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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第三章 ~魔女の導き、兵士の成長~

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第20話 情緒纏綿

 特に、いつ会うとかは決めていない。

 それでも、いつものように猟師の男は、同業の男と出会った。


「どうだい調子は?」

「小物ばかりだが、一応な」

 猟師は成果を見せながら言う。

「お前は鳥を狙えるからいいよな。こっちは、ここんところ空振りばっかだわ」

 同業の男は、罠で狩るのを得意としており、当たりは少ないものの、大物をしばしば捕らえていた。猟師のことを(うらや)んでいる風だが、一種の社交辞令、挨拶の延長線のようなものだ。

「また、大物が出たら手伝うさ」

 猟師の方も、相手におだてで返す。


 なんのことはない、毎度のやり取り。

 彼らは互いに別の村に住む者で、商売敵(しょうばいがたき)でもあったが、こうやって挨拶し、情報交換し、ときには協力しあって生きている。

 このまま一つ二つ雑談をして、また別れる。普段のそれと同じようになると、猟師の男は思っていた。ところが──。


「さっきな、北の方に煙の柱を見たんだが。あとから思うと、狼煙(のろし)だったんじゃないかって気がしてきてよ。ちょうど方向的に砦の辺りだと思うんだが」

 同業は思い出し考えながら言う。

「しばらく前も何かあったみたいだし、あぶねぇから、お前も気を付けろよ」

 それだけ言うと。

「またな」

 と、彼は自分の仕事に戻った。

 どうやら注意を伝えるための()き会いだったようだ。



 猟師の男も、危ないものに近づく気はなかった。元来、彼はそういう男だ。

 自分の村に賊の影を見たときは、流石に村長に知らせたが、本人は村に(こだわ)らず、どこか安全なところへ行こうかと考えていたぐらいだ。

 しかし、たまたま居合わせた砦の隊長が素早く指示を出し、軍は動かされ、結果として賊は討伐された。

 それが切っ掛けで、隊長の女に、村の者が作ったお茶を届けることになった。仕事のついでだし、手間賃として現金収入もあるので、男にとっても悪くない取引だった。


 先日、その最初の包みを届けたが、そのときに。

「獲物があったら、小売価格で買い取るよ」

 と、言われた。

 他にも、野草だとかキノコだとか言われたが。

「そっちは知らん」

 と、返した。

 猟師は、そんなことを思い出した。



 獲った鳥が二羽ある。


「街で売るより儲かるからだ・・」

 猟師の男はつぶやいて、砦の方へ向かった。





角端(かくたん)の法、滅瘴雫(メッショウダ)


 一粒の(しずく)が樽に落ちた。

「はい。終わりました」

「ご苦労様です」

「いえ──」

 女は謙遜したわけではない。事実として大した仕事ではないし、彼女の存在もまた、大したことのない者として扱われていた。


 女は魔法使いであるが、戦闘員ではない。彼女の使う〈角端の法〉は、毒を消したり、血を止めたりと、救護向けの魔法だ。

 それはそれで重要だが、軍という組織は序列社会であり、個人は元より部隊や、役割に()いても上下が付けられる。言わずもがな、戦闘部隊が上位であり、騎馬隊などは、その花形として知られる。

 女は雑用に分類され、その中では上の立場だが、全体としては下位に位置している。


「他にありますか?」

「これが最後です」

 魔女に、水汲み係の女が応える。


 どこかから汲んできた水に魔法を落とし、そこに含まれる毒を取り除く。大概、水は沸かせばよいのだが、食事はともかく、飲み水もとなると、燃料の調達も馬鹿にならない。

 戦闘が始まれば、傷の消毒などをする事になるが、今はまだ、その仕事は無かった。


 昨日、降伏勧告がされたが、朝になっても相手は応じず。それで戦いが始まるかと思ったが、砦から狼煙が上がり、一旦攻撃は中止されていた。


「援軍は来るんでしょうか」

 魔女は、女に聞いた。

 別段、答えを求めてとかではなく、共通の話題として振っただけだったが。

「来ませんね。おそらくハッタリでしょう。それでも中佐は、一応、その動きがないか調べるつもりのようです。まぁでも、それも間もなく終わります」

 女は、思いのほか直截(ちょくせつ)に言った。

 若く、まだ新兵に見えることから。

──なにを生意気に。

 と、思わなくもなかったが、それ以上に、どこぞの隊長のような雰囲気を魔女は感じた。


 そして、水汲み女の言葉通り、(シン)国軍による砦攻めが始まった。



〈角端の法、癒傷湯(ユショウトウ)


 俄然、魔女は忙しくなった。

 いや、彼女だけではない。雑用係はそれぞれに忙しい。むしろ、前線の兵は輪番で休めるのに対して、裏方は殆ど休みなしで動いているような状態だ。

 何人かは、魔女と一緒に負傷者に対応している。

 運ばれた者の傷口を洗い、そこに魔法で生み出される治療液を塗抹(とまつ)。あとは縫合(ほうごう)の係が傷を塞ぎ、最後に包帯を巻く。

 水汲み女も救護の側になり、今度は傷洗浄の水掛け女として魔女を手伝った。包帯を巻くのもコツがあるものだから、新人ならば妥当な役割だった。


 戦う兵たちにも、ある程度の慣れがあるのか、しばらく経つと深手を負う者は少なくなり、魔女たちも一息つくことができた。

「魔力などは大丈夫ですか?」

 水の女が聞く。

「ええ。攻撃のと違って、持ちはいいの」

「そういうものなんですね」

 力を合わせ、一仕事したのが影響してるのか。魔女の中で、水の彼女に対して僚友意識のような機微が生まれていた。

「今更だけど、私は追丘(ツイキュウ)。よろしく」

「私は花廉(カレン)です。こちらも遅ればせながら、よろしくお願いします」

 追丘の名乗りに対して、花廉は、やはり真っ直ぐに返した。





 カッカッと強い靴音が響いてくる。

 周囲を威圧するかのような、それを為す者に、中佐は覚えがあった。


「中佐! 呼び出した砦の隊長を帰したと聞きました。どういうことか」

 声の主は臧超(ゾウチョウ)だ。

「既に連絡した通り、相手は、こちらの思惑を知った上で乗り込んできていた。何らかの方法で、情報を掴んだと思われる。既に見抜かれている以上、作戦は失敗。そう判断した」

 中佐は臧超の態度には触れず、淡々と答えた。

 自分の方が格上とはいえ、相手は臧超。その後ろには臧勤(ゾウキン)准将がいる。中佐とて、対応を選ばざるを得ない。

「なにを馬鹿なことを! 辛軍はもう動いている。作戦中なんですよ、今は。この期に及んで、やっぱりやめます。そんな話が通じるわけがないだろ!」

「少佐。いくらなんでも、その態度はどうかと──」

「黙ってろ!!」

 中佐の部下が、臧超を諫めようとするが、一喝され、言葉通り黙る。

「まったく──、上司も部下も無能ときている」

 臧超は怒声の勢いのまま、中佐に悪態をつく。

「それで──、お前らが逃がした奴はどうしたんだよ?」

 辛うじてあった階級への配慮も消え、臧超は(にら)み付けるように問う。

「先程、馬車で帰路に就いた」

 中佐は表情を変えずに言う。

「はぁ!? 季酬(キシュウ)に一泊していったのかよ? 流石に呆れるぜ。仕事できないにも程があるだろ、お前ら・・」

 臧超は腰砕けのようなリアクションをとると。

「まぁ、見張ってたのは、まだマシだな。さっきってのは、どれくらい前だ?」

「連絡を受けたのが十分ほど前だ」

「ちっ・・ 入れ違いかよ。じゃあ十五分差ぐらいか──、いけるな」

 臧超は一人つぶやくと(きびす)を返し。

「今から砦の隊長を捕らえる。馬車を追走するぞ!」

 自分の部下に下知を出す。

「季酬の軍は動かさんぞ」

 中佐の言葉に。

「いるか、そんなもん! 俺の麾下(きか)だけで十分だ」

 臧超は振り向きもせずに、再び跫音(きょうおん)を立てながら立ち去った。



「よろしいのですか? いくら臧超少佐が、お強いとはいえ──、あの魔女は普通ではないです。少佐に、もしもがあれば、中佐のお立場も・・」

 部下が不安を口にする。

「笑っていたのだ・・」

 中佐が言う。

「私が、金一封を渡すときに、魔女は笑っていた。(ほぼ)単身で敵陣に乗り込んで、あの態度。背筋が凍る思いであったよ・・」

 それに部下は、言葉を失ったが。

「であれば、尚のこと、少佐を止めなくては」

「私ではアレは止められん。それに、既に手は打ってある」

 中佐はそれだけ言うと、手をサッサッとやって、部下を下がらせた。


 独りになった部屋に一回、強く机を叩く音が鳴った。

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