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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第一章 ~軍神の目覚め、誤解の始まり~

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第4話 重撃の魔女

 (シン)国軍兵士たちは一昨夜から砦後方の森に潜んでいた。

 彼らは総勢五十名。夜を徹して移動し、密かに隠れた。昨日は休んで英気を養いつつ、砦の様子を窺っていた。今現在は、作戦待機中である。

「そろそろ騎兵達が国境に着く頃合いか?」

「そうですね。花質(カシツ)少佐が奇襲を仕掛けて、そこから全力で逃げて、追い立てられて、馬が潰れなければ一時間ぐらいでしょう」

 指揮官の確認に部下が目算を語る。

「連中のは足は遅いが体力はあるから、潰れる心配はいらんさ」


 あらかじめの調査で、砦の人数、騎兵達が訓練で日毎(ひごと)駆けるコース、馬の種類など、諸々知り得ていた。

 中でも重要なのは、砦の指揮官が退官し、今は新任の隊長が赴任したばかりだということ。

 隊長個人についての情報はなかったが。

──連中からしたら此処は僻地。どうせ大した者は来ていまい。

 という(あなど)りが前提としてあり。そうでなくとも来たばかりの人間に、的確な判断と指示が出来るとは思えず、つけ込める隙になると考えられた。


 辛国軍の作戦は、まず国境付近まで来た騎兵を叩き戦力を減らす。殲滅を狙うが、相手も騎馬ゆえ、幾らかは逃げ(おお)せる。

 次に逃げた騎兵を追撃する(てい)で追い立てる。討つつもりはなく、砦まで逃げれば助かると思わせる。

 最後に砦に騎馬が帰還するタイミングで、森に伏した兵が、門の開いた砦内になだれ込む。そのまま戦闘を行い、騎馬を追ってきた花質少佐たちが到着して制圧する。

 以上であるが、仮に砦への突入が失敗したとしても、混乱に乗じれば十分に勝機はあるという算段がなされていた。


 斯くして、森の辛国軍としては騎兵が戻ってくるのを見逃さないよう、待ち構えている状態であった。

 そこに──。


「隊長。一人、こちらに向かって歩いて来る兵士がおります」

 森の境で見張っていた兵から報告が入る。

 何事かと辛兵一同に緊張が走った。彼らは速やかに戦闘準備をしたうえで、発見されないギリギリの距離から予期せぬ来訪者を観察した。

「あれは──、将校服か?」

「はい。汐径(セキケイ)のそれです。ローブ型で、杖を突いてますから、おそらく魔法使いかと」

──なぜ魔法使いがいる!?

 さして重要でもない場所に、貴重な魔法使いが配属されてる。それは一体、何を意味しているのか、という疑問は勿論であるが。

「まっすぐ森に向かって、どういう事だ?」

 よもや自分たちの存在が知られたかと、一瞬考えた指揮官だったが。

──いや、それなら部隊を率いてくるか、逆に砦に籠もる準備をすればいいだけだ。

「なんにせよ、このままでは面倒になりそうだ」

 指揮官は言うと、味方にいる唯一の魔法使いに。

「あれに気付かれる前にやれるか?」

「中位魔法でしたら届きますが、砦攻めに魔力を残して置かないと・・」

 魔法使いの男は難色を示す。

「構わん。どのみち騎兵と一緒に入れば済む話だ」

「わかりました・・」

 男は言うと杖を伸ばし、魔法の準備に入る。

 魔法は狙いを付ければ、ほぼ的に当たり、威力も殺傷に十分であったが、魔力を制御する溜めの時間が必要だった。

「いきます──」


〈麒麟の法、岩勁箭(ガンケイセン)


 男の杖の先端に、どこからともなく石の固まりが出来上がり、それが人の頭ほどの大きさになった途端、一転風を切るように疾く飛んだ。


──!

 パッーンという衝撃音が響いた。

 魔法の石矢は見事に命中した。


 命中したが──。


「何だ!? 弾かれたのか?」

 指揮官の目にはそう見えたが。

「えっ!? う、打ち払われました・・」

「打ち払っただと?」

「あ、ありえません。ぶ、武術の達人ならいざ知らず、普通の者、いや──、ま、魔法使いが杖でやるような技ではありません・・」

 魔法使いの男の動揺は著しい。

「おい、しっか──」

 指揮官が言い終わる前に。

「隊長! 相手が走って向かってきます!」

 言われて確認するが。

──なんだ、あの疾走は!?

 敵の魔法使いは、歩兵の突撃かと思わんばかりの駆けっぷりで迫ってくる。

「弓を引け! 射殺してしまえ!」

 指揮官は声を張る。

 たった一人に何を慌てているのかと自問したくなるが、彼の軍人としての勘が、相手を近づけさせるなと告げていた。

 ケンッ、ケンッ、ケンッ・・

 兵達が次々に矢を放つが。

 ブンッ!ブンッ!

 敵の魔法使いは杖を振りながら、それらを弾く。

「何故だ! なぜ当たらん」

「魔法ではないですか?」

 部下が指揮官の言葉を拾い応じる。

「た、たしかに、聳孤(しょうこ)の法には弓を弾く魔法があると聞きます・・」

 魔法使いの男も、それにあわせて言う。

「ならば、先程のあれも、魔法で防いだのではないか? 俺も詳しくはないが、溜めが少なくても使える魔法もあったはずだ」

「そうかも知れません」

 指揮官の言に納得したせいか、魔法使いの男は調子を取り戻したようだ。

 そうこうしている間に、敵兵は顔が見える距離まで来ていた。

「討ち取れ! 魔法を使わせるな!!」

 指揮官は言いながら剣を抜き、自らも踏み出したが。

──いや、近づくのは危険だと思ったではないか・・

 躊躇(ためら)いが彼の足を重くしたことで、他の者より一歩遅れた。

 ブンッ!

 ほぼ同時に敵兵に打ち掛かった二名が、杖の一振りで吹っ飛び、続く三名も返りの一振り同じく撥ね飛ばされた。

 ビチャ・・

──はっ?

 何かが指揮官の顔に掛かり、匂いからそれが血だとわかった。わかったが、現状起きてる事態には、全く理解が及ばなかった。

 件の魔法使いの女は杖を振り回し、味方の兵を次々に打ち飛ばしている。頭を打たれれば割れ、腕ならば(ひしゃ)げ、胴ならば(はらわた)が潰れただろうと思われた。

「なんだこれは──、これも魔法なのか?」

 指揮官は問うたが、答える者は誰もいない。近くの部下達は、敵の猛攻に既に逃げ出していた。

──!

 敵がこちらを見定め、素早く間合いを詰めて杖を振り下ろす。

 指揮官は咄嗟に剣でガードしにいくが。

──なっ!? おも・・

 その敏とした動きとは裏腹に、ひどく鈍重な一撃だった。

 指揮官は己の剣もろとも頭を潰され、絶命した。


 指揮官が死んだことで、踏みとどまっていた辛国兵も逃げに転じた。

 彼らは森の奥へ奥へと走ったが。

 ヒュンッ──!

 高い風切り音が聞こえたと思ったら、隣を走っていた者がバタリと倒れた。

 ヒュンッ、ヒュンッ・・

 石が異常な速度で飛んできていた。

 辛国兵はそれを知っていた。自分たちの部隊にいた魔法使いが使うのを何度も見ていたからだ。

「魔法だ! 魔法を撃ってきてるぞ!」

 ヒュンッ!

 言った先から誰かが餌食になる。

「あぁぁああー!」

 彼らは叫び、泣きながら、石が飛んでこなくなるまでひたすら走り続けた。

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