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第2話 難事のフラグが立ちました



 新たな趣味として占い方法を会得しつつあるステラだが、占い結果は相変わらず「悪い事が起こるかも」で固定されていた。


 そして、そんな占い結果を律儀に守るように、毎日毎日飽きもせず難事が発生する。

 ただその日に起こった出来事は、難事の予告といったような感じだったが……。


 王宮内。

 広い執務室の部屋の中、中央にある机の前にはエルランドが椅子に座っていて、彼を間に挟むように左右で二人の女性が騒ぎ合っていた。


 その部屋に立つステラは、あまりの騒がしさに苦笑するしかない。

 一緒にやって来た鳶色の髪に紫の瞳をした彼、ツェルトも見れば同じような表情だ。


「ふーんだ。ユリシアのくせに、エル様に近づかないでよ。いーっだ」

「近づく権利はありますわ。何と言っても、この(わたくし)がエルランド様の婚約者なのですから。まったく……卒業して少しは大人しくなったぁと思いましたら、全然態度を改める気配がありませんわね。護衛の仕事はちゃんとやっているようですけれども」


 その騒がしさの発生元は、二人の少女達だった。

 一人はニオで、もう一人はユリシア。


 彼女たちはエルランドを挟んで、彼を取り合っている最中なのだ。


 ユリシアはこの国の王……エルランドの婚約者である事が関係して、こうやって事あるごとに護衛であるニオに対抗心を燃やし、言い合いを繰り広げている。


 それは前々から会った物ではなく最近になって見る光景だ。なぜかというと、元いた婚約者がいなくなって変わったからだ。


 本来の婚約者はグレイアンの暴政終了直後に死亡してしまった為、その穴を埋めるようにユリシアが収まったらしい。

 前婚約者が亡くなってから数日の異例の決定だったとかで、王宮では色々な陰謀論がささやかれていたりするが、ステラが見る限りユリシアがそんな後ろ暗い事をしそうな人間には見えなかった。


 学校に通っていた学生当時の頃はニオの方がユリシアを邪見にするばかりだったというのに、今度は互いが逆になって言い合っているという、立場がひっくり返た景色を眺めがらステラは不思議な心地になった。


「私達って、あの時は卒業したらそれきりだって思ってたのに、よく色々な所で縁があるわよね」

「ああ、だよなあ。ニオはともかく、アリアにクレウスはそもそも通っていた学校が違うのに今じゃステラの部下だし、他にも騎士団に行けば色々顔を見るしな」


 話しかけるツェルトもうんうんと頷きを返してきた。


 学校の同級生なんて卒業すれば、早々会えるものではなくなると思っていたのに、現状を顧みれば周囲は知り合いばかりとなっている。

 父の後を継いで領主になるつもりでいたあの頃の自分に教えてあげたいくらいだ。

 まあ、できたとしても信じないだろうけども。


「よくやるよな、ああいうの。疲れないのが不思議でしょうがなくて、やっぱりすごく不思議」

「顔を合わせる度に同じようなこと繰り広げているものね。ちょっと間に挟まれてるエルランド様が気の毒になって来たわ」

「あいつも大変だな」


 あいつとか言わない。国王様でしょ。


 立場的には平民と国の王でかなり異なるのだが、ツェルトとエルランドは互いが珍しい精霊使いという事もあって妙に気安い態度で接しているのだ。

 もちろん公の場ではしっかりと態度はわきまえているみたいだが(主にツェルトが)それでも、数回しかあった事がなくて話した事もそれほどないというのに、互いの距離が近い気がする。


「エルランド様って、癒し系だからかしら」

「ん? 何だそれ。久々のステラ語だな。まあでも聞かなくても、何となく意味は分かるような……。何か敵意とか脅威とか裏切りとかから、あいつほど遠い人間っていないような気がするんだよな」


 だからあいつとか言わないの。


 だがツェルトが言わんとする事は分かる。先も言ったようにステラも同じことを感じていたからだ。


 常に穏やかにしているその様子を見ていると、暴力とか制裁とかそう言った血なまぐさい感情が浮かんでこなくなるのだ。


 エルランドのそれは人に弱久しい印象を与えかねないが、ある意味それは人の上に立つための最高の資質といえるのかもしれない。

 国民の事を考えずに暴政を敷いた元王グレイアンとはまったく異なる彼の資質。

 その彼が王座についてうまく言っているのなら、もう国の行く末やこの国の民のことについてステラ達のような者が悩む必要はないだろう。


 視線の先で、二人の女性に挟まれてオロオロしている男性を見てるとちょっとだけ心配にはなるが。


 そんな事を考えていると、不意にツェルトが不安そうな声で尋ねてきた。


「ステラは婚約者とかいる事ないよな? 大丈夫だよな」

「いるわけないでしょ、私達は付き合ってるのよ。婚約者がいたらそんな事そもそもならないじゃない」


 横に立つツェルトを見ると、ほっとしたような表情が目に入る。

 今更思う事だが、王様を前にして私語にふけるとか……人に見せられない場面よね。

 今のこの集まりは個人的な集まりであり、目の前にいるのはオフの状態のただのエルランドとしてだが、本来ならばあってはならない事だろう。


 そういうのに寛容な所があるからツェルトも窮屈な思いをせずに済んでいるのだろうけど、思えばグレイアンの暴政時代は、シルベール家の養子として色々動いていたらしいし、もともと我慢できないという事はないのかもしれない。


「そ、そうだよなーいないよな。でも、そう思ってたらうっかりステラの両親が約束してた、とかっていうのがありそうで怖いな。後は子供の頃の覚えてない時に約束してたって話も意外と多いって言う……」

「もう、そんなに心配しなくても大丈夫よ。この間話したけど、お父様とお母様だってツェルトにしか任せられないってたんだから」

「そ、そっか。って、今なんかすごい初耳で驚きの言葉が聞こえたような気がするけど、俺まだ何も挨拶してないぜ?」

「何となく分かったし、分かってたって言ってたわ」

「マジでか」


 それを言えば父と母はステラの態度を見て二人の交際について気づいたという事になる。

 そういう事が分かるくらい自分をちゃんと見ていて愛してくれていたという事を、ちょっと前の自分に言い聞かせてやりたい。


 ツェルトは何やら一人で頭を抱えてから、次は一緒にとか、土産がどうのとか言っている。

 そう構えなくてもいいと思うのだが。





 最後の面々、アリアとクレウス、レイダスとリートが部屋にやってきて全員集合となった。


「やっぱりステラさん達も呼ばれていたんですね」


 こちらを見るなり表情をほころばせるのは桃色の髪に赤い瞳をした、エルランドとよく似た雰囲気を持つ優しげな表情の女性、アリア・クーエルエルンだ。


「国王様に当てにされるんだ、ある意味当然だろうね。何と言っても彼女は勇者なのだから」


 納得の表所で頷くのは赤い髪に青の瞳をした、知性的な印象を受ける男性クレウス・フレイブサンド。


「はっ、わざわざ呼び出されたかと思ったら、任務じゃなくて小うるさい話かよ」


 そして、この場にもっともふさわしくない態度を示し、乱暴な言葉を吐き捨てるのは黒紫の髪に赤い目をした男性レイダスだ。


 彼は元王グレイアンの下で働いていたり、犯罪者フェイスの協力をしていたりとちょっと王宮で普通に歩くには信じられない経歴を持っているが、一応現在は監視付きで現王の下で働く(ほんとうに一応は)騎士という身分なのだ。


「レイダス、国王様の前だぞ、口を慎め。端的に言えばうるさい黙れ、だ」

「んだと?」


 そんな危険人物レイダスに注意を飛ばすのは黒髪に黒の瞳の、この辺りではわりと珍しい容姿をした女性リートだ。彼女は、特務という特別な部隊の人間なのだが、彼の監視役として共にいる事が最近は多い。一応はツェルトの姉でもある。


 そんな風にメンバーが集合すれば、ニオとユリシアも喧嘩を続けているわけにもいかず、両者引き分けの形でいったん口を閉じる事になった。


 集まった面々を確認したエルランドは、改まって頭を下げる。


「とりあえず皆さん、忙しい中わざわざ集まってきてくれてありがとう。どうしても今回は貴方達とこういった話の機会を作りたかったんです」


 そして、彼が話題にするのは、犯罪人であるフェイスの事についてだった。


 彼はこの件について国王としてではなく、まず個人的にステラ達と話がしたかったらしい。


 先程までの女性二人に挟まれてオロオロしていた様子とは、別人のように堂々とした口調と態度でエルランドは話し始めた。


「最近、彼の目撃情報が頻繁に騎士団に寄せられているのは知っていてくれるだろう。フェイスは各地の遺跡を訪れてはそこにいた騎士団に危害を加え、内部に侵入し何かを行っているようだ」


 その話は当然ステラも聞いた事がある。

 少し前までは、まったく姿を見せなかった犯罪人がよく目撃されるようになったと騎士団内でも話に上がるからだ。


「おそらく、そうした影響なのだろう。それらの遺跡から魔物が発生するようになり、その数は時を経るごとに多く、強大になっていく。対応に手を焼くのも時間の問題のはずだ。そこで、まだフェイスに侵入されていない遺跡に赴いて、彼がしようとしている事の手がかりなどを調べてきてほしいんだ。これは僕個人の頼み事であり、公式なものではない」


 返事はもちろん否だ。

 だが、そうしてそれが公式……騎士団の任務として上から言い渡されないのかは当然気になった。


 エルランドは疲れたようなため息をついた後、ステラ達が抱いた疑問に答えるように話を続けていく。


「今回の裏には、どうしても公には出せない事情があるんだ。今はまだ説明できないが、その時になったら必ず説明すると約束する」

「はい、質問!」


 そこまで言った後は、まずニオが手を上げて声を発した。


「つまり、エル様はここにいるニオ達だけで、遺跡を調べてほしいって事を言ってるの?」

「いいや、君たち個人が信用できると思ったものを連れて行く分はかまわない、ただあまり大人数では困るけれど。それに、この話は遺跡の専門調査団にもしている。おそらく予想しているよりは大人数で、行動することになるだろう」

「なるほどー」


 ニオ、いくら良いって言っても、ちょっと口調とか態度とかくだけ過ぎな気がするんけど。


「じゃあ、次は(わたくし)ですわね。ええと、この方たちの中でどうして(わたくし)を呼んだのでしょう」


 そんな様子を見たユリシアが張り合うように質問をしていく。

 こんなところで無用な火花を散らさないでほしいと思うけれど、真面目な話し合いだという事でケンカになる事はなかった。


 そんな風に、エルランドの個人的なお願いについて話を進めていくのだが、最後に彼はレイダスに話しかけた。


「レイダス、調子はどうだい?」

「ああ? 嫌み……」


 表情をしかめて文句を言おうとしたレイダスだが、拳(国王の前で武器を帯剣するわけにはいかなかったので)で殴りかかったリートを避ける。


「はっ、ぬるくて体がなまるくれぇだ」

「退屈してるみたいだね。でも時機に君の力が必要になる、期待しているよ」

「……」

「それはともかく、フェイスの事で何か手掛かりになりそうな事はあるかい?」

「知るか、あんな軟弱野郎。剣も碌に握れねぇような人間の事なんざ、俺様はおぼえてねぇよ」


 国王に向かってそんなぞんざいな言葉を吐けるのはおそらくレイダスぐらいのものだろう。

 馬鹿にしたような態度で、平気で接っして、なおかつ自分を改めないなど他の人間にはできない芸当だ。


 しかし、何も知らないというのは本当の事だろうか。

 いや、猛獣ではあるが、効果不幸か彼は嘘をつくような人間ではない。

 彼が知らないというのならば、それは言葉通り知らないという事なのだ。


 ただ、


 ヨルダンの事は気になってるのよね。


 彼は以前ステラを夢の中で助けてくれた事があり、フェイスの体の下の持ち主らしいのだ。

 何か分かればいいと思っているのだが、この分では無理だろう。

 以前聞いてみた時は真面目に取りあってくれなかったので、少しは期待したのだが。


 そんなこんなで会話した後、話し合いの終わりにエルランドはこう言って締めくくった。


「大変だと思うけど、どうか力を貸してほしい。この国には、君達のような人の力が必要なんだ」


 その言葉にステラ達は当然それぞれが頷いて了承の言葉を返した。



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