なんなんですかあなた
主人公はツッコミ役なのです。
クラスメイトの自己紹介が一通り終わり、昼食を挟んで時間割や教科書の配布、ロッカーの場所の確認などを済まし今日は解散ということになった。この学校は全寮制となっており入学式と共に寮へも入るためHRが終わり次第荷ほどきなどをしなければならない。そう、忙しいのだ。なのにも関わらず…
「なぁなぁ、諏訪さんってどじっこなん?あの噛み方すごかったよな?いつもあんな感じなん?すごくしっかりしてそうに見えるから意外やわー。こういうのなんて言うんやっけ?あ、ギャップ萌えか!しっかりした子のどじはええよなぁ。こう、見ててほっこりするっていうか!さっきの見てる限りやと天然ぽいし!そういえば甘いもん好きって言うてたけど具体的にどんなん好きなん?俺も甘いの好きでよく食べんねんけど…って諏訪さん俺の話し聞いてる?てか柚木ちゃんって呼んでええ?」
「…………。」
おわかりいただけるだろうか。
失礼男こと片瀬君はまぁよくしゃべる。むしろうるさい。
というか私が帰る準備をしているのが見て分からんのか!
他のところへ行け!他のところへ!ほらあそこにヒロインがいるじゃないか!他の子と喋ってるけど。でもイベントを起こすチャンスだぞ!ほら!行け!
などとチキンな私は口が裂けても言えない。
それにバットエンドの要因になり得るかもしれない人に嫌われたくはない。
「なーあー。柚木ちゃん聞いてるー?なーなー、ゆーずぴょん」
「誰が柚子ぴょんじゃ!」
あ、やってしまった。ついついっこんでしまった…。
片瀬君は少し驚いたように私の顔を見る。
「あ、えと、ご、ごめんね?よ、呼び慣れない名前で呼ばれたからびっくりして、その…」
言葉が少ししどろもどろし、顔が自然とうつむき加減になる。
さっき嫌われないようにしなければと思ったばかりなのに早すぎるよ私。
ちらっと片瀬君の顔を見ると目をパチクリさせた後にっと笑った。
「やっと返してくれたー。話しかけてもなんも返事返ってこんからほんまに嫌われたんかと思ったわ。あ、もしかして勘違いじゃなかったり…?」
片瀬君は少し不安そうに私を見る。
「せっかく同じクラスになったんやし、しかも席前後やからなるべく仲良くしたいなーって思ってるんやけど迷惑やった?」
今度は私がびっくりする番だ。
すごい勢いで話しかけてきたのはそういうことだったのか。鬱陶しく思ったことを少し反省する。
「ううん。そんなことないよ!今まで片瀬君みたいにたくさん喋る人が周りにいなかったから少しびっくりしただけ。さっきの事も全然気にしてないよ?」
気にしてないなんていうのは嘘だけどそこを本人にとやかく言うほど私も子供ではない。
「おぉ、よかったー!柚木ちゃん心広くてよかったわー」
片瀬君はほっと息を吐き安心した笑みを浮かべた。
「そんなことないよー。普通だよ普通!」
案外いい人なのかもしれない、と思ってしまうあたり私は甘いんだろうなーと思う。
ここの時点では死亡フラグには引っかかっていないみたいだからよしとしておこう。
「そういえば皆なんで帰るの早いんやろなー。放課後は友達作るチャンスやのに」
「え?」
はっと気づき周りを見てみるとクラスには私と片瀬君しかいなくなっていた。
し、しまった!片瀬君とのシリアス場面に気を取られて荷ほどきの事も忘れてたー!
私は慌てて他の荷物もカバンに放り込んだ。
「え、柚木ちゃんどしたん?そんな急いで。なんか用事思い出したん?」
何を能天気に言っているのだこいつは!先生の話し聞いてなかったのか!
「えと、片瀬君は寮に行って荷ほどきとかしなくていいの?」
荷物を詰め終わり早口で聞く。
「あー、そういうことか!喋り方でも分かると思うねんけど俺関西から来てんやん。流石に東京まで朝着くのとか無理やし昨日寮に入って荷ほどきとかもう終わらしてるやわ」
なんだとおおおおお!だからこんなに余裕なのかちくせう!
「柚木ちゃんは今日寮に入るん?」
当たり前じゃ!
「うん、そうだよ!だからごめん!荷ほどきとかいろいろあるから帰るね!また明日話そうね!」
「おぅ、また明日なー」
そういって私は駆け出した。
お母さんが荷物と一緒に何か詰め込んだとか言ってたから面倒なことになってないといいけど…。
一応消灯時間が22時と決まっているためあまり遅くまで荷ほどきをしているわけにもいかないのだ。時間はまだあるものの寮から学校までそれなりに距離があることもあり、ゆっくりしていられない。
携帯を取り出し時間を見てみると16時になっていた。
今は日も落ちるのが早い。もう既に日が沈みかかっている。少し暗いけれど寮までは一本道になっているため迷わずにたどり着くとが出来た。
「はぁ、はぁ、疲れた…。確か私の部屋はここだったような。鍵どこいれたかなー、鍵ー」
ごそごそとカバンの中を漁る。
「鍵、あれ?鍵どこだ?ん?」
カバンの奥の方やポケットなどを探してみるが見つからない。
「ま、まさか…」
鍵をどこかで落とした…?