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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第二章 ~指揮官の背中、私淑の眼差し~

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第13話 賊を討つ

 戟塵(げきじん)が見えた。

 それはそこでの戦闘を示すもので、同時に賊徒の発見を知らせる合図でもあった。

 砦の騎兵、十騎の一隊は急ぎ馬を走らせる。

 その中には、成嬰(セイエイ)に是非にと志願した、件の村出身の兵もいた。


 彼は自分の村が賊徒の襲撃を受けるかも知れない事態に、憂悶(ゆうもん)を禁じ得なかったが、鮑謖(ホウショク)の素早く果断な下知に希望を強く持ち、彼女の言を伝えるべく必死に駆けた。

 その後、郷里を守るため、疲れを押して参戦した。


 距離が縮まり、賊の姿がはっきりと見てとれた。

──俺が村を守る!

 兵の強い思いは、僚友たちにも伝播(でんぱ)し、十騎の一団は闘魂を(たぎ)らせた。

 響く爪音(つまおと)に、賊も気付いたようだが、どうしたか混乱している。その様を見て騎馬たちは勝機を感じ、()して気合いを入れ敵に突っ込んだ。

 その一撃で勝敗は決した。

 騎兵が賊を貫き、防戦を耐え抜いた歩兵が反撃に転じ、賊は惑乱のままに討たれた。三分の一ほどがやられると、彼らは我先にとバラバラになって逃げ出した。

 賊は二十ほどで、流石に全ては追いきれないと思われたが、そこにもう十騎の騎兵が駆け付け、賊を余すことなく討ち取った。


 兵たちは賊を全て倒したことを自得すると、誰ともなしに声を上げ、それは喊声(かんせい)となった。





 日は落ちた。

──もういいだろう。

 男は移動を再開した。


 軍は十人ちょっとの編制を複数展開している。これは賊徒の探索を任務としてると思われるが、それでも十人という数は、かなり少ない方である。現に一部隊だけでは、賊に対して守勢を強いられる戦いになっていた。このことから──。

──おそらく砦の兵だ。

 男はそう結論付けた。

 砦のことを詳しく知るわけではなかったが、規模から考えて戦力は五十人ほどと見立てられるから、それを複数分けた場合、十人ぐらいが最小単位になるとの計算だ。


 これらを踏まえ、男が取った行動は恂門(ジュンモン)の街を目指すというものだった。

 恂門には、この地方の軍営があり、賊徒としては近づきたくない場所であったが。今や男は只の一人であるからして、人混みに紛れることで、やり過ごそうと考えた。

 また、賊徒討伐が砦の作戦ならば、恂門に近づくだけ、彼らの探索範囲から外れる可能性があった。管轄範囲というわけではないが、恂門の方まで兵を配するぐらいなら、端から援軍を頼むはずだ。そして、軍営が関わっているなら、十人部隊などにはならないだろう。


──!

 男は咄嗟に身をかがめた。馬が(いなな)いたように聞こえたのだ。

 しかし、跫音(きょうおん)の類いは聞こえない。

──待ち伏せか。

 思ったが、伏せるような場所は小さな岩陰ぐらいしかない。

 ヒヒィー。

 今度は、はっきりと聞こえた。方向はその岩からで間違いない。

──流石に伏兵なら間抜け過ぎる。

 男は仕掛けは無いと断じ、素早く声の元へと駆け付けた。


「ハハッ──。幸先いいじゃないか」

 男は岩陰に止められていた馬を見つけた。

「お前も、こんな所で独りで寂しかったろ。はぐれ者どうし仲良くやろうぜ」

 男は馬に、そう話しかける。

 彼は同士としたが、馬は(シン)国諜報員に置いていかれた者で、男自身は自分の手下たちを敵前に置き去りにした者だ。互いに独りでも、似て非なる関係だった。


 気をよくしたのか、男はそれまでの警戒心をゆるめて、馬に乗って道なりに進んだ。

 総じて緊張感の持続など難しい話であるのは当然として。男が戦闘の際に、砦の兵が使っている軍馬を見たことも関係していた。彼らの馬は重種に属するもので、速度はそれほど出ない。その点、男が見つけた馬は軽快に駆けるタイプであった。

 仮に軍に見つかるような事があっても、馬を疾駆させれば振り切れるとの公算だ。


 視点が高くなったせいか、それとも小気味よく進むのが影響したか──。


──馬があるなら、王都に行ってみてもいいな。

 今日明日の話ではない。

 先々の事として、都会に出て、新たな人生を歩むこともあるかも知れないと、男は夢想した。


 そんなときだった。

 男の進路に幾つかの人影が立ちはだかった。そして(かん)(はつ)を入れず槍を伸ばしてくる。

 不意に起きた出来事に慌てたのは男ばかりではない。

 馬は只の移動用のそれであり、軍馬としての調練は受けていない。急に前を塞がれ、何かを突き出された絵面(えずら)に、背中の事など忘れ(さお)立ちになって逃れようとした。

 男は勢いよく投げ出された。

 さりとて、男も匪賊(ひぞく)の首領を張っていた者、度胸と機転は十人並みではない。咄嗟に体をひねり受け身から転がることで衝撃を分散させ、併せて妨害者たちから距離を取った。


 男は状況を把握する。

──こんな所にも網を掛けるか。

 やはり数は十人ほど。砦の兵であろう。

 兵たちは男を取り囲もうとしてくるが、その動きの乗じて男は疾く間合いを詰め、剣を抜き放つ。狙われた兵は不利とみたか、槍を手放し後ろに飛びつつ剣に手を掛けた。

 男は(こだわ)らず、兵の捨てた槍を短く左脇に挟むように持ち、すぐさま近くの兵に襲いかかる。突き出された槍を右の剣で打ち払い、続けて左の槍で攻撃する。相手は(かわ)しきれず腕を負傷した。

「ハッ──、どうということはない!」

 男はあえて(うそぶ)く。

 己を十人力などとは思っていない。だがそれでも場数は踏んできている。そこいらの兵に負けはしない、という自負は勿論、一対多を乗り切る奇想もあった。

──あれと同じ風にすればいい・・

 男の脳裏には村での一幕がある。

 たった一人に味方が続けてやられる様子は、心胆を寒からしむに十二分な光景で、二割が倒れた時点で戦意は消えてしまっていた。

 今この場で十人を倒すのは難しいが、二人か三人なら不可能ではないし、そうなれば敵には活命への欲が出てくるだろう。あとはハッタリで押し通せばいい。

──既に腰が引けている。

 男の攻勢で、敵兵には、やや逡巡(しゅんじゅん)の気配があった。

「弱いな! この程度か!」

 ここぞとばかりに吠える。


「惑わされるな。二人一組だ」

 男に傾きかけた流れを修正する、落ち着いた声が響く。

 声の主は馬に乗った者、他の兵よりかは上官に位置するように見える。

──コイツが指揮官か。

 思った途端、湧いてくる屈辱的な感情。

 兵を、部隊を、軍を駒のように動かし、人を手玉にとって悦に浸る輩。男の中で指揮官という単語は、彼が厭悪(えんお)する用兵家と(ほぼ)同義であった。

──偉そうに見下ろしやがって!

 男は一度、近くの兵に仕掛ける動きを見せると、バッと向きを変え、一気に指揮官の所まで迫った。

「さっきの礼だ!」

 男は槍で指揮官を狙うと同時に、剣で馬を傷付けんとした。それで馬が暴れて、指揮官が落ちることを期待したのだ。

 しかし指揮官は剣で槍を打ち払いながら、馬を上手に操り、男の思惑を外した。

「何でもありか」

 指揮官は言いながら滑るように馬を下りると、一切のつなぎ目なく()うように低い体勢から飛び出し、地面を擦るような鋭い切り上げを放った。

 男は辛うじて剣をあわせたが、相手の斬撃は極めて重く、自分の剣ごと押されて手を離さざるを得なかった。なんとか反撃をと思ったときには振り下ろしが来ていて、槍の柄で受けるが、その剛なる刃は両断するにとどまらず、男の肩から胸を切り裂いた。





「傷はどうだ?」

「腕のみです。深いですが、大事はないかと」

 成嬰は返答に頷きながらも。

「ここからなら恂門の軍営の方が近い。そこで診てもらえ」

 そう言って負傷兵を自分の馬に乗せ、もう一人の騎兵を先導役にする形で向かわせようとした。


「自分のために、そこまでする必要は・・」

 兵は恐縮して言ったが。

「どのみち軍営には報告するんだ。これはついでだ」

 成嬰は明るく返して、彼らを恂門へ走らせた。


「軍曹。付近に、賊らしき姿は見当たりませんでした」

 索敵させていた者が報告する。

「そうか。ご苦労さん」

 成嬰は言って、自分が斬った男に目を落とした。

「やはり、只者じゃありませんでしたね」

 彼の視線にあわせて近くの者が言った。

「ああ・・」

 成嬰は男を見たまま、噛みしめるように相槌を打った。

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