第三希望までどうぞ。
「希望通りの体験をさせてあげますよ」
差し出されたペラい用紙をにらみつけてみるが、意味がさっぱりわからない。
「本当に?」
「本当に。ただ、倍率というものがあるから。第三希望までは埋めて下さい」
見ると確かに、まるで大学受験の志望校を記載するみたいに、四角い枠が三つ並んで、「希望」「希望動機」の欄が並んでいる。ははん、手の込んだ冗談だぁね。
「ここ、ハローワークですよね?」
「違いますよ。ここは、フォローワーク」
「フォローワーク?」
窓口のお姉さんは、にこにこと営業スマイル。
「なんというのか。皆さんの人生の、こう、ひからびた大地に水をやる的な。要は、人生のお手伝いをするんですよ。具体的には、希望の体験をさせてあげるんですね。あらかじめ体験できてれば、この先あらためて経験する時に怖くないし、張り合いにもなるでしょ?」
「はあ」
「看板が似てるから間違えちゃったのかな。参ったなあ。多いんですよ。最近、そういうの。ここに来てね。安定した職がほしいとか、週に何日がどうこうとか言われても困っちゃうんですよ」
「でも、体験させてくれるんですよね?」
うーんとお姉さんは苦笑い。
「まあ、できますけど。それって意味ありますかね? だってお仕事がしたい人って、別に働くこと自体が目的じゃなくて、働いたことによる対価、お金がほしいわけでしょう。労働体験だけしたらくたびれ損じゃないですか?」
「ああ、じゃあ、ダイレクトにお金をもらえばいいのか」
「できますけどね」
「倍率が高い、と」
「御名答」
お姉さんは、笑う。ああ、こっちは営業スマイルじゃなくてただの意地悪スマイル。
「さあ、どうしますか? もうすぐお昼休憩なので、昼まで食い込んだら、私、ランチに行っちゃいますよ」
「いや、まあ、埋めろと言われればなんとでも」
俺は、さらさらと欄を埋めて、それをお姉さんに見せようとする。
「読みあげて下さい」
「第一位、カノジョがほしい。理由、ほしいから」
「はい、ダメ」
「ダメなんだ」
「人気高いですから。次は」
「第二位、デートしたい。理由、したいから」
「ダメ」
「これも?」
「もっと目の前見たらどうです?」
「じゃあ、第三位」
俺は息を吐いて、
「一緒にランチ食べたい。理由、何かの縁だから」
言っちゃった。
お姉さんはというと、呆れるくらいいい笑顔。
「そうそう、そういう願いにしとくべきですよ。次に繋がりそうな奴をね?」