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三人の翼人<7>

 ガーデンへ上がるはずの早緑月を過ぎ、青葉輝く雨五月も終わり、涼暮月を迎えた。

 言語行動を阻害されたケリーは、フィデリオやサムたちのおかげで、さほど生活に支障をきたすことはなかった。

 変わった事といえば、新たな家族が増えたことだ。

 大きな犬を飼ったのだ。

 特に訓練は受けさせてはいなかったが、彼女は常にケリーの傍らにいて、耳の代わりをしているようだった。

 ケリーも、ふかふかの毛を持ち、いつも自分の傍らにいてくれる彼女をとても気に入っていた。


 パンディオンは自分の耳を疑った。

 目の前で寛いでいるオステオスは、女官が差し出したカップを手に取り、紅茶の香りを楽しんでいる。今しがた発した言葉とは裏腹なその様子に、パンディオンは確かめずにはいられなかった。

「オステオス。それは、あなただけの意思ではなく、マウリーンやムスカリの意思でもあると言うんですね?」

 オステオスはすぐには答えず、妙な間を開けた。結局、その紅茶には口をつけないままテーブルへと戻すと、

「ああ、そういうことになるね。君も、今のままでは何かと不便だろう。私やマウリーン達には翼人がいてくれるから、職務が滞ることはないが、君にはいないだろう?」

「しかし、あなたはスプレケリアの件に関して、先送りにすると言われたではありませんか。その詳しい理由も、なぜが私にだけは伏せている。それなのに今度は職務が滞るからと言ってスプレケリアをガーデンに呼び寄せるだなんて。合点がゆきませんよ」

「では、こう言えば納得してくれるとでも言うのかい? 花芯(魂)を狩られず、無意味に生きながらえる者達が、やっかいな疫病を発生させている恐れがある。その為に、火急的速やかな排除が成されなければならないのだ。花芯は“神苑の剣”でしか狩ることはできない。そして、それを操れるのはオルレカだけなのだ」

「確かに疫病が発生しているのは承知しています。ですが、それすらも含んだ上で先送りにしたのだと、私は思っていたのです」

 パンディオンは尚も食い下がる。

 オステオスの胸中が図れないままでは、承諾することはできないのだ。

「死を司るが故の、君のその優しさには敬服するよ。だが、ね。スプレケリアだけを取って物事を量るのは止めてもらいたい。この世界全体を考えれば、私はそう無茶な判断を下しているとは思えない。従って─────もらえるね?」

 この世界全体を、ガーデンを取り巻くすべての世界を────。

 そう言われては何も反論できない。

 永遠に巡る魂の環。5人いた神がひとり減り、4人になった時。誓い合った言葉だ。

 オステオスは、パンディオンの答えを聞かないまま、部屋を後にした。それはまるで、パンディオンが逆らわないことを知っているようにも見える。

 パンディオンは引き出しから文箱を取り出した。

「この書簡を、フィデリオの元へ持って行ってください。なるべく早く。いいですね?」

 パンディオンは、フィデリオの領地から来ている役人を呼び、言付けた。

 せめて心積もりでもできれば。

 パンディオンは、それぐらいしかしてやれないことを悔やんだ。

 オステオスの口調からすると、それは、そう遠くない未来に実現されるだろうからだ。

 裏門からひっそりと駆け出していく馬の姿を見送るパンディオンの双眸は、暗い闇を見据えていて、ひたひたと音を潜めて近づいてくる、見えない何かに怯えるように、わが身を抱き締めた。


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