表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第三章 ~魔女の導き、兵士の成長~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/31

第25話 一日花(後半)

 混乱の中、味方の騎兵が戻り、今度は砦の兵を食い止めたようだ。それで、最悪の流れは阻止できた。全体は、まだ乱れていたが、そのうちに落ち着きを取り戻すだろう。

──これで後退に専念できる。

 追丘(ツイキュウ)は思ったが、彼女自身は、また忙しくなっていた。深手を負った者を治療しながら移動しているのだ。流石に、傷を塞ぐ時間はないため、可能なら本人に手で押さえてもらい。無理なら、強引に包帯で縛った。


 そんな中、かなり重傷の騎兵がやってきた。放っておけば意識を失い、いずれ死に至ると思われた。

 追丘たちは物資を捨てて荷車にスペースをつくり、そこに寝かせ、魔法を施し、縫合の係が苦戦しながらも傷を塞いだ。

 何とかなったと安堵したとき、後方が騒がしくなった。

「援軍の方が追いついたのでしょう」

 花廉(カレン)が言ったかと思ったら、彼女は槍を持ち、騎兵が乗ってきた馬に跨がった。

「ちょっと──、何をしてるの!?」

 追丘の問いに。

「私も騎兵として敵を食い止めてきます」

 事も無げに花廉は返す。

「なにを!? 勝手なことはしないで! そんなこと認められません」

 追丘の言葉に。

「私は雑用ですが、本来はどこの部隊にも属していません。書類上は中佐の直属として参加しています。(ゆえ)に、それが命令であっても効力はありません。また、私は此度(こたび)の戦に、父のカタキを討つために参戦しました。砦の兵と恂門(ジュンモン)の騎馬、この二つが出てきた以上、私は、一矢を報いねばなりません」

 花廉の言葉は、何か定まった台詞のように揺るぎがなかった。

「待って。いかないで! これは命令じゃない。お願い。お願いだから、無茶なことはしないで、ここにいて!」

 追丘は必死さを込めて言うが。

「追丘さん。私も死ぬつもりはありません」

 花廉は言うや否や向きを変えて、馬腹を蹴った。

「花廉──!」

 追丘の叫びは届いていただろうが、それでも騎馬は止まらなかった。


 一瞬、頭が真っ白になりかけたが、追丘は、何とかしなければと周りに助けを求めようとした。

 すると、騎乗の将校が、自分たちと同じように花廉を見ているのに気付いた。追丘は、彼に事情を話して、連れ戻してもらおうと考えた。花廉は中佐と関係があるようだから、将校も無下にしたりはしないであろう。

 思った追丘は駆け寄ると。

「すみません。今の騎馬の女を止めて頂けませんか。彼女は敵に挑む気なんです。新兵ですが中佐の直属で、私には止められません。将校の貴方なら、その権限があるはずです。このままでは間違いがあるやも知れず、それは中佐も、お心を痛めることになるかと思います」

 懇願した。

 しかるに将校は。

「私にはやる事がある。悪いが、他を当たってくれ」

 それだけ言って、駆け去ってしまった。


「なにを──」

──彼女を見ていた貴方以外に、だれが止められるっていうの・・

 追丘は、無力感に絶望を禁じ得なかった。





 敵の慌て振りに成嬰(セイエイ)は、逆説的に援軍が来た事を悟った。

──ここは攻勢に出るべきだ。

 成嬰がそのように考えていると、馬が広場に集められていた。流れ矢を警戒して、馬屋に押し込んでいた。

「曹長、いつでも出れます!」

 既に騎乗した者たちが言う。段取りをしたのは先越(センエツ)のようだ。先輩たちも彼の言うことを聞いて、準備したようだ。


「まったく──。俺の方が付き合いが長いというのに・・」

 成嬰が比較する対象は、隊長の鮑謖(ホウショク)だ。赴任して、まだ三ヶ月も経っていないのに、彼女は先越の才能を見抜いた。成嬰も先越はできる方だと思っていたが、今回の件で、自分が彼の表層しか見ていなかったと痛感させられた。

──なんたる洞察。

 そして。

──なんたる洞見。

 このタイミングで援軍が来るからには、どういう仕掛けかはわからないが、やはり準備があったのだろう。

「ったく・・ すごすぎるだろ、うちの隊長は!」

「ハハッ。曹長だって俺から見れば、鉄人ですよ」

 成嬰は馬に跨がりながら話を振り、兵もそれに、おだてを返す。

 死闘の経た彼らには、強者の気配が宿っていた。

「事ここに至っては守りを固める必要はない。騎兵に続き、動ける者は打って出よ。今が力の出し時だと心得よ!」

 成嬰は檄を飛ばし。

「開門!!」

 扉が開くと同時に。

「俺に続けぇ!」

 言って成嬰は駆け()でる。


 最初にぶつかった歩兵の首を撥ね飛ばす。その鮮烈な光景は、成嬰の存在を辛兵に印象付け、彼らに砦の強兵を思い起こさせた。

 その腰の引けた敵兵に、味方が強く当たり、ほどなく四分五裂となって逃げ出した。

「このまま押し切る」

 つもりであったが、敵の騎兵が戻り妨害され、動きながらの膠着(こうちゃく)が生まれた。


 恂門からの援軍の騎馬が追いついた。

 しかし彼らは長駆してきた者たち、その動きは、鈍さを感じさせるものだった。


 それでも数は揃った。敵を追い立てるには十分と思った矢先──。

 突如あらわれた新手の一騎に、援軍が立て続けに落とされた。単騎で戦場を駆け、(あまつさ)え、複数の相手を(ほふ)るという信じ難い姿は、敵を大いに鼓舞し、味方、とりわけ友軍である恂門の兵を萎縮させた。


 たった一人の兵が、戦場の流れを変える。物語の英傑は、こんな所にも存在した。

 成嬰は、その敵に憧憬(しょうけい)を持ったが。

「仕留めに行く!」

 ()して気合いを入れ、件の騎兵に向かった。


 相手も気付いて、方向を変える。正面からの()ち合いを選択したようだ。

──大胆不敵。

 敵の騎兵たちも、いつの間にか一騎に続くように駆けている。流れの中で指揮官になったようなものだ。

──まさに英傑。

 それはやはり成嬰の目指す理想の姿に近い。

 魔法使いとしての圧倒的な力と、百手を読むような頭脳を持つ鮑謖は、成嬰では遠すぎて比べることも馬鹿らしいが。眼前の騎兵は、まだ自分が挑める領域にあると思えた。

──『鉄人』か・・

 その言葉を本気で、本当にしてしまおう。斯様な決意を成嬰は持った。


 両勢がぶつかる。

 成嬰は剣を低く構える。

 斬り上げは鋭さはあるが、威力に重さが乗りにくく、ぶつかり合いではやや不利。それでも成嬰はそれを選択した。

 これこそが自分の強みだと確信しているからだ。

 騎兵の女、目が合う。

 瞬間、()く直線の槍が来る。小細工なしの一閃だ!

 成嬰は一気に斬り上げる。それは敏にして剛なる斬撃。槍の一撃を相殺し、相手の体勢を上擦(うわず)らせる。刹那、成嬰の剣は一転、すれ違いざまの振り下ろしとなり、女の体を切り裂いた。


 この絵面(えずら)は、先程とは逆の現象を起こし、味方の心胆を回復させ、敵に逡巡(しゅんじゅん)を与えた。


 それでも敵騎兵は、数を減らしながらも妨害を続け、汐径(セキケイ)の追撃を(しの)いだ。

 結局、援軍の歩兵が到着した頃には、辛軍は国境当たりまで引いていて、騎馬隊の疲れと、成嬰たちも満身創痍な状態のため、それ以上の追撃は見送られた。



 援軍を率いていた少佐のもと、砦を中心に防御陣が組まれた。敵が逆襲に動かないとも限らない、勝ちに浮かれるところを突くのも作戦の一つだからだ。

 また、恂門の軍営へ、負傷兵たちの移送が行われることとなった。


 依然として警戒中ではあるものの、汐径軍は敵を撃退し、大いに喜ぶべきところであった。だが砦の兵たちは、仲間の活命を祈り、勝利の中で沈痛な表情を浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ