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第9話 これからもよろしく



 辺境の街道


 魔物の巣での任務を果たした翌日、一晩体を休めた後ステラ達は王都へ向かって出発した。


 勇者の剣を回収したら勇者になりました。


 王宮へはそう報告するしかない。

 下手に誤魔化してばれると、その時が恐ろしいからだ。(ちなみに勇者の剣は鞘いらずでどこかの異次元に勝手に収納されてるらしい。何それ、すごく便利)

 ただ、これでステラの部隊の価値が上がるはずだ。今後自分達に無茶な任務が回ってくることは少なくなるだろう。こんな国のあちこちで不安と悲しみが渦巻く情勢の中で、小さな希望が持てた事は嬉しかった。


 しかし、それはさておき。

 ステラはたまたま目に入ったアリアとクレウスに尋ねる。

 早朝に感じた妙な気配が気になったからだ。


「ねぇ、昨日誰か私の部屋に入ってきてないわよね。変な人影とか……見てないわよね」


 ちょっと事が事なだけに聞くのが怖かったが、幽霊でなかった場合の事を考えて、勇気を出してみた。


 起きる前に誰かがステラの部屋にいたような気がするのだが、あれはなんだったのだろう。気のせいだったのだろうか。

 疲れすぎで感覚がおかしくなっていたとか。


 そう思って返答を待てば、彼等は互いの顔を見合わせた。


「ステラさんの部屋にですか?」

「そんな命知らずな事をする人間はうちの隊にはいないと思うんだが」


 それ、どういう意味なのかしら。

 アリアやクレウスが言葉を返せば、話を聞いていたらしい他の仲間が同意するように一斉に頷きあう。


 自分は一体どういう方面で信用されているのだろう。

 今度時間のある時に、じっくり話を聞きたくなってきた。


「まあ、気のせいならそれでいいのだけど」


 昨日は色々あったので、そういう事もあるだろう。

 実害がなかったので、記憶の底に追いやる事にした。


 仮説のテントを片付けて、馬車を動かす。


 ステラ達は、そんな風に一日前とは違う余裕のあるやり取りをしながら、今後の事を部下達と話しあったりなどして王都へ馬車を走らせていった。







 馬車内でこれからすべき事を頭の中でまとめていると、同乗した部下の一人がステラに話かけてくる。


「あの、隊長」

「どうしたの?」


 女性騎士だ。

 昨日の戦いの疲労がぬけていないようで、どことなくやつれた顔をしている。

 しかし、その表情にはまだ気力があった。


「剣守の一族という言葉を聞いたことはないですか?」

「聞いた事は、ないわね」


 彼女は、思い出すようにゆっくりと言葉を口にしていく。

 もしかしたらそれは、公にされているものではなくて、あいまいな情報なのかもしれない。


「勇者の剣を、管理する者達の事らしいです」

「そんな人がいるの? 聞いた事なかったわ」

「あくまでも噂の範囲なので。それで」


 彼女は、どう述べていけばいいのかという風に、首を傾けて少しばかり思案した。


「……隣の国グランシャリオに本家があるらしいので、余裕がある時に調べてみた方がいいかと」


 それは、今の自分達状況では無理だと分かっているからなのだろう。


「グランシャリオね、わかったわ。教えてくれてありがとう」

「こちらの国にも分家があると聞きますが、そちらは本当に情報が入ってきていないので。大した力になれなくてすみません」

「そんなことないわ、十分よ。そうよね、勇者様がいないんだから、剣の扱い方とか調べんなくちゃいけないのは当然なんだし、助かったわ」


 国の未来や部隊のこれからが心配だが、そちらも気に留めておいたほうがいいだろう。


 だが、兆しは感じた。


 これで状況が少しでも良い方向へ傾けばいいのだが。


 そう、未来へ思いをはせるステラだが……


「うわっ、隊長!」


 馬車が急停車する。


 御者の声が聞こえてきた。


「どうしたの! 魔物の襲撃!?」

「いえ! 武装した集団が」


 剣を手にして慌てて外に出る。


 目の前ではステラ達の馬車を、兵士達が囲んでいた。


 いつかの出来事を思いだして戦慄が走るが、今回はそういう出来事ではなかったようだ。


 顔をみせたのは、懐かしい友人だったからだ。そして、驚きの人物も。


「久しぶりだね、ステラちゃん」

「いつかの件は情けないところをお見せしてしまいましたね」


 それは懐かしい顔。

 学び舎で行動を共にしていた少女ニオだった。


 そしてもう一人は、生死不明となっていたエル……ではなくエルランド王子。


 王子は行方不明として追われている身だ。


 町々や村々では、手配書が出回っていた。

 けれど、目の前にいるかれは、最初に出会った時と同じように、(男性にしては)少しだよりなさげで、それでいて(こんな混迷の国の中でも)優しげな雰囲気を纏っていた。






 止めた馬車の前でステラ達は話をする。部下達も一緒に各々が散らばって軽い食事をとっていた。はたからみたら休憩をとっている風にしか見えないだろう。その談笑の中にまさか元王様がいるとは思うまい。だがそれは第三者からの視点。いくら一般市民風に装っているとはいえ、王様に近づく事は恐れ多いらしい。仲間達は誰も彼の方へ距離をつめようとはしない。


 一方、ステラの近くにいるニオは再開時からエルランドの傍にくっついていて、ずっとにこにこ笑顔でこちらに話しかけてくる。


「というわけで今まで、エル様と行動してたんだ。正式な任命は受けてないけど、ニオは護衛役だからね」


 説明がひと段落したのを見てから、ステラは飲み物の入った二つのコップに砂糖を入れてかき混ぜてから渡す。


「ありがとー! はい、エル様のも」

「ありがとうございます、ニオ」

「苦い飲み物もいい加減になれてほしいよ」

「ごめんなさい。でもどうしても飲みづらくて」


 それはニオも同じだろうに。

 見た感じ、ニオは護衛役というよりはお世話係といった印象が近いかもしれない。


「驚いたわ、ニオって王子様の護衛だったのね」

「まあね。でもお城では候補の一人って感じだったし。ちゃんとなりたかったからステラちゃんみたいに学校に入って修行してたんだ」


 再会して判明する意外な(……よくよく思い返せば、そうでもないような)事実に話が弾む。

 このままここ最近起こった出来事をもっと話したかったのだが、そうも言ってられない事情が彼女等にはあるようだった。


 話の流れが変わり、彼女の口からこの国の事について述べられる。


「それでね。話は変わるけど、いいかな。単刀直入に言うけど、私たちの目的は、今の王様を討ってエル様の王位を取り戻すことだよ」


 そこでニオは、こちらに顔を見せた目的をそう話した。

 それについてはエルランド本人からも事情が話される。


「グレイアン。あの方がちゃんと政治をして民の事を考えてくれていのなら、私は退いても構わなかった。けれど、彼は私腹を肥やすばかりで、民の事を考えようともしていない。このまま見ていることなどできません。どうか力を貸してください」


 つまり、現王打倒の戦力を増やすために声をかけられたのだろう。

 できればステラ達が魔物の巣に向かって無謀な戦いに臨む前に、接触したかったらしいが、道中で色々あって予定がずれたのだとか(それについては任務達成の話をした時に判明して、盛大に驚かれた)。


「エルランド様、協力したいのはやまやまですけど、私には人質が……」


 現王の暴君ぶりはステラも知っていた。何とかしてやりたいとも思っていたが、自分には気がかりなことがある。

 懸案事項をステラが口に出せば、分かっていたとばかりにエルランド王子は頷く。


「大丈夫です。その人達のもとには信用できる者達を送りましたから。何かあった時は必ず守って下さるはずです。いいえ必ず守りきるでしょう」


 彼はこちらが置かれている事情を把握しているようだった。

 もともと、ずっと前から声をかけるつもりでいたのかもしれない。


「ですけど……」


 しかし、ステラの不安は尽きない。

 自分がエルランドたちに組することで家族を要らぬ危険に合わせてしまうかもしれないのだ。

 いくら強い人間が傍にいて安全が保証されようとも、納得できるかどうかは別だった。


 ステラが戦うことによって、その人達が傷つくかもしれないと思うと怖かった。


 そこに、ニオが話しかけてくる。


「ステラちゃん、ツェルト君からの伝言があるんだけど」

「ツェルト? もしかして彼も貴方達に協力しているの?」

「え、そうだけど。王宮の事情とかをリートって人と一緒に色々教えてくれてたんだけど……、知らなかったの?」

「そうだったの……」


 話てくれなかった寂しさはあるが、嬉しくもあった。

 もしかしたら変わってしまったかもしれないと、そう思っていただけになおさら。

 同時に彼が王宮でレイダスと戦っている夢を見た事を思いだした。


 が、それは夢なのだ。まさか関係があるわけはないだろうと思いなおす。


 そんな風にステラが、ぼやけた夢の光景を脳裏に思い描いている間に、ニオが伝言を思い出していたようだ。


「じゃあ、言うね。えーと、確か……、『俺の鍛えた弟子を信じとけ』だってさ。後『いつまでも守られてばかりでいられるほどお前の弟は弱くないよ』とかも言ってたかな」

「ツェルト……」


 弟子、とはヨシュアの事だろう。

 成長して剣を振れるようになった弟はツェルトと剣を打ち合わせる事が多くなった。

 勇者の元仲間であるレットの指導も受けているので、その腕は控えめに言っても一般兵士よりは強いと見ている。


 そこらの相手に敗北するような人間ではない。 


 ツェルトは、ステラが悩むことを見越していたようだ。

 そんなに会話した覚えはないのに、どんな口調でどんな風に喋ったのかステラには分かってしまう。


 ステラはエルランドを見つめて、頭を下げる。


「分かりました、協力させてもらいます。私の家族は大丈夫なんですね」

「ええ、信じてください。私を、とは言いません。私を主として定めた、ニオの目を」


 彼の態度は紳士だ。

 真正面からこちらを見つめてくるその瞳には誠意が宿っていた。

 この人なら、信じても良い。

 彼の眼は、そう思える目だった。


 協力を決めたステラは仲間を振り返って尋ねる。


「という事にしたのだけど、あなた達は……」


 あくまでもこれは自分一人の判断。

 部隊長とはいえ判断を強制することはしたくなかった。

 仲間達が否と首をふるならば、咎めまいと思っていたのだが。


「何を今更。協力するよ僕達は」

「そうですよ、ステラさん。今の王様は私たちも許せないって思ってましたから」


 クレウスとアリアの賛成の言葉をきっかけに、仲間達も同意の言葉を返してくれた。


「そうだ、いっちょやってやろうぜ」「俺達も不満だったんだよ」「エルランド様のほうがいいに決まってるし」


 彼らにも彼らなりに戦う理由はがあり、覚悟があるのだろう。

 だがそうは思ってても、ステラは言わずにはいられなかった。


「みんな……、ありがとう。今までも、これからも」



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