驚き桃の木山椒の木
寮とか憧れます。
「柚子ちゃんおはよう!て大丈夫?なんかすごい負のオーラみたいなの醸し出してるけど…」
私が「はぁぁぁぁぁぁ〜」と長いため息をついていると雫ちゃんか声をかけてきた。雫ちゃんが言ったとおり負のオーラのせいか寮の食堂の席はほとんど埋まっているのに私の近くだけは人が座っていない。
「うん、大丈夫。おはよう」
夢のことは雫ちゃんには話せない。いや、雫ちゃんだけでなく書記さん以外のャラにも無理だ。そんなことしたら色々壊れてしまいそう。
「柚子ちゃんが大丈夫っていうなら深追いはしないけど辛かったら言ってね?柚子ちゃんは笑ってる顔が似合うよ!」
イケメンか!イケメンなのか!雫ちゃんが男子だったら惚れてたわ!
「ありがとう」
少し照れながらお礼を言うと雫ちゃんは満足そうに頷いた。
「そういえば柚子ちゃんのチームは誰がお迎え来てくれるの?」
ん?迎え?なんの話しだろう…。
「あれ?聞いてない?登下校でそれぞれのチームの1人が護衛?やってくれるんだってー!」
下校だけじゃないのか!朝とか人が多いから目立つじゃないー!ただでさえ生徒会と関わってるってだけで目立ってるのに…。朝襲ってくる人とか流石にいないと思うよ。
「昨日の夜メール来てたんだけど柚子ちゃんには来てないのかな?」
「あー、昨日帰ってすぐに寝ちゃって…」
「そうだったんだー!もしかしたら来てるかもだし見てみたら?」
「それもそうだねー。見てみる」
私はポケットからスマートホンを取り出しメールをチェックしてみる。メールは一件来ているが知らないメールアドレスだ。なんだかすごくイヤな予感がぷんぷんする。
片瀬くんと一条先輩のアドレスは既に交換しているから交換していない相手と言ったらあの人しかいない。
震える指でメールを開いてみると予想通り悪魔からのメールだった。
件名「迎え」本文「明日の朝7時30分に迎えに行く。 町田未来 090-xxxx-xxxx 電話番号とアドレスは登録しておくように。 以上」
なんで知ってんのおおおおおおおお!誰だバラしたの!片瀬くんか!やつなのか!いや、一条先輩仲良いみたいだし教えてそうだなー。あーもー。悪魔のアドレス…。呪われそう。
「メールきてたー?」
スマートホンを見つめながら固まっている私を不思議に思ってのか雫ちゃんが首をかしげながら聞いてきた。
「うん、副会長が迎えに来てくれるらしい」
「えっ…」
雫ちゃんはものすごく驚いた顔をした。やっぱり驚きますよね。だってあの人を顎で使う副会長だもの。
ん?そういえば今何時…?
慌てて時計を見てみれば7時25分をさしていた。
やばい!これはやばいぞ!遅れたら殺される!!
私は勢いよく席を立った。
「ゆ、柚子ちゃんどうしたの?」
「副会長が7時30分に迎えにくるって!!私もう行くね!」
制服に着替えていたのが幸いだ。
私は雫ちゃんの返事を待たずに駆け出した。
寮の門まで行くと見覚えのある人影が一つある。本を読んでいるみたいだ。時計を見ると28分となっている。間に合ってよかった…。
「あ、あの、おはようございます」
本からゆっくりと顔をあげる。少し色っぽい。な、なにを感じてるんだ私は!相手は悪魔の副会長だぞ!
「ふん、遅刻はしなかったか」
よかった。怒ってはいないみたいだ。
「だが、5分前集合は常識だと思うのだがお前の常識は違うのか?」
目が、目が怖いっす!一気に冷えました!
「すすすすすすすみません!昨日帰ってからすぐに寝てしまって…」
「言い訳はいい」
「はぁ」と溜息をつきながらしおりを挟んで本を鞄にしまった。
「すみません…」
「いちいち謝るな。行くぞ」
「あ、はい」
さっさと歩いて行ってしまう副会長を追いかけた。
副会長が前を歩いて私が3歩くらい後ろをついて歩くというような形をとる。話題がなく無言が続く。副会長とはどう接したらいいかよくわからない。
「お前、今日は大人しいじゃないか」
「え?」
私は副会長の前で何かを話すということをほとんどしたことない気がする。
「新歓の準備の時は恭介と無駄に楽しそうに話しをしていだろ?」
あぁー。あれ聞いてたのか。全然気づかなかった。というか無駄は余計だ。無駄は。
「副会長はあんまりうるさいのは好きじゃないかと思いまして…」
ほんとは話題なんてないからですよーとは言えずそれなりに濁してみた。
「よくわかってるじゃないか」
にやりと口の端をあげて副会長は笑った。笑った顔も悪魔ですね。
「だが気に入らない」
「?!」
急に声低くするとかやめてくださいほんと!心臓によくない!悪い意味で!さっきまで笑ってたのになんなんだ!
「うるさくないのはいたってなんの問題もないがお前が黙っているのは気に入らない…なんなんだ」
んなこと知るか!私が知りたいわ!!
「えっと、なにか話した方がいいですか?」
「それでは俺が話しを強要しているみたいではないか」
全くその通りだと思うます。
「な、なんでですかねー」
変な汗が流れる。流しすぎたかな…。
「気に食わない。自分でわからないのが更に気に食わない」
ぐーっと眉間にシワが寄って行く。やばいやばいやばい。
「き、きっとペットみたいな感覚ですよ」
「ペット?」
「ほら、自分にだけ懐かないときとかとかにちょっともやもやする気持ちなんですよきっと!」
人間として扱われなくていいから今のこの状況をなんとかしたい。
「ふむ、そういうことか。確かにうちで飼っている猫によく似ている。そいつも俺には懐かないくせに母には懐いていて見ていてイライラするな」
おぉ、わかってくれてよかった。
「なら、躾が必要か…」
し、躾?!?!?!ちょ、ちょっと待て!無駄にフェロモン撒き散らしながら躾とか!喜ぶ人もいるだろうけど私は喜ばしくない!
「しししししし躾なんていらないですよ!!そもそも私は副会長のペットじゃないですし!私が言ったのはペットみたいな感覚、であってペットを指すものではなく…」
あぁ、なにを言ってるのか自分でもわからなくなってきた。
必死になんとか覆そうと必死になっていると副会長は「ぷっ」と吹き出した。普通に笑う顔を初めて見たからびっくりだ。副会長も普通に笑えるんだね…。
「冗談だ。お前はつくづくアホなんだな」
「なっ!」
否定は出来ないけどね!
「飼いならすのがたのしみだ…」
ぼそっと言ったつもりかもしれないけど私の耳にはしっかり届いたからね!!飼いならすとかぁぁぁぁぁぁ!!
「じょ、冗談ですよね…?」
私が淡い期待を込めて聞くと副会長はいつもの悪魔の微笑みを浮かべた。
「さぁて、どうだろうな」
「なななななな!」
「学校についたぞ。建物内は厳戒態勢をとっているからクラスに1人で行くのには問題ないはずだ」
副会長とわけのわからない会話を繰り広げている間に学校についたみたいだ。朝だけでどっと疲れが…。
でも一応お礼だけは言わなければ。
「副会長、迎えに来てくれて、送ってくれてありがとうございます。これからご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
副会長は目を見開いて驚いた顔をしている。なにか変なことを言っただろうか。挨拶と言うものは重んじなければいけないものだと思う。
「あ、あぁ、問題ない。じゃあ」
副会長はなぜか慌てたようにさっと私に背を向けてすたすた歩いて行ってしまった。
朝一緒に通学してみたものの副会長は結局よくわからない人物だなー。