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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第三章 ~魔女の導き、兵士の成長~

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第19話 額を集める

──手際がいい・・

 成嬰(セイエイ)は、(シン)国軍の機敏な動きに、己が後手に回ったのを自覚した。

 早馬を出したとき、他の騎馬も一緒に出していれば、敵の騎馬を突破して援軍を呼べていたかもしれない。

──いや、駆け合いでは不利か。

 上手く早馬が抜けられれば良いが、そうでない場合、足の遅い砦の騎馬では、敵を振り切ることは難しいだろう。

「くそっ・・」

 済んだ事を悔いても仕方がないが、省察(せいさつ)しようと(かえり)みても、成嬰には何が正解だったかわからず、ただ自身の不甲斐なさを感じるばかりであった。

「任されたというのに・・」



 成嬰の軍歴は二十年。軍曹になってからは、隊長不在時には仮の指揮者でもあった。

 飾りのような将校を支える、実質的な砦のリーダーと、兵たちには認識されていた。

 そこにあらわれた鮑謖(ホウショク)という魔女。

 崔弱(サイジャク)の言葉から、魔女が密命を帯びている可能性は考えたし、丘で辛軍を発見したときは、兵略家がやって来たのだと確信した。

 しかし、敵を前に門を開け放って対峙する姿は、それが援軍が来るまでの演出だとしても、まさしく将の背中であった。

 その光景に、青年に読んだ物語の名将、英傑の顕現を見た思いで、成嬰の心は震えた。


 曹長となり正式に副隊長となった今も、仕事は変わらない。砦での立場も変わらない。

 変わらないが──。

──意味合いが違う。

 鮑謖に託されたという事実は、成嬰の中で大きな意義を持った。



 大音声(だいおんじょう)による降伏勧告がなされ、明日の朝まで待つとされた。


 成嬰も、本格的な防衛戦は始めてであるのは勿論、敵は三百はあろうという数に加え、砦攻めの準備も十分なようで、梯子(はしご)や縄なども確認されていた。

「どうすればいい・・」

 一日は何とか耐えられるかも知れないが、二日目はたぶん無理だ。それは兵力差という観点もあるが、敵も恂門(ジュンモン)の軍営に察知されることは避けたいはずで、到着してから三日目が締め切りになると思われた。敵の指揮官は、それまでに決着を付けに来るだろう。

 逆に言えば、二日耐えればいいことになるが──。

 明日耐えるのがやっとと思われる現状、運否天賦(うんぷてんぷ)の奇跡でもなければ不可能な話だ。

──中尉に何と顔向けすれば・・

 成嬰は、鮑謖を思い浮かべ、最後のやり取りを振り返った。

「心配させまいと、繰り返していたな・・」


──!


 自身の言葉を聞いた成嬰は、ハッとした。

 成嬰は必死に過去を思い起こそうとする。が、すぐに──。

「いや、俺一人じゃ整理がつかない」

 成嬰は、鮑謖の言葉に道標(どうひょう)を感じたが、()く頭を回す崔弱ならいざ知らず、自分では(かえ)って混乱に陥ると判断。何人かの兵を呼んで、情報を共有した上で考えようとした。

 その呼ばれた兵の中には、鮑謖が一目置いた、先越(センエツ)がいた。



「なんでもいい。気付いた事があるなら言ってくれ」

 成嬰は、思い出せる限りの鮑謖の言葉を伝え、皆に意見を求めた。

 しかるに沈黙の時が訪れ、その流れは酷く遅かった。


 成嬰が、まずは自分が何かを言うべきかと、考え出したとき──。

僭越(せんえつ)ながら、中尉は匪賊(ひぞく)討伐の感謝状というものに、何らかの策謀を感じていたのでは、と思います」

 言ったのは先越だ。

「続けてくれ」

 成嬰の言葉に先越は頷くと。

「中尉が後翼(ゴヨク)に向かわれたときに、辛国が侵攻してくるというのは、タイミングが良すぎます。諜報も考えられますが、中尉自身の判断であること、辛軍の規模が三百なこと、砦攻めの準備が万端なことなどから、二国は連携、共闘関係にあるのではないでしょうか」

 聞いた一同は、それぞれに小さく頷く。

「中尉はそれを予見していた。つまり招聘(しょうへい)が罠の可能性を考えた上で、それでも後翼に行くことを決めた。中尉が繰り返し自分の心配は不要としたのは、罠への対処をされていたのかと。崔弱伍長をお連れになったのも、その関連ではと」

「なるほど・・」

 成嬰は大きく頷くと。

「では、俺たちの側はどうか? 当然、砦の状況も予測されたはずだ」

「はい。恂門には既に援軍の準備がなされているかと思います。ですが、今回の急襲による封じ込めと、三百という数、そこまでは想定できなかったかと・・」

 聞いた成嬰は目を伏せた。


 全体としての動きは理解した。鮑謖の布石も打たれている。だが、相手がそれを上回ったという事だろう。そして、現状、自分たちには手立てがないのも、わかってしまった。

 成嬰は、やはり自分の対応が遅れたからだと、自身を責めた。


 さはさりながら、兵たちの心境は少し違っていた。

 鮑謖の先見にあらためて敬服し、援軍の準備もあることに希望を持った。彼らは、時間さえ稼げば、勝利という未来がくると感じ始めたのだ。その辺りは、成嬰との視点の違いで、兵たちは三百という数に圧倒され、最初から負けを覚悟していた。

 成嬰にとっては減少した勝機でも、兵士たちにはゼロから増えた勝機だった。


 そのような心胆が影響したか。

「曹長。狼煙(のろし)()いてみてはどうでしょうか」

 一人が言う。

「いや、お前、ここからだと遠すぎて恂門には届かないだろ」

 隣の者が言う。

「あー、やっぱ駄目か。なんか訓練してる部隊とかが、見つけてくんないかと思ったんだけど。流石に遠いか」

 兵は頭を掻くようにして返し、それで少し笑いが起きた。

 成嬰も頬を緩めたが、同時に皆の笑顔を見て、名状しがたい(うず)きを感じた。

 そんな中。

「狼煙はやってみる価値があるかも知れません」

 先越が言った。

 集まる一同の視線。

「我々は、狼煙が難しいと思えますが、敵はそれで援軍の可能性を考えるやも知れません。すぐに無いと判断されるかもですが、少しでも警戒してくれればと・・」

 聞いた皆は。

「たしかに、勘違いしてくれるかも」

「本当に誰かが発見してくれる可能性もあるしな」

「なんなら、そのままビビって帰ってくれてもいいけど」

 最後のには大きく笑いが起きた。



 成嬰は、兵たちの前向きな姿勢に心を動かされた。そして──。

──やれるだけ、やってからだ。

 悔悟(かいご)する過去とするには、まだ早い。

 成嬰は自身に気合いを入れ直し、その意気は、兵たちに自然と伝播(でんぱ)した。

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