(5)
「わかりました。心当りが有ります。すぐ準備をして下さい。1〜2日分の水と食料。その他、最大2日分の旅の装備。防御系の魔法を使うのに必要な消耗品が有れば、それも。あと馬を人数分。戦闘用でなくても良いので、山道を歩ける馬にして下さい」
俺達の……と言うか、俺達ん中で、一番、口が上手いアイーシャの……説明を聞いた聖女騎士サマは、いきなり、そんな事を言い出した。
「えっ?」
「クロさんは、空を飛んで消えた。町中でも目撃例は今の所なし。では、考えられる場所は、あそこです」
え……えっと……何を言ってるんだ?
「や……山って、どこの山ですか?」
ジブリルが、「えっと……?」的な表情で、そう訊ねた。
「この町から片道1日以内、でも往復なら2日は見込んでいた方が良い山って、そうそう無いと思いますが……?」
今度は、聖女騎士サマが、困惑したような表情で、そう返す。
「あ……あの……ドラゴンが住んでる、あの山ですか? まさか……?」
「ええ、貴方が言われてる、その山の事です」
「え……えっと……命がいくつ有っても……」
ん?
えっ?
おいっ?
「ちょ……ちょっと待ってくれ……」
俺は話を遮った。
「クロちゃんは、ドラゴンが住んでる、あの山に居るって事か?」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
しばらくの沈黙。
「ええ、さっきから、その話をしてるんですが……」
おい、無茶苦茶だ。
「私とクロさんは、休みの日には、あの山に良く遊びに行っていて、山の主のドラゴンさん一家とも友達です」
待て。
「山に入ったら、下手に動物なんかは殺さないで下さい。皆さんにとっては『モンスター』でも、山の主のドラゴンさんにとっては『友達』ですので」
いやいやいやいや……待て待て待て待て。
「今、親のドラゴンさんは出掛けてるようですが、この町の人間が、自分の友達を殺したなんて知ったら、あのドラゴンさんは、この町を滅ぼしかねません。注意して下さい。山に入ったら、何が有っても防戦だけです。……この町に怨みでも有るのなら話は別ですが……」
こらこらこらこら……。
「でも、ドラゴンは、今、居ねえんですよね……?」
「あれ? 私、ちゃんと『親のドラゴンさんは出掛けてる』と言った筈ですが……」
え?
え?
な……なに? 何? 何? 何?
何の嵐で、どういう事?
「子供のドラゴンさんが4体居た筈です。親がこの町ごと滅ぼせるなら、町の一区画ぐらい滅ぼせる程度の戦力だと思って下さい」
む……む……無茶苦茶だ……。
「では、早速、明日の朝一で出発しましょう。今夜は準備が終ったなら、早めに寝て下さい」
た……たすけて……俺達、何に巻き込まれてるんだよ?




