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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第一章 ~軍神の目覚め、誤解の始まり~

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第6話 思い設ける

「ふぅー、えがったえがった・・」

 鮑謖(ホウショク)は、ひとっ風呂浴びての満悦(まんえつ)を言葉にした。

 森で賊を倒したときに飛び散った血と泥で、彼女は大いに汚れていたが、今や綺麗さっぱりだ。

「うん。風呂付きはデカいね」

 砦の指揮官としての自室には浴室が併設されていて、湯は自分で沸かす必要があったものの、完全にプライベートなバスライフを得ることができた。

 他の皆は共同の風呂場であり、これは本営の宿舎でも同じだった。

 そういう観点では、地方の砦の指揮官という立場は、かなり優遇されているとも言えた。

「これも『地方勤務はいいぞ、おじさん』のお陰だね」

 鮑謖はしみじみ言った。



 鮑謖が武官学校や本営にいた頃、ときたま地方勤務を推すベテラン軍人がいて。彼女の周囲では密かに『地方勤務はいいぞ、おじさん』と揶揄されていた。

 多くの者は相手にせず馬鹿にした感であったが、鮑謖は成績が下位なのもあって、多少の関心をもって話を聞いた。いずれは彼女自身も地方に行く可能性が高いと思ったからだ。その際に、更に外側の守備隊の事を知り、色々調べた結果、自ら砦への赴任を志願するに至った。

 故に、鮑謖にとって『地方勤務はいいぞ、おじさん』は、指針を示した先達として認識されていた。


 だた実際には、おじさんは若い子と(もっと)もらしくお喋りしたかっただけで、ほとんど鮑謖が自力で結論に到達した出来事であると補足しておく。



 着替え終わると鮑謖は執務室に入り、自身の机に置かれた本を手に取る。

 ペラペラとめくり『()まっ(たけ)』のページを再確認する。団栗(どんぐり)の森の地中に生える、香味と旨味にあふれるキノコ、との説明がある。

「はぁー。流石に死体だらけになったとこを探す気にはならないわ」

 言って鮑謖はポンッと本を閉じた。

 彼女としては、変に遠回りさせてしまった成嬰(セイエイ)たちに()びたい気持ちがあり。単に謝って終わるのも無味乾燥と思い。美味いキノコでも振る舞って、親睦を深められたらとの期待があった。

「とりあえず検分役が来るのが二日後として、明日のうちに死体を運んでおくか・・」

 呟きながら鮑謖は少し渋い顔をした。手隙(てすき)の兵にやってもらうつもりだが、力持ちの自分が参加した方が早く終わりそうではあるから、結局は死体に触れることになる、との見通しだ。

「まぁ私がやっちゃったから、仕方ないか」

 当事者だと割り切って、鮑謖はそれ以上考えるのをやめた。





 恂門(ジュンモン)の軍営に早馬が駆け込んだ。

 北東にある砦の守備隊の者で、その知らせは、(シン)国軍百七十名での襲撃があるというもので。森に埋伏していた五十を追い払ったものの、砦の騎兵二十七騎が、敵百二十による待ち伏せを受けているとし。彼らの救出と、敵の更なる攻撃を阻止するため、援軍を求めるというものだった。

 恂門の軍営は保有戦力の半数にあたる二百を出すことを決定。内八十を騎兵で構成し、これは恂門に配備された騎馬の殆どに当たる数だった。

 同時に、此度の攻撃が何らかの陽動の可能性を考慮し、各所に連絡を送り、哨戒(しょうかい)の兵員を増やした。


 準備が整うと、騎兵が先行する形で二百の軍は砦へと向かった。





「軍曹。辛国の連中、追っかけてきてるみたいですよ」

 後方を確認した部下が知らせる。

「あの花質(カシツ)少佐っての、そうとう頭にきちゃってるんじゃないですか?」

 別の者が、少しからかいの音で言う。

──どういう事だ?

 成嬰の脳裏では、辛国軍は自分たち騎兵を待ち伏せで討ち、その間に別の一軍で砦を攻め落とす算段との見立てであった。

 ところが、敵はしくじったにもかかわらず、なおも自分たちを攻撃する事を諦めていない。

──もう一軍と合流するつもりか?

 そうなると、成嬰たちが敵の援軍を呼び込んでしまう形とも言えなくない。


 鮑謖が辛国軍の動向を把握していたのなら、砦の防衛に関しても十分にやれると成嬰は見ている。さりとて追加で敵兵が増えるのは、彼女が優秀な指揮者で且つ卓越した魔法使いであっても、苦慮するのではないかと成嬰は想像した。

──ならば、俺が出来ることは何だ?

 成嬰は黙考する。


「どうしましたか、軍曹?」

 報告を聞いてから口を開かない成嬰を、部下は不審がった。

「よし──」

 成嬰はひとり頷くと。

「これから馬を下り、走って砦まで戻る」

 と、指示を出し、続けて。

「砦で戦闘が起きてる可能性があるのは先に言ったが、後ろの軍が合流すると厄介になりかねん。その場合、俺たちは砦を援護する形で戦闘を行うことになるだろう。その時のため、馬の体力を温存する」

 そう自らの判断を説示した。

 部下達もそれに納得し、更に。

「早馬が一頭残ってますが、上手く出せたかわかりません。恂門に援軍を要請しに行くことも想定し、今は負担を減らすのは良いと思います」

 そのような具申もあった。

 先の快勝で、皆の軍人としての意気が向上したようだと、成嬰は感じた。


 一行は下馬し、馬を引く格好で走り出した。

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