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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第一章 ~軍神の目覚め、誤解の始まり~

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第2話 謎命令

「流石にそれはないだろ・・」

 崔弱(サイジャク)の言を否定する成嬰(セイエイ)

「いえ、間違いないですよ。きっと極秘任務で来たんですよ」

 崔弱は、新隊長の鮑謖(ホウショク)が只者ではないとし、彼女が辺境の砦に赴任したのには、何か重要な役目があるからだと力説していた。

「いや、魔法使いがエリートなのはわかるが──。初っ(ぱな)、ゲロ吐く奴だぞ・・」

 成嬰は鮑謖の醜態を想起し、臭い物でも嗅いだような顔をした。

「だから普通の魔法使いじゃないんですって。あのゴツゴツした杖もスゴいんですよ。常人には扱えない、文字通りの魔法の杖で、私じゃ全然持ち上がらなかったんです」

「そりゃお前が非力なだけだろ・・」

 なおも続ける崔弱に成嬰は茶化すように返す。

「そんなわけないでしょう!」

 これには崔弱も赧然(たんぜん)とした。


 崔弱の言がわからぬ成嬰ではない。彼もまた、鮑謖が赴任したことを(いぶか)しんでいる人間のひとりだ。

 そうではあるが──。


──下手に期待などするもんじゃない。


 成嬰は地元の兵士として二十年、この砦に務めてきた。何度か短期間だけ、他の場所に移ったこともあるが、基本的にここが彼の職場だった。

 これまで何人もの隊長を見てきたが、大概は枯れたような者であった。

 まれに意気軒昂な眩しさを持つ者もいたが、半年もすればやる気を失い、ただダラダラと時間を消費するだけの者に成り下がった。

 それだけ此処が、良くも悪くも何もない場所だったわけだが。それでも、ときおり流れた賊徒などは出没した。

 成嬰は地元民でもあるから、それらの対処に積極的だったが、隊長達の覇気のなさは、彼を失望させるのに十分な姿だった。


 ()くが(ゆえ)、成嬰には崔弱が持つ隊長への期待値が、痛さを以て感じられた。





 午前中、隊長不在の間に溜まった書類に判を押し続けた鮑謖だったが、午後は特に仕事もなかったため、砦内をぶらぶらしていた。

 砦の指揮官といってもド田舎のそれ。

 汐径(セキケイ)という国は南部の街道を中心に栄えており、その利権や東西への侵攻路としての魅力から、戦場になるのはいつも南側であった。北の外れの砦などに、元より大した仕事はないのだ。


 鮑謖が広場の方へ向かうと騎馬の一団が出発の準備をしていた。

「軍曹、今から訓練かい?」

 成嬰がいたので、そう尋ねた。

「はい。周囲の警戒を兼ねてのものです」

 壮年の彼の力強い声が返ってくる。

 鮑謖は頷きながら馬を見る。

「三十ぐらいかな?」

「二十七騎になります」

 数を確認しながらも鮑謖は。

──この馬、なんか太ってるな。もしかして、運動不足じゃないの?

──まるまるとして、脂が乗ってて美味しいかも・・

 そんなことを考えながら馬を観察していた。

「あの中尉・・」

「あっ、ごめんごめん。二十七騎ね、うん、わかった」

 聞いといて無視した感じになってしまったと、急いで返事をする。

「いえ──。ちょっと小耳に挟んだのですが、中尉がお持ちの杖、なんでも特別とか?」

 成嬰が聞く。

「うん。あー崔弱伍長だね。もしかして、持てるかどうか試したいのかな?」

 鮑謖は言うと、答えを待たずに杖を地面に置いた。

「危ないからね。この状態からやってみなよ」

 そう成嬰に促す。


 成嬰はしゃがんで片手で持とうとしたが、すぐに姿勢を変え、跨ぐようにして両手で杖を引き上げた。

「おーすごいすごい」

 鮑謖は楽しげに言う。

 成嬰は膝の辺りまで持ち上げたものの、そこが限界のようで、ゆっくりと杖を降ろした。

「うん、すごいよ。ここまで持てた人は初めてじゃないかな」

「そ、そうですか・・」

 鮑謖の言葉に成嬰は大きく息をしながら応えた。


「自分もやっていいですか?」

 見ていた他の兵もやりたがり、順に杖を持ち上げたが、成嬰ほどには上がらなかった。

 最後に鮑謖がひょいと持ち上げると、兵達からどよめきが起きた。


「ところで軍曹。騎馬の行くコースってどんな感じなの?」

 鮑謖が聞く。

「日によって違いますが、今日は北の国境辺りまで往復する予定です」

「それって平坦な道?」

「そうですね、この辺りでは比較的平らかと──。それが何か?」

「えーとね。地図で見ると少し東側に小山みたいのあるんだけど、わかる?」

「はい、わかります。山と言うより丘といった感ですが・・」

「じゃあさ、今日は東回りにその丘を目指してから国境へ行って戻ってきてくれる」

「は、はい。了解しました」

 突然の要求に戸惑いながらも、成嬰は軍人の音で返した。

 他の兵達も成嬰同様に困惑の表情を浮かべていたが、鮑謖は気にも留めず。

──坂道とか登れば、少しはシェイプアップするでしょ。

 と、()えた馬を運動させるつもりで命令を出していた。


 成嬰以下、兵達が騎乗し砦の門が開かれた。

 騎馬はゆっくりと外へ出て行く、駆け始めるのは全員が出てからだろう。

 鮑謖はそれを黙って見守っていたが、ふと思い出したように近くの騎馬に駆け寄ると。

「もし丘の上で、花の付いたホウレン草みたいの見つけたら、適当に取ってきてよ」

 そのように言った。

「え!? わ、わかりました・・」

 言われた兵は「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの顔であったが。

「うん。たのんだよ」

 鮑謖はニコニコとしてその場を立ち去った。


「この地方の美味しい野草その六、花咲草(ハナサキソウ)が食べられるかも知れない」

 分厚い本のページをペラペラとめくって再確認する鮑謖。そこにはホウレン草によく似た花の絵が載っていた。

「あーそうそう、食べ物で思い出した。馬の餌も一応チェックしとかなきゃ。いったい何食べたら馬があんなに太るんだろうね?」

 鮑謖は本を閉じ、ひとり馬屋に向かった。

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