ここはどこ?私は誰?
「んー…」
ごろんと寝返りを打つ。廊下のはずなのに床は冷たくないしむしろふかふかで暖かい。そしてなにより身体のどこも痛くない。
あ、もしかしてここ天国か。死んだのかそうかそうかー。結構な高さから落ちたんもんなー。意外にあっけなかった…って
「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら起き上がると一条先輩が目をパチクリさせて私を見ていた。そのまましばらく無言で見つめ合う。
な、何か言わないと…!
「せ、先輩おはようございます…?」
「うん、おはよう?」
また会話が途切れる。
どうしよう…。そういえばなんで私はベットの上にいるんだろう。
「あの、先輩」
「ん?どうしたの?」
「えっと、なんで私ベットの上なんですか?」
「あぁ。諏訪さん階段から落ちたんだよ」
そこは私も覚えている。聞きたいのはそこじゃないんだよー!
「えと、落ちるところまでは覚えてるんですけど落ちる途中で気を失ってしまって…」
「そこで意識途切れたんだね。えっとざっくり説明すると僕が諏訪さんが落ちた時に僕が力を使って助けて保健室まで運んだんだよ」
なんと!いいタイミングで現れてくれてありがとう一条先輩!でも先輩とそんなに背も変わらないしそうとう重かっただろうな…。申し訳ない。
「そうだったんですね…。助けてくださってありがとうございます!あと運んでくださってありがとうございます」
「いやいや、諏訪さんが狙われてるのなんとなく気づいてたし間に合ってよかったよ」
一条先輩は優しく微笑んだ。この人は天使か!ほんと!天使か!大事なことだから二回言った!ほんの少し前に知り合ったばかりの私なんかを気にかけてくれるなんて本当にいい人なんだろうな…。どこぞの副会長とは大違いだ。
でも確か一条先輩って人前で力を使うの嫌なんじゃなかったっけ…?
私の顔が急に曇ったことが気になったのか一条先輩は首を傾げた。
「どうしたの?」
「あの、力を使わせてしまってすみません…」
「あぁー、そのことか…。大丈夫、気にしないで。なるべく力は使いたくないけれど諏訪さんが危ないのを知っているのにそれを無視するなんて出来ないよ」
少し泣きそうだ。こんなによくしてもらって私は何で返したらいいんだろう。
「それになんでかわからないんだけど諏訪さんになら僕の力のこと少し話してもいいかなって思ったんだ」
ん?話す?なにか秘め事的なのなんてあったっけ…?あと私なんかをそんな簡単に信じても大丈夫なんだろうか。
「先輩、お言葉ですが私みたいなのを簡単に信じて大丈夫なんですか?もしかしたら実は悪の組織の一員とかだったりするかもしれませんよ?」
自分で言ったけれど悪の組織ってなんだ。見た目は子供頭脳は大人のバーローか!
私がちょっとした牽制を入れたのにも関わらず先輩はくすりと笑うだけだった。
「悪の組織の人がわざわざそんなことを言うはずないしそれに新入生歓迎会の準備期間中諏訪さんと作業を一緒にしたけど君から人間独特の嫌な感じは感じられないんだ。あと一緒にいると安心するのも理由かな?」
なにそれ照れる!先輩天然なんですか!美味しいです!
「あ、今から力使うんだけど多分びっくりすると思うけどごめんね?」
「へ?」
そういうと一条先輩は立ち上がって目を閉じた。すると先輩の背中から白い羽がバサっと出現したではないか!金髪の髪に白い羽。この人は本当に天使なんだ…。
でもそれと同時に頭の中でもやもやっと何かが渦巻いているような感覚に襲われる。
「びっくりしたでしょう?」
「え、あ、はい」
一条先輩は何故か悲しそうで少し残念そうな顔で笑った。先輩の顔をみたらさっきのもやもやは何処かに行ってしまった。そんなに重要なことじゃないのかもしれない。それに今はそんなことを気にしている場合ではない気がした。
でもなんでそんなに悲しそうな顔をしているんだろう。私はただ単にこんなにも…。
「綺麗でびっくりしました」
「え?」
一条先輩は弾かれるように私を見た。
一条先輩の羽は本当に純白でとても綺麗だ。おぼろげに思い出したゲームで見たスチルなんて比にならないくらい幻想的で美しい。
「気持ち悪くないの?」
「え?!なんでですか?!」
気持ち悪いかだと?!そんなの気持ち悪くないに決まってるだろうが!これを気持ち悪いとか頭おかしい!
「えっと、諏訪さんは僕が烏天狗の末裔なのは知ってるよね?」
「はい」
それは自己紹介の時に言っていたから知っている。
「んーとね、烏天狗っていうのは本来は羽が黒いのが普通だしあと髪も真っ黒なのが当たり前なんだ」
言われてみれば普通にカラスって黒いもんね。
「でも、ほら僕は羽は白いし髪は金髪だし、ね?」
「えっとつまり先輩は烏天狗の中だと自分は異端だから気持ち悪い、と言いたいんですか?」
「…………そう、だね」
なんだ今の微妙な間は!まだ何かありそうだけど探求して欲しくないかもしれないし聞かないでおく。
「それなら私全然気にならないですよ?そもそも先輩以外の烏天狗さんにあったことないし羽の色や髪の色が違うのってそんなにダメなんですか?私の感覚が間違っているのかもしれませんがイメージ的には人間で言う肌の色が違うのと一緒なのでは?」
「肌の色が違うのと一緒…。言われてみればそうかもしれない、でも」
一条先輩は何か自分を卑下するようなことを言おうとしている。なんとなくそれが嫌だと思った。
「それに先輩の羽はとても綺麗です。まるで天使みたいに」
「……!」
先輩が息飲むのが分かった。そりゃあいきなりそんなこと言われたらびっくりすよね。でもこれが本心だ。
先輩は下を向いてしまっていて表情がわからない。
「あぁ、そっかそうだったのか、だから…」
小さな声でぼそぼそっと言ったため何を言ってるのかよく聞き取れなかった。
「諏訪さん」
「は、はい!」
なにか重みを感じる声で先輩が私の名前を呼んだからびっくりして声が裏返りそうになった。そしてまた頭にもやもや。一体なんなんだ。
「ありがとう」
そう言いながら先輩は私をぎゅっと抱きしめてきた。あまりにも予想外のことに驚くと共にこれは雫ちゃんが通るはずのイベントであることを思い出す。
さっきの頭のもやもやの原因はこれかぁぁぁぁぁぁぁぁ!
なんで!なんでもっと早く思い出さないんだ!というかなんで私にこのイベントが降りかかってるの!この雰囲気から察するに選択肢は間違えていないみたいだからよかったものの私が前世でゲームやった知識何にも活かせてない!
というか誰か今の状況説明して!!
柚木は一条先輩に完全にロックンされたようです。