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第15話 大切な思い出


 果ての神殿 『大精霊』


 不穏な影が満ちていた一つの国から、脅威がとりのぞかれた。

 それを感じた大精霊は、ツェルトの夢に出現して、とある申し出をしていた。


 人の喜ぶ事に自信はなかったが、契約主であるツェルトは喜んでいたので、間違いではなかったのだろう。


 その後、大精霊は果ての神殿にて女神と出会う。


 女神は、自分がまいた種が育ったことに一定の満足を得ているようだった。


 しかし大精霊は、その事実を知って内心は複雑だ。


 多くの種がこの地にまかれたが、芽吹いたものは少ない。


 それは、多くの悲劇があったという事だ。


 人の世からはなれた生活を送っている身ではあるが、同じ意思あるものとして悲劇を悲しむ心まで大きく異なっているわけではないだろう。


 女神は、大精霊に向かって引き続き種の支援を行うように告げた。


 そうされずともこちらには契約があるので、力を貸すつもりではあった。


 神殿から退出する大精霊は、なぜか不安のようなものを感じていた。


 平穏はもたらされた。


 けれどそれはつかの間の間だけではないかと、そう思うのだ。


 近いうちに、また別の暗雲がこの国の上に立ち込めるのだろう。







 ???


 すべての戦いが終わった後、気が付いたステラは混乱した。


 ここは一体?

 ステラは現在、見知らぬ場所にふわふわと浮かんでいるようだった。


 生死をかけた割とギリギリな戦いの後でこんな風景だ。ステラは勘違いしそうになった。

 誰だってあんな戦いの後、わけの分からないもやっとした風景の中にいることに気が付けば、混乱してしまいもするだろう。


「嘘、ひょっとして死んじゃったの? そんなの困るわ。まだ何も伝えてないのに」


 ニオが話してくれた昔話、記憶を失っても変わらずに私のことを守ろうとしてくれるツェルト。

 ようやく自分の心に整理が付いて、彼に対する答えが出せそうだったのに。


 しかし、最悪の状況にはなっていなかったらしい。


「何がだ?」

「きゃあっ」


 至近距離で声をかけられてステラは驚いて飛び上がる。

 考えていた内容が内容だけに、心臓に悪い。

 もちろん相手に向かって驚かされたぶん猛烈に抗議する


「ツェルト……! 驚かさないでよ。もう……もうっ」

「悪い悪い。そんなになるなんて思わなくて」


 飛び色の頭を掻く彼は、軽い調子。

 この態度はきっと次も同じように繰り返すに違いない。

 口がすっぱくなるまで言葉を続けたくなったが、状況を考えた末にぐっとこらえた。


「それでここは一体どこなの? 貴方、知ってる?」

「まあ。あれだ。あれだな」


 そんなあれあれ言われても、私はツェルトじゃないんだから、分からない。


「えーと夢の中、みたいなもんだな」


 半目になってにらんでいたら、気まずそうな顔になった彼が、こちらと同じようにふわふわ浮かびながら説明してくれる。


「今、私どうなってるの。まさか本当は死んだとか言わないわよね」

「大丈夫だって、動揺すんなよ。それこそまさかだ。でもけっこうな傷を負っちまったからな。今は、皆と一緒に王宮の医務室で治療されてる最中だ」

「そう。で、この状態は何?」

「いや、俺にも詳しくは。ただ大精霊が俺達のために何かしてくれてるってのは分かる」

「大精霊が?」

「本当は駄目なんだけどな、勇者になった祝いと、働き者だからってことでお前にサービスしてやるってさ」


 何を、と内容を聞こうとしたところで、脳裏に大精霊の声がした。同時に知らないはずの情報が蘇ってくる。


『勇者との契約が切れたので、その余力をまわしてやろう、存分に感謝するがよい』





 カルル村で人質となった時、彼はステラを助けてくれた。

 鳶色の髪に紫の瞳の少年。

 出会ってすぐ友達になりたいと思った。


 それからは、木剣片手に屋敷の庭を駆けまわったりして、毎日を共に過ごした。

 学生になってもそれは変わらなくて、いつも傍には彼がいた。困った時には助けてくれた。


 いろんな表情を見せてくれた。

 いろんな言葉をかけてくれた。

 たくさんの優しさをくれて、たくさんの悲しみや辛さを和らげてくれた。


 そうだ、思い出した。


 こんなに大切な物なのに、この記憶をどうして忘れてしまっていたのだろう。


 記憶の蓋が開いた事に影響される様に、子供の頃の……本当に一番最初に彼と出会った時の事も蘇ってくる。


 一番最初にカルル村を訪れた時、ステラはまだとても小さな子供だった。

 高熱を出してしまったこちらを助けるためにツェルトがやってきて、その場で才能のあった彼は精霊と契約し、精霊使いになったのだ。

 そして、ステラとツェルトの魂をつなげて、間接的に精霊の力を流して病気の治療を行った。

 その影響で本来貴族が使えるはずの異能が使えなくなったという事を、大人達が話していた。


 ステラは生まれつき異能の才能がなかったわけではない。仕方のない事故で使えなくなってしまっていただけだった。


 それが、ステラがツェルトと出会った一番最初の記憶だった。

 かすむ意識の中、おぼろげな視界の中央で、熱にうなされるステラへと懸命に呼び掛ける少年。

 記憶の中のその姿は、小さくて頼りない外見だけど。

 彼は確かにツェルトだ。


 思い出せて、良かった。





 目を覚ますと、どさくさに紛れてツェルトに抱きしめられた。

 体がだるくて怒る気力も理由もなかったのでそのままボーっとしていると、彼に心配そうな目で見られた。


「俺の事、思い出してくれたよな」


 そのセリフで納得する。

 どうやら反応を返さない事で、要らぬ心配をかけてしまったらしい。


「すけべ」

「ん?」

「馬鹿ツェルト。離れてちょうだい。こういう所ほんと昔から変わらないんだから」

「ステラ……」

「お返しよ」


 ステラは彼の頬に軽く唇を触れさせた。


「全部思い出したわ。子供の頃の一番最初の出会いも含めてね。ありがとう。ずっと私の傍にいてくれて」



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