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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第二章 ~指揮官の背中、私淑の眼差し~

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第14話 評定

 汐径(セキケイ)の軍営では、属する守備隊から賊徒を討った、または捕らえたという報告が入った場合。通常、一日掛けて準備し、実際の調査はその翌日以降になる。

 しかしながら鮑謖(ホウショク)を隊長とする砦の守備隊は、先頃(シン)国軍との戦闘があったばかりであり、現在当該地域は要警戒の扱いであったため、恂門(ジュンモン)の軍営は早々に準備を終わらせ、検分のための兵を出した。





 王都にある軍、本営では会議が行われたいた。

 議題は多岐にわたったが、その中で北東部の国境で起きた有事に話が移った。

「辛軍が砦を落とすのに乗じて・・だろうな」

後翼(ゴヨク)は認めないでしょうね」

「だが、何故このタイミングだ?」

「おそらく西進を考える連中の手が回っているのではないかと」

(キョウ)か、東錬(トウレン)か、どちらにせよ面倒な事をしてくれます」

「北と東の二正面か。たしかにな」


 北の砦を皮切りに恂門を取り、そこを拠点とする北からの侵攻と、街道を東から来る西進の軍、その二局への対応を迫られる。そのような絵図を、敵は描いているのではないか。

 だとすれば、局地的な小さな砦の攻防が、即ち、国の東部全域に関わる有事の発端という事になる。会議の出席者たちは、先の戦闘と勝利が、如何に重要なものであったのかを、あらためて認識した。


 会議といっても秘密のそれではない。

 進行や書記の他、資料を配る者、お茶を淹れる者、報告連絡する者、出席者それぞれの部下などがいて、人の出入りも常にある状態だ。

 皆が砦のことを話している間に、一人の部下が報告書を上官に届けた。上官は中身を確認すると。

「すまない。いいかな?」

 手を上げ、進行に一応の確認を入れる。

「どうぞ、中佐」

「今、話にあった砦に関して報告が入った。恂門の軍営からだ。これによると、砦の管轄地域で賊が出没し、守備隊の兵が討伐した。捕らえた数名から、後翼国を荒しまわっていた匪賊(ひぞく)だと判明したとの事だ。また、その賊に殺されたと見られる、辛国の諜報員らしき者もいたようだ。状況から、辛国は砦の隊長のことを監視していて巻き込まれたのでは、となっている。以上だ。取り急ぎ共有する」

 言い終わると、報告書を隣の者に渡し、受け取った者はさっと目を通して、次の者の前に置いた。そうしている間にも話は続く。

「その辛国のも気になるところだが、監視までする砦の隊長とは、何者だ?」

「それに関しまして既に資料があります」

 進行の指示で係が皆に配る。


 一同は、それにも目を通すが──。

「何だ、この報告書は? 『たまたま』敵を見つけて『たまたま』違う道を進ませただと!? ふざけているのか」

「この、砦の門を開け放つなど大胆不敵だが、理由は『撤退を促すため』となっているな。どうかな? 自分が敵になったとして、撤退など選べるだろうか・・」

「あー。私はこれに既視感がありますね」

「准将もですか。自分もです」

「少し前に、西の山に潜んでいた賊徒が討伐されたのがありましたが、あのときの報告書も『たまたま』が幾つか並んでいました」

「そうであった。あのときも大佐は、報告書の書き方がなってないと怒鳴っていたな」

「うーん・・ 何かそんな事もあったな」

「えー。ご指摘がありました通り、王都西にいた賊を倒した者が、現在砦の隊長を務めております」

 進行が資料を確認して言う。

「で、コイツはどんな奴だ?」

 大佐は業を煮やしたように聞く。

「それについては、私が説明しよう」

 報告書を共有した彼だ。

「では中佐、お願いします」

「名は鮑謖、前年度武官学校を卒業したばかりの者だ。成績は下の下、座学は平均の範囲であったが、実技は駄目すぎた。馬にも乗れんし、無理に乗せても馬酔いする始末。一言すれば落ちこぼれだ」

「よく卒業──、いや、入学させましたね・・」

(もっと)もだ。卒業は疎か、進級に足る単位にも届かなかった。それでも教官たちは、彼女を進級させ彼女の卒業を推した。それは何故か──。強いのだよ、ただ単純に強い。剣がどうとか槍がどうとか、そういう話じゃない。生物としての根本的な強さが違う。喩えるなら、犬と狼、いや猫と虎か、蛇と龍でもいい。似たような見た目でも、異なる次元、そういう存在だ」

 中佐の言葉に、一同は圧倒されたように静まりかえった。

 それでも進行は自分の役目を全うしようと。

「それほどの猛者(もさ)が、どうして砦の隊長になったのでしょうか?」

「本人の第一志望だ」

「第一志望!? 将校になって目指すのが地方の更に外れの守備隊か? どうかしてる」

「その通り、どうかしているのだ。だから先の『たまたま』も、まともに取り合う必要はない。言うなれば、思考のプロセスが違うのだろう。奇人の頭をなぞっても混乱するだけだ」

 中佐の言いように皆は頷く。


「なるほど──。少し、おかしな者の様ですが、結果は出している。ところで、この討伐した匪賊は、半年ほど前に後翼が、それなりの規模で軍を動かしたとされる作戦の生き残りではないですか?」

「詳細はまだですが、たぶん間違いないかと」

 准将の確認に中佐が返す。

「では、この事を後翼に伝え彼らの反応を見ましょう。さして意味もないかも知れませんが、意趣返しぐらいにはなるでしょう」

「それはいい。お前らのせいで苦労したと言うか。それとも、不始末の後始末をしてやったと恩に着せるか。いや、両方だな」

「こちらには守りを固めるばかりか、賊に即応する力もあると、ある種の牽制にもなるでしょう」

 皆も前向きな意見を出した。



 この日、本営の会議に於いて、後翼国に対しての質疑と報告の書状を送ることが決定した。

 先日の国境越えでの布陣に関する事と、匪賊を討伐した事についてだ。

 更に、それに先だって、砦の守備隊を賞する指示が出された。これも後翼国や辛国に対する、間接的な牽制と返報であった。


 必然、砦の隊長である鮑謖は、内外から視線を向けられることになった。

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