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1.友達の話

カラン、と音を立て喫茶店のドアをあけたのは彼女だった。

毎週金曜日午後十一時、決まって彼女はここへと足を運んでいる。もしかしたら僕に逢うために来てくれているかもしれない、と考えたこともあったが僕がここの常連になる前から彼女は既にこの喫茶店の常連だ。寧ろ僕が彼女に逢うためにここに来ているのだ。

店に入ってきた彼女は既に椅子に座っている僕に目をくれることもなく、僕の目の前、出入り口のすぐ横テーブル席へと腰を落とした。

目の前に座ってたにも関わらず僕に対して挨拶はない。まず、挨拶と言う事を彼女会ってから一度もした記憶がないのだが。

二人とも何も言わず、特に目線を合わせることもなく、時間は少し立ち、やがて彼女の目の前に湯気がたったコーヒーが一杯置かれる。注文していないのだが、彼女はこれしか頼まないことを店の店主は知っているのだろう。彼女は出てきたコーヒーを一口だけ飲み、皿へと戻す。

当たり前のような動作でことが進み、『いつもどおり』になったところでやっと僕に目をくれる彼女。

初めてあった時から変わらない。同じ席、同じコーヒー、同じ彼女と僕。


「さて、今日は何の話をしようか。」


そういった彼女はいままでまるで居なかったように扱った僕ににこりと笑った。



・・・・・・


「今日の話は私の友達の話をしよう」


珍しかった。そして驚いた。

彼女との会話の中で、友達とは言え彼女の事が聞けるというのは珍しいを通り越して初めてだった。彼女は滅多に自分の事は喋らないのだ。本当にこの人は人間なのだろうか、と会話中に何度も思ったことがある。それほどまでに彼女は自分の事を話さず、加えて考えていること喋っていることがが人間味のないことばかりなので失礼ながら彼女に友達と言える人物がいたことにも驚いている。


「君はドッペルゲンガーを知っている?」


友達の話ではなかったのかと思いつつ僕は返す


「それってあれですよね、自分のそっくりさんが居てそれににあったら死ぬってやつ」

「ああ、そうだ。

そして私の友達は私のドッペルゲンガーなんだ」


ニコリと清楚な笑みを浮かべて彼女は言った。清楚ながらにとても楽しそうな雰囲気を纏いながら。

それを見ていた僕は反対にとても訝しげな顔をしていただろう。口からは正直に、はい?とも漏れていた。

彼女が言う言葉はいつも抽象的なものが多いのだが今回もそれであるのだろう。しかしながら『あったら死ぬ人物が友だち』なんて笑いながらいう事ではないと僕は思うのだが。

彼女の考えていることに思考を巡らせていた僕が口を開かないままでいると、先に彼女の方が口を開いた。


「君のその表情と第一声から今思っている事を当ててあげよう。

『じゃあ貴女は死んでしまうんですか?』だ。」


そう。ドッペルゲンガーにあったら本当の自分は死ぬ、そう言ったばかりなのだから。


「ドッペルゲンガーと言うのは自分を自分の目で見てしまう現象だ。

殆どが他人から聞かされる現象から始まる。まず他人に『貴方にそっくりな人を見た』と。そして『貴方はさっきまでそこにいなかった?』と。

やがて自分もその存在が気になってくる。私はここにいるのにみんなが見ているのは誰なんだろう、とね。そして意識をもつとその現象は徐々に目の前に現れ始めるんだ。

人混みの中、視界の端、そして自分の目の前へ。」


彼女はそこまでいうと冷め始めているコーヒーに口を付ける。かたりと音を立てカップを皿へと戻すと、僕の表情を伺うように目をしっかりと合わせた。しかしながら僕の表情は彼女により紡がれる言葉により放心しているだけなのだが。

言いたいことがわからない、そんな気持ちである。

その間数秒、何かを思ったように再度にこりと笑った彼女は言葉を続けた。


「ドッペルゲンガーとは何かを先に言おう。

ドッペルゲンガーの殆どは自己像幻視だ。簡単に言えば脳疾患による精神病の1つ。脳疾患については私は専門外だが、ドッペルゲンガーの原因の殆どがそれなんだ。自己が分離して目の前に現れる現象。

君は鏡もないのに自分自身が目に見えたら気が狂ったのではないかと疑うだろう、そして友達が急に『自分が目の前にいる』と言い出したらなんて思うだろうか。

それは間違いなく『気が狂った』んだよ。しかも脳に重大な疾患を抱えている。ドッペルゲンガーにあったら死ぬ、と言う定説が生まれたのはそこだ。」


そこまで話した彼女は再度僕の表情を伺うように言葉を止めた。

そして僕の思ったことはとても口には出しにくいことであり、彼女自身が言ってくれないと肯定しにくい事である。

ドッペルゲンガーが友達と公言した彼女は、一体どこに当たるのだろう。


「ことの発端を思い出してくれ。ドッペルゲンガーの始まり。ドッペルゲンガーの兆候はどこから始まるだろうか

そう、『他人に教えられた』ことだ。殆どが空似の人物を見たという間違いからなのだが、本人はそんな空似の人物など知らない。ただ自分を違う場所で見たと教えられているだけ。

他人によって存在を教えられた時にこれは発症するんだ。重度ならば最初から自身の目で見る場合もあるのだが殆どの人はそこからの発症となる。

自分が気にしていなかったことを他人に指摘されやがて見え始めるんだ。

他人からの暗示、まるで呪いみたいだな。」


またこの笑顔だ、清楚ながらに毒がありしかしながら本人はとても楽しそうに笑う。

喋っていても全く感情が読めない彼女だがこの笑みをするときだけ、感情が読めるようになる。それはやっと彼女自身の感情が表情にリンクしたかのように。


「ここからが私の専門とする話題となろう。

ドッペルゲンガーとは何かを説明した時に私は『殆ど』と言っただろう。

そう、殆どなんだ。ドッペルゲンガーとは脳の異常でもなく精神疾患でもない、本物のドッペルゲンガーが存在する。

そちらは特に死の危険性はないよ。見るだけならば。いや、あるかも知れないな。これを見てしまった者は前述の通り気が狂って死んでしまった奴が多い。自分が気が狂ったと思い込み本当に気が狂うことが多いんだよ。しかしこちらは脳の疾患なんてない。本物のドッペルゲンガーにあっているだけだから。

本物のドッペルゲンガーの兆候と現象は脳の異常と差分もないもので、やはり他人から聞かされることによってそれは目の前に現れ始める。

先程言ったようにドッペルゲンガーの正体は他人から齎される呪いだ。意識していなくとも本人が意識してしまえば呪いは成功する。本当に怖いのはそこだ。術者には呪いをかける意識がないという事。」


怖いという感情とは裏腹な表情をしながら彼女は言った。


「そして、話を最初に戻そう。

私の友達はドッペルゲンガーなんだ。

ドッペルゲンガー本人から呪いを受けてしまったみたいなんだ。」


それは本当に楽しそうに。


閲覧ありがとうございます。

短編続きの長編もの、そういったのを目指して書いております。

次の話も読んでいただけたら嬉しいです

こちらが処女作となりますがこれからよろしくお願いいたします、す


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