烏天狗風を操る(一条視点)
シリアスです。
他の視点に変えるのは難しいものなのですね。
新入生歓迎会が遂に始まった。準備も諏訪さんと力を合わせてやりきったし楽しいものとなればいいなと思っている。
でも多分そういうわけにはいかないんだろうなぁ…。
昨日諏訪さんが女の子達に呼び出されていた。止めようかと思ったのだけれど僕が最初から手を貸してしまえば彼女達がヒートアップしてしまう可能性も考えて諏訪さんを送り出す選択をした。
送り出した時の彼女の縋るような顔を見て罪悪感を覚えた。完全に放置とは流石に可哀想だと思って僕の力で様子を聞くにした。
僕の末裔は烏天狗だ。羽を出したり風を操ったりすることが出来る。本当は末裔の力を使うことはあまり好きではないけれど今回は見てしまった以上無視というわけにはいかない。
風に彼女達の後を追わせてそこで拾った音を僕のところまで届けるように仕向けた。電話みたいにすぐに音が届くわけではなく風のスピードで届くということもあって少しでも変な動きがあれば動かないともしもの場合間に合わない。
彼女が連れて行かれ、残った部屋を見終わった頃彼女がいきなり切れ始めた。
これはまずいぞ…!
彼女を呼び出した女の子の集団が怒っているというのに逆上してしまったら火に油だ。僕は急いで彼女たちのいる教室に行った。
「あのー、お取り込み中のところごめんね?もうそろそろ下校時刻だよ?」
彼女が驚いた顔をして僕を見ている。「困ったね」という意味で苦笑いを浮かべると彼女の顔がだんだん青ざめて行くのが目に見えてわかった。起こってしまったものはしょうがない。
呼び出した女の子達は声をかけたらそそくさとどこかへ行ってしまったけど去り際に諏訪さんになにか言って行ったように見えた。
風の力は使ってなかったから聞こえはしなかったけれど諏訪さんの顔が更に青くなってるから脅しか何かされたのだろう。
一応忠告はしておいたけれど大丈夫なんだろうか。心配だ。
そして新入生歓迎会当日。
諏訪さんは昨日よりも更にやつれた顔で僕たちのところへ来た。遥歩はちゃかしていたけど笑顔を作るだけでもきつそうだ。昨日は寝れていないのだろう。
なぜか未来たちには知られたくないみたいだから一緒に行動はしないけれど昨日と同じように風を使って彼女の様子を気にしておこう。
鬼ごっこ開始から少しして何人かの生徒を捕まえてから諏訪さんが走りだしたことに気がついた。風の量をほんの少し多くして彼女が追っている女生徒達の周りに風を吹かせてみる。
「あの子ちゃんと追ってきてる?」
「えぇ、なんの疑いもなく追ってきてる」
「じゃあ計画通り階段に誘い込むわよ」
こそこそと話しをしている。
階段ということはもしかしたら…。いやいや、最悪の事態は考えたくないけれど少し危険な香りがする。急ごう。
この距離からだと3階だろう。急がないと間に合わないかもしれない。女生徒達が逃げていく方向へ2階から回り込む。
と同時に諏訪さんが階段から落ちてきた。
今はなりふり構っている場合ではない。即座に風の力を使って彼女の落ちる速度を落とし抑えきれない分はなんとか受け止めた。
力を多めに使ったから羽が出てしまった。風を少し動かすくらいなら羽を出すまでもないけれど力を多く使う場合は末裔の力が増すのもあって羽が出てしまうのだ。僕はこの羽が嫌いだけど…。
階段の上にいる女生徒達は僕を見て逃げ出そうとしている。
「逃がさない」
なぜここまでしたのか、階段から突き落とせば打ち所によっては死の危険があることがわからなかったのだろうか。諏訪さんは突き落とした女生徒のように生徒会に近づきたくて近づいているわけではないのに。確かに昨日煽った諏訪さんも悪いとは思うがなぜ…。嫉妬とはここまで人を突き動かしてしまうものだろうか。
そんな怒りや疑問が僕の中をいっぱいにする。
突き落とした女生徒達が逃げないように風の壁を作る。僕は諏訪さんを抱えながら彼女達に近づく。
「君達何したかわかってる?」
「一条様…」
彼女達は僕が近づいて行くと気を失ったのか倒れてしまった。しかも彼女達から黒い霧みたいなものが出た。
なんだこれは…。
黒い霧はすぐに消えてしまったけれどこれが関係しているのは間違いないだろう。
僕はスマホを取り出し未来に電話をかけた。
『もしもし』
「もしもし未来?ちょっと問題が起きたからこっちに来て欲しい」
『問題って…。何が起きた』
「それは後で話すよ、僕は保健室に行くから出来るだけ早くね」
『あ、おい』
「場所は3階東側の階段。じゃあね」
それだけいうと僕は電話を切った。倒れている女生徒には風のドームを被せて万が一逃げたりしないようにしておく。
今だに僕の中で気を失っている諏訪さんを早く保健室に連れて行こう。階段から落ちた事で起きたら少し混乱するかもしれない。
僕は彼女を起こさないように移動することにした。