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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第二章 ~指揮官の背中、私淑の眼差し~

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第12話 頭領の姿

──くそっ。何だ、あの女は!?

 首領は(ほぞ)を噛んだ。

 彼の見立てでは、将校服の女は魔法使いのはずだった。

 ところが実際の女の動きは、どう見ても武人のそれで、彼女を討ちに行った者共は、瞬く間に棒によって打ち伏せられた。

 その光景に手下たちは完全に浮き足立ち、女が新たな棒を手にするや否や逃げ出した。


 こうなると首領といえども制御は出来ない。いや、下手に督戦(とくせん)隊よろしく無理に戦わせようとすれば、手下の刃は敵ではなく首領に向かい、その首を降伏の手土産にするだろう。


 今は手下の逃げ足を追認する形で、一旦引き上げるとしていた。

──のっけから味噌が付いた・・

 賊徒としての再出発、最初の仕事で失敗。しかも首領の即断で、慎重論を排して軍人もろとも村を襲うと決めただけに、今後の彼の立場に危うさが影を落とした。

──どうしたもんか・・

 首領としては、賊としての先行きは勿論、自身の身の振り方まで考えねばならない事態となっていた。


 そんなとき──。

「お頭! 軍が来ました!」

 手下が声を上げる。

 さっきの今だ。一同に動揺が広がっていく。

「うろたえるな! 数は半分もいねぇ、二人掛かりでやれば十分だ」

 首領は揺らぎを払うべく力強く言ったが。

──なんでこんな所に兵がいる?

 その正体について、懐疑を持たざるを得なかった。

 軍は歩兵十人と二騎の構成、対して賊徒は首領を含め二十八。騎馬を三人力と勘定しても、優劣には余裕を感じる。その認識は、味方のみならず相手も同様のはずだ。

──こっちを侮っているか?

 しかるに軍は逃げを見せず、駆け付けた勢いのまま両勢はぶつかった。


 衆寡(しゅうか)敵せずとはよく()ったもの。如何に訓練された兵といえども、同時に複数を相手にしてはまともな戦闘にはならない。

 軍と賊の対立は、すぐに一方的な形になった。

 なったが──、軍兵はそれでも逃げない。歩兵は密集し、互いにフォローする格好で防御に徹し。騎馬は牽制を狙ってか、止まる事なく一撃離脱を繰り返している。

「こいつら、何がしたいんだ・・」

 首領は敵兵の異質さに、少しずつ焦燥が募った。


──!

 首領の男は、眼前の戦闘とは別の闘気を感じ取った。

 反射的に気配の方へ首を向けると、砂塵が向かって来るのが見える。状況から察するに、その正体は敵の援軍。それも騎馬隊であろう。

 首領はハッとして間近の二騎の動きを見る。

──狼煙(のろし)だったか!?

 男は理解した。

 敵の騎馬が動き続けたのは、此処に戟塵(げきじん)がある事を友軍に知らしめるためであり、歩兵たちが不利を押して耐え続けるのは、自分たちを釘付けにするためだったと。


──また負けるのか・・


 男が思う『また』とは先の鮑謖(ホウショク)との事ではない。

 後翼(ゴヨク)国にて五百の軍によって殺されかけた出来事の方だ。


──おのれ、用兵家どもめ。

 あの時も、おそらく今回も、兵は作戦によって動いているのだろう。そして、その兵との戦いを回避できない状態にされてしまっている。それは、用兵、軍略を(たしな)む指揮者たちの手のひらの上で、自分たちが踊らされているのと同じだ。

 男はそのように感じた。


──俺は、お前らの思い通りにはならんぞ・・

 他の者はまだ援軍には気付いていない。賊徒は(おろ)か軍兵も、目の前の相手を追うので手一杯だ。(あまつさ)え、今、この場に()いて、首領だった男の動きに注目している者は皆無。


 男は独り、迫り来る砂塵から遠ざかるよう駆け出した。





 鮑謖は村に到着した兵から、成嬰(セイエイ)の編制と配置について報告を受けていた。


「え~と、歩兵十騎馬二の小隊が二つと、十騎の騎兵隊も二つの四隊で探索してる。ってことだよね?」

「はい。その通りであります」

 説明された事を反芻(はんすう)するように言葉にし、自分の理解が正しいか確認する。

「で、君たちが村の護衛と、私の補佐と」

「はい。その通りです」

「うん。了解した」

 間怠(まだる)っこしいやり取りで、およそ上官の威厳を損ねそうなものだが、鮑謖は既に第一印象ゲロの女であるから、細かい事は気にしていられない。それよりも前回みたく、わけのわからんまま話が進まれては困る、という心境であった。

 さはさりながら兵の方は、鮑謖が一つ一つ確認する様を、軍略という盤面に一手ずつ慎重に駒を配する用兵家の姿を見た思いがして、密かに感動していた。


「中尉。賊徒たちの供述では、彼らは後翼国から逃げてきた匪賊(ひぞく)のようです」

 鮑謖が倒した者を尋問していた兵が言う。


 幸か不幸か、今回鮑謖が倒した中に死者は出なかった。棒が元より硬い物ではなかったのと、折れた事で力が分散されて、頭が割れたり内蔵が潰れたり、といった事態は避けられたからだ。これは特に狙った話ではなかったが、村に死体を転がすことにならずに済んでよかったと、鮑謖は安堵した。

 兵が村に到着したときに、襲撃者たちの拘束と取り調べを命じていたのだ。


──ん? 匪賊!?

 匪賊は百名は下らない大規模な賊のことであるが、鮑謖が気にするのはそこではない。

──あれ? (シン)国軍じゃなかったの・・

 先刻は『自分を監視する辛国軍の何か』などと、(もっと)もらしく考えていただけに、辛国とは関係ない賊だったというオチは、鮑謖を恥ずかしさで(もだ)えさせるのに十分な威力があった。

──『私が標的だ』じゃねーよ。

──なにが『巻き込んじゃった・・』だよ。

 鮑謖は腕を組み、内に湧く葛藤に一人耐えた。


 が、例によって傍目(はため)には、深く重厚な思考の仕草に思われ。

「中尉。何か気になることでも?」

 と、兵に尋ねられてしまう。

 鮑謖は一種の諦観(ていかん)を以て。

「うん。辛国軍がいるかと思ってたんだけど、違ったみたい・・」

 穏やかに言った。


 その矢先──。

「中尉。村の外で男の死体を発見しました。刺し傷から、おそらく賊徒によって殺されたかと思われます。身元を特定できる品はありませんでしたが、書きかけの報告書のようなものを所持していました」

 兵が報告し、書きかけを鮑謖に渡す。

 続けて。

僭越(せんえつ)ながら所見を申せば、辛国軍との戦いに関する情報をまとめたものかと拝察いたします」

 そのように言った。

 鮑謖もそれに目を通したが、確かに兵の言うとおりで、その事から──。

「うん。これって、辛国の関係者?」

 同じ兵に確かめると。

「はっ。自分も同意するところであります」

 と、返った来た。


──えっ!? なんでいるの?

──やっぱ狙われてた? いや、賊は何??

 状況が全く理解できず、鮑謖は困惑の極みに達した。

 かたや兵たちは、辛国の存在を予見していた彼女に、敬服の念を(あつ)くした。

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