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会長、それは犯罪です。

作者: メリィ山田

この作品は犯罪を助長するものではありません。

ギャグです。会話文がテンション高い上に長いです。そしてほんのりBLです。しかし期待される程もないので、BLが少しあってもオッケー無問題!なくらいでお読みください。


「あっあぁぁあぁ!葛西くん近い近い近い!ひろ、あんた順調に距離詰められてるわよ気付いて…気付いて!!あぁぁそんなカワイイ笑顔見せたら益々葛西くん惚れちゃうじゃないッもうもう!」


「………………」


「んんっ?今日は尋の好きな昆布巻きが入ってるわね……さすが葛西くん、リサーチは完璧ってわけね、……やだ!卵焼き…あ、アーンってそんな……!尋も無邪気にアーンに応じるなバカッ!!でも葛西くん嬉しそう…蕩けるような笑顔ね、カッコいいわ……

『どう?おいしい?…んー、ちょっとオレには甘すぎるかな、姉ちゃんの卵焼きの方が、おいしい』、…尋ったら、お姉ちゃんは嬉しいけれど葛西くんになんだか申し訳ないじゃないの…悲しそうな笑顔だわ……

『尋好みの、味で作れるように、頑張るね』、ですって!さすが葛西くん、ただでは転ばないわね!すてき……」



と、ここで熱っぽい溜め息。


2年書記遠藤は、生徒会室の引き戸をガラガラと開けた瞬間目に飛び込んできた、生徒会長の痴態――床に膝をつき窓に噛り付くように双眼鏡を覗き込んでいる姿――に、思わず引き戸を閉めかけた。

しかし、もはや見慣れてしまった光景である(もちろん見慣れてしまいたくなどなかった)、思い直して室内に入り、中央に置かれた長机に座った。



そこでようやく佐渡さわたりは振り向いた。


少し驚いた様子の後にいつもの完璧な微笑みを浮かべつつも、自分の行動が褒められたことではないと分かっているのか頬はわずかにピンク色に染まっている。

そのほっそりとした手ががっしりと掴んでいるゴツイ双眼鏡だけが惜しい、と遠藤は思った。



「…あ、あら、遠藤くん。こんにちは」

「……こんにちは」

「最近よくお昼休みに会うわねぇ」

「…昨日の会議の資料をまとめ直そうと思ったんで」

「そうだったの。遠藤くんの仕事はいつも丁寧だから助かるわ……

あぁっ葛西くんが尋との距離をまた詰めたわ!今日は攻めるわね葛西くん……嬉しそうだなぁ…尋全然気付いてないけど…すてき…」


会話の途中で双眼鏡を握り締めて外の様子に釘付けになった佐渡。



何も言うまい、と遠藤は持参した弁当の包みを開いて三段重ねのそれを解体してから箸を手にイタダキマスをする。


食べ物を咀嚼しながら会長の後ろ姿を眺める。座った席が佐渡が引っ付いている窓のちょうど真正面だった。佐渡のピンと伸びた背中の真ん中にまで掛かる黒髪が相変わらず綺麗だ。


随分長くなったな。遠藤が佐渡と初めて会った時からもう5年は立つが、当時の彼女の髪は肩につくかつかないかの長さだった。ただ、長さは変われど、その髪はずっと艶やかで触れたらしっとりとしていそうで、確かめたくなるのだった。悲しいかなこれまで遠藤にその機会は与えられたことはなかったのだが。


「…ごめんなさいね、会話の途中だったのに」


会長は今度は振り向かなかったが、声色は申し訳なさそうだった。

合わせる顔が無いってやつだろうか、きっと今はさっきよりももっと頬が染まっているだろうに、と見れなくて少し残念に思いながら遠藤は気にしてませんよ、と返した。


「慣れましたから」

「…………ごめんなさい」


佐渡の伸びた背中が少し丸くなった。


別に悪意を込めて言ったわけではない遠藤は内心ちょっと焦ってしまう。

しかし口下手な彼には瞬時にフォローの言葉が出てくるはずもなく、心の隅の方に、会長の最近の奇怪な行動の、その要因の方に、面白くないと燻る気持ちもあるにはあったので、何も言わないことにした。


会長を前にするといつもこうだった。

言葉が足りない、と周りからいつも言われる遠藤だったが、佐渡の前だとついつい余計なことを加えてしまう。その度に遠藤は焦ったり時には落ち込んだりする。表面からは全くと言っていいほど窺えることはないのだが。



「……バカなことやってるわよね、私。…こんな覗きみたいな真似をして…」

「……みたいな、じゃなく、覗きですよ」

「…………そうよね……」


ほら、またやってしまった。

会長の背中はさらに丸みをおびていく。

しかし遠藤にはどうすることもできない。


「いけないことだって分かってるのよ、生徒の手本となるべき生徒会長が白昼堂々と覗きだなんて…やめなくちゃと思ってはいるの、でも家に置いて行こうと思っていた双眼鏡を気付いたら持って来てしまってこうして使ってしまうし…読心術だって習得する気は無かったのに身についてしまったから、つい2人の口の動きを見てしまうの…」

「…………」

「最初は、葛西くんが(おとうと)に告白してからずっと、その、付きまとってるって聞いたから心配で」


ああ、と遠藤は相槌を打ちながら思い出す。

さすがにあの時は、滅多なことに驚かない遠藤もびっくりしたものだ。



「学校中が震撼した大ニュースでしたもんね。

……朝の下駄箱であの葛西が新入生の男子に薔薇の花束を押し付けての告白、何のドッキリ企画だろうかと思いましたよ…」

「周りに大勢ギャラリーがいる中でのあの行動、さすが葛西くんというか、真似できないわよね。…尋の隣にいた私も何処にカメラが回ってるのかしらと探したけど、葛西くん凄く緊張しているようだったし、本気だったことがすぐ分かったわ。

……尋もとても驚いていたけど丁寧にお返事を返して、我が義弟ながら肝が座ってると感心したわ。その後また感極まった葛西くんが尋に抱きついてたけど、冷静に引き剥がしてたし」


ここでその時のことを思い出していたのか、ふぅ、と溜め息をひとつ。

視線は相変わらず眼下の2人に注がれたままだ。



「尋も少しは悩んでいるみたいだったから、なんとかしてあげたくて。でも、葛西くんには何にも言えなくて。……ダメな姉よね、もし葛西くんが尋に対して、その、強引なことをしたら助けてあげられるようにと思って始めたのよ」


「……そうしたら尋は段々と葛西くんに対して心開いていってるし、葛西くんは本当に尋のことが好きなんだろうなぁって顔をして甲斐甲斐しく尽くしてるし。

……本当はちょっとだけ男同士なんて、って気持ちもあったんだけど、友人からいろいろ話を聞いたりネットで調べたりしてみたら、もうなんかそんなのも全然気にならないような気もして来て……むしろ応援した方が良いんじゃないかと思ったり……でも……」



佐渡は独り言を言っているかのようだった。双眼鏡から手を離して指先を窓のガラスに触れさせていた。

窓の外の2人に手を伸ばそうとして躊躇っている、もしくは伸ばそうとしても決して届かないことを憂いているのだろうか、と遠藤は黙ったまま佐渡の複雑な心中を思った。



生徒会長の佐渡が副会長の葛西に想いを寄せていることに、全校生徒の殆どは気が付いていないだろうが、遠藤含む生徒会の面々は気付いていた。


佐渡は品行方正にして才色兼備で、この学校の多くの生徒から(男女問わず)憧れを抱かれ、高嶺の花だと仰がれている。


常に優しげな微笑みを楚々として浮かべ、時には粗相をした生徒を叱咤するための鞭をしならせ、絶妙な加減で飴を与えて個人の能力をするすると引き出してしまうという、生徒会長の鑑とも言うべき有能な人物である。


完璧超人すぎて近寄りがたいというイメージを抱かれがちな彼女だが、生徒会のメンバーにとっては尊敬すると同時になんだか放っておけない、真面目な努力家であり可愛い一面も垣間見える愛すべき会長であった。


2年の副会長、葛西を好きなことだって、会長が分かりやすいというわけではないのだが、注意してよく見れば彼女が葛西に恋をしているのはすぐに分かるのだった。当の葛西本人は気付いているのかいないのか曖昧な態度を取り続けていたが。


恋心を密やかに温めてきた会長がいつこの学校の王子様、副会長に告白するのか、生徒会のメンバーはやきもきしつつ見守ってきたわけだ。


遠藤はというと、心境としては見守ってきたというより歯噛みしていたという方が正しかったのだが。

しかしそれさえも他の生徒会役員の美味しいお楽しみになっているようで、そんな時遠藤は普段の無表情をさらに無にさせては抵抗しているのだが、その普段と少しだけ違う表情が彼らを面白がせていることに遠藤は気づいていなかった。




「……会長、お昼ご飯は食べないんですか?」

「んー…もうちょっと…」

「もうそろそろあいつらも食べ終わるんじゃないですか?今会長が食べておかないと、食べ終わった後の“まったりタイム”を覗けませんよ」

「……分かったわ」



佐渡は名残惜しそうに立ち上がって窓から離れた。

俺も見といてあげますんで、と遠藤が言うと、パッと顔を輝かせて、じゃあ早く食べちゃうわね!といそいそと包みからお弁当を取り出した。

遠藤の弁当より一回りは小さな2段重ねだ。早く食べると言いながらも丁寧に、もくもくと口を動かして食べる姿にキュンとしてしまい、遠藤は少しばかり緩んでしまった頬を片手で隠しながら横を向く。

自分でもちょろいと思うが、これが惚れた方が負けってやつだと半ば開き直っている。


気を取り直して窓のそばに近付いて外の2人を見張ることにした。


会長から受け取った双眼鏡を覗き込む。先ほど食べ終わってしまっていたので自分の用事に取り掛かってもいいのだが、自分から言い出したことだ。

そもそも遠藤がここにいるのだって、資料のまとめ直しは建前で、本音は会長と一緒に過ごしたいという不純な動機からである。



「……完全に食べ終わったみたいですよ。なんか話してます」

「ん…そう。どんな感じ?」

「さすがに会長じゃないんで、話しの内容までは分かりませんが、楽しそうです。あ、葛西がタッパーを取り出しました。中身はクッキー、かな、あれは」

「きっと手作りなんでしょうね…尋羨まし…いや!うーんさすがだわ、葛西くん」

「……手作りクッキーなら俺が作りましょうか?」

「え?」

「いえ、なんでも。義弟さん、すごくおいしそうに食べてます。それを見てる葛西がすごく気持ち悪…笑顔です」

「尋が好きなチョコチップなのかしら」

「分かりません。ですが葛西なら義弟さんの好みはリサーチ済みでしょうね。抜かりない奴ですから。ちなみに会長はどんなクッキーがお好きですか?」

「私もチョコチップが好きだけど、ナッツが入ってるものも好きよ」

「奇遇ですね。俺も、好きです。……あ、」

「どうしたの?」

「…いえ、葛西と目が合ったような気がしたので。でも、気のせいみたいです」

「良かったわ!葛西くんに気付かれてしまったらお終いだもの…」

「…………」



遠藤は嘘を付いた。


確信した。葛西は覗き見られていることに気が付いている。



ちらりとこちらを見たかと思うと、驚いた様子もなく義弟に気付かれないように小さくひらひらと手を振ったのだ。

いつもの微笑みを、しかし遠藤からすれば食えない笑みを浮かべて。



会長から覗き見られていることに気付いてもなお場所を変えないということは、会長の自分への恋心に気付いた上での牽制か、はたまたブラコンの気のある会長に見せ付けているのか。


遠藤に手を振ったのは、ご苦労様だね、とでも言いたいのだろうか。葛西は遠藤が会長に想いを寄せていることを知っているはずだから。


まあ、遠藤にとっては葛西の思惑などどうでもいいので、これ以上深入りするつもりはない。義弟と仲良くやってくれればそれでいい。


佐渡が悲しみ悩んでいる姿に遠藤も同じように胸が苦しくなるが、それ以上に今後生涯を掛けて幸せにする予定だ。何も問題はない。


……そのためにも遠藤は早いところ鈍感な会長にも分かるようにちゃんと想いを伝えるべきなのだが、残念なことにそれを指摘する人は今ここにはいなかった。

遠藤の思考はすでに明日持ってくる予定のナッツクッキーのレシピでいっぱいである。



「どうやら葛西は膝枕を提案したようですが、義弟さんは断ったようです」

「なっなにそれ!でかしたわ遠藤くんっ」


ようやく食べ終わったらしい佐渡が慌てて近付いて来て、遠藤の袖を軽く掴んで双眼鏡をせがむ。


「尋ったら膝枕してもらうことくらい許してあげればいいのにっ、あっ葛西くん必殺可哀想な子犬の目!今日は諦めないわね葛西くん!あっあーー!ついに絆された!尋は犬好きだものねっ見て、見て遠藤くん!尋が!膝枕!してもらってる!」


「俺も膝枕してあげましょうか?何なら腕枕でもなんでも」


「葛西くんスゴく嬉しそう〜!尋は照れてるのかしら、硬いって文句言ってるわね。そりゃあそうよ私の膝枕と比べるなんて尋ったらなんて罪な男なの……ほらまた一瞬悲しそうな笑みになったじゃない葛西くん……でも髪を撫でれて嬉しそう。尋ったらあのまま昼寝しちゃうんじゃないかしら。あぁぁ写真におさめたい……でもさすがに盗撮は犯罪よね、遠藤くん……」


「(スルーされた)…………だから覗きも犯罪ですってば」



葛西と義弟の膝枕なんぞに興味は一切湧かず、ただただ興奮に頬を染めた会長の横顔に見惚れながら、遠藤は会長にボーイズラブとやらを教えた名も知らぬ会長の友人に心の中でグッジョブと親指を立てた。

知り合えたならば謝礼を贈ってさらなる会長への腐教に尽力していただきたいものである。


この調子ならば葛西への恋心よりも萌えが勝る日は近いかもしれない。

内心で悪い笑みを浮かべた遠藤に、だから早いところ腹くくって会長に告白しろよ!とつっこむ人は以下略。



きっと遠藤は明日の昼休みも、想いのこもったナッツクッキーを持参して、窓にへばり付いて犯罪行為に勤しむ会長のいる生徒会室のドアをいそいそと開けるのだ。



読んでくださりありがとうございました!


以下、軽い紹介と書ききれなかった設定です。どうぞ!


3年生徒会長 佐渡

才色兼備のマドンナ。高嶺の花。

しかしそれは努力の賜物で、本当は至って普通の恋する女の子。

後輩である副会長の葛西を好きなのだが想いを伝えられず。初恋。

そんな葛西は彼女の義弟を好きになり、現在猛アピール中で報われてはいないことにホッとしたり、想いを伝えようかどうしようか悶々と悩んだり、友人(腐女子)に教えを乞うたBL知識に真っ赤になったり果ては目覚めそうになったり、と好きな人×義弟を望遠鏡で観察してはときめき、悩み、落ち込む、忙しい毎日。ちなみに生徒会の面々は彼女の気持ちに気付いている。ことに彼女は気付いていない。


2年書記 遠藤

まとまっているようで実はあんまりまとまってない生徒会の裏のまとめ役。佐渡とは中学の時も生徒会で一緒の仲。その時もそれぞれ会長と書記だった。

佐渡のことがずっと好きで高校も追いかけて来たのだが、(しかし好きだと気付いたのは佐渡が葛西を好きなことに気付いてから)仲良くしてくれる優秀な後輩としか見られてない。会長とお付き合い、果ては結婚して生涯共にいたいがどうすればなどと内心では思っているが無表情がデフォなので周りからは気付かれていない。会長のこと大好きだなー、くらいに思われている。生徒会の連中は知ってる。最近ではアピールを強化しているらしいが残念ながら少しも伝わってない。しかし鈍感な会長も超可愛いなと思ってる。

会長から想いを寄せられている葛西や明らかに姉として見ていない義弟(シスコン)、会長にちょっかいをかけてくる奴らなどなどライバルが多いので気苦労が絶えない。だが無表情。クールでステキ!と一部女子に思われているが案外そうでもない。


2年副会長 葛西

爽やかなイケメン。しかしお腹の中は黒いかもしれない。次期会長と目されている。ファンというか信者が多い。

会長の義弟と運命的な出会いを果たし(本人談)、公衆の面前で愛の告白、見事にフられ以降付きまとっている。一緒に昼食を取ったり(愛を込めた手作り重箱弁当)生徒会活動日がない日は一緒に帰ったり。週に一度は告白するが振られる、しかしめげない。かなり尽くすタイプ。義弟といる時は周りに花が飛んでいるので周りは暖かく見守っているようだ。

会長の気持ちには気付いているっぽい?義弟に恋をしてからは恋のライバルだと認識しているので会長には少し冷たい。


義弟 1年

会長の可愛いおとうと。義姉より背が低いのを気にしている。これから伸びる(予定)。小柄で可愛らしいが男前、男女ともに友達は多い。義姉のことが恋愛的な意味で昔から大好き。だが全く異性として見られていないため最近は押せ押せで頑張ってる模様。だが伝わってない。でもめげない。姉ちゃんを幸せにできるのは俺だけ!

葛西からいきなり抱きしめられて告白されビビったが丁寧に断った。その、急なんで恋愛対象としては見れないッスけど友達なら。それでますます葛西から惚れ込まれる結果になって内心どうすっかなーと思っているが、美味しい弁当を用意してくれるので段々と警戒心が緩んで来ている。危険。

義姉の好きな人が葛西であるのを知ってからは葛西をジッと観察しては葛西をどぎまぎさせている。



ここまで読んでくださりありがとうございました!


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