(7)
「え……えっと……その……何で、効かないの?」
「その獣人は、我々が元々住んでいたのと同じ世界……お前ら人間が『妖精界』と呼ぶ世界から来た者か……その子孫では無いのか?」
ゴブリンは……小さくなりながら……俺にそう言った。
「えっと……良く知らねえけど……ひょっとしたら……多分……」
「『ひょっとしたら』と『多分』のどっちだ?」
「まぁ、いい、多分、元の世界から来た者だ。感じで判る」
あ……そう言や……クロちゃんも、妖精界だか何だかから来た奴は「気」で判るとか言ってたな……。
「我々が元々居た世界は、全てが極端な世界だ。人間が想像も出来んような善と、人間が想像も出来んような悪が、同時に存在し、そして、それらは決して混じり合う事は無い。だが、この世界は全てが曖昧だ。善と悪、光と闇、生と死、それらは、どれも、我々からすれば中途半端だ」
「あ……そう言や、仲間の魔法使いから、そんな話、聞いた事あるわ」
「だから、この世界の人間の大半は、中途半端な善と中途半端な悪の間を揺れ動き続けている。それ故に、人間どもは、洗脳系の魔法に弱いのだ。例外は有るがな」
「例外?」
「例えば、神の代理人……あの『聖女騎士』のようなな……」
「それに、白人の難民ども……あいつらは、例の磔の道具を崇める邪教への狂信のせいで、洗脳されにくい上に、洗脳に成功しても、どんな『誤作動』を起すか知れたモノではない」
「じゃ、あいつは?」
俺は、ゴブリン達に洗脳され、ゴブリン達の命令を果たそうと、縛られたままズルズルと芋虫のように這っているガブリルを指差した。
「人間が使う『神聖魔法』は……聖女騎士のような神の代理人を除いて、秘術魔法と呼ばれる魔法使いどもの使う魔法の一流派に過ぎん。単に、力の源が『神の力の一部』を借りたモノなだけのな……。人間風に言うなら『本当の持ち主が黙認してるだけの借りパク』と言った所か……」
「そ〜なの?」
「そうだ。で、普通の神聖魔法の使い手は……『借りパク』を咎められる可能性を下げる為に、力の本来の主である神への信仰心を養う。その結果、磔道具を拝む邪教を狂信している白人の難民どものように、洗脳が効きにくく……そして、仮に効いても『誤作動』を起しかねないので、迂闊に洗脳出来ないようなヤツらになる筈だった……が……あいつには、不幸にも才能が有ったようだ。小悪党のまま、神聖魔法を使えるようになったらしい」
「で……俺は……」
「本当に言っていいのか?」
「は?」
「お前にとって、残酷な真実だぞ」
「え……えっと……今までの話からすると……俺に、妖精か何かの血が混ってるとか……」
「それは無い。魔法で調べたが、お前は、純粋な混じりっ気無しの、先祖のほぼ全員が、この世界で生まれた、本当に冗談抜きで完全に……単なる人間だ」
「じゃ、何で、俺に洗脳が効かなかったの?」
「お前の記憶を探った結果、理由が判った」
「俺の記憶? 俺の人生なんてフツ〜だろ」
「その『フツ〜』が問題なんだ」
「マジで意味判んねえよ。簡単に言ってくれよ」
「阿呆だからだ」
「へっ?」
「阿呆だからだ。わかったか?」
「いや、俺は阿呆かも知れないけど……」
うん……残念ながら、それは自覚している。
「何で、それが、洗脳が効かない理由なんだよッ?」
「だから、言っただろ。人間に洗脳魔法が効き易いのは……人間の心の本質が『善悪の間を揺れ動き続けるモノ』だからだと……。だが、お前は、これまでの人生で……一度も、何が善で何が悪か、真面目に考えた事が無かっただろう? そんな人間が、善と悪の間を揺れ動く事が出来るか」
「へ……えっと……その……」
「判り易く言うぞ。お前は余りに凡庸過ぎて、逆に『凡人の例外』になったんだ」
「で、話を戻すぞ。お前は、この獣人を洗脳して、何をさせるつもりだったんだ?」
「えっと……この爺さんが、クロちゃんと連絡を取る魔法の石か何かを持ってるんで、それを使って……」
「何? おい、その獣人の懐を……」
「待て、今、や……おい、まさか、この獣人は……この石と、そっくりのモノを、あの竜人に渡したのか……」
自治会長に化けたゴブリンの手に握らているのは……。
「う……うん……それに似てたけど……その……そんな風にピカピカ……光ってなかった……」
「作動中だ……。多分ずっと」
「えっ?」
「我々の会話は、多分、あの竜人に筒抜けだった」
よろり……。
市議会議員に化けたゴブリンの足下がフラついて……。
「そ……そんな……やっと……やっと……この世界で親類一同が仲良くスローライフを送れる筈だったのに……」




