(9)
瓦礫の中に銀色の光が煌めいた……。
「あ……殲滅者の末裔よ……」
市議会議員に化けたゴブリンが、そう言った。
「……ウチらは、その呼び名は好かん……」
いつもは、脳天気なクロちゃんの声が……まるで、地獄の底から響くような……。
「お前の下僕は返す。我々は、この町を去る。だから、我が同胞を、これ以上、殺すな。たのむ……」
「あんた達……人間さん同士を殺し合わせて……何が楽しかとね?」
「うきゃあ〜ッ‼」
その時、人間に化けているゴブリンの1人が巨大化。
しかし、その叫びは……完全に恐怖に駆られた、やぶれかぶれのモノ。
そのまま走り出し……だが……。
クロちゃんの手から放たれた「気」の網が、そのゴブリンの体を覆う。
「へ?」
続いてクロちゃんの背中に「気」の翼が出現し……。
「うわああああッ‼」
巨大化ゴブリンの体は空中に持ち上がり……。
そして……。
回転。回転。回転。回転。大回転。
気付いた時には、巨大な竜巻が発生し……冒険者ギルドだった瓦礫を巻き上げ……。
「うわあああ……‼」
クロちゃんが「気」の網を解除した途端、巨大化ゴブリンが飛んでいく……。
明らかに町の城壁の外に……。
そして……轟音と共に、地面が揺れた……。
巨大化ゴブリンが、町の城壁の外に落ちた衝撃が……ここまで伝わって来た。
その方向を見ると……巨大な土煙の柱。
「いや、まだ手は有るッ‼ デカくなっても無駄ならッ‼ 小さくなって奴の体内を攻撃すれば良いッ‼」
人間に化けたゴブリンの……もはや数少ない生き残りの1人が、そう叫んだ。
え?
叫んだ?
どいつが叫んだんだ?
「ぎゃあっ‼」
続いて、妙に小さい悲鳴が俺の足下から……。
下を見ると……ドブネズミが口の周囲を真っ赤にして何かをガリガリ噛っている。
市会議員に化けたゴブリンが……「どうしたもんか」ってな感じで、手を顔に当てている。
「逃げられんな……もう……」
自治会長に化けたゴブリンが背後を振り向きながら、そう言った。
その視線の先には……聖女騎士カマル……クロちゃんの許婚……そして、アイーシャとサファル……。
「聞きなさい。貴方達に降伏する意志が有るなら受け入れましょう。ただし、貴方達が化けている人達が、今、どこに居るか正直に言いなさい」
カマルの姐さんの声も……普段とは違う冷たいモノだった。
「もう1つ条件が有る。その条件を受け入れてくれるなら正直に話す」
「どういう条件ですか?」
「一から十まで、今回の件に関わったのは、成体だけだ。我々の子供達に罪は無い筈だ。子供達の命だけは助けろ」
「判りました。貴方達の同胞であっても、罪無き者には危害を加えません」
市会議員に化けたゴブリンは……目を閉じて呼吸を整える。
その顔に浮かんでいるのは……泣き出す寸前って感じの表情。
「我々が入れ替わった人間達は……我々の手では殺していない。ただ、ある事をして町中に放り出しただけだ。その後の奴らの運命は……この町の人間の手に委ねた。だが……この後に及んで言い訳はせん……。我々にも判っていた。我々が入れ替わった者達が、この町の人間どもの手によって殺されるであろう事は」
えっ?
なに……どういう事?
「まさか……」
「この町の人間どもがオークと呼んでいる人間の亜種、あいつらそっくりの外見になる薬を使った」
おい。
おい。
おい……。
「待てよ。あんたらの本物をオークそっくりの姿に変えて、この町の人間ほぼ全員を催眠にかけて……オークどもを殺させた訳かよッ‼」
「その前から、オークの難民どもを楽しんで殺していた人間が山程居た筈だ……。『俺は、本当は、この町の有力者で、自分の偽物に屋敷を追い出されたんだ』とか言っているオークにしか見えない奴は……遅かれ早かれ、異種族排斥派の人間どもに殺されるだろう」
「あんたら……ひょっとして、それを面白がってたの? この町の異種族排斥派の人間が……この町の有力者をオークだと信じて殺すのを……」
アイーシャが……史上最低の胸糞話を聞いた時のような口調で……って、まんまか……そう言った。




