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善人なんて簡単に騙せる。……そんな事を考えるのは阿呆だけだ。
少なくとも、この町の冒険者ギルドの連中は2人を除いて……いや、1人と1竜を除いて思い知っている。
阿呆が付く程の善人である聖女騎士カマルを利用しようと思った奴らは……カマル本人に、そんな気が無くとも……まるで、どこぞのド偉い神様が直接この世界に介入して、そいつの運命を変えちまったみて〜に、ほぼ必ず、結果的にロクデモないしっぺ返しを喰らってしまう。
聖女騎士カマルを騙そうとしたり……何かの情報をわざと隠して頼み事をした奴らが酷い目に遭い続けてるのを知らないのは……当の聖女騎士カマル本人と、「聖女騎士カマルを騙す」なんて発想を受かべたりしないクロちゃんだけだ。
「で、カマルの姐さんから情報をもらうとして……どこまで話すの?」
「どこまでって?」
「じゃあ……まずは……」
ポチャ……っ。
アイーシャは片手に持っていた湯呑みに入っていた香茶……と言っても、東方産の本物じゃなくて、安物の紛いモノだが……に指を付け……。
そして、テーブルに水滴で「1」って数字を書いた。
「最低限の情報だけ明かす。『クロちゃんが急に居なくなったんで、心当りが無いか?』」
普通だったら、これが現実的選択ってヤツだろう。けど、下手に隠し事をした上で頼み事をやると後でしっぺ返しが来るような相手に、この情報だけ渡すのも考えモノだ。
続いてアイーシャは、テーブルに「2」って数字を書く。
「もう少し情報を渡す。『クロちゃんの故郷からクロちゃんを探しに来てる奴が居る』までね」
更に続いて「3」って数字が書かれ……。
「更に情報を渡す。『そいつはクロちゃんを故郷に連れ帰ろうとしてるがクロちゃんは嫌がってるらしい』まで」
そして「4」。
「次は『けど、そいつにクロちゃんを引き渡せば、すげ〜礼金がもらえる。つまり私らは仲間を売ろうとしてる』」
おい……ここまで明かしたら……流石に教えてくれね〜だろ……。
そして「5」。えっ……「5」?
これ以上、何の情報を……。
「最後は……『実は、危険呪物保管庫に有る死体袋の中身は生きた一般人だ』まで正直にゲロする」
「そ……そんな事、ギルドの理事にまで、話が伝わったら、俺達、冒険者ギルドから追放だぞ、追放……」
「でも、私ら……と言うか主にリーダーのせいで、一般人、それも、この地区のエラいさんが危険に晒されてる最中なんだよ」
アイーシャは深呼吸すると……。
「さ、全員、何番かを選んで。その平均値でカマルの姐さんに、どこまで情報を明かすかを決める」
「おい、リーダーは俺だろッ? 何で、お前が仕切ってんだよッ?」
「じゃあ、リーダー権限で、リーダーだけ2票分。計算はリーダーが選んだ数字を2倍+他3人の合計を更に5で割る」
「え……えっと、それで、俺が2票分って……事に……な……る?」
……全員が一瞬「この馬鹿に、どう説明すれば良いやら?」って表情になったのは……俺の気のせいだと信じたい。
「大丈夫です。そのやり方ならリーダーが2票分になります。仲間を信じて下さい。ボク達がリーダーを騙そうとしてるとか思ってるんですか?」
ジブリルがそう言ったが……信じるべき……なのか?
「あ〜判った。じゃあ、割り切れなかった場合は、切り上げか切り捨てかはリーダーが決めていい。これでいい?」
アイーシャが、また、小難しい事を言い出した。どうやら魔法関係の話らしいのは判るが、俺には、そっち関係の知識が無いんで、何が言いてえのか、さっぱり判んね。
「えっ……? 割り切れない? 切り上げ? 切り捨て? 何?」
「喩えば、私ら4人で、金貨5枚の報酬をもらったとするよね? 1人1枚づつもらったとして、余った1枚を誰がもらうかとか、それとも装備とかを買う費用とかギルドへの上納金に回すかとかはリーダーが決めていい……みたいな感じ……かな?」
「ああ、何となく判った」
そう言って……投票つ〜か何つ〜かが始まり……。
俺は「1」。最低限の情報だけ。
ジブリルとアイーシャは「2」。故郷からクロちゃんを探しに来てる奴が居る事まで明かす。
サファルは「4」……。忍者なのに「実は、俺達は仲間の筈のクロちゃんを『売ろう』としている」って、かなり危険な情報まで明かすつもりらしい。
そして……。
「合計は10。5で割ると、ちょうど2……クロちゃんの故郷からクロちゃんを探しに来てる奴が居る事まで、姐さんに打ち明ける。リーダー、〆に一言お願い」
「え? 何を言やいいんだ?」
「『これが、みんなの総意だ。異存は無いな?』とかさぁ……」
「あ……ああ、これが、みんなの総意だ。異存は無いな?」
ん?
今、一瞬、溜息みて〜な音がいくつか聞こえたよ〜な気がしたんだが……。




