がなかったのだ。
というわけで、息抜きをしようという話になった。
ちなみに話題に上げたのはステラではない。
ステラ以外の女子達だった。
打倒グレイアンを掲げて頑張っていたり、新しい王が就いてからも国の立て直てなおしに頑張ったりして忙しい日々が続いていた。それがやっと落ち着いてきたので、そろそろ皆で集まって何かやろうという事になったのだ。
遺跡の件がしばらく進展を見せなさそうなのをニオが見て(毎日エルランドの傍にいるから分からうらしい)、イベントの決行に踏み切ったという。
念のために待機しておいた方が良いんじゃないか、とステラなどは思うのだが。
「グレイアンの放った追手達とかから潜伏してた時もね、張りつめたままじゃいざって時に力を出せなくなっちゃうって経験だから。エル様も良いよーて言ってくれたんだよ。久しぶりだなーお出かけ。すっごく楽しみにしてたんだから」
ニオにそう言われてはステラも反論できない。
関係各所を走り回って日程を調節、仕事をいくつか前倒しでこなして、またいくつかは後日に追いやって、皆で集まり……女子会は実現したのだ。
なぜ女子、かというと男子がいないからだ。
さすがに実力者たちがこぞって王宮を開けるわけにはいかなかったので、そういうことになったのだ。
せっかくならツェルトやクレウス達も一緒に来れればよかったのにと思うが。
そればかりは仕方ない。
女子だけでも集まれるようにするのに、かなり苦労したようだし。
そういうわけで、ステラは久しぶりの私服に着替えて、王都の広場……では目立ちすぎるので裏通りにある勇者になる前に通っていた喫茶店に入り、落ち着いている。
薄桃色に塗られた外壁に、可愛らしい装飾看板の掲げられた小さな店は、美味しい甘味ものが有名な店だ。
アンヌほどではないが、美味しいクッキーやこの世界では高級品のケーキなどが売られているらしい。
ステラはその店の二階部分のテラス席に座って最後のメンバーを待っていた。
二席にある店のテラス席に並んでいる顔ぶれは、シーラ、カルネ、ユリシア、アリアと自分を含めた五人だ。(シーラの事は、せっかくだから両親の事や住所なども解決する為にと連れ出したのだ)
子供で、なおかつ王宮に勤めているわけではないシーラを除いたそれぞれは、普段見ない私腹を着用していてとても新鮮だった。
カルネは髪色と同じ色調でまとめたシンプルな服装で。
アリアは乙女ゲームの主人公にふさわしい可愛らしいフリルや装飾が色々ついた服装。
ユリシアは、貴族らしさを前面に出した控えめな色合いの、少し歩くのに不便そうな厚手の服装で。
ステラ自身は、カルネ寄りの服装で余計な装飾があまりないさっぱりとした黄色が基調の服装である。
そして最後に、シーラは笑顔に良く似合う鮮やかな色調の花柄の服を着ている。
本人が花が咲くような笑顔を見せれば、それはそれはもう良く似合った。
そうしてしばらく待っていれば、すでに待っていた面々に、活発そうな印象を受ける動きやすような服を着たニオが最後に加わって、女子会の始まりだった。
王都 喫茶店
すでに待ちくたびれた一同は思い思いにあまい物を注文してくつろいでいる。
その光景を見て、ニオが肩を落としたのは無理もない
「もう、皆ひどいよ。ニオ、忙しいのそっこーで終わらせてきたのに」
「何か急な仕事でも入ったの?」
「聞いてよステラちゃん、それがねー」
王宮内でユリシアの目撃情報があったから彼女は、女子会をすっぽかしてエルランドと密会しているのではないかと思い走り回ったのだが結局人違いだった、という話だ。
「ほんと、まぎらわしいんがからもう。でもそうしててもおかしくないって思っちゃうからやっぱり本物もわーるーいー」
「ちょっと、ニオ。こちらの紅茶にどれだけ砂糖を入れるつもりですの。飲めなくなったら貴方に無理やり飲ませますわよ」
「その時は避けるもん」
「避けないで反省なさいな」
ニオの愚痴の聞き役となっていたステラだが、矛先がユリシアに向けられたため、解放されて一息つく。
迷惑だとは思わないけれど、そういうのにあまり縁がないステラはひたすら聞き役に徹する事にちょっと疲れてしまうのだ。
なおかつ、王の護衛という事もあって色々と休みなく働いている彼女には苦労も多いわけで、一度口を開くと中々止めてもらえないのが困る。
一方カルネとアリアは、注文したお菓子を口に入れながら料理についての会話に盛り上がっていた。
「これは美味しいですね、アンヌ様ほどではありませんが、この店のクッキーもなかなかの味をしています」
「わあ、本当です。私もカルネさんやステラさんみたいにお菓子が作れればいいんですけど、調理道具を持つと何故か炭化物質になっちゃうんですよね。クレウスなんて、私の料理を見て、呪術の触媒かって真顔で聞いて、後でからかうんですよ。ひどくないですか」
「それは確かにひどい話ですが、なぜでしょう。そこまで言われる物に興味が湧いてくるのは……」
カルネがアリアの作った物を想像しているのか、若干顔を引きつらせつつも興味の色を瞳に覗かせている。
しかし、アリアはさすが乙女ゲームの主人公だ。
どうやってもそこら辺にいる一般人には作れそうにない物ができるらしい。
そういえば、ゲームでも壊滅的に料理が下手だったという描写があった、と思い出す。
原作の話に関わる時期を全て通り過ぎて来てからはもう、あまり思い出さなくなってきた知識だが、それでもふとした時にたまにこうやってまだ脳裏に浮かんできたりするのだ。
もうこのステラが歩んできた人生の歴史では重要なストーリーはもうほとんど通り過ぎてきてしまった後だ、だけれど皆は生きて私の目の前にいるのだから、今みたいにふっと浮かんでくることがあるのだ。
「……このお店の、本当にとっても美味しいわね」
カルネやアリアらがつまんでいるのと同じ物を口にすれば甘い味が口の中を満たしていき、幸せな気分になる。
「ママ、ママ! シーラも」
「食べたいの? はいどうぞ」
会話に参加せず、ひたすらケーキを幸せそうに食べていたシーラはステラが美味しいといったものに興味を持ったらしく手を伸ばして催促する。
「これもおいしいね!」
「そう、甘い物って良いわよね」
甘いものは偉大だ。
学校に通っていた時も、勉強の疲れを癒してくれたし、気分が落ち込んだ時もちょとだけ幸せになれる。ステラとしては屋敷にいるアンヌのクッキーが一番好きなのだが、王都で騎士として働くようになった最近は食べる機会がなくなってしまったので非常に残念だ。
「でも、あんまり美味しいと今度は食べ過ぎちゃうのが心配になるのよね」
常に動いていると言っても、食べ過ぎが体に良くない事は事実なのだ。
そう独り言を言えば、ユリシアとの舌戦に疲れたニオがひょいと会話に入って来る。そしてカルネも
「あー、そうだね。というかステラちゃんはまだいいよ、ニオなんてエル様につきっきりの日があるから運動できない日も少なくないんだよね」
「それを言うなら、私もです。私はそういう方面は苦手としているので、せっかく作ったものも自分で全部食べるというわけにはいきませんし」
そして、追加でユリシアも加わった。
「そうですわね。社交場に顔を出す機会が多くなるに比例して、そう言ったものの誘惑も増えてきますし。悩ましいですわ」
甘いものを目の前にして、四人同時にため息をつく。
甘いものに対する女子の悩みはどこの世界でも同じだ。
その中で、唯一違う意見を表明するのはアリアだ。
「そうですか? 私は我慢しようとすれば我慢できますけど。そもそも貴族だった事も、あまりそういたものとは縁がありませんでしたし、平民として生きるようになってからはそれどころではありませんでしたし」
そうだった、アリアは家の事情で貴族にもかかわらず平民として生きる事を余儀なくされた境遇だった。
贅沢な食べ物を口に入れる機会なんてあまりなかっただろう。
「贅沢に慣れるのってちょっと怖いわね。もっと気を引き締めなきゃ」
そもそも食べすぎを気にすること自体が心が贅沢になってきている証拠だ。
自分が恵まれているということを、改めてステラは自覚した。
「ママ、これ美味しいよ。食べる」
「……おいしそうね」
しかし自覚したからと言って甘い物への誘惑がなくなるわけではないし、欲求が消えるわけではない。
「あれ、どうして悲しそうな顔してるのママ」
「何でもないわ、甘いものを食べると女の子って時々こうなっちゃうのよ」
「そうなんだ」
アリアを除いた周囲の女子たちがうんうんとうなずいてくる。
大人になれば分かるわよ、シーラも。
王都 雑貨屋
そんな様子でステラ達は、悩ましくも甘未物を堪能した後、引き続き王都にある店を見て周って行く。
「わぁ、すっごーい。これ可愛い。みてみて!」
「そうでしょうか、私の場合はこのように装飾が多くついた品物は好まないのですが」
ステラの素性バレを防ぐためにあまり人通りのない通り……裏通りの面する店のウィンドウに飾られた品々を見て行けば、それぞれの好みの違いが浮き出たりする。
ニオは割とカラフルな飾りが付いたものが好きだし、カルネは洗練されたシンプルなデザインが合うらしい。
「私はこっちの桃色の入れ物が可愛いっと思います」
「あら、これなどいかがかしら、飾りとして置くのならこういった物の方がいいのではありませんの?」
アリアは淡い色調の実務的な物にも使えそうなのが好きで、ユリシアは純粋に飾りとして煌びやかな物を選ぶようだ。
「わたしは、この木彫りの置物が良いと思うんだけど……」
そして、ステラの好みはそのどれでもなく変わっているらしい。
「ステラちゃん、それって模型の刀? え、何で」
「あと、これとかも」
「なにこれ、ふーん鉢巻……て言うんだ。東の国の? これが欲しいの?」
欲しいというか興味があるというか。
「ステラさんの好みって変わってますよね」
「私もそれなりに長い付き合いがありますがこういう所は未だに把握しかねている所があります。ツェルト・ライダーの悪影響を受けているのではないかと推測するのですが」
「悪影響ですの? 何だかイメージと違うような……。たまにしか話しませんけど、その方ってどんな変じ……いえ、個性的な方なんですのね」
アリア、カルネ、ユリシアが話を進めていくと何故かツェルトに被害が飛び火するような成り行きになってしまった。
「そんなに変かしら」
一応皆が言うような可愛い物に興味がないわけでもないし、良いなとも思うのだが、視線を向けるという意味ではどうしても違う物の方にいってしまうのだ。
「類を見ないって言う点ではものすごく賛成できるよね、ステラちゃんて」
ステラのそれは、ニオに言い切られるくらいらしい。
弁解する余地はない。
たぶんというかステラの好みは五割がツェルトの影響を受けているのは事実だし、残りは説明できない事情(前世の世界から)によってだし……。
「シーラもこれいいと思う!」
「おっと、意外にもこんな身近な所に仲間がいたみたいだね」
誰も同意してくれない状況での仲間宣言は嬉しかった。
シーラやシーラの両親とは気が合うのかもしれない。
王都 衣服店
そんな風に時間を使って王都を回り、最後に訪れたのは服屋だった。
「はい、これ来て。これもつけて、あとこれも履いてね」
しかし店内に入るなりステラ達は、嵐のように何故かニオに着せ替え人形にされてしまう。
ここは、普段よく彼女が利用してる場所のようだった。
自分の家の庭のような場所らしく、彼女は勝手知ったるといった風にすいすい歩き回っては数分もかからず服を見繕ってくる。
あれこれ服を持ってきてはそれぞれへ強引に押し付け、店の更衣室へと押し込んでいく。
脅威的なのは普段いがみ合っているはずのユリシアにも物量作戦で押しきっている所だろう。
嫌がらせに近い感じがして、事実そうなのだろうが、恐ろしく服飾に関するセンスが良いらしくユリシアが反抗出来そうにないような物を的確に選んでいるようだった。
そうして次々と着替えさせられるメンバーなのだが(店全体を見れば少ない方だが、その中にはシーラ用の子供服もあった)、その中で一番被害を受けているのはステラだ。
更衣室の隅には次々と服が積まれていく。
ちょっとちょっと、そんなにたくさん着れないわよ。それに他のお客さんに迷惑でしょう。
「……ニオ。私は人形じゃないわよ」
「だって、ステラちゃん全然自分からおしゃれしたりしないじゃん。だからニオが選んで見つけてあげるよ」
それはカルネだって同じじゃない。
私は仕事が忙しいし……。
「うん、カルネちゃんも別の更衣室に追加しといたよ」
ああ、困り顔の彼女の顔が脳裏に浮かぶ。
「せっかく女の子に生まれてきたんだからおしゃれしなきゃ損だよ」
別に損とか得とかなんて考えた事ないんだけど。
身だしなみを整えるのは、領主としての威厳を保つためだったり、気分を引き締める為だったりだし……。
でも、最近はツェルトの為だったら少しは気を使おうかなとは、考えてる。
ステラ自身の事が好きだって言ってくれたし、ステラもツェルト自身が好きだけど、この前の服を喜んでくれたのも事実だろうし……。
と、まあそんな風に考えてしまうからこんな状況になってしまって、断り切れないのかもしれないが。
「ニオだけおしゃれしてたって全然楽しくないんだもん、こういうのは皆でやった方が楽しいじゃん、ほらほら」
確かにそれは分からなくはないけど。
まったくこちらの言葉を聞いてもらえない。
こうなってしまっては、何を言っても無駄だ。
仕方ないので、ステラは大人しく着替え作業に戻る。
数分かけて着替え終わると、ちょうど部屋の外から声が聞こえてきた。
「わぁ、可愛い。ニオの見立てどーりっ。やっぱりこういう大胆な服も似合ってるよ」
「そ、そうでしょうか。あまりこういう服は着たことないので、ちょっと分からないのですが、変な所は……」
「ないない、全然ない。とっても可愛い。思わずぎゅーってしちゃいたくなっちゃう。ぎゅー」
「きゃ……。あの、人前でこういうのは」
「照れてるカルネちゃんもすっごくいいよー。うりうりー」
「ひゃん」
何やってるの、ニオ。
セクハラしてないわよね?
普段の様子からは想像できない可愛らしい悲鳴が聞こえてきたステラは手早く着替えを終わらせて外に出た。
「あ、ステラちゃーん、ステラちゃんもカルネちゃんにぎゅってやるー? わあ、その服可愛いよっ。うんニオながら最高の組み合わせだね! ニオ突撃!」
「きゃああっ」
こちらに気づいたニオが今度はこっちにしがみついてきた。
ちょっと苦しい。
「以外にこことかー」
「きゃあ」
「そことかー」
「ひゃん」
「ここらへんとかー。ステラちゃんって結構いい具合に育ってるよねー」
「!」
ちょ、ちょっとどこ触ってるの!?
ツェルトでも触らないような所を!
さ、触られてないのよね……。そういえば。
だ、だからって進んで触って欲しいとかそう言うわけじゃないけど、でも。
魅力ないんだろうか……。
「あれ、どうしたのステラちゃん?」
ううん、何でもないの。
「二ーオー、急に抱き着かないで。驚いたでしょう」
「あはは、ごめんってステラちゃん。女の子同士なんだから、そんなに怒らないでよー」
いくら同性同士って言ってもやって良い事と悪いことがあるのよ。
「とっさに反撃しちゃったらどうするのよ」
「思ったより危険な理由だったね!」
ニオを真っ二つに何てしたくないわよ、私。
王都 街中
そんなこんなで王都の町での女子会スポットを巡っていったのだが、その最後にイベントが起きた。
言いか悪いかで言ったら、もちろんステラなので悪い方だ。
「あ、ごめんなさい」
通りでぶつかりそうになった人に謝るとその人が、ステラを呼び止めた。
「あ」
「お」
「あーっ!」
三人の言葉が重なる。
ちなみに言ったのは、ステラ、ぶつかってきた人、ニオの順だ。
「ライド君! 何でこんな所にいるのーっ!」
日課の巡回をしている最中に縄張り争いをしている仇敵とであったネコみたいな様子で、ニオは全身で警戒心をあらわにした。
赤い髪に赤い瞳をした、ひょうひょうとした雰囲気の男が目の前に立っている。
ライド・クリックスターツ。
騎士学校の同級生で、ツェルトの友達という例の人だ。
「まてまてって、そんな熱烈に歓迎されちゃったら、俺まいっちゃうわけ。分かる? もうちょっと大人しくしてくれると助かるわー」
「歓迎なんてしてないからっ、だから早くどっかってよ。通りすがりの何でもない人。ニオはいま猛烈に怒ってるから話なんてしてあげない!」
「相変わらず態度ひでーのな」
ライドはそんな、何故か怒り心頭といった状態のニオを置いて、ステラの前へやってきた。
「久しぶりね。元気そうで何よりだわ。ツェルトは元気過ぎるくらい元気よ」
「そりゃあ、良かったわ。きっと剣士ちゃんと元気でやってるだろうなとは思ってた」
友達だったものね、とそう思っているとライドがふいに無造作に距離をつめてきた。
彼はステラの手をとって、何をするかと思えばその手のひらに……口づけを落としたのだ。
「……え?」
えっと、今何が起きて……?
「なっ、なななっ!」
横ではニオが、顔を青くしたり赤くしたり、何かを喋ろうとして言葉に詰まったりしている。
背後からは息を呑む声や、シーラの不思議そうな声。
「ちょっと一緒に来てくれると俺は助かる。婚約者殿……ってな」
ステラの手を離して、肩をすくめてみせる。
態度はステラの知っているそれとまるで変わらない。
今の行動がどういう意味なのか判断しかねていると、横からニオがライドに飛びかかりにいった。
「じょっ、冗談もほどほどにしてよーっ。ライド君のくせにっ。ライド君のくせにっ。このこのえいっ」
「いてっ、いてててっ。学生時代は口喧嘩ばっかりだったのに、容赦なく手も足も出るようになっちゃって、成長したのね活発ちゃん」
「こらあーっ、反省しろーっ。ニオ、怒ってるんだから、ぷんぷんなんだから。ぷんぷん激おこだよっ!」
「いててて、あっ、顔はやめっ」
逃げ回るライドを追い掛け回すニオ。さっきまでネコみたいだったのに、今度は犬の縄張り争いみたいに見える。
ステラはさりげなく取り出したハンカチで手の甲をふいて、アリア達と観客になるしかない。
「ええと、あの方は?」
そういえばアリアは知らなかったわよね。カルネは同じ学校だったし、顔くらいは知ってるだろうか。
初対面の彼女に手短に説明していると、その間にニオが追撃の手を緩め、代わりにユリシアとカルネがつっかかって行く。
「公衆の面前で何を考えているんですの貴方は」
「そうです、どなたかは詳しく存じませんが軽率な行動は控えてほしいものです」
ステラはもちろん助け船を出すことはない。
それよりも、と手の甲を見つけて考える。
ツェルトに、今のどう説明しよう。
それとも隠してた方が良いだろうか。
他の男にそんな事されるなんて、とか言って怒るだろうか。
そんなまさか。いやでも。そんな事で怒ったりしないわよね。でも。いや、だが……。ツェルトが同じような事されてたら、それは……。私怒るかも……。だったら、やっぱり。うーん……。
「ステラさん?」
「ママ、どうしたの? 変な顔でライドお兄ちゃんのこと見てる」
気遣うアリアやシーラの声も耳に入ってこない。
そうしていると不意に静かになったので、先ほどまで三人の女性に責められていたライドがいた場所に視線を向けるのだが。
「さっきまでそこにいたのに、いつの間に……?」
忽然と姿を消していた。ユリシアもいない。
ニオが、路地の一つを指示しながら説明してくれる。
「何か、ライド君に話があるって強引に引っ張ってちゃったよ。王宮にも顔を出さないで今まで何してた、みたいな事話してた」