表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第三章 ~魔女の導き、兵士の成長~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/28

第21話 冷徹の魔女(前半)

 急に走り込んできた男に対して、衛兵は棒を向ける。

「止まれ! 何用だ、貴様!」

 声だけで相手を押し伏せそうな、剛なる大喝が飛ぶ。

「あ、お、俺は・・」

 衛兵の気合いに圧倒されたのか、男は、どもりながら。

「と、砦の、北の砦で、戦ってる! 軍が、すげー多い。百とか二百とか、もっとかも知れん。あんなの勝てねぇ。みんな殺されちまうぞ!」

 そのように言った。

 衛兵は、怪訝(けげん)な顔を向けながら。

「お前は何者だ!」

 尚も、圧する励声(れいせい)を放つ。

「俺は猟師で──」

 男は言い掛けると、何かに気付いたように背負い袋を降ろし、中をまさぐった。そして木札を取り出して。

「なんか、これを見せればいいって、隊長さんが言ってた」

 と、衛兵にそれを見せた。


 猟師の男は、自分の名前、数字など勘定に関わるもの、それと幾つか街中で見かけるものぐらいしか、文字を知らなかった。

 だから、木札の内容までは把握していなかったが、そこには──。


『この者、重要人物につき、最優先で取り次ぐように』


 と、書かれており。

 あとに汐径(セキケイ)軍中尉、鮑謖(ホウショク)の名が記され、守備隊隊長の印が押されたいた。


「なっ──!?」

 衛兵はあわてた。

 鮑謖と言えば、数で勝る(シン)国軍を退け、名代(なだい)匪賊(ひぞく)を先手で討伐した守備隊隊長であり、今この辺りで最も名の知れた軍人であった。

 また、衛兵自身も以前、馬に乗って来た彼女を見ており。そのどこか物憂(ものう)い感じに、深い知性の影を見た思いがしていた。

 木札を見た衛兵は、眼前の一見粗野な男のことを、鮑謖から密命を受けた連絡員に違いないと判断。大急ぎで上官に伝え、猟師の男は軍営の指揮官に、あらためて砦が陥っている状況について話すに至った。



 ちなみに──。

 木札は、鮑謖が御嬶(おかか)茶を待ち望みすぎて大げさに、あくまで、砦の兵に見せる前提で書かれたものだ。軍営に持ち込むなど、微塵も考えてない。

 衛兵が見た鮑謖は、馬酔いで気分が悪くなっていた状態である。痘痕(あばた)(えくぼ)か、(ひそ)みに(なら)うか、わからないが、なんか良く見えちゃったって話であった。



 ともあれ。

 恂門(ジュンモン)の軍営は、砦を攻撃しているのは辛国軍であると推断。前回同様、騎馬を多く編制した二百の軍を向かわせた。

 同時に、後翼(ゴヨク)軍がまた不審な動きをするのではと考え、百の軍を国境付近に配し。残る百は、各方面への連絡と、恂門の守備を固めた。





 四頭立ての堅牢な馬車だった。

「えーと。女将さん、私は一頭引きでと注文したはずだけど・・」

 前日、宿の者に馬車の手配を頼んでいた鮑謖は、用意されたそれを見て、こう尋ねた。

「ええ、大丈夫です。料金はそのままで、こちらを是非、ご利用下さい」

 女将が笑顔で言う。

 いや、彼女だけではない。宿の者や御者、何か知らん近所の人と(おぼ)しき人物までもが、ニコニコとしながら「どうぞ」と勧めてくる。

「すみません。我々は困惑しています。どういうことなのか、ご説明いただけますか?」

 崔弱(サイジャク)が、鮑謖に先回りして聞く。

「いえね──、お客さんたちが、逃げた匪賊を討伐したって聞きましてね。軍から感謝状も出たそうじゃないですか。私らも連中には迷惑してましたから、なにか御礼をと思いまして。それで皆で話し合って、馬車を上等なものにって事になったんですよ」

 女将の言葉に、一同がうんうんと頷いた。

 この事態に鮑謖も断ることはできず、砦の一行は皆に頭を下げ、馬車に乗り込んだ。


 こうして鮑謖が講じた、馬を疲れさせて休憩を増やそう作戦は、復路に於いては始まる前に失敗したのだった。



 馬車の座席は六人仕様、振動も少なめで、座り心地も良いものだった。

 崔弱と兵二人は、それらに軽く興奮していた。危険と思われる季酬(キシュウ)の地から、帰還できるという安心感も、いくらか影響したかも知れない。

 さはさりながら──。

 鮑謖にとっては、お尻の快適さなど気休めでしかない。少なかろうと振動は存在し、そのダメージは刻々と鮑謖の体内に蓄積される。

──朝食、お代わりするんじゃなかった・・

 消化が先か、吐き気が先か。絶対に負けられない戦いが、密かに起きていた。





「少佐、見つけました。この先を下った所にいます」

 先行させていた騎馬が駆け戻り言う。

「やっとか──。ハッ、随分と手間掛けさせる」

 当初の予想に反して、なかなか追い付けず、かなり国境に近付いてしまった。その事で、臧超(ゾウチョウ)は焦りと苛立ちにさいなまれていたが、それが(ようや)く解放された感であった。

「仕方ありません。相手は四頭引きでした」

「はぁ? 客は四人だろ? 汐径はそんな贅沢も経費で落ちるのかよ。それとも向こうの中尉ってのは、そんなに給料がいいのか。どっちにしても、むかつく話だ」

 臧超は、また別の苛立ちを持ったようだ。


 上行下効(じょうこうかこう)。普段から臧超に接する彼の部下たちは、知らず知らずのうちに剽悍(ひょうかん)性情(せいじょう)に感化され、より攻撃的で急激なものを好むようになっていた。


「少佐。捕らえるなんて微温(ぬる)いことを言わずに、さっさと討ち取りましょうよ」

 部下の一人が言う。彼女も、贅沢してそうな奴は気に入らんといったところだ。

「そうです。よく考えたら俺たち、縄とかも持ってないじゃないですか。こんな所から戻るのも大変なのに、魔法使い捕まえるのなんてキツいっす」

 同調する者もあらわれた。

 聞いた臧超はニヤリとすると。

「そうだな。もう面倒くせえから、死ななかったら捕らえるって事でいく」

 言って、彼らは動き出した。





 馬車は止められた。

 鮑謖が。

「緊急事態だ──」

 と、言ったからだ。

 崔弱たちは、例によって勝手に緊張して、今回は鮑謖も誤解が発生したことを悟った。

 さりとて。もうそれを訂正する時間もおしい。一刻の猶予もないのだ。

 直前、通り過ぎたときに、木が見えた。

──せめて、木の所へ。

 鮑謖が如何(いか)に無様な女でも、なにもない所でダイレクトリバースするわけにはいかない。

「中尉?」

 崔弱たちが追ってきてしまう。

「来るな!!」

 鮑謖が、心からの叫びを発したときだった──。


炎駒(えんく)の法、焦熱榾(ショウネツコツ)


 速い炎の小塊が鮑謖に肉薄した。

──!

 ヂィィン──、バンッ!

 鮑謖は咄嗟に杖をあわせ、炎は斜め後方へ()なされ、そこで()ぜた。





「情報通りだ。〈聳孤(しょうこ)の法〉で風の壁を作ったな」

「少佐。ほとんど溜がなかったように思います。こちらを発見して十歩か、そこいらです。かなりの使い手です」

 臧超の言葉に、魔法使いが返す。

「ああ。だが、こっちも同じだ。いいか、風は間合いが狭い。相手の射程外から一気に迫る。お前は、味方が間合いに入りそうになる寸前を狙って、撃て。相手は溜めた魔力を防御に使う。で、次が溜まる前に接近戦に持ち込めば終わりだ」

 臧超は自らの作戦を説示すると。

 スゥーと大きく息を吸い、フーとゆっくり吐いた。


索冥(さくめい)の法、皓剛力(コウゴウリキ)


 臧超を中心に、彼の麾下(きか)三十名が白く淡い光に包まれた。光は、彼らの体に吸い込まれるように小さくなり、そして見えなくなった。

 臧超もまた魔法使いであった。それも、杖なしで行使可能な、上位のそれだ。

「よし、準備はいいな。いくぞ!」

 臧超の合図で一団は、風の魔女目指して駆け出した。



(後半へつづく──)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ