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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第三章 ~魔女の導き、兵士の成長~

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第22話 冷徹の魔女(後半)

──あっぶなかった~。

 鮑謖は向かってくる魔法を打ち払うつもりだった。しかし、馬車酔いで手元が狂い、意図せずして後方に()なす形になってしまった。そしてそれは馬車を(かす)めていた。

──あれの弁償は無理・・

 鮑謖が危険を感じたのは、我が身のことではない。立派な馬車が壊れて、その責任を取らされるかも知れない未来を危ぶんだのだ。

 そして何の悪戯か──。

 斯かる経済的危機意識は、鮑謖の中にあった眩暈(げんうん)状態を相殺し、彼女の吐き気を止めた。



「中尉。あれは・・」

 崔弱は、あとに続く言葉が出なかった。

 それはそうである。彼女の目に映る、自分たちに魔法を撃ってきた存在は、見まごう事なき後翼軍の姿であった。

──私じゃ駄目だった・・

 辛国との計画が破綻していることを伝え、後翼の心変わりを期待したが、彼らは汐径の敵になることを選んだ、という事だ。

──折角、中尉に選んでもらったのに・・

 戦えない自分の役目として、説得を買って出たが、期待には応えられなかった。そんな自分を、崔弱は情けなく思った。

 すると、ここで、鮑謖は口を開いた。


「あれは──」



──何??

 崔弱が聞いてきたから、答えようとしたけど、鮑謖は相手の正体がわからなかった。

──どう見ても、後翼軍だよね。

 昨日の今日だ。いくら鮑謖の頭の中が、エルカルニチンで満たされているとしても、流石に見間違うはずがない。

──だと、なんで攻撃してきたの?

 昨日は笑顔で感謝状をくれた人達が、いきなり魔法を撃ってくる豹変ぶりは、羊の脳みそでなくとも理解に苦しむ。

──もしや・・ 賊?

 匪賊(ひぞく)なんて存在が跋扈(ばっこ)してた国だ。軍事物資を盗んで、軍の振りをして悪さする連中がいるのかも知れない。

──いやでも、なんで私ら?

 どうせ襲うなら、商隊とか、お金になりそうな物を狙うはず。よりにもよって、軍人四人を標的にする意味がわからない。

──ん? お金?

 ここで鮑謖は気付いた。


──馬車かぁぁぁ!!


 賊はきっと、あの立派な馬車で、鮑謖一行を金持ちだと思ったんだろう。

──誤解だよ!

 と、勘違いの権化は心の中で叫んだ。


 とまれ──。

 そうとわかれば話は簡単だ。古今東西、賊は退治するものと決まっている。

 鮑謖は自信をもって言った。


「あれは──、賊だ」



──!?

 崔弱は心胆を穿たれた思いがした。

 ここまであった敵味方の観念、国それぞれの立ち位置、その後の展開、それらを全てまるっと解決してしまう、冷徹な一言。

 後翼軍と、四人とはいえ汐径の軍人の戦いとなれば、結果の如何を問わず、もう戦争は確定してしまう。しかし、出没した賊を討伐した、というのであれば話は別だ。

 (くだん)の戦力を、賊と定義した瞬間から、国家間武力衝突ではなく、只の治安維持。いや、ここは領外だから、慈善活動と言っても過言であるまい。

──ああ、これが軍略・・

 崔弱は、鮑謖の底知れぬ思考に、(おそ)れと憧れを併せ持った。そして──。

「はい! あれは賊です。賊で間違いないです!」

 力強く、噛みしめるように言葉にした。



「うん。その通りだ」

 鮑謖は返しながら。

──やっぱり賊か。よっかた~当たってて。

 崔弱の言葉を聞いて安堵していた。

 そのとき、賊徒を白い光が包んだ。

「な、なんでしょう?」

「騎馬の一人が、魔法を使ったように見えました」

 崔弱の疑問に、遠目の兵が言う。

「あー。だと〈索冥(さくめい)の法〉だね。身体強化する魔法だよ」

 鮑謖が解説する。こんなんでも、武官学校へ行っていた者だ。

「では、さっきのとで魔法使いが二人!? 正味七十人相当ですか・・」

「うん。でも大丈夫。私にとっては一番やりやすい相手だから」

 若干の動揺がある兵に、鮑謖がおだやかに言う。


 そうこうしてる間に賊徒は、こちらに駆け迫ってくる。

「たぶん、もう一発魔法が来る。それを含めて、全部私に任せていいからね。伍長は自分のことを、二人は自分と伍長のことだけ考えてね。いい?」

「はい!!」

 鮑謖の確認に、三人は気合いを込めて返事をした。





炎駒(えんく)の法、焦熱榾(ショウネツコツ)


 炎が、風の魔女に襲いかかる。

「ドンピシャだ。これで攻撃を封じた!」

 臧超(ゾウチョウ)の言に、一団は勝機を強く感じた。


 が、しかし──。


 バンッ! 音が鳴ったと思ったら、炎の弾丸が前方から飛んできた。

──なっ!?

 「ぎゃぁー」

 歩兵の何人かがそれにやられた。

──真っ正面に弾く?

 臧超が思ったときには、魔女は数歩先まで駆け寄って来ていた。

「自分から間合いを詰めるのか!」

 次の瞬間。

 シュッと加速した魔女は、ドンッと踏み込んで、ブンッっと杖を一振り、それで先頭にいた騎馬ごと味方をなぎ倒した。

 その異常に、臧超の馬も棹立ちになり、彼は投げ出されてしまう。

「ウォッと──」

 身体強化のお陰で、上手く体をひねって着地することができ、臧超は無事だった。

 だが、他はそうはいかなかった。


 最初の一振りで十騎中、臧超含め七騎が落馬。残った三騎も、混乱した馬の制御を取り戻す前に、魔女によって落とされた。


 近くの兵が槍を突き出すが、魔女はクルッと避けると同時に杖を叩きつけ、兵の頭蓋を割り、返す動きで隙を狙った攻撃ごと味方の兵を吹っ飛ばした。

 兵が背後から攻めようと、同時に攻めようと関係なしに、魔女はそれを打ち返しながら、次々に彼らを(ほふ)っていく。

 近付く者、触れる者、(ことごと)(むくろ)となった。

「なんだ──、これは・・」

 自身の理解を超えた展開は、恐怖さえ凌駕し、臧超を惑乱させていたが。

「無理だー」

 半分ほどがやられた時点で麾下(きか)の兵は逃げだし、その光景に、臧超も慌てて逃げ駆けた。


 しかしそれでも魔女は止まらない。

 魔女は、その走るのには不向きな、長い丈の衣装を苦にすることなく()く駆け、足の遅い者から順に杖を叩きつけた。

 背骨が折れたか、内蔵が潰れたか、いずれにしても死んでいる。

 明後日の方向に逃れる者には。

 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ・・

 魔女は石を次々に投げつけて、バタッ──、と兵を倒した。


 臧超は、味方が低い方へ逃げるのに対して、高い方へ向かった。丘を越えれば、魔女の視界から消えると考えたからだ。

──あと少し・・

 思ったとき、後ろから猛追してくる魔女。

「あぁぁーがぁ。あぁあー」

 臧超は、ここで始めて恐怖を感じ、戦慄に言葉にならぬ(わめ)きを発した。


 しかしながら、ここで魔女は足を止めた。


 臧超は、理由を考えることもなく、ただひたすらに走った。少しでも遠くに、その意識のみで、他の思考が入り込む余地はなかった。

 だから、体を掴まれるまで、気付かなかった。

「あっ──」

 目の前には百ほどの後翼軍がおり、臧超の体は、後翼兵たちによって両脇を抱えられる格好になっていた。

──これは季酬(キシュウ)の軍か?

 臧超が考えたとき。

「無事だったか──」

 と、聞こえ。臧超は声の主を見た。


 大佐の雁去病(ガンキョヘイ)だった。

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