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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第二章 ~指揮官の背中、私淑の眼差し~

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第11話 棒折の魔女

「あー。絶妙ですね、この味わい」

 鮑謖(ホウショク)は相変わらず、お茶を堪能している。

──指図だけして、この女は何をやってるんだ?

 村長はその姿に、やや鼻白んだ。

 砦の隊長で中尉というから大層な者かと思っていたが、命令だけして、自身は間抜け面して茶を(すす)っている。村の者にも、何にするつもりか知らないが、棒を集めさせ、後は戸締まりしていればいいと言う。

──賊を討伐する意思があるのは、ありがたいことだが・・

 村長には鮑謖の意図が全くわからず、その事で、近い将来に関して不安を抱かざるを得なかった。


 ちなみに集めた棒は、空の樽にまとめて突っ込んで家の外に置いてある。


 ガタッ──。


 不意に鮑謖が立ち上がった。

「ど、どうしま──」

「来たみたいだ」

 村長の質問が終わる前に鮑謖は返答した。

 そして残ったお茶を飲み干し。

「私が出たら、終わるまで閉め切っておくんだ。いいね?」

 村長や家人たちが頷くと。

「うん」

 と、だけ言って鮑謖は家の外に出た。


──賊じゃない可能性もある。

 鮑謖の脳裏には(シン)国軍の別働隊がある。今回も同じとまでは思うまいが、小さな村に、自分が訪れたタイミングで斥候らしき者があらわれるのは、彼女としても(いぶか)しむべき話だった。

──賊なら家を襲う。違うなら、私が標的だ。

 今、村を囲む集団の気配を察知し、鮑謖は自らを彼らの視線に晒すことで、その正体を知らんとした。


 果たせる(かな)、襲撃者たちは、その目途を鮑謖に定め、討ち取らんとばかりに殺到した。





 女が一人出てきた。

「あいつです。二騎で来た内の一人です」

 昼間、偵察にやっていた手下が指差して言う。

「おい、ありゃ只の兵じゃないぞ」

「将校ですぜ。ここ汐径(セキケイ)の」

 他の手下もそれぞれ言う。

──そればかりではない。

 首領もまた女の衣装を気にしたが、将校云々よりも、騎乗には不向きであろう丈の長さに着目した。

「お前ら気を引き締めろ! あれは魔法使い、魔女だ。あの樽に入ってるのは杖か、どうかわからんが。なんにせよ、あれ一人で二十人相当の戦力だ」

 首領は言ったが、同時に。

──護衛はどうした?

 魔法は強力だが、溜めの時間が必要であり、その間を守る守兵がセットになるのが常だ。だが見る限り、女は一人きりでいて、彼はそれを怪しんだ。

「お頭、馬がありません。一頭だけです。一人はどっかに行ったんじゃねーですか?」

 手下の指摘に。

「よし! 魔法撃たれる前に速攻で魔女を()る。誰もいい、アイツの息の根を止めろ! いいか、女だからって変な欲を掻くんじゃねーぞ」

 首領は方針を示すと共に、手下に釘を刺す。

 魔法使いは杖を以て魔法を使うが、まれに何もなくても使う者もいた。件の女は将校であるから、単なる(いち)魔法使いよりも上位の可能性があり、下手に捕らえようものなら、隙を見て魔法を使われる(おそれ)もあると考えられたからだ。

「魔法使いさえ始末すれば、あとはどうとでもなる」

 首領の予断は、軍とも刃を交えた経験豊富な手下たちも共感するところであった。

「速攻だ! かかれ!!」

 首領が号令を発するや否や、賊徒たちは駆け出し、我先にと魔女に爪牙を向けた。





 剣や槍で武装した男たちが自分に向かってくるのを見て。

──あー。やっぱ私が巻き込んじゃった・・

 鮑謖は思った。

 猟師が見たというのは賊ではなく、砦の隊長の自分を監視する者だったのだろう。それはおそらく、先日戦った辛国に属する何かだ。相手は襲撃を考えていたが、騎乗では走って逃げられる虞があった。だから、馬を下りた機会を逃すまいとした。結果、自分が村に立ち寄ったせいで、村を巻き込んでの騒動になってしまった。

 斯様な鮑謖の思考は、一周回って半分正解という奇妙な現象を引き起こした。

──村の皆さん。申し訳ない・・

 鮑謖は心の中で謝罪しながら棒を二本取る。

 千鈞(せんきん)の杖は重くて馬がへたばってしまうので持ってきてはいない。だから、集めてもらった棒が彼女の武器となる。



 既に第二章。今更ながらになるが、重要な事なので、ここに明記しなければならない。


 鮑謖は、成嬰(セイエイ)崔弱(サイジャク)、その他大勢が思った魔法使い、魔女ではない。

 彼女は単に怪力なのだ。いっそ力しか能がない程だが、その力ゆえに武官学校へ進学した。

 しかし(りき)みすぎるのか、剣を持てば曲げ、槍を構えれば折った。弓は引けたが、遠くに飛ぶだけで的に当たった事はなかった。

 そんな鮑謖が唯一まともに扱えたのが棍棒だった。ただそれでも、まぁまぁ壊すので、見かねた教官が軍の倉庫から見つけてきたのが、例の千鈞の杖である。

 その由来は、昔の力自慢が、とにかく重くて頑丈な武器をと注文して出来た物で。作ったはいいが、重すぎたのか、とうの本人も数回振っただけで「もういいわ・・」となった代物である。嘘か真か、千金を出して(こさ)えたという話からもじって、千鈞の杖と呼ばれるようになった。

 言わずもがな、崔弱が頭に浮かべた仙禽(せんきん)だの神話だの魔力がどーとかは、全く関係ない。

 鮑謖が卒業し、少尉になったとき将校服が支給されたが、杖を持つ彼女の姿に『魔法使いか』と係の者が勘違いしてローブ型を渡した。鮑謖も『あれ?』と思ったが、どうせ馬に乗れないしと気にせずそれを着続けた結果が、今の姿である。


 詰まるところ、鮑謖は、魔法使いとは似ても似つかぬ、前衛型の兵士である。



 鮑謖は左右の手に棒を持った。別段、二刀流というのでもない。折れるのを見越しているのだ。

 敵が三歩先まで迫る。

 瞬間、鮑謖はスッと沈み込むと同時にバッと疾く間合いを詰め、左で一人、右で二人を打ち払う。右手に持った棒は衝撃で折れてしまうが、鮑謖は左のそれを両手で持って、続く槍持ちの突き出しを大きく()なして、体勢が崩れたところに棒を叩きつけた。

 棒は両方とも折れ、鮑謖は樽から新しいのを、また二本抜く。

 敵も、その隙を逃すまいと攻め寄せるが、鮑謖は足を払うように薙いで相手を転ばした。倒れた者たちが(せき)となって後続の足を止め、そこを鮑謖が連なる攻撃で仕留めていく。


 十と何秒だろうか。

 攻め手は、あっという間に八人が伏することとなり、彼らは何をする()くもなく逡巡(しゅんじゅん)した。

 そして、再び鮑謖が二本の棒を手にしたときには、彼らは(きびす)を返して駆け出していた。

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